【テクノロジーHRパーソン スタートアップ講座】第1講座:HRテクノロジー概論

 「HRテクノロジー」という言葉が盛んにクローズアップされるようになってきました。既に多くの情報があふれていますが、自分が評価軸をもっていない状態のまま、次々に登場する情報に触れているのではないかと感じるHRパーソンも多いのではないでしょうか。
 そこで人材開発全般のコンサルティングに携わる株式会社セルムでは、これからHRテクノロジーに向かい合う人のためのスタートアップとなる講座を開催しました。講座は全3回で、第1講座が「HRテクノロジー概論」、第2講座が「HRテクノロジースタートアップの実務」、第3講座が「HRテクノロジー活用の事例」です。講座で紹介された事例を除く、講座の抄録をここでご紹介させていただきます。

※事例の部分はここでは割愛しております。どうぞご了承ください。
講師:新改 敬英 氏
慶応義塾大学院経営管理研究科 研究員

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修了(経営学修士(MBA))
大手国際会計事務所等にて会計監査・M&A業務に従事したのち、外資・国内企業にて経営企画業務全般に従事。現在は九州大学で経営戦略・組織論について研究する傍ら、慶応ビジネススクール研究員として上場企業をクライアントとして共同研究に従事している。

HRテクノロジーの情報に触れる際に、知っておくべきこと

 「HRテクノロジー」は新しい分野であり、今、様々な角度から論じられた情報があふれています。これらの情報を大きく分けると、HR業務に使えそうな「技術」の話をしている場合と、「手法」の話をしている場合があると思います。まずはどちらの話だろうかと気を付けながら情報をみるということが、最初の頭の整理になります。
 HRに関係する技術としては、「センサー技術」「ビックデータ分析」「AI」「RPA」の4つがあげられます。

[センサー技術]
センサーと呼ばれる機能を使用して、稼働状況や行動などの情報を収集し、分析活用する技術。IoT(Internet of Things)の中核技術
ex.Iotセンサー搭載の自動販売機・・・飲料の在庫が少なくなるとその自動販売機自体が補充の指示を出す。人の役割は、どの場所に自動販売機をおくか、何の飲料をいれるかの決定と、商品の補充の2種類だけになった

[ビックデータ分析]
従来のデータ処理アプリケーションでは処理することが困難な程、巨大で膨大なデータを解析し、活用すること
ex.posデータの情報とポイントカードのもつ個人情報が分析され、商品開発や販売促進に利用される

[AI]

AI(Artificial Intelligence:人工知能)という言葉が生まれた当初は、人間と同様の知性や感性をもったものを意味していたが、最近は、自律的に動く、或いは自律的に学習するコンピュータをAIと呼んでいる。

(4つの発達段階)

レベル1・・・
指示されたことを実行するというレベル(ex.自動で温度調節をするエアコン/等)
レベル2・・・
ルールを理解して判断、実行ができる(ex.自動お掃除ロボット)
レベル3・・・
与えられたルールを理解して、その通りに実行するが、実行の過程で得た情報からルールを改善して、よりよい判断や実行ができる。機械学習(ex.迷惑メールフィルター)
レベル4・・・
自分でルールを設定して判断・実行ができる。Deep Learning(ex.AlphaGo)

[RPA]
機械、又はソフトウェアによる業務の自動化。業務効率化の手段として急速に広まりつつある
ex.Webサイトからデータを取得するプロセスを指示して、自動で実行させる→網羅的に数時間で作業完了

 上の表にそれぞれについての簡単な解説をしていますので、概要は抑えておいてください。特にAIという言葉は、販促的にいろいろな場面で使われていますが、そのレベルには大きく捉えて4つあり、現在話題の中心となっているのはレベル3≒機械学習のことです。AIという情報に触れる際には、どのレベルのことを論じているのかを、自分の中で整理しながら情報を見ていくとよいでしょう。
 また、「HRテクノロジー」という言葉の定義を改めて確認してみますと、上記のような最先端のIT関連技術を使って、採用・育成・評価・配置などの人事業務を行うことをいいます。ここでは技術ではなく手法のことを指しています。
 HRテクノロジーは欧米を中心に数年前から大きく盛り上がっていて、次々と新しいサービスやソリューションが生まれています。それぞれ便利な機能や興味深い機能があり、これらを利用すればいろいろなことができそうです。しかし、いうまでもありませんが、テクノロジーを使うことが目的なのではなく、データや情報をいかに自社の課題解決のために使えるようにするか、という点が検討すべき焦点です。
 HRテクノロジーの活用とは、具体的にいえば、人事データをデジタル化し、それを分析して人材の状況を可視化し、関係者とコミュニケーションをとって、業務の効率化や質の向上につなげていくことです。参考までに、私がこれまでに企業から依頼されて行った分析には、「ハイパフォーマー人材の要因分析」「従業員の職場満足度を定量分析し、構成要素を構造化して把握」「口コミ情報をもとに、その企業の評価される要素を構造化」「大学生の内定獲得要因の分析」等のテーマがありましたが、これらは手元のノートパソコンで分析を行いました。スタートの段階ではAIの導入は必要条件ではありません。まずは手元のパソコンで行うことができます。
 分析の際のデータは、多いほうが精度が高まりますが、「ビックデータ」の定義にあてはまるほど膨大ではありません。そのため人材データ分析のことを、ビックデータ分析とは呼ばず、ピープルアナリティクスと呼ぶ方が、より正確な呼び方です。同じことをビックデータ分析と呼ぶことも、ピープルアナリティクスと呼ぶこともあることも覚えておくといいでしょう。

HRテクノロジーを駆使して、経営に重要な人事パーソンになる

 HRテクノロジーの分野では今、次々にあたらしいソリューションが開発されています。いずれ人事のオペレーション的な業務の負荷は、テクノロジーが解放してくれるでしょう。そこでHRパーソンがやらなければならないのは、課題設定や社内調整の部分です。例えば、イノベーションを起こせる人材が社内に少なかったとしたら、どんな手をうつのかを決めたり、そのための社内の仕組みづくりや根回しは、人でなければできません。
 HRテクノロジーに対する正しい期待をもち、自社の状況にあわせてデータ分析を駆使することができるHRパーソンは、これからますます重要性が増していくはずです。

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