新卒採用選考にAIを活用―― ソフトバンクの試みから読み解くHRテクノロジーの進化

 2017年5月29日、ソフトバンク株式会社は新卒の採用選考にあたって、エントリーシート評価にAIであるIBM Watson日本語版(以下「IBM Watson」)を導入することを発表した。(※1)
 対象となるのは、総合職(総合コース・営業コース)志望者のエントリーシートで、「新卒採用」枠に応募可能な入社時30歳未満の既卒者・他企業での就業経験者のものも含まれる。
 AI採用は、志望者をより客観的に、また適正に評価することを目的としており、さまざまな利点があるという。

IBM WatsonはAI(Artificial Intelligence)ではなくAI(Augmented Intelligence)である

 IBM Watsonは、IBMが開発した質問応答システム・意思決定支援システムである。自然言語処理と機械学習を使用して、さまざまなデータ間の洞察、パターン、関係を明らかにするテクノロジー・プラットフォームだ。
 2011年2月、米国の人気クイズ番組「ジェパディ!」に挑戦、見事に人間を打ち負かし、総合で勝利して、100万ドルの賞金を獲得すると、2016年8月には、白血病をわずか10分で見抜き、適切な治療を導き出すことによって、その命を救った。
 IBMではWatsonを「ある事象についてコンピュータが自ら考え、学習し、自らの答えを導き出すシステム」という意味の「コグニティブ・コンピューティング」と称しており、人工知能とは表現していない。IBM会長、社長兼CEOのジニー・ロメッティ氏は、Watsonを「Artificial Intelligence」ではなく「Augmented Intelligence」(拡張知性)を省略した「AI」だと語っている。(※2)

AIが人事選考を行うことは多くの利点を生み出す

 IBM WatsonによるAI採用の仕組みを説明すると、まず過去のデータを学習させ、それから応募者のエントリーシートデータを読み込ませる。すると、IBM WatsonのAPIの一つであるNLC(Natural Language Classifier「自然言語分類」)によって、エントリーシートの内容が認識され、項目ごとに評価が提示される。合格基準を満たす評価が提示された項目については選考通過とし、それ以外の項目については人事担当者が内容を確認して、合否の最終判断を行うというシステムだ。

 これにより、統一された評価軸でより公平な選考を目指すことができ、さらには、膨大な数のエントリーシートから人材を発掘する時間を大幅に短縮することも可能となる。ソフトバンクでは、AIにこの作業を任せることによって、人事担当者がエントリーシートの確認作業にあてる時間を75%も軽減できるという。
 言うまでもなく、会社の存続は人材にかかっている。優秀な人材を社内に確保するためには、採用活動が極めて重要だ。そうした中、確認作業を短縮することで創出された時間を使い、人事担当者は応募者と直接面談するなど、さらなるコミュニケーションを深めることができるのだ。

 また、AIが正確な判断を下すためには、ビッグデータが不可欠である。情報を与えAIがデータを認識し学習すればするほど、精度はどんどん上がって効率化するが、それには時間が必要となってくる。
ソフトバンクの宮内謙社長兼CEOは、「AIは早くやったやつが勝つ」と強調するが、人事の領域においても同じことが言えるだろう。

リーディングカンパニーのソフトバンクが描く新たな未来

 ソフトバンクは「Smart & Fun!」のスローガンのもと、ITやAIを駆使して生産性を上げ、全社員がスマートに楽しく働けることを常に心がけている。
 採用活動においてもITを導入することで、企業と応募者のマッチングを追及するとともに、イノベーティブでクリエイティブな企業として成長し続けることを目指している。

 AIの目覚ましい進歩を見たとき、AIが人間を超えるシンギュラリティは想像以上に早く訪れそうだ。米国ではすでに人事へのAIの活用が進んでいるが日本はまだまだ始まったばかり。
 組織ごとに人事の価値観は異なる。その中で人事業務のどこまでをAIに委ねるかが今後の課題になっていくだろう。AIの進化の加速化に連れてHRテクノロジーの領域で進化を遂げ、こうした課題を確実にクリアしていくのではないだろうか。

 これからAIの進出によって、社会のあらゆる産業が再定義される世界が訪れようとしている。その新しい時代の到来を予見し、ソフトバンクが行う一つの画期的な試みと言えるだろう。

※1 IBM Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corporationの商標である。
※2 IBM「【後編】AI の役割を理解する──ビジネスの現場で AI はどのように活躍しているのか」より