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グローバルスタンダードとは?意味や日本企業の課題を解説

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1990年代後半から使われるようになったビジネス用語に「グローバルスタンダード」があります。この頃はバブル崩壊により日本経済が混乱し、終身雇用と年功序列に代表される日本的経営が行き詰まりをみせていた時代です。このような状況を背景に従来の日本的経営を見直し、グローバルスタンダードに目を向ける志向が強まっていきました。

もっとも、グローバルスタンダードとは和製英語であり、造語であるがゆえに多義的といえます。この点、ビジネスパーソンであればグローバルスタンダードというワードを聞いたことのない方はいないと思います。しかし、グローバルスタンダードとは具体的にどういうものなのか、正確に捉えられている方はビジネスパーソンのなかでもそう多くはないでしょう。

この記事では、グローバルスタンダードの意味や注目される背景、日本企業の課題についてわかりやすく解説します。

用語解説「グローバルスタンダード」❘ 組織・人材開発のHRインスティテュート

目次

グローバルスタンダードの意味

ビジネスにおけるグローバルスタンダードとは、一般的に「世界中で共通して適用される基準」を指します。さらにグローバルスタンダードのなかでも「デジュールスタンダード」と「デファクトスタンダード」の2つに区別されます。

  • デジュールスタンダード:国際機関で定められている公的な認証
  • デファクトスタンダード:市場での自由競争の結果、事実上の標準と認められるようになった規格

近年は「グローバルスタンダード」という言葉自体が標準的な国際規格という概念にとどまらず、企業の事業活動や人材マネジメント、経済システムなどに対象を拡大し、さまざまな分野で活用されています。ただし、規格が成立する過程に決まりはなく、グローバルスタンダードを指すすべてのものが、国際的な取り決めによる一定の標準・ルールを持つものではないことに注意が必要です。

用語解説「デファクトスタンダード」❘ 組織・人材開発のHRインスティテュート

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グローバルスタンダードが注目される背景

グローバルスタンダードが注目されるようになった背景には以下が挙げられます。

経済活動のグローバル化

グローバルスタンダードの概念が広まった最も大きな要因に「経済活動のグローバル化」があります。具体的には「国際的な貿易の拡大」と「サプライチェーンの国際化」を意味します。日本経済のグローバル化に伴い、海外市場への対応が急務となり、国際的な基準に統一しようとする動きが起きました。

ESG投資・サステナビリティ

ESG投資とは、事業内容が環境や社会に配慮されており、内部統制でも適切なガバナンスがなされている企業に投資する手法です。これらの要因を充足する企業は、サステナビリティ(持続可能性)を有しているとみなされます。従来の投資では財務情報が判断材料となっていたのに対して、ESG投資では企業の社会的責任や環境への配慮という観点から投資判断をおこないます。このため、非財務情報を客観的に示すグローバルスタンダードが必要となりました。

世界的な人的資本情報開示の動き

EUでは2014年に欧州委員会(EC)による「非財務情報開示指令」を承認し、非財務情報の報告を義務化しました。また、アメリカでは上場企業を対象に、2020年から人的資本の情報開示を義務化しています。このような動向は世界的規模で起きており、情報開示の要請は今後さらに加速することが予想されます。

関連記事:CSR(企業の社会的責任)とは?サスティナビリティとの違いを簡単に紹介

グローバルスタンダードの具体例

グローバルスタンダードの具体例には「ISO」と「GRI」が挙げられます。

ISO

ISO(国際標準化機構)が定める国際規格は代表的なグローバルスタンダードといえます。

工場などで目にする「ISO14001」は、企業に関わる環境リスクを分析し、環境に与える影響を最小限にするように定めたガイドラインです。また、企業が組織活動をおこなう際の社会的責任を意味する「CSR」のガイドラインも、2010年に「ISO26000」として国際規格が策定されました。人事や労務におけるCSRとしては、差別問題やハラスメントへの対処、コンプライアンスや社内ルールの制定・遵守などがあります。そのほかにも、労働慣行の是正や環境への配慮も取り組みとして存在します。

さらに、組織や人事に関わる基準には「ISO30414」があり、これは2018年に発表された人的資本情報開示のガイドラインです。人材マネジメントに関する情報開示について網羅的に定義されており、人的資本への取り組みを可視化する役割を果たします。

GRI

GRI(Global Reporting Initiative)とは、UNEP(国連環境計画)公認の国際的な非営利団体で、サステナビリティに関する国際基準の策定をおこなっています。

GRIが策定するガイドラインは、サステナビリティの概念を具体的な指標として可視化したものです。2000年に「GRIガイドライン第1版」を発行、その後も複数回の改訂を重ねました。そして、2016年にはガイドラインの形式をスタンダードに替えた「GRIスタンダード2016」を発行しました。人的資源に関しては、雇用・労使関係など15の領域に関する開示事項を提示しており、持続可能な経営を目指す企業がサステナビリティへの貢献について説明するためのフレームワークとなっています。

関連記事:ISO30414とは?人的資本に関する開示項目と企業の取り組みを解説

グローバルスタンダードと日本の国際社会における関係性

グローバルスタンダードは、自然発生的にルール化されたもの、先行する技術や影響力のある企業を基準にルール化されたものなど、さまざまなプロセスを経て形成されます。一度グローバルスタンダードとして標準化されると、対象者すべてに影響を及ぼすことになるため、経済・産業においては自国に有利なグローバルスタンダードを広める戦略に取り組む国もあります。

日本が国家としてとるべきスタンスは、グローバルスタンダードの確立に対して積極的に参加することです。日本が主導した基準や規格がグローバルスタンダードになれば、その市場において優位性を確保できるからです。

日本がグローバルスタンダードの確立に取り組む際には以下の3点が必要となります。

  1. 日本が国家として発信するべきものは何か特定すること
  2. 日本としてのビジョンを提示すること
  3. 国際的な基準・枠組みに対して積極的に発信すること

参考:環境省『グローバルスタンダードと我が国の取組

日本企業の人材マネジメントにおける課題と対策

日本企業がグローバルスタンダードを目指すにあたり、解消しなければならない課題には「日本型の労働慣行」と「女性の管理職登用の遅れ」があります。日本企業の人材マネジメントにおける課題と対策について、これらの課題解決に取り組んでいる企業事例とともに解説します。

日本型の労働慣行からの脱却

グローバルに展開していても、日本の総合商社における人事ローテーションは東京中心となっており、現地法人で採用した人材の国外異動は想定していないのが一般的です。これはグローバルスタンダードとは相違するものといえます。

こうした日本型の労働慣行からの脱却を図るために、たとえば住友商事では人材戦略の一つとして2019年に「Global Mobility Policy(GMP)」というルールを策定しました。海外拠点間の異動を容易とする人事制度の改革により、グローバル連結ベースにおける人材の”適時・適所・適材”配置の実現に取り組んでいます。

住友商事グループの 中長期的な企業価値向上にむけた取り組みについて

管理職における女性比率の低さ

世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数をみると、日本の順位は146か国中116位(2022年)であり、とりわけ経済分野における女性の管理職登用の遅れは明白です。グローバルスタンダードに近づくためにも、日本企業にとって女性管理職の増加は取り組むべき課題の一つとなっています。

たとえばサントリーでは、2021年末時点で課長以上の管理職に占める女性の割合は13%でしたが、2030年までに女性管理職比率を30%に増やすという目標を掲げています(サントリー『女性活躍推進に関する情報公開』より)。同社が女性の管理職登用に取り組むねらいの一つは、商品開発や営業施策に女性の感覚を反映させることです。

グローバル企業として、従来の働き方からグローバルスタンダードの働き方に切り替えるためにも、仕事と子育ての両立支援や有給休暇の取得奨励など、働き方改革や女性活躍推進に注力しています。

サントリーグループのサステナビリティ:ダイバーシティの推進

関連記事:【実例で学ぶ】SDGsで求められる多様性(ダイバーシティ)とは?企業が取り組むダイバーシティの実現

まとめ

グローバルスタンダードとは「世界中で共通する規格・ルール」のことです。もちろん、すべてが国際的な取り決めによるルールを持つものではありません。なかには市場競争の結果として事実上の標準とみなされるものもあります。しかし、一度グローバルスタンダードとして認められれば、すべての対象者に多大な影響を及ぼし、自国や自社にとって有利となります。

この点、日本企業は終身雇用や年功序列といった日本的雇用慣行の影響により、グローバルスタンダードとの乖離を指摘されることも多いのが現状です。とはいえ、国や地域によって歴史や慣習、考え方はそれぞれ異なるものであり、またグローバルスタンダードのすべてが法律のように強制力を持っているわけではありません。

このことから、常にグローバルスタンダードに従うことが正解とは限らないといえます。企業としては、グローバルスタンダードについて正しい知見を持ち、自社がとるべき戦略を考える際に適切な選択ができるように準備しておくことが重要です。

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