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【セミナーレポート】メルカリに学ぶ「共感創造」を生み出す組織づくり―HRマネージャー望月達矢氏が「パーパス」「ミッション」「カルチャー」の必要性に言及(後編)

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組織のあり方が大きな転換期を迎えている。これを受け今回、「ニューノーマル時代の組織戦略~メルカリが挑む、社員の“共感創造”を高めるための組織づくりとは~」をテーマにセミナーを開催した。

前編ではメルカリグループでHRマネージャーを務める望月 達矢氏と、当社代表の三坂 健の講演の内容をお伝えした。後編ではProFuture株式会社 代表取締役社長の寺澤 康介氏を交えてのパネルディスカッションの様子を紹介する。

■パネルセッション
望月 達矢氏/株式会社メルカリ People Experience Manager
三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント

(ファシリテーター)
寺澤 康介氏/ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長

目次

対話の重要性を再確認

寺澤氏:まず望月さんにお聞きします。メルカリさんは設立10年に満たない段階でコロナ禍に見舞われ、ワークスタイルの変更を余儀なくされました。原則、出社勤務としており、社員同士の関係性を深めていた段階でもあったと思います。急な方向転換をする中では、さまざまな困難もあったのではないでしょうか。

望月氏:正直、とても大変でした。何が大変だったかというと、「なぜワークスタイルが定まらないのか」「決定するのに何が足りないのか」ということに対するアンサーまでに時間がかかったことです。本当にたくさんの問い合わせが寄せられました。人事側としてサーベイをしても価値観はバラバラ。リモートワークを希望する声も、オフィス勤務を希望する声も同様にありました。意思決定までに約1年半の間はほんと大変でした。

寺澤氏:人事が有無も言わさずこれだと押し付けることはできたかもしれません。しかし、メルカリさんには多国籍の方が集まり、多様性を重視する文化がありました。一方的な押さえつけでは、遠心力がより強まるジレンマもあったと思います。今の話に関連して、視聴者の方から質問が寄せられています。「メルカリさんのYOUR CHOICEはとても面白い取り組みですが、目線をそろえるためにどのようなことを行ったのでしょうか」

望月氏:YOUR CHOICEの意志決定を行う前に、人事の考えを全社員に共有し、「オープンドア」と呼ばれる話し合いの場を設けたことも大きなポイントだと思います。メルカリグループでは、ある日いきなり新しい制度をサプライズ的に出すことはありません。必ず社員の意見を「オープンドア」で聞きます。

YOUR CHOICEの時は10回以上にわたり行いました。1回に300~400人が参加するので意見は数え切れないほど出されましたが、取り入れるべきものは取り入れながら制度設計につなげました。

また、実際の運用が始まってからは、オンラインミーティングの際の顔出しの有無の好みなど40項目の質問をまとめた「ワークスタイルシンク」と呼ばれるものを各チームで実施してもらっています。目線がそろわないとルールを増やしたくなりますが、ルールは増やさず配慮として対応します。

寺澤氏:対話の重要性が感じられますね。関係性の向上につなげていらっしゃいます。

三坂:ワークスタイルはロジカルに決めようとしても無理なテーマだと思います。これからのことなので、過去のデータやエビデンスでは判断しきれません。その時、大切なのは考えてもらうことだと思います。考えてもらう過程で、難しい判断だということが共有できます。その上で意思決定が下されるので、フラストレーションは大幅に削減できるはずです。お互いが難しい問題に立ち向かった後なので、決定も受け入れやすくなります。

寺澤氏:続いて、三坂さんにお聞きします。変化が激しい現状では、ホラクラシー型組織の重要性は理解できました。しかし、多くの企業がヒエラルキー型を維持しています。ホラクラシー的な部分はどのように取り込んでいけば良いでしょうか。

三坂:やや飛躍しているかもしれませんが、子会社を作ることが一つの成功の道筋だと考えています。従来型の製造業と、例えば、仮想通貨の事業では求められるスピードも変わってきますから、これからの組織は一つの所帯ですべてを完結しようとしても無理が生じます。価値基準はそろえながらも、働き方や給与体系が異なるなら子会社を設立することを前提にしたほうが、経営にとっても合理的ではないでしょうか。

望月氏:とても共感できる話です。人事目線でいうと、子会社を作ることで抜擢人事もできますし、成果が出しやすくなると思います。

共感創造を高めるためにはパーパスと向き合うこと

寺澤氏:ここから改めてニューノーマル時代の組織戦略を考えたいと思います。まずコロナ禍での変化対応を取り上げます。うまくいっている企業もあればそうでない企業があるのも現状です。変化対応がうまくいっている企業の共通項はどこにあるとお考えですか。自らの経験などを基にお答えいただければ幸いです。

望月氏:メルカリグループがワークスタイルの変化対応を成し遂げられた要因としては、2点あると思っています。一つは経営に対して恐れることなくHRとして人・組織に関するインサイトを提言できたこと、もう一つは社員の対話から情報が取れたことです。昨年はワークスタイルについて、たくさん経営とミーティングの場を持ちました。経営から指示が下りてくるのを待たず、社員の声を集めるなどしながら、タイミングを見計らって提言できた点が良かったと思っています。

三坂:うまくやっている会社は、ファンを大切にしています。この時、ファンはお客様はもちろん、社員も含みます。ファンが自分たちが大切にされていると実感することで、一緒に困難を乗り越えようという雰囲気を創り出せる。お客様や社員をはじめ、あらゆる人たちとの関係性を大事にしている企業は、うまく変化対応もできているのではないでしょうか。

寺澤氏:ファンという言い方はしっくりきました。ファンデーションとしての良い関係性が成り立っているから、打ち手が機能します。そうでなければ、どんなに良い施策を打っても、うまくいかないことはあるでしょう。続いて、関係性の質、共感創造に着目したいと思います。関係性の質、共感創造を高めるために何をすべきだとお考えでしょうか。

三坂:改めてパーパスと向き合うことだと思います。何のために存在しているのかに立ち返り、目的を明確にします。それを基に対話を繰り返すことが関係性のベースになるはずです。また、経営トップが、この時までにこうなる、これをすると、メッセージを発信し続けることも同様に大事です。そうすることで、たとえ一時的に事業が停滞していても、社員は目的と今やることが理解できるはずです。

寺澤氏:メルカリさんでは、関係の質を高めるためにどのようなことを行っていますか。

望月氏:週に1回30分以上、マネージャーとメンバーで1on1を実施しています。チームでパフォーマンスを上げるにはお互いを知ることが欠かせませんので、1on1でお互いを知ることを愚直に行っています。

また、たとえば経営と社員の距離感でしたり、カルチャーの体現として経営会議の議事録を公開しています。これにより、経営と社員の情報格差の問題も解消できます。このほか、チームビルディングの推奨も行っています。いずれも目新しい話ではないのですが、関係の質の向上のためにコロナ禍でも継続して取り組んでいます。

ミッション、バリュー、パーパスを言語化し、事あるごとに確認

寺澤氏:別の質問が寄せられています。「関係の質を向上させるためにワークアウトに興味を持ちました。心理的安全性の確保や内発的動機づけの促進も研修のなかで取り組むのでしょうか」

三坂:はい。ケースバイケースで、必要があれば実施しています。また、ワークアウトは例えば取締役が手法や目的に同意しているなど、スポンサーが承認していることを前提としています。当社ではこの環境整備から始めるので、上司にとっても部下にとっても取り組みやすい研修となっています。

寺澤氏:望月さんに質問が来ています。「組織でどういうサーベイを行っていますか」ということですが、お話いただける範囲でご紹介いただければと思います。

望月氏:組織のロイヤリティとウェルビーイングのサーベイを毎月、Go Bold、All for One、Be a Proに関するサーベイを3カ月ごとに行っています。いずれも今は設問を自社開発していますが、外部サービスを取りいれる可能性もあります。

寺澤氏:OSの浸透度を計測しているのでしょうか。

望月氏:おっしゃる通りです。

寺澤氏:理念、バリュー、パーパスを浸透させる取り組みについてもお聞かせください。まずはどんなことから行えば良いでしょうか。

望月氏:ファーストアプローチとして、ミッション、バリュー、パーパスを言語化して、社員に展開することが考えられます。ただ、解釈が個々で異なる可能性は高いので、日々のタッチポイントに組み込むよう心掛けています。採用面接、1on1、評価などの時に、Go Bold、All for One、Be a Proなどの言葉を見たり聞いたりできるようにしています。

三坂:売上・利益を言わないことではないでしょうか。売上・利益を言わないことで、何のためにやるのかが考えやすくなるはずです。売上・利益は敢えて繰り返し言わなくてもわかっているという前提に立ち、パーパスに目が行くように配慮します。

寺澤氏:最後に視聴者の方にメッセージをお願いします。

望月氏:人事は会社が違えど、悩んでいることや課題が共通する部分は多くあると思います。情報共有をしながら学び合い、どこかで一緒に仕事ができれば大変嬉しいです。

三坂:できること・できないことあると思いますが、選択肢を広げてできることからトライすることは大事です。トライしづらい時は子会社を作る、という気概を持つのがいいかもしれません。そうすることが組織を活性化させることにつながるでしょう。当社のミッションは主体性を引き出すことです。世の中に主体性のある人、組織を増やすことが私たちのパーパスです。一緒に何かやりたい、考えたいということがあればぜひお声がけください。

(プロフィール)
■望月 達矢氏/株式会社メルコイン兼メルカリ NFT HRマネージャー
大学卒業後、外資系生命保険会社、エンタメ企業、IT ベンチャーを経て2017年12月メルカリ入社。People Experience Team のマネージャーとして、EX 向上に向けた人事戦略の策定や人事制度の企画などを担当。プロジェクトオーナーとして、新しいメルカリグループの働き方「YOUR CHOICE」や福利厚生制度「mercibox」に卵子凍結支援等を追加リリース。2022 年からメルカリグループの新規事業であるメルコイン兼メルカリNFT 担当の HR マネージャーを務め、新しい時代の組織づくりに注力している。

■寺澤 康介氏/ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長
1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。8万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。

■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。 安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」など。2020年1月より現職。

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