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【セミナーレポート】メルカリに学ぶ「共感創造」を生み出す組織づくり―HRマネージャー望月達矢氏が「パーパス」「ミッション」「カルチャー」の必要性に言及(前編)

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多くの企業が「働き方改革」を進めていたところに「新型コロナウイルス」という未知の事態が起こり、加速度的な変化を余儀なくされた。組織のあり方は大きな転換期を迎えていると言えるだろう。
リモートワークをはじめ、オンライン対応のための環境整備や組織体制の大幅な変更の必要に迫られ、人事面での課題も頻出している状況だ。特に組織からの遠心力が強まり、定着やエンゲージメントに苦心する例が少なくない。

これを受け今回、「ニューノーマル時代の組織戦略~メルカリが挑む、社員の“共感創造”を高めるための組織づくりとは~」をテーマにセミナーを開催。メルカリグループでHRマネージャーを務める望月 達矢氏が講演したほか、当社代表・三坂 健の講演や、ProFuture株式会社 代表取締役社長の寺澤 康介氏を交えてのパネルディスカッションが繰り広げられた。
以下にセミナーの内容を前編・後編に分けてお伝えする。前編では望月氏と三坂の講演をレポートする。

【基調講演】
演題/「メルカリが挑む、社員の“共感創造”を高めるための組織づくりとは」
望月 達矢氏

目次

ミッション、バリューへの共感を重視

まずは「メルカリ」についてご紹介させていただきます。概要や事業を知ってもらうというよりは、組織としての考え方や、その考え方に基づいた制度などについて理解を深めていただければと思います。設立は2013年で、従業員は連結で約1800人です。グループ展開を積極的に行っており、2021年には子会社3社を設立させました。

ただ、雇用元は全員がメルカリで福利厚生・給与水準・カルチャーなどは統一。その上で、出向して勤務するという形を取っています。この制度のため、HRの視点からいうと出向が容易で、強みにもなっています。私自身も出向して働いている一人です。

メルカリグループでとても大事にしていることはミッションとバリューです。採用でもミッションとバリューに共感できることが前提で、ほぼ全員が「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションについて語れるはずです。人事としてはミッションに共感する人材をいかに採用するかがビジネスを成功させる勝ち筋の一つと捉えています。

とはいえ、ミッションを掲げているだけでは、どんな行動を取れば良いかわかりません。ミッションに対してオーナーシップを持って一人ひとりが活動しなければならない。その「目線合わせ」をするのがバリューです。

メルカリは「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つを定めました。専門性を深めた一人ひとりが思考のリミッターをはずし、普通ではない成果のためにチーム全体で取り組む。このバリューに基づき、行動や評価が実施されます。

組織の多様性について簡単に触れます。グループ全体で40カ国以上の社員が在籍しており、エンジニアについては日本人と外国籍の方が半々となっています。メルカリグループは言語と国籍にダイバーシティがある組織と言えるでしょう。

多様性があるのは組織にとって良いことですが、一方で目線がそろわなくなりがち。この時、ポイントとなるのがカルチャーです。ミッションとバリューを明文化することで共通の価値観が生まれ、徐々に風土が形成されていきます。このカルチャーこそが独自の競争力であると捉えています。

人事の役割は最適なEmployee Experience(EX)を提供すること

組織の人事の役割は多様ですが、その中でメルカリが掲げているのが本日のテーマにもなっている「共感創造」です。少々極論かもしれませんが、一般的に人事は「ヒト」を「定数」と捉え、「要員管理」が主な役割とされてきたのではないでしょうか。しかし、メルカリでは「ヒト」は「変数」であり、どういうモチベーション、ウェルビーイング、やりがいを持っているかでパフォーマンスが変わってくると捉えています。

だからこそ、社員の自社戦略への理解度や納得感を高め、サービスへの愛着を育み、同僚との連帯感を高めるなど、共感を高めることこそが大事なのです。グループ各社では毎月、組織のロイヤリティを数値で表し、全員で最重要事項の一つとして追いかけています。

反対に、共感創造を高められないと「中長期で競争力が弱くなる」と考えています。自社のミッションや戦略、同僚に共感が持てないのだから、イノベーションが起きるはずもありません。今は人材の獲得が企業の競争力の源泉となっているところがありますが、共感がないとリファラル採用が促進されず、優秀な人材への求心力も高まりません。共感を作ること、共感度合いを下げないことがいかに重要かわかるのではないでしょうか。

人事は、人と組織にアプローチをしてビジネスを成功させ、サービスを良くし、会社を発展させていくことにコミットしています。その上で、注力しているのが、最適なEmployee Experience(EX)を提供することです。EX を向上させることが個人と組織のパフォーマンスを高め、ビジネスの成功確度を上げる、すなわちミッション達成に近づくと考え、さまざまな取り組みを積極的に進めています。

2021年に「ワークスタイル」と「福利厚生」をアップデート

具体的な取り組みを紹介します。2021年に実施したEX向上の取り組みの中で、メルカリらしさが出ている2つの施策を取り上げます。「ワークスタイル」と「福利厚生」のアップデートです。

まずワークスタイルについて説明します。おそらくコロナ禍ということもあり、多くの会社で新しいワークスタイルについて議論がされていると思います。ただ、ニューノーマルなワークスタイルはどんなものかの問いに対して、答えは一つではないでしょう。なぜなら、企業によって組織文化など、パソコンで例えるならOSが異なるからです。実はメルカリはオフィスで仲間と会うことを推奨しており、ウェットな関係を重視していました。

一方で、海外の社員を中心にフルリモートを希望する声が多くあがったのも事実です。このため、改めて組織文化を考慮し、ワークスタイルを決定しようという結論に至ったのです。OSとワークスタイル、両方のアップデートを一度に進めたため、去年1年は本当に大変でした。

メルカリがどんな文化、OSを持っているかは「Culture Doc」と呼ばれるドキュメントにまとめられています。これはネットで公開されており、「メルカリ カルチャードック」で検索できます。組織で大切にしたい、ミッション・バリューのファンデーションとしてまとめられたものがカルチャードックだと捉えてください。

このOSがあり、目線合わせができていることを前提として、メルカリグループではyour choiceと銘打って、各々がパフォーマンスを最大化できるワークスタイルを選択できることとしました。端的に言うと、ワークスタイルは自由としたのです。コロナ前のリモートワーク禁止からここまで振り切りました。大きな変革と言えると思います。

続いて、福利厚生についてです。メルカリグループでは「merci box」と呼んでおり、福利厚生の目的をカルチャードックの中で明示しています。具体的には福利厚生を「働き続ける上での不安を減らすために ダウンサイドリスクを会社がサポートすることで安心感を与え、Go Bold に思いっきり働ける環境を後押しする」制度としています。ダウンサイドリスクとは誰しもが起こり得る、自分ではどうしようもならないものを指します。

merci boxは0を1にする制度というより、マイナスを0にする、全員が同じ土俵に立てる状態を目指しています。例えば、「キャリア形成を意識すると、妊娠・出産・早期復帰等に悩みが大きい」「有給で家族等の看病などに利用されているケースも一定数あった」という声や不満に対応しています。2021年に始めたものとしては、上限200万円までの卵子凍結費用の補助があります。AppleやFacebookが既に始めており、日本でも2~3年後に追随するのではないかと考えています。

EXの最大化は簡単ではないからこそ、情報交換をさせてほしい

最後にお伝えさせていただきます。ここまで紹介させていただいたことは、うまくいった例です。背景には、多くの失敗や苦悩があります。EXの最大化は簡単なことではありません。とにかく難しい。うまくいかなかった理由の一つとして、目線が合っていなかったこともあるはずです。

しかし、それでもトライ&エラーを繰り返し、臆することなくチャレンジすることが大事です。人事としては「時間はかかったけど、落ち着いて良かった」と言ってもらえるように、覚悟を決めるしかないと思っています。今でも悩みは絶えず、力不足を感じることは多々あります。ぜひ皆さんと情報交換をさせてほしいと思います。気軽にご連絡などいただければ幸いです。共により良い未来を築いていきましょう。

【主催者講演】
演題/組織を成功に導くカギ「関係の質」向上とは
三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント

内的報酬、中でも「関係性」の重要性が高まる

皆様もよく感じているように、人材を取り巻く環境は大きく変化しています。リモートワークの発達で住む場所も選べるようになりました。外部環境に目を向けると、令和になって新型コロナウイルス、ウクライナ情勢があり、本当に先が読めない時代です。変数が増える一方の中、人事に求められる役割もますます変化、複雑化しています。

人材の獲得や定着の観点からすると、日本の賃金水準は長く停滞しており、特にエンジニアを確保する上では、給与をはじめ、昇給、昇進、昇格など外的報酬を上げていかねばならないとされています。

ただ、実は外的報酬への依存割合は年々、下がっています。今は物質的には恵まれており、半世紀前と比較すると物質的満足度は高い状況にあるという調査結果もあります。今熟考しなければならないのは、入社後の成長ややりがい、関係性など内的報酬ではないでしょうか。中でも、本日は「関係性」を取り上げ考えてみたいと思います。

リスクヘッジをしながら、アイデアの芽を摘まないようにする

世の中が物資的に満たされておらず、価値観の多様性も今ほどない時は、トップが成功モデルを外から持ってきて指示を出すのが当たり前でした。マネジメントは仮説を実行させるスタイルです。一方、今は何が正解か、何が当たるかわかりません。そこで求められるのが、アイデアの数とそれらを試してみようという感覚です。そうでないと新しいアウトプットや価値が生まれません。

最近では新規事業が重視され、アイデアの数を求めている企業も少なからずあります。しかし、うまくいっていない。なぜか。理由はシンプルでアイデアを上司に持っていっているからです。

対して、新規事業が生まれやすいと言われているリクルートさんでは、私が聞いたところによると、アイデアが浮かんだらまずはお客様先に持っていくそうです。お客様と話しながらフィジビリティを高め、エビデンスを獲得。その上で、上司に話すのでアイデアが無下に却下されることが少ないとのことです。とはいえ、上司もすべてのリスクを負うのは困難でしょう。このジレンマをどう解消するかが、人材マネジメントの重要なテーマとなっていると考えます。

ジレンマを乗り越え、人材マネジメントがうまくいっている例として、サイバーエージェントさんを紹介します。サイバーエージェントさんでは、子会社をたくさん作るという手法を取っています。新入社員を含めて誰もが社長に昇格できる制度を持っており、子会社を設立する場合は、本体の役員がサポート。同時にEXITのルールも明確にしています。

社員の関係性がとてもフラットで、やる気のある人を伸ばします。リスクヘッジもしながら、とてもうまいマネジメントを行っています。また、作業服で有名なワークマンさんも好事例の一つです。ワークマンさんの場合は、外部のアンバサダーの方とwin-winの関係を築いています。

求められるホラクラシー型の組織

従来の組織は基本的にヒエラルキーの関係でした。原則として、上司から部下への指示系統で成り立つ団結の関係でした。この関係にもメリットがあり完全には否定できませんが、今求められているのは「ホラクラシー」の関係、つまり、原則として共通基盤としてのルールで成り立つ自立の関係です。

メルカリさんも共感をベースに、互いに自立しながら新しい試みなどを行っています。業界や職種によってはどうしてもヒエラルキーが必要なケースはありますが、ホラクラシー的な部分を少しでも取り入れることが、次の人材を育てる意味でも重要になると考えられます。

ホラクラシー型の組織では、マネジメントのあり方もヒエラルキー型とは異なります。ホラクラシーでは、共通の価値基準に基づいて現場が自律的に動きやすい環境を整えることが、ミドルに求められます。トップは大きな方向性を示し、一歩でも後ろに下がる時は厳しくマネジメントしますが、前に進んでいる時は基本的に現場に任せます。こうしたマネジメントスタイルに移行しないと、変化の時代には対応できなくなるでしょう。

ホラクラシーを実現するために、どうしたらいいのか。最近ではパーパス経営という言葉もよく使われていますが、なりたい姿を言語化して共有することが欠かせません。組織の方向性をトップがメッセージを出し、現場が理解することが鍵となります。現状では、メッセージを発信できていなかったり、発信しても伝わっていなかったりすることが多いので、その点を見直す必要が出てきます。

理想的な組織の状態・関係性を創り出すための研修「ワークアウト」

新しい事業・価値を生み出す企業の7つの特徴を紹介します。

・「会社、チームとしてのありたい姿が明確で、共有されている」
・「ありたい姿の実現に向けて社員が主体となって考え、行動している」
・「上司は支援役に徹し、答えを与えず、プロセスを支援している」
・「ルールは少ないが、『やってはいけないタブー』は明確である」
・「社員は、まず上司ではなく、お客さまにお伺いを立てる」
・「自由にやれる一方、 EXIT ルールが厳格に運用されている」
・「失敗したときは、『ヒト』ではなく、『コト』を徹底的にツメル習慣がある」。

ぜひ一度チェックしてみてください。

理想的な組織の状態・関係性を創り出すために、個(部下)と組織(上司)にはどのような力が必要になるでしょうか。それぞれ次の力が求められます。部下は「プランニング&プロセス推進力」つまり、自ら考え、行動する力。上司は「プロセスコンサルティング力」つまり、部下を支援し、成果につなげる力――。
特に重要なのは上司の支援力です。あくまで支援役に徹し、答えを与えるのではなく、問いを与え支援する。
そのスキルを伸ばすのが何よりも重要になってきます。

社員と上司のスキル向上のために、お勧めしたいのが、当社でも手がけている「ワークアウト」です。ワークアウトはアメリカのGE社が取り入れたことで著名で、上司と部下で実践的な共通の課題を持ち、部下はノウハウを獲得しながら自身で実行し、上司がそれを支援します。ポイントは上司と部下を同時に鍛えることです。別々の研修を受けると、現場に戻った時に結局、上司が部下の提案を却下することが起こりがちです。

しかし、ワークアウトでは上司と部下で共創してアウトプットを創り出します。それも実践的な課題に取り組むので、効果が期待できます。ワークアウトを通じて関係、思考、行動、結果の質を良くし、その帰結としてさらに関係の質も向上させるという、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した「グッドサイクル」を構築することを目指します。

最後に、関係性を高めるリーダーは「すごくて親しみやすい人」です。すごいだけでも親しみやすいだけでもいけません。組織も同じで、「温かくて厳しい(アタ・キビ)」が人も組織も育つ良い状態とされています。「アタ・キビ」のバランスを成立させながら、いかにして「アタ・キビ」組織を作るかが今後の課題となるのではないでしょうか。

(後編へ続く)
【セミナーレポート】メルカリに学ぶ「共感創造」を生み出す組織づくり―HRマネージャー望月達矢氏が「パーパス」「ミッション」「カルチャー」の必要性に言及(後編)

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