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何を成し遂げたいのか?「MYパーパス」から始めるSOMPOグループの組織・人材変革(前編)

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“安心・安全・健康のテーマパーク”をブランドスローガンに掲げるSOMPOグループは、国内外の損保・生保事業から介護・シニア事業まで、お客様の人生と暮らしをひとつなぎで支えるサービス企業だ。先の見えないVUCAの時代において、「万が一のときに役立つSOMPO」から「より充実した人生をもたらすSOMPO」への進化を目指している。そのトランスフォーメーションを実現するために、社員一人ひとりが自身の人生や働く意義を見つめる、つまり「MYパーパス」に向き合うプロジェクトを始めた。

グループ全体で約7万5000人の社員と日本全国に支社・営業所1000以上の拠点を擁するSOMPOグループが、パーパス経営へと舵を切り「MYパーパス」の浸透を図る理由とその実現の過程について、SOMPOホールディングス株式会社グループCHRO 執行役専務 原伸一氏に、当社代表取締役社長の三坂健がインタビューした。なお、対談の内容は前編・後編の2回にわたってお送りする。

・後編の内容はこちら
何を成し遂げたいのか?「MYパーパス」から始めるSOMPOグループの組織・人材変革(後編)

目次

SOMPOグループがパーパス経営に舵をきった理由

三坂:私は大学卒業後、2000年に安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)に入社し、2003年まで勤務させていただいておりました。その後、HRインスティテュートへ入社し、現在は企業様に主体性を挽き出すことによって組織を活性化することをご支援しております。

御社は2021年から「パーパス経営」に舵を切り、「MYパーパス」を浸透させる取り組みをされているとお伺いしています。そうすることに至った背景を教えていただけますか。

原氏:私たちは今後20年、50年後に世の中で価値ある存在であるために、「”安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」ことをSOMPOグループのパーパスとして掲げました。このパーパスは従来の事業だけでは実現できません。新規ビジネスの開発や企業買収、またデジタルの力も活用して、イノベーションやトランスフォーメーションを起こしていかなければならないのです。

一方で、長らく主力事業としてきた損害保険事業は、公共性にかんがみ規制が厳しい業種です。お客様から保険料を預かり、何かの損害があったら保険金をお支払いするビジネスです。社員は決められたことをきちんと時間通りに、かつ、規定通りに行うことが求められてきました。でもそのままの組織文化では、イノベーションやトランスフォーメーションを起こすことはできません。「私たち自身が変わっていかなければならない」という事態に直面したのです。

では、どうやって変わっていくのか。SOMPOグループの社員一人ひとりが自身の人生や働く意義を見つめる、つまり「MYパーパス」に向き合うことで、SOMPOグループのパーパスにつながっていくのではないか。それによって、心のなかに火が付いた人から変化が始まっていくのではないかと考えたのです。

三坂:御社の長い歴史のなかで、業務の必要性に応じて培われてきた組織文化を時代の変化にあわせて変革していくということなのですね。

「MYパーパス」を語り合って「SOMPOのパーパス」との重なりを見つける

三坂:SOMPOグループのパーパス浸透の取り組みについて、どのように行っているのか具体的に教えていただけますか。

原氏:まず、上述の通りにSOMPOのパーパスを定義しました。その実現に向けて、何をしていくのかを考えます。さらに、社員一人ひとりが「MYパーパス」を考え向き合い、SOMPOのパーパスと「MYパーパス」のどの部分が共鳴するのかを見つけ出して、日々の仕事でパーパスを自分事化して実践していきます。

組織へ展開する方法として、「タウンホールミーティング」という経営層と社員が直接対話する場での経営層からの発信や、「MYパーパス1on1」という上司・部下の対話、ワークショップ、MYパーパス共有会などを行っています。「MYパーパス」は何の制限もなく自由です。社員一人ひとりが自分で「MYパーパス」を作り、職場で開示して語り合いましょうという活動になります。

三坂:「MYパーパス」、つまり自分の生きる目的や仕事をする意義を職場のなかで語ることに対し、心理的に抵抗感を持つ社員の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

原氏:「MYパーパス」を語ることは、我々の世代にとって気恥ずかしいことです。また、みんなで開示して話しましょうというのもなかなかハードルが高いことです。けれども、こういう青臭いことをグループCEOの櫻田が先頭に立って「本気でやるぞ」と言っています。人事部門も積極的にMYパーパス起点の施策を推進するなど定着に向けて様々な取り組みを行っています。そうすると「MYパーパス」を話すことに対して、心の壁やハードルがどんどん下がっていく、そんな実感があります。

三坂:CEOみずから先導して、グループ全体でやられているのですね。役員の方々はいかがですか。

原氏:SOMPOグループの役員が「MYパーパス」を話すビデオを作成しています。SOMPOホールディングスの役員はすでに公開しており、損保ジャパンの役員についても順次公開しています。役員が本気で「MYパーパス」を話せば、社員に本気度が伝わると思います。

これまでの仕組みや文化を壊すために心のあり方を変える

三坂:ところで、原さんが人事系の役職に就任されたのは比較的最近のことなのですね。

原氏:長らく財務やIRなどの業務に携わってきました。財務部門は銀行、証券、保険など金融業界のさまざまな企業にあるため、転職ということではないけれども、金融業界で財務のプロになっていきたいと思っていました。ところが毎年3月になると、人事が社員を異動させます。まさに「ガチャ」ですよね。たまたま私には不本意な異動はありませんでしたが、ある優秀な後輩に意図しない異動があり、それが不満で退社していきました。「なんで会社が勝手に決めるの?」という話です。だから人事が大嫌いだったのです。

三坂:その大嫌いな人事になったのですか。

原氏:2019年に、櫻田グループCEOから「人事をやってくれ」と言われたときは、もう飛び上がるほど驚きました。けれども、そのときに「これまでの仕組みや文化など、そういうものを壊せ」と言われたのです。「壊していいならやりましょう」ということで人事に来ました。

三坂:「仕組みや文化を壊す」のはいかがでしたか。

原氏:我々は長い間、実質的に年功序列でした。若いころは我慢して、そうすれば課長代理になれる、課長になれる、部長になれると言われてきました。実際、課長になるのに30年かかったという社員がグループのなかにたくさんいるのです。「これは無理、壊せるわけがない」と考えていました。ところが、コロナ禍になって世の中の価値観や仕組みが大きく変わったのです。「これは無理ではないかもしれない、何かを変えられるかもしれない」と思ったのです。

三坂:コロナ禍でどんなことが起きたのですか。

原氏:家にこもってリモートワークをしなければならない状況で出てきた画期的な方法がZoomによるオンライン研修です。従来は地方からマネージャーを集めるのに多くのコストがかかっていたのが、低コストでできます。では、浮いた分のコストで何をするか。制度などのハードな部分ではなく、社員の考え方やマインドセットがどのようにあるべきか、ソフトの部分を掘り下げていったら「MYパーパス」に行きついたのです。

「MYパーパス」の追求を現場で行う「MYパーパス1on1」は、マネージャーがコーチングスキルを持っていることが前提になるため、コーチング研修をオンラインで行いました。私の判断でSOMPOホールディングスのマネージャークラスへの実施を決めました。するとグループ傘下の会社でも「これはきっと経営のお墨付きなのだ」と解釈してくれて、広まっていきました。

グループCEOがMYパーパスを語り本気で取り組む

三坂:グループ全体にマネージャーのコーチングスキルや「MYパーパス」の考え方が次第に浸透していったのですね。社員の皆さんの反応はどんな感じだったのですか。

原氏:「これはいい」という受け止め方と「忙しいなかでやっていられない」という社員も一定数混ざっている状態が1年半ほど過ぎました。

2021年にSOMPOのパーパスを定めたことをきっかけに、櫻田グループCEOによるタウンホールミーティングを開催しました。これもZoomを利用して、櫻田グループCEOと、各事業の若手社員各1名がパネリストとなり、外部コーチがファシリテーター、私どもグループ人事が主催者として参加しました。グループ社員がオンラインで参加して、チャットで感想や質問ができるウェビナー方式です。

SOMPOのパーパスについて話し合ううちに、櫻田グループCEOが自分のパーパスについて語りはじめ、「社員の皆さんも自分を形作っているものは何なのか、自分は何のために生きているのかを考えてみましょう」と言い出しました。そして、「トップの自分がいうのもなんだが、会社なんてたかが会社だ。一番重要なのは皆さんの人生だ。皆さん自身がどう生きたいか、何を成し遂げたいか。だから、皆さんが自分の人生を成し遂げるために、この会社を道具として使ってくれればいい」と言ったのです。これには社員全員がビビッと衝撃を受けました。

三坂:そのとき、社員の皆さんのエンゲージメントがぐっと上がったでしょうね。非常にインパクトのある発言だと思います。先ほど、原さんがおっしゃった「トップの本気」が伝わってきます。

原氏:自分の人生を第一に考え、会社はその実現の道具であるということは、「MYパーパス」という職場の取り組みにグループCEOがお墨付きを与えてくれたということです。会社が総力を挙げて取り組んでいるという確固たる位置づけを得られた瞬間でした。

三坂:そこでSOMPOのパーパスと「MYパーパス」とが重なり合って、一気に歯車が回り始めたのですね。

「社員が幸せな会社を創る」がグループCHROの「MYパーパス」

三坂:先ほど役員の方が「MYパーパス」をビデオ収録されたと伺いました。原さんの「MYパーパス」はどのようなものか、お伺いしてもよろしいでしょうか。

原氏:私のMYパーパスは「社員が幸せな会社を創る」ことです。私自身がこうして「MYパーパス」の活動を進めてきて考えたことは、自分が何をやりたいかを真剣に考える社員が一人でも多くなれば、会社は良くなるということです。自分で考えるのは自由だから、幸せですよね。社員が幸せな会社になるように、グループCHROとして真剣に取り組んでいます。

三坂:分かりやすくキャッチーなメッセージですね。原さんの「MYパーパス」は、原さんご自身のキャリアのなかで築かれたものですか、それとも何かきっかけがおありだったのでしょうか。

原氏:コーチと話していて、子供のころの経験が今の自分を形作っているな、と感じています。

小学校の学区に公営住宅があり、仲がよい友達の半数がそこに住んでいて、一番仲良しの友達は母子家庭で7人兄弟でした。

私たちは楽しく遊んでいたのですが、中学生になるとその友達の素行が悪くなってしまったのです。友達は認めてもらいたい、愛されたいために、目立つ行動をするようになりました。でも、周囲から偏見の目で見られたり、先生も向き合いませんでした。それでグレてしまったのです。内面は素晴らしい子なのに、真摯に向き合おうとしない大人たちを見て非常に幻滅しました。

そんな経験から真摯に人と向き合ったり、心を開いたり、オープンでありたいという価値観が私のなかに醸成されたように思います。

三坂:そういうことだったのですね。

原氏:会社の組織でも同じです。ただ単に上司が部下を評価する立場だけで、上司が偉いという勘違いもあったりします。人と人が、心がオープンなコミュニケーションが行われていないことが多いです。そういう組織や社会は幸せではありません。だから、そういうものを取り払っていきたいのです。

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何を成し遂げたいのか?「MYパーパス」から始めるSOMPOグループの組織・人材変革(後編)

対談者プロフィール

■原 伸一氏/SOMPOホールディングス株式会社 グループCHRO 執行役専務
1988年、安田火災海上保険株式会社(現損害保険ジャパン株式会社)に入社。
約20年にわたり資産運用部門の最前線(NY駐在を含む)にて国内外の株式投資等に従事した後、IR室長や海外事業企画部長を経て、2019年にSOMPOホールディングス株式会社グループCHRO執行役常務に就任。2022年4月からはグループCHRO執行役専務(現職)を務める。MYパーパスは「社員が幸せな会社を創る」。

■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。

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