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「あなたらしく生きていい」を社会へ、社内へ。ウガンダと日本でライフスタイル事業を展開するRICCI EVERYDAYの組織づくり(後編)

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個性あふれるアフリカンプリントのブランドを展開する株式会社RICCI EVERYDAYは、ライフスタイルアイテムなどを通じ「”好ましい”より、”好き”を」選び、「あなたらしく生きていい」というメッセージを伝えている。

当社では、RICCI EVERYDAY 代表取締役 仲本 千津 氏に「自分らしさ」や「主体性」「ダイバーシティ」「異文化理解」などをテーマにインタビューを実施し、その内容を前編・後編に分けてお伝えしている。

前編では主に「自分らしさ」や「主体性」についてフォーカスした。後編は「ダイバーシティ」「異文化理解」が話題の中心となった。仲本氏は「一時的にでもマイノリティの存在になる経験をすること」の重要性を解いた。一方で、迷いや悩みを抱えながらも、真摯に事業と向き合い、前向きに取り組んでいる様子もうかがえた。以下にレポートする。なお、インタビュアーは前半同様に当社代表取締役社長の三坂 健が務めた。

・前編の内容はこちら
「あなたらしく生きていい」を社会へ、社内へ。ウガンダと日本でライフスタイル事業を展開するRICCI EVERYDAYの組織づくり(前編)

目次

日本とウガンダで、コミュニケーションを使い分ける

三坂:「個性」や「らしさ」の大切さを社外にメッセージする企業は少なからずありますが、社内にも同様のメッセージを伝えているケースは決して多くありません。仲本さんのお話を伺っていると、一人ひとりと真摯に向き合い、「ものづくりは人づくり」を実践していることが伝わってきます。

仲本氏:とても励まされます。一方で、実は当社も課題を抱えています。スタッフと会社の方向性のブレです。退職者が続出しているなどは今のところありませんが、ウガンダのスタッフとのコミュニケーションが少なくなっているのは事実です。

先ほど1on1を週に1回実施しているとお伝えしましたが、それは日本国内のことで、ウガンダのスタッフとはそれほど実施できていません。特に工房のスタッフに対しては、生産業務で忙しいだろうと変に気をつかってしまって、じっくりと話をする機会が持てないままになっていました。ここ数年は新型コロナウィルスの影響もあって、現地へ足を運ぶことも、滞在期間も減っています。この状況を打破するために、今後はウガンダに渡航する回数を増やす予定です。

三坂:物理的に距離があり、さらに文化的背景が異なる中でのマネジメントは、容易なことではないと想像されます。ウガンダの方とのコミュニケーションの取り方で、意識していることはありますか。

仲本氏:そうですね。日本はハイコンテクストな社会ですので、行間や空気を読み、言いたいことが10あるうち3を伝えれば十分でしょう。すべて言ってしまうと逆に言いすぎと捉えられる側面があります。

対して、ウガンダははっきり言わないと伝わりません。また、真顔でコミュニケーションを取ることが普通ですので、日本人から見ると、普通の会話も怒っているように見えるかもしれませんね。当然、日本にいる時は、そうしたコミュニケーションの取り方はしません。使い分けています。

三坂:価値観の違いもあると思いますが、どのように適応していったのでしょうか。

仲本氏:すぐに慣れたということはなかったです。ある意味、修行でした。ウガンダに行けば当然私は外国人。価値観も大きく異なり、私の「怒りポイント」を次々と押してくる。この人たちは私をわざと怒らせているのか、と感じるほどでした。そうした中で、彼らのコミュニケーションを観察し、自分がどう振る舞えば良いのかを必死に考えました。

その結果、ある時、私と同じ考えで動いている人はいないという前提に立てることができたのです。私は私、あなたはあなた。スタッフは批判しているのではなく、意見を伝えている。その見解は事業に好影響をもたらす可能性もあるでしょう。

大切なのはあくまでも事業を良い方向に導くこと。その目的に叶っているのであれば、スタッフの意見が私のものと異なるものであっても、むしろ積極的に耳を傾けます。

三坂:目的志向にしたのですね。

仲本氏:はい。いちいち怒っていたら事業にマイナスです。話を遮らない、否定しない、必要に応じてきちんとフィードバックするようにしています。

キーになる人材を、2人配置する

三坂:海外に拠点を置く場合、日本とのハブになる存在がとても大事です。ウガンダに仲本さんの代わりを務める人材はいますか。

仲本氏:一人います。大学を出たての若いスタッフで、私の言いたいことをきちんと理解し、適切なアクションを取ります。信頼を置いており、これまで私がウガンダで行っていたことの一部を彼女に任せています。

ただ、経営者からの信頼を得ているということで、周囲の嫉妬を買っているようです。加えて、彼女とは別に職人をまとめるリーダーもいるのですが、2人で意見をぶつけ合うこともあります。このあたりに、私がウガンダになかなか行けなかった弊害が出ていると言わざるを得ません。

アフリカでは嫉妬と恨みを買ってはいけないと言われています。取り返しのつかないことになる前に、間に入って事態を収束させないと、と少々焦っているところです。HRインスティテュートさんはタイとベトナムに拠点があるとお聞きました。何か工夫していることはあるでしょうか。

三坂:正直、発展途上です。当社にも現地にハブとなるスタッフがいますが、ピープルマネジメントがとても重要です。改善点は多くありますが、現地を任されているメンバーが工夫している点としては、自分たちが必要とされていると伝えることです。

単なる現地法人で、本社に言われたことをやるだけの存在ではないと事あるごとに強調し、モチベーション高く業務に取り組んでもらえるようにしています。今度、30周年の記念パーティーを日本で行いますが、海外のスタッフも呼ぶ予定です。みんなとても喜んでくれました。

仲本氏:素敵なことだと思います。RICCI EVERYDAYも日本での評判を現地に伝えることはしてきました。ただ、スタッフ間の交流という面ではまだまだなので、ウガンダから日本に来てもらったり、日本からウガンダに行ったりということを増やしたいですね。

三坂:日本に拠点のある外資系企業で、社員からも尊敬され人気を集めているところは、日本の文化をとても大事にしています。本国のやり方を一方的に押し付けることはないので、そうしたことが大事なのではないでしょうか。

また、海外拠点に限った話ではありませんが、現地のキーパーソンを2人にすることも有効だと考えられます。嫉妬を分散させる意味もありますし、片方が行ったフォローをもう一人がする。うまくバランスを取れるはずです。

仲本氏:参考になります。第三極と言える存在がいれば、状況も変わるかもしれません。

女性の活躍を後押しするには、まず環境を整えること

三坂:RICCI EVERYDAYさんは、海外に拠点があることに加え、女性が多い特徴もあります。近年、日本でも女性の活躍を後押しする流れが存在しますが、一方で、女性自身が管理職になることを拒む傾向も見られます。このあたり、女性の気持ち、マインドセットを変えたり後押ししたりする仕掛けはあるでしょうか。

仲本氏:どちらかと言うと、マインドセットは最後の話です。まずは女性が働きやすいように環境を整える。次に「あなたと一緒に頑張りたい」という周りからの支持や声を共有する。そのうえで、女性に管理職に就きリーダーシップを発揮したいなどの希望があれば、挑戦してもらう流れが理想です。

逆に、気持ちだけあっても環境がなかったら、やる気があった分の反動で心が折れてしまうのではないでしょうか。例えば、子育て中の女性は、時間の制約がどうしてもあります。従来の長時間労働に代表される、男性の働き方をベースにした評価などが残る限り、ステップアップを拒むのは致し方ないことだと言えます。

三坂:非常に納得できる話です。仲本さんは経営者として国内外でリーダーシップを発揮されています。そうした素養はどこで身につけたのでしょうか。

仲本氏:先ほどの環境と少しつながる部分もあるのですが、私の場合は、中高一貫の女子校に通っていたことが大きかったと捉えています。今は状況が異なっていると思いますが、ひと昔前は共学では男子生徒が生徒会長を務めるのが当たり前でした。特段の決まりがなくても、何となく男子生徒がリーダーになるという空気感があった。クラスの中でも、リーダーシップを取るのは男子生徒。

ところが、女子校の場合はすべてを女子が担わなければなりません。リーダーシップも取らざるを得ないのです。そうした環境の中で、リーダーシップが自然と育まれました。

三坂:そういえば、仲本さんと同じような観点で女子校のメリットを指摘する話を聞いたことがあります。RICCI EVERYDAYさんもリーダーシップが育つ環境がありそうです。

仲本氏:当社に女性が多いのは狙って作った環境ではありませんが、少数ということもあって、一人ひとりが担える役割は幅広くあります。スタッフには、さまざまな役割を担いながら、将来的にどのような道に進むにしても、リーダーシップを磨いてほしいと思っています。

マイノリティな立場を経験することが、D&Iを実践する上で活きてくる

三坂:近年はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が注目されています。一方、日本では画一的な人材を雇用するメンバーシップ型などの影響で、遅れているとも言われています。

仲本さんは個性を大切にしながら、国内外で拠点を持ち組織をけん引しています。多様な個性が活躍する組織を作るうえで、何か良いアドバイスがあれば、ご提示いただければと思います。

仲本氏:私自身悩むことも多いのですが、今の組織を運営するうえで、とても良かったなと感じている経験があります。それは自分がマイノリティの立場に置かれた経験です。

先ほどもお伝えしましたが、私はNGO勤務だった頃、ウガンダ事務所でたった一人の外国人でした。怒っても誰も取り合ってくれませんし、理解もされません。マイノリティで生きることの辛さ、さみしさ、悲しさ、怒り、さまざまな感情を味わいました。

この経験があるので、この人は居心地の悪さを感じているのかもしれないと、マイノリティになった人の気持ちに気づけるのです。共感のポイントを持つことは、ダイバーシティが求められる中で、非常に重要なことです。振り返ってみると、銀行でも私は完全にマイノリティでした。周りと考えていることも目指していることも違いました。その時は大変でしたけど、その経験は今にすごく活きています。

三坂:留学などの経験を持つ人は、海外のスタッフともうまくコミュニケーションを取りますが、それは単に語学ができることに限らず、相手の気持ち、つまりマイノリティの気持ちに共感しているからかもしれませんね。その人たちに話を聞くと、留学中に大変な思いをした場面も少なくないようでした。

仲本氏:いつもマジョリティの中にいると、気づけないことは多くあります。短期間の留学あるいは出張でも良いと思いますので、強制的に外に出て、マイノリティを経験するのは有意義なことです。

マイノリティになってさまざまな物事に触れることが、グローバルチームなどの一員になった時に役に立つはずです。社会課題を考え発見する良い機会にもなると考えられます。例えば、海外の紛争などのニュースを見て、日本国内にも難民がいて、その人たちの置かれている状況や苦労に思いを巡らすことになるかもしれません。より良い社会を作っていくために、出来るだけ早いうちに、マイノリティを経験することを強く推奨します。

三坂:D&Iの重要性が説かれる中で、「マイノリティの経験」は示唆に富みます。本日は対談を通じ、自分らしさや個性をはじめ、異文化理解、組織マネジメントなどでさまざまな気づきや発見が得られました。

仲本氏:私自身も多くの学びがあり、組織運営のヒントももらえたと思います。何より対談を楽しめました。

これからもアフリカンプリントや日々の活動を通じ「”好ましい”より、”好き”を」選び、「あなたらしく生きていい」というメッセージを伝えていきたいと思います。

三坂:これからのご活躍にも注目させていただきます。本日はありがとうございました。

仲本氏:こちらこそ、ありがとうございました。

対談者プロフィール

■仲本 千津氏/株式会社RICCI EVERYDAY 共同創業者 兼 代表取締役COO
早稲田大学法学部卒業後、一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。大学院では平和構築やアフリカ紛争問題を研究。大学院修了後は、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2011年同行を退社し、笹川アフリカ協会(現ササカワ・アフリカ財団)に参画。2014年からウガンダ事務所に駐在し農業支援に従事。2015年、ウガンダでシングルマザーなどの女性が働けるバッグ工房を立ち上げ、母・仲本律枝とRICCI EVERYDAYを設立。2016年、第1回日本AFRICA起業支援イニシアチブ最優秀賞受賞。2017年、第16回日経BP社主催日本イノベーター大賞特別賞、第6回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション女性起業事業奨励賞、第5回グローバル大賞国際アントレプレナー賞最優秀賞を受賞。2022年、女性リーダー支援基金~一粒の麦~受賞。

■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。

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