人工知能の上位に立つ高度人材と5つのアプローチ

年収550万円未満のホワイトカラーは職を失う可能性が高い

2013年に、オックスフォード大学が発表した論文「The Future of Employment(雇用の未来)」では、既存の職業702業種に対して、コンピュータによる自動化の影響を分析したところ、これから20年以内に、いまの労働者が就いている職業の47%が消滅する可能性があると算定している。
 さらに、2014年、英国デロイト社は、英国の仕事のうち35%が、今後20年間でロボットに置き換えられる可能性があるという報告を発表した。年収3万ポンド(約550万円)未満の人は、年収10万ポンド(1800万円)以上の人と比べて、機械に仕事を奪われる確率が5倍以上高いという。
『機械との競争』の著者アンドリュー・マカフィー氏によれば、米国では会計士や税理士などの需要がここ数年で約8万人も減っているという。いま人気のデータアナリストも短・中期的には需要があるが、将来的にはその役割を人工知能が担う可能性が高い。

人工知能の活用で仕事内容が変わる

 こうした報告や予測を耳にして、人口知能の進展に大きな不安を抱く人は多い。だが、バブソン大学特別教授トーマス H.ダベンポート氏と『ハーバード・ビジネス・レビュー』エディター・アット・ラージのジュリア・カービー氏は、論文「5つのアプローチで解決するオーグメンテーション:人口知能と共存する方法(“Beyond Automation” HBR, June 2015」の中で、「現在人間がしている仕事のうち、近い将来に機械で早く安くできるようになるものは何か」と問うのではなく、「もっと優れた思考機械が人間の仕事をサポートするようになったら、どんな偉業を成し遂げられるだろう」と問うべきだと語っている。
 二人は知識労働者が機械と力を合わせることで、それぞれ単独ではこなせない仕事をうまく実行している事例を研究してきた。例えば、がん研究者のニーブン・ナライン氏は2005年、人工知能を新薬発見に役立てるため、マサチューセッツ州フレミンガムにバーグ社を設立した。バーグの施設では「処理能力の高い質量分析計が24時間体制で稼働し、血液や細胞組織の分析情報から何兆件ものデータポイントを生成している。さらに、特定の分子の有効性を示唆するパターンを見出すために、高性能なコンピュータが活用されている。
 バーグ社は100人の生化学者を雇用している。彼らの仕事は、数値を処理して特定の分子のポテンシャルについて仮説を立てることではない。機械が立てた仮説の実現可能性を調査して、豊富な経験とインサイト、そし世界の変化を素早く理解する能力を駆使し、新薬開発の新たな方法を見出すことである。それは特定の分野の深い知識と判断力を備えた、高度人材だけができる仕事である。
 科学技術の進展によって消滅する職種は多々あるだろうが、それと同じくらい新たに生まれる職種があり、誕生する会社があるはずだ。それは産業革命後の300年近い歴史が証明している。ただ、新しい仕事や会社が必要とする人材の能力や役割は、これまでと異なるということだ。

5つのアプローチで自身の貢献方法を考える。ダベンポート、カービーの両氏は、次の5つのアプローチで機械との関係性を見直せば、自身の貢献の方法を再調整できると語っている。

①向上する(Step Up)
経営幹部になる資質を持ち、いかなるコンピュータよりも大局的な考え方ができる。
②譲る(Step aside)   
理性的で体系化できるような単純な認知の枠に当てはならない分野で強みを発揮する。
③介入する(Step in)
ソフトウェアが行うルーチンの意思決定のプロセスを理解し、その機能やアウトプットを監視・調整できる。
④絞り込む(Step narrowly)
コンピュータプログラムの開発が(理論的には可能だが)いまだ実現していない分野で専門性を持つ。
⑤前進する(Step forward)
スマートな機械の次世代の応用方法を—たとえばマシンのベンダーのために構築する。

高度人材が破格の高収入を稼ぐ時代に

 東京大学大学院工学系研究科准教授の松尾豊氏は、その著書『人工知能は人間を超えるか』の中で、「人間として必要な仕事は大きく二つに分かれるだろう」と語っている。一つは「非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」で、経営者や事業の責任者のような仕事である。例えば、新商品の開発をどう進めていけばいいかは、経験もなくデータも少ないので、それまでの違う状況による判断を「転移」したり、歴史に学んだりするしかない。そのような、いろいろな情報を加味した上での「経営判断」は、人や社会に与える影響が大きく責任も重いので、人間に最後まで残る仕事だというのである。
 グーグル元上級副社長でインド生まれのニケシュ・アローラ氏がソフトバンクグループの代表取締役副社長に任命され、半年間で165億円を超える報酬を得たというニュースは記憶に新しい。ITやロボットの上位に立てる高度人材は、アローラ氏にように世界に活躍の場を広げ、これまで以上の高収入を得ていくのだ。

【経営プロ編集部 ライター:島崎由貴子】