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第11回 人手不足の時代、2014年の人事・採用担当者に求められる視点とは?

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2014年04月04日

株式会社インテリジェンス HITO総合研究所 社長執行役員 上土達哉

金融緩和や大胆な成長戦略を掲げたアベノミクス、2020年の東京オリンピック開催決定など、景気のいいニュースにわいた2013年。一方、アルバイトやパートなどの採用現場は、人材不足に苦しめられた年でもありました。

2014年の採用状況は?また、人事・採用担当者が気をつけるべきポイントとは?人材に関する調査・研究、組織・人事のコンサルティングサービスを提供する株式会社インテリジェンスHITO総合研究所・社長執行役員の上土達哉氏が解説します。

 

2014年も人材を確保しにくい状況が続く

2013年を振り返ると、人手不足がさらに加速した1年だったのではないかと思います。これは、データにも顕著に現れています。労働市場の需給状態を示す指標として知られるのは、有効求人倍率。これは「有効求人数」を「有効求職者数」で割ったもので、求職者1人につき求人数が何件あるかを示しています。

パートの有効求人倍率(季節調整値)は、2009年8月を底にして緩やかに回復してきました。2011年後半から大きく伸びたものの、12年半ばからは伸びは停滞。このまま1.20前後で落ち着くかと思われていましたが、安倍政権に交代して以降、大きな上昇が続いています。

では、2014年はどうなるのでしょうか。

2014年は、消費増税などの影響はあるものの、人手不足が続くと予想されます。リーマンショック以降の急激な“人余り”の時代は終わり、“人手不足”の時代がやって来たのです。そのため、人事・採用担当者の方々は、意識を切り変える必要があります。

労働力の確保という観点のみで申し上げると、“人余り”の時代ならば、仮に従業員が離職しても採用で補えたかもしれません。しかし、“人手不足”の時代にはなかなか採用ができないため、従業員1人を失うコストは非常に高くなります。

そうした中で、いかに“賢く”採用するか。採用した人材の離職をいかに防ぐか。そして、適材適所をいかに実現するか。この3つが、今後の採用のカギを握ります。

これら3つは妙手や奇策ではありません。いわば当たり前のことです。しかしその当たり前を徹底できているかこそが人手不足の時代の明暗を分けるとも言えます。

 

年度計画を立て、計画的に採用する

繁忙期が目前に迫ってから、あわてて採用に動き出す会社も少なくありません。“人余り”の時代であれば、直前で求人広告を掲載しても採用が見込めたかもしれません。一方、なかなか人が集まらない“人手不足”の時代はそれが通用しません。

繁忙期の前から余裕をもって採用に臨むのはもちろん、年度計画などをしっかりと立て、採用しやすい時期を狙って採用する姿勢が今まで以上に大切です。

業種にもよりますが、1年間の有効求人倍率は、一般的には12~3月頃、8月頃に比較的高くなる傾向にあります。逆に、低めなのが4~7月。このタイミングで募集を出すことがリスクの軽減につながります。そこで、スタッフ数をあらかじめ多く揃えておき、時期によって一人ひとりの働く時間を調整してみるのはいかがでしょうか。こういうと、「4~7月は、それほど多くのスタッフを必要としないのですが……」という声も聞こえてきそうです。確かに、同じ“400時間”でも、20人×20時間より40人×10時間の方が非効率に見えます。

実際、法定福利費やその他諸費用(ロッカー、制服など)を鑑みると、人1単位にかかるコストの方が、時間1単位にかかるコストよりも高いため、コストの観点からは合理的な感覚だといえます。

しかし、景気が上昇する局面では、こうしたコスト以上に、“人が集まらないこと”で失う機会損失・売上毀損の方が高くつきます。「今いる従業員で精一杯頑張り、本当に人が足りなくなってから採用する」と考えがちですが、「もし従業員がもっといたら、どれくらい売上が上がっていたのか?」と、機会損失や売上毀損について常に意識することが大切です。

採用だけでなく、今いるスタッフに目を向ける

前述したように、“人手不足”の時代では従業員1人を失うコストが高くつくため、スタッフの離職は致命傷です。採用だけではなく、現状の従業員にこそ目を向けて、離職を防止する工夫が大切です。

特に近年は、アルバイト・パートが基幹的な業務を担うことも珍しくありません。「パート店長」などは顕著な例です。こうした状況下では、離職防止に加えてスタッフのポテンシャルを最大限に引き出すような打ち手が求められます。

では、今いるスタッフにイキイキと働いてもらうにはどうすればいいのでしょうか?

「anレポート」の調査でも、スタッフの離職原因は上司(店長)や同僚などとの人間関係によるところが大きいとわかっています。ただ、企業や店舗によって、トラブルを引き起こす要因はまちまちです。

そこで、スタッフにアンケートを取るなどして、まずは従業員の本音を聞いてみましょう。これも奇策ではないですが、実際に実施している企業は少ないのが実情ではないでしょうか。

●社内アンケートの具体例
・なぜこの企業で働いているのか?
・現在の人間関係はどうか?
・今後働く上で、何があったらいいと思うか?
・職場環境がどうなったら働きやすいか? など

「なぜこの企業で働いているのか?」という問いでは、「給与の待遇がいいから」「シフト融通が利くから」「週5日働けて、安定的な収入が得られるから」などの回答から、彼らが自社で働く動機が浮かび上がるでしょう。そこから、自社の強みやスタッフの求めていることも読み解くことができます。

また、「今後働く上で、何があったらいいと思うか?」「職場環境がどうなったら働きやすいか?」などの問いからは、採用以上に取り組むべき、投資すべき対象が見えてくるはずです。

 

人と機械・仕組の適材適所を実現する

人手不足の時代が続くとすれば、人材獲得競争はますます激化するでしょう。その結果として起こりうるのは、給与の引き上げです。事実、「an」の調査でも賃金が上昇し続けているのが確認できます。加えて現在は、デフレ脱却に向けて政労使をあげた賃上げ気運が高まっています。これも、今後の賃金アップに拍車をかけることが予想されます。

賃金が上昇する中で必要なのは、「今、アルバイトに任せている仕事は本当に人間じゃないとだめか?」という視点です。というのも、賃金の上昇は、機械や設備などのコストが相対的に下がることを意味するためです。

一例として、ここに30万円の業務用食器洗浄機があったとします。今までは「30万円なんて高いから人が洗った方が安い」と思っていたとしても、賃金が上昇すると、人が食器を洗う方が高くついてしまいます。

IT技術や機械を使ってできる仕事は機械に任せ、人間にしかできない仕事を人間が担う。いってみれば、機械や仕組みと人とを共存させながら適材適所を考えることがポイントになるのです。例えば、ホスピタリティあふれる接客、売れる商品の企画、売れる仕組み作りなどは人間にしかできません。景気が上向いている時、いいモノはどんどん売れるわけですから、人間ならではのポテンシャルを生かすことこそが大きなメリットになります。

アルバイト・パートは大切な“資源”

以上、3つの点を述べましたが、大切なことは企業側の意識変革だと考えます。現状では、アルバイト・パートなどいわゆる非正規社員を“コスト”と捉えている企業もまだまだ少なくありません。

しかし、人手不足の時代においては、非正規社員は“コスト”ではなく貴重な“資源”。まさに“人財”と捉える視点に切り替えることが大切なのではないでしょうか。

“人手不足の時代”に採用担当者が気をつけるべき3つのポイント
年度計画を立て、計画的に採用する
今いるスタッフに目を向ける
人と機械・仕組みの適材適所を実現する

出典:図表1、2
厚生労働省2013年10月公表 一般職業紹介状況「第3表有効求人倍率」より

提供:インテリジェンス「an report」
http://weban.jp/contents/an_report/index.html

株式会社インテリジェンス HITO総合研究所 社長執行役員 上土達哉

株式会社インテリジェンス HITO総合研究所 社長執行役員
早稲田大学大学院 理工学研究科を卒業後、1999年株式会社インテリジェンスに入社。人材紹介事業でIT業界を担当する部門の責任者を務めた後、アルバイト求人検索サイト「an」を主力商品とするメディアディビジョンにて商品企画・営業企画、および首都圏の営業部門の責任者を歴任。2012年より現職。

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