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何を成し遂げたいのか?「MYパーパス」から始めるSOMPOグループの組織・人材変革(後編)

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国内外の損保・生保事業から介護・シニア事業まで幅広い事業を展開するSOMPOグループは「”安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」ことをグループ全体のパーパスとして掲げている。グループ全体のパーパスの浸透に取り組む、グループCHRO 執行役専務 原伸一氏と、当社代表の三坂健による対談の後半をお届けする。後編では、SOMPOグループが取り組む「MYパーパス」について、社員が自分のキャリアを自律的に考え、実践できるようにするための仕組みについて詳しく伺った。

・前編の内容はこちら
何を成し遂げたいのか?「MYパーパス」から始めるSOMPOグループの組織・人材変革(前編)

目次

心をオープンにすることを会社が後押しして、組織文化を変えていく

三坂:「パーパス経営」と「MYパーパス」について伺ってきました。一般的に既存の仕組みを壊そうとすると、その仕組みに報われてきた人が反発することがあると思います。「パーパス経営」「MYパーパス」においては、そのようなことは起きなかったのでしょうか。

原氏:まず、会社が何かを無理やり変えるやり方は、社員に納得してもらえないと思います。たとえば、「評価基準をがらりと変えます。これからはこういう人を評価します」と言ったら、社員は納得しないでしょう。でも「パーパス経営」「MYパーパス」は仕組みを変えるのではなく、人の内面、心の持ち方を変えていくことを会社がサポートするものです。「自分たちがどうありたいかを自分たちで考えましょう」ということで、会社が押し付けるものではないのです。内面が変わる社員は変わり、変わらない社員は変わらないという状態です。

変わりたい社員は自分がやりたいことを考えるようになるので、キャリアも自律的に考えます。「今までどおりで変わらずにやっていこう」という社員も一定数以上いて、混ざり合っています。

三坂:「今のままでいる」と考える社員に対しても、その考えをその社員の「MYパーパス」として捉える、ということでしょうか。

原氏:社員のパーパスに優劣はありません。「私は安定を求めて損害保険会社に入りました。家族も養えています。何の問題もありません」というのも、それでいいのです。会社にそれを批判する権利はありません。

三坂:そうした自分の心をオープンにできることが素晴らしいことだと思います。私は学生時代、組織を元気にする仕事に興味がありましたが、先ほどお話したように、ご縁があって新卒で安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)に入社しました。充実した会社員生活を送らせていただいて、上司・先輩にとてもよくしていただいて今も関係が続いていますが、それにも関わらず、当時、今後のキャリアをどうしていきたいか、どう悩んでいるかを社内で話すことができませんでした。自分からこうした話をしやすい雰囲気はあまりなかったように感じています。

原氏:そうでしょうね。長い間、そういう文化でしたから。だからこそ、会社が社員の自己開示の背中を押すことが大事です。

三坂:社員がキャリア自律に目覚めると、退職者が増える懸念はありませんか。

原氏:「MYパーパス」を追究した結果、社員がSOMPOグループを退職することもあります。キャリア採用で再入社ということもありますが、元SOMPO社員は我々の貴重な人的資本であるため、昨年秋にアルムナイコミュニティを創設しました。SOMPOグループの外にネットワークを作っています。退職を推奨するわけではありませんが、「元SOMPOグループの人材は素晴らしい」と言われるようになりたいですね。

三坂:私自身、元SOMPO社員であることをとても誇りに思っていますし、今の仕事を通じて、少しでもSOMPOグループ出身者のイメージ向上に貢献できるようにと思いながら仕事をさせていただいています。

社内公募の手上げ式でキャリア自律を目指す

三坂:私が安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)の新入社員のとき、毎年4月の人事異動の発令が3月に出るため、その頃になると周囲の先輩たちはソワソワしていました。

多くの会社にとって、人事主体の異動は「伝家の宝刀」ではないでしょうか。というのも、新入社員で入社すると最初に会うのは人事です。新入社員研修で人事からいろいろ教わっていると「会社は人事部門が握っていて、何かあったら異動させられる」といったイメージが知らず知らずのうちに植え付けられているのではと思います。

一方で、人事異動は健全な経営のために必要です。「MYパーパス」を浸透させていくときに、個人のキャリアと組織のニーズをどのように両立させようしているのか、詳しくお聞かせいただけますか。

原氏:「MYパーパス」を原動力にすべての人材戦略の土台として行っています。お話したとおり、「MYパーパス」は自分の人生を考えて、自分は何を成し遂げたいのか考えることです。おのずと、仕事ではどういうキャリアを築いていくのかを自分で考えていくことになります。「今の仕事が天職だ」という社員もいるし、「やりたい仕事は今の仕事ではない」ということになるかもしれません。

「MYパーパス」を実践しましょう、自分でキャリアを考えましょうと言っているのに、3月が来たら「あなたはここに異動です」というのでは言っていることと行っていることが違います。ですから、今後は手を上げてもらう立候補制にしていきます。

三坂:異動を社内公募制で行うのですね。

原氏:ポストを募集して、希望者は手を挙げます。そのポストにはスキル、経験値、意欲、能力がないと就くことができないわけで、複数の社員が応募すればポストにふさわしい社員を選択します。必ずしも本人の希望が叶うわけではないのですが、ポストを勝ち取るために努力することが、会社を強くするし個人を強くします。この仕組みを広げていきたいと考えています。

三坂:それが実現できたら素晴らしいですね。一方で、現実的には全国津々浦々に数多くの店舗・拠点をお持ちです。

原氏:おっしゃる通りです。仮に全員を希望通りの場所に配置したら、首都圏に希望者が殺到し、地方に社員が配置されないことになってしまいます。本人の希望を優先しながら、この点をどうしていくのかについて、今まさに考えているところです。

ただし、絶対に曲げてはいけないのが、本人の意向を無視した異動は行わない覚悟です。

三坂:数か所程度の拠点でしたら可能かもしれませんが、御社の企業規模では聞いたことがありません。

原氏:全国に支社・営業所が1000以上あるため、この規模で実現できている会社はおそらくないでしょう。しかし、本人の意向を無視した異動を行わないという原則を持たなかったら、結局、不満を持つ社員がいろんなところにいる状態が続く可能性があるわけです。「ここにいるのは自分が選んだからだ」という仕組みにしたいと思っているのです。

三坂:受け入れる異動先の部署も、本人が希望していない状態の社員を受け入れるのは辛いです。お互いがWin-Winであることが大事ですよね。

原氏:一人ひとりが自分のキャリアを自律的に考えて目指せるような仕組みづくりに、今まさにチャレンジしています。

マネージャーは部下と対話する人という認識への変革

三坂:金融会社は拠点が全国に展開しており、現場のマネージャーにはこれまでの考え方が染みついています。今回の「MYパーパス」の取り組みは現場の意識改革とも言えると思うのですが、現場のマネージャー自身が追い付いていけていないとなかなか浸透しないのではないでしょうか。その点で、工夫されていることがあれば教えていただけますか。

原氏:先ほどお話しました「MYパーパス1on1」がマネージャーの意識改革の1丁目1番地になります。まず、マネージャーは「部下と対話する人であると位置づけます。つまり、コーチになるということです。そのためには、マネージャーが対話するスキルを身に着けて、部下との対話を日々のベースにしていくことに取り組んでいます。

今後、手上げ式やジョブ型を取り入れていく予定です。さらに、人事部が中央集権で管理している状態から、人事部の権限をどんどん現場に手放していきます。その分、現場のマネージャーの権限とやることが増えていきます。キャリア相談を行ったり、採用で人を見る目も養うことも必要です。

三坂氏:人事評価の仕組みはどのようにしていくのですか。

原氏:これまでは人事の中央集権のもと、各マネージャーに「あなたは部下の何人までにプラス評価をつけていい」といった相対評価を行っていました。本来、評価は昇進を決めたりするものではなく、社員の成長を後押しして育てるための道具でなければなりません。私たちは社員一人ひとりのパーパスとキャリアプランにきちんと向き合っていきたいのです。そうなると社員の窓口は人事ではなく、現場のマネージャーになります。「MYパーパス」の仕組みを成り立たせるためには、そのようなパラダイムシフトをしていかないといけません。

三坂氏:なかなかハードルが高いようにも思いますが、マネージャーにする人を見立てて、トレーニングしていくということでしょうか。

原氏:その前に、マネージャーという位置づけ自体を変えていきます。伝統的な金融会社はヒエラルキーがあり、役職が高い人が偉い、マネージャーが偉い、という意識ですよね。しかし、マネージャーは役割の1つに過ぎません。そういう役割なのだという認識への転換が必要だと思います。

ポストの見える化・共通化でグループ内キャリアアップの仕組みを構築

三坂:御社では、M&Aなどで子会社を増やしていらっしゃいます。たとえば、子会社でまったく新しい制度を取り入れるということをお考えでしょうか。それとも人事的な基盤はグループで共通化していくのでしょうか。

原氏:切り口によって考えていますが、グループとして標準的に行っていかなければならないのは、ポストの見える化です。グループ会社のあらゆる業種・ポスト、役割、スキル・経験を見える化して、グループの社員誰もが見られるようにします。これは2023年度の重要な施策の一つです。

三坂:先ほどジョブ型を導入するというお話がありましたが、これはどのように進めるのですか。

原氏:ジョブ型は、仕組みとしては市場での人材流動性があることが前提で成り立っているものです。私たちの業界全体として流動性があるとは言えませんが、将来そうなるだろうという予想のもとに始めています。分かりやすいところで言えば、グループ内の各会社に人事や経営企画、リスク管理、広報、法務、監査などの機能があります。ポストを見える化し、グループ全体で公募してキャリアアップし、プロフェッショナルを育てやすい仕組みを作ります。これも共通基盤でタレントマネジメント・システムを活用して行っていきます。

SOMPOグループが目指す人材像

三坂:私たちの会社について少しお話させていただきます。弊社の創業メンバーの一人から「うちの会社に入ったら人格が良くなる、そういう会社であってほしい」と言われています。これが心から大事だと考えておりまして、「これをやると人格形成につながるか、つながらないか」と人と接するときや物事を考える基準にしています。

原さんは、「社員が幸せになる」ことに尽力されているなかで、グループの社員の皆様にどのような人であってほしいとお考えでしょうか。

原氏:SOMPOグループには、3つのコア・バリューがあります。1つ目はミッションドリブンです。上意下達の「役職ドリブン」だったり、単に数字を上げるということではなく、自分は何をなすべきか、自分のミッションは何かを問いかけることから始めましょう、ということです。まさに「MYパーパス」につながるものです。2つ目はプロフェッショナリズムです。成果を上げるためには何をしてもいいということではなく、倫理観やインテグリティをすべて兼ね備えて初めてプロフェッショナルであるという意味を込めています。3つ目はダイバーシティ&インクルージョンです。お互いがお互いを尊敬することに尽きます。

これら3つを備えた人材集団になりたいのです。三坂さんがおっしゃったような人格者という要素も、これらに含まれていると思います。

勉強時間を捻出し「MYパーパス」実現に全力で取り組む

三坂:今こうして変革の真っ只中で、経営陣の皆様も自分自身が変わらなければならないとお考えではないかと思います。原さんご自身は、何か意識的に変えたことはありますでしょうか。

原氏:CHROになって変えたことは、勉強する時間を増やしたことです。人事の仕事は、社員の人生に関わり、制度を変えたりするわけですから、生半可な知識や覚悟では失礼ですよね。人事としてのキャリアを築いて来なかった分やらなければなりませんから、休みの日はほとんど勉強と仕事をしています。他の役員も問題意識を持っていろいろ変えていると思います。

日本の社会人は勉強しないというデータがよく出ていますよね。要は、自分で何をしたいのか考えなくていい状態になっているのと、考えても会社が勝手に異動するので仕方がないと諦めていて、何かを身に着けようとしなくなっているためです。この状態を変えていきたいのです。

三坂:最後に原様がグループCHROになられて、今どのようにお感じなっているかお聞かせいただけますか。

原氏:人事に対する考え方が180度変わりました。以前は、人事は社員を管理する仕事だと思っていました。もちろん、給料の支払いなど管理業務は重要な仕事です。それに加えて、本来やらなければならないのは、ビジネスの目標を成し遂げるために一番重要な会社の財産である社員の価値を、一番よい形で高めるのが人事の仕事なのです。それは私のパーパスである「社員が幸せな会社を創る」とイコールですから、人事の仕事は天職だと思っています。「MYパーパス」をはじめとするさまざまな人事施策に全力で取り組んでいきます。

対談者プロフィール

■原 伸一氏/SOMPOホールディングス株式会社 グループCHRO 執行役専務
1988年、安田火災海上保険株式会社(現損害保険ジャパン株式会社)に入社。
約20年にわたり資産運用部門の最前線(NY駐在を含む)にて国内外の株式投資等に従事した後、IR室長や海外事業企画部長を経て、2019年にSOMPOホールディングス株式会社グループCHRO執行役常務に就任。2022年4月からはグループCHRO執行役専務(現職)を務める。MYパーパスは「社員が幸せな会社を創る」。

■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。

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