AIの衝撃 人工知能は人類の敵か

『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』 (小林雅一 著/講談社現代新書)

 本書はKDDI総研のリサーチフェローが、コンピュータと脳科学の融合により研究開発が急速に進むAI(Artificial Intelligence:人工知能)について、その現状と歴史、日本と欧米のアプローチの違い、将来の見通しについて総合的に解説したものである。著者によれば、AIの研究開発は1940~50年代に始まったが、「数学の産物」に過ぎず、応用範囲も限られていた。ところが2006年頃を境にこの状況が一変する。脳科学の研究成果がAI開発へと本格的に応用され、コンピュータやスマホなどが音声や画像を認識するための「パターン認識力」を飛躍的に高めることに成功したのだ。これは「ディープ・ニューラルネット」あるいは「ディープラーニング」と呼ばれるもので、この技術をもとに掃除ロボット「ルンバ」やドローン(無人航空機)などが生み出され、自動運転車などの開発が進められている。こうしたAI技術は巨大なビジネスチャンスを生み出すものと捉えられ、グーグルやフェイスブック、マイクロソフトやIBMなど世界的IT企業が莫大な資金を投資して開発を進めている。名門スタンフォード大学で学生に一番人気のある講義は、コンピュータ科学のアンドリュー・エン准教授が担当する「機械学習」だ。

 本書は非常にわかりやすいAIの入門書である。同時にこれまでAIに関心を持ってこなかった読者には衝撃的な内容が含まれている。その一つは「AIによって雇用破壊」が引き起こされるという予想だ。英オックスフォード大学の研究者たちはその論文で「現存する職種の47%がAIに奪われる」と予測している。AIの進化で「人間の存在価値」が問われる時代となったのだ。もう一つはAIと次世代ロボットの革命は、あらゆる産業を塗り替えてしまう可能性を秘めているということだ。日本がこの技術革新の波に乗り遅れてしまえば全産業が衰退し、グーグルに代表されるアメリカのIT新興企業に征服されてしまう日がくるだろう。

 自律的に学習するAIは人類を滅亡させるという科学者もいる。しかし著者は、地球温暖化や砂漠化、PM2.5のような大気汚染、そして原発施設内に溜め置かれた核廃棄物の管理などに、人間を超えた知能を備えたコンピュータが必要とされていると私見を述べる。そして「知能」が人間に残された最後の砦ではなく、それを上回る「何者か」を我々人間は持っているのだと。現代科学技術の最先端の一部に触れられる良書であり、AIについて更なる知見が深まるおススメの1冊だ。

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