生産力向上に劇的な革新を起こす「RPA」の可能性〜経営のあり方を変える研究・実践の最新情報「RPA SUMMIT 2017」イベントレポート〜(前編)

 労働人口減少で深刻な人手不足が叫ばれる今、業務効率化・生産性向上に劇的な革新をもたらすとして世界的なブームを巻き起こしているのがRPA(Robotic Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)だ。デジタルレイバー(仮想知的労働者)と表現され、従来の「ロボット=コスト削減」の枠を大きく超える戦略的なツールである。RPAの普及啓蒙活動を行なう一般社団法人RPA協会によると、昨年以降、国内でも導入検討企業数の増加や先行事例の活用レベルの向上が著しいという。

 このような背景から、同協会は2017年7月27日にRPA・エンタープライズAI分野の有識者・ビジネスリーダーが集う「RPA SUMMIT 2017」を東京・虎ノ門ヒルズで開催。RPA活用の可能性や先行事例のケーススタディ等、最新情報が紹介された。

写真提供:一般社団法人RPA協会


■GDP600兆円と人生100年時代の鍵を握るRPA/経済産業省 佐々木啓介氏

 本イベントの最初の登壇者となった佐々木氏は、日本経済の現状を俯瞰し、GDP600兆円に向けた生産性向上におけるRPAの可能性について紹介した。

「2020年GDP600兆円」に向けて

 佐々木氏はまず国内のサービス産業をとりまく状況について説明した。サービス産業はGDPの約4分の3(約380兆円)を占めるが、卸・小売、運輸・郵便、宿泊・飲食、医療・福祉等、雇用者数の多い業種は製造業に比べ労働生産性が低い。特に飲食・宿泊は中小企業・個人企業が多く、労働生産性の低さの一因となっている。

 政府が掲げる「2020年GDP600兆円」を達成するためには、2013年のGDPに対し概ね120兆円の上乗せが必要だが、このうちサービス産業が4分の3を担うとすると、サービス業だけで90兆円の上乗せを実現しなければならない。サービス業の生産性向上は喫緊の課題となっている。

RPAはフロントオフィスとバックオフィスの好循環を生む

 佐々木氏は経済産業省が取り組む生産性向上の道筋について、分数に見立て解説した。分子=フロントオフィスの付加価値向上、分母=付加価値を生むために投入した人・資金とする。

 「従来は分母を小さくする、つまりコストカットによる生産性向上に注力してきました。しかし現在、生産性が非常に高い企業は分母・分子を同時に活性化しています。分母を小さくして浮いた労働力を分子側に活用することで、新しい付加価値を生み出す。これを可能にするのがRPAです」と佐々木氏は語る。

 ただし、RPAは人間の仕事を奪う存在ではなく、サービス業全体で人手不足が深刻な今、特に経営層やそれに近い人間がクリエイティビティの高い仕事にシフトするための非常に有効な手段なのだという。経済産業省は昨年度の補正予算のうち約100億円をかけてRPAを含むテクノロジーの活用支援事業を実施し、第一次公募では幅広い分野の7,511件に資金交付している。

RPAは「人生100年時代」の鍵を握る

 第四次産業革命の技術革新がもたらすsocietiy5.0(超スマート社会)は、「人生100年時代」に突入する。佐々木氏は活力溢れる超高齢化社会の実現に向けて、暮らしを根っこから見直す必要があると述べた。

 「中心を担うのは、やはり働き方改革。生涯現役でいきいきと働ける社会作りをしっかり進めるうえで、鍵を握るツールの一つがRPAだと考えています」


■「コスト削減を超えた戦略的なRPA活用で トリプルウィンを実現」/ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院 経営学部 経済技術・経営グローバリゼーション教授 レスリー・ウィルコックス氏

 レスリー・ウィルコックス氏は今回が初来日となるRPAの第一人者だ。RPA活用の成功・失敗事例を通して、効果的なパフォーマンスを生み出す戦略について紹介した。

 「今、RPAへの期待が過多になる一方、テクノロジーに仕事を全て奪われるのではないかという不安・恐怖も存在します。しかし、実際はそんなに単純なものではありません」

RPAの成功事例〜2日かかる作業がたった30分で完了〜

 ウィルコックス氏はRPAを「人間の作業からロボットの部分を取り除くもの」と定義。成功事例として、契約書の事務処理にRPAを導入した大手生命保険会社のロイズ・オブ・ロンドンを取り上げた。

 「従来は、契約書情報の入力→エラーの発見と対処→記録システムからデータ追加→契約書をデータベースにアップロード、という一連の処理を人力で行なっていました。このうちエラー発見以降の部分をRPAで自動化したところ、契約書500通に対し2日かかっていた処理時間がたった30分に短縮されたのです」

 ウィルコックス氏は、RPAの導入で企業・顧客・従業員のトリプルウィンを実現できると説明。特に従業員満足度が上がっている点を強調した。

 「従業員は単調でつまらない作業から解放されただけでなく、RPAを使う経験を積むことで『未来の仕事ができる』と非常にポジティブに受け止めています」

RPA導入の全てが成功例ではない

 しかし、RPA導入が失敗に終わった事例もある。ツール選定を間違った、全社的なシステムに対応できなかった、サービスプロバイダの顧客サポートが手薄だった、等のケースがあったという。

 ウィルコックス氏の研究では、RPA実装のライフサイクルにおいて「ツールの選定」「ステークホルダーの受け入れ」「運用と変更管理」等7項目で、リスクを表面化させない30の行動原則を確認したという。例えばソーシングの選定においては、企業が自ら行なうのか、サービスプロバイダに任せるのか等、複数の選択肢があるが、RPAを真に活用するためには、企業がコア機能を早期に自ら維持・管理できるようになる点が重要だという。トリプルウィンを獲得したケースでは行動原則の80% 以上を実施しているそうだ。

RPAは「コスト削減」以上のもの 戦略的な実施を

 成功のために必要な視点とは何か。ウィルコックス氏はRPAの活用を以下の4段階に分類する。

第一段階:期待過多と不安
第二段階:主にROIにフォーカス
第三段階:トリプルウィンにフォーカス
第四段階:制度化

 「RPAをコスト削減以上のものとして考えなければ、価値を獲得することはできません。RPAは戦略的に実施し、野心的にトリプルウィンを狙っていきましょう。私の調査では多くの企業が第二段階で非常に苦労しますが、私たちが明らかにした行動原則を知れば一足飛びに第三段階を目指せます」

 一方、必ず抑えておきたいステップもある。その一つがステークホルダーの承認だ。顧客・経営層・パートナー等様々なステークホルダーがいるが、ウィルコックス氏は従業員へのメッセージは極めて重要だと考えている。RPA導入における従業員にとっての価値(経験の機会の拡大等)を伝えるとともに、人員規模の縮小計画や関係者への影響について明確に示すべきだとしている。

業務の流れを再構築し、最適な配置へ

 ウィルコックス氏は、日本企業でRPAを活用する際は「変更管理」が重要だという。なぜなら、技術・業務プロセス・組織構造において縦割りが根深いからだ。

 変更管理においては、業務の流れを再構築し、人間とロボットを最適な順番で配置する必要がある。人間の介入する工程はできるだけ一連にまとめ、問題があれば全体の流れから取り出して別途行なうという対応が有効だという。

 「変更管理においてはビジネス部門がリードすることが重要ですが、IT部門と早期にパートナーシップを築き、技術面・セキュリティ面のサポートを受けることもポイントです。また、RPAの知識・スキルがある人材が世界中で求められている今、人材の新規獲得は困難です。企業は早期に候補者を選定・育成することが重要です」