シンギュラリティ(技術的特異点)とビジネスの関係

テクノロジーが人知を超えて進化しだすというシンギュラリティ(技術的特異点)が、単なる未来予測ではなく、現実味を帯びて語られるようになってきた。人工知能によって人間の多くが仕事を奪われるといったネガティブな警告が聞かれる一方で、爆発的に加速する技術の進化を新たなビジネスチャンスと捉える動きもある。これからの時代のビジネスは、こうしたテクノロジーがもたらす急速な変化をどのように受け止めていくべきなのか?

テクノロジーが独り歩きを始める日?

シンギュラリティとは、人間によって考え出され、進化してきた科学技術が、人間の知能を超えて進化を始める臨界点のことだ。その先は、人間の脳より優れた人工知能が社会をリードし、自ら知能の進化やテクノロジーの開発を担い、人間自体も人工知能やネットワークと共生して、それまでとは異なる存在、いわゆる「ポストヒューマン」に変化・進化するという。
これまで一般にこうした説は、一部の科学者による遠い未来の予測と受け止められてきたが、ここに来て急に現実味を帯びて語られるようになった。シンギュラリティの提唱者の1人である発明家・未来学者レイ・カーツワイルはコンピュータの知性が人間を超えるシンギュラリティを2029年と想定している。

コンピュータとロボットが人間の仕事を奪う?

松尾胖・東京大学大学院准教授のように人工知能の研究開発を行っている科学者も、「今後15年でコンピュータは知識を自力で獲得できるようになる、その過程でこれまで人間が行ってきた仕事の多くは順次コンピュータに取って代わられていく」といったプロセスを具体的に提示するようになった。
ビル・ゲイツはBUSINESS INSIDERのインタビュー(2014年3月13日)で、ソフトウェアが人間の代行をする仕事が増えていき、それにつれてあまりスキルを必要としない仕事は今後20年間でどんどん少なくなっていくだろうと語っている。
スタンフォード大学の調査でも、現在人間が行っている仕事の47%が20年以内に機械によって代行されるようになるという結果が出ているという。
スティーブン・ホーキング博士も、英国BBCのインタビューで「われわれがすでに手にしている原始的な人工知能は、極めて有用であることが明らかになっている。だが、完全な人工知能の開発は人類の終わりをもたらす可能性がある」と語っている。(AFP BB NEWS 「人工知能で人類は滅亡する? ホーキング博士の警告で議論再燃」2014年12月9日)

ポジティブにビジネスに活かす

しかし、シンギュラリティをポジティブにとらえ、そこに向かう急速なテクノロジーの進化をビジネスに活かしていこうとする動きもある。
孫正義氏はソフトバンクワールド2015の講演「2018年前後にシンギュラリティは訪れる」で、「人間の知能をはるかに超える人工知能に、人間の仕事は変換される」が、「それは悲しむべきことではない。人間は得意とすること、楽しめることに取り組むことができるし、そのために能力を磨いていくべき」であると語っている。
孫氏はこうした人工知能の進化をビジネスに積極的に取り入れて行こうとしており、その取り組みのひとつが、専門知識を人工知能に教え込んでいくIBM・Watsonの日本展開であり、ロボットの事業化だ。

新しいことをしないことは罪?

Webコンテンツ制作会社LeadingCo のサイト記事「グーグルCEO『20年後、あなたが望もうが、望むまいが現在の仕事のほとんどが機械によって代行される。』(著者:夏目力)は、グーグルCEOラリー・ペイジが「フィナンシャル・タイムズ」のインタビュー(2014年10月31日)で語った見解を取り上げ、シンギュラリティのネガティブな側面とポジティブな側面にスポットを当てている。
ペイジによると今後の人工知能などのテクノロジーがもたらすのは、仕事の効率10%向上といったものではなく、10倍の効率化を実現するような激しい変化・革新であるという。これによって仕事を失う人々が出てくるのもたしかだが、生活は今より劇的によくなり、生活にかかるコストも信じられないくらい安くなる。資本主義的な観点から考えるとこうした革新はよいことであり、メリットがあるのをわかっていながら「新しいことをしないことは罪だと思う」とペイジは言う。

爆発的な急成長を遂げる「飛躍型企業の時代」

急激なテクノロジーの進化を企業はどのように活用すればよいのだろう? 『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法 ビジネスを指数関数的に急成長させる』(サリム・イスマイル他著 日経BP社刊)はそうした疑問に答えてくれる本だ。
シンギュラリティ大学はシリコンバレーを拠点とする教育機関で、革新的技術を活用して教育・エネルギー・環境・食料・保健・貧困・セキュリティ・水など人類が直面する深刻な課題に取り組むと同時に、革新的技術を開発する企業の支援・育成を行っている。
この本はまずウーバー、エアビーアンドビー、テスラモーターズなど、シリコンバレーの成長企業がなぜ急成長できるのかにスポットを当てる。その理由を一言で表すと、「イノベーションの常態化」ということになる。
訳者である小林啓倫のあとがきによると、「これまでイノベーションは、あくまでも一時的で例外的な現象だった。新聞業界とインターネット、自動車業界と電気自動車、音楽業界とコンテンツ配信など、大企業は10年に一度、あるいは100年に一度の大変革に目を光らせ、その波を乗り切れば再び安定期に入ることができ」た。しかし今やイノベーションは常態化し、革新を少しでも怠るか失敗すれば、どんな大企業もあっというまに衰退する。逆に急加速する技術革新を活かせば、小さなスタートアップ企業がたちまち急成長する。
こうした「飛躍型企業の時代」を生き抜くには、従来のやり方を一気に過去のものにしてしまうような爆発的なイノベーションを常に模索し、大胆に実現していくしかない。この大変な時代はすでに始まっているのだ。