Menu

個と組織の「いまだない価値」と主体性を挽き出す」ために~大企業とスタートアップ企業の視点から(前編)

読了まで約 11

希望を持って会社に入ったにも関わらず、徐々に輝きを失っていく。そんな個人や組織を変革し、企業と日本社会を変えていきたいと、自ら起業して顧客企業にターニングポイントを創り出しているのが、エッグフォワード株式会社 代表取締役社長 徳谷智史氏だ。

「主体性を挽き出す」をミッションとして数多くの組織・個人を支援してきた株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 三坂健が、徳谷氏と対談。それぞれの企業支援の知見から、大企業とスタートアップ企業における社員の主体性の違いや、個と組織の主体性のひき出し方について語り合った。主体的に行動する社員を増やしたい経営者、人事担当者の皆様に、ぜひヒントにしていただきたい。

・後編の内容はこちら
個と組織の「いまだない価値」と「主体性を挽き出す」ために~大企業とスタートアップ企業の視点から(後編)

目次

日本にスタートアップ企業が生まれにくい理由とは

三坂:株式会社HRインスティテュートの三坂です。私たちは、個人や組織の「主体性を挽き出す」ことをご支援している会社です。社員が他人からやらされるのではなく、自分から主体的に行動できる環境を作ることが、本人にとっても、組織にとってもプラスになると思っています。弊社は小さな会社であるため、比較的、社員の主体性をひき出しやすいですが、クライアントは大企業が多く、主体性を持てずに埋もれてしまっている方が多くいらっしゃるように感じます。小さな会社やスタートアップ企業でできることを大企業に応用することもできると思いますので、本日はそういうお話をしたいと思います。

徳谷氏:エッグフォワード株式会社の徳谷です。私は幼少期にいろいろな環境を転々とし、海外を放浪したこともあって、環境や機会によって人が変わることを身をもって感じてきました。発展途上国では教育機会や就業機会が圧倒的に少ない。日本ではどちらも多いにも関わらず、その環境を全然活かせていない。大企業に入っても、個人が本来持つ可能性が損なわれる社会構造がある、という課題感を持っていました。

そのため、大企業を上流から変えていけば、社会全体が変わるのではないかと考え、企業の戦略コンサルティングに10年近く取り組んできました。しかし、戦略を考えて役員会で報告をしても、その後に誰がどのようにその戦略を実施するのか、まして、組織や人の可能性をどう活かすかまでは、戦略コンサルでは踏み込めません。これでは、結局、個社も社会も変えられない。だからこそ、エッグフォワードを創業しました。「Egg」の一つの意味は「人の可能性」です。もう一つの意味は「いまだない価値」で、他の誰にもできないターニングポイントや未来を創っていきたいと考えています。事業としては企業変革コンサルティングも行いますが、組織・人材開発やスタートアップ企業の出資や支援も数多く行っています。

三坂:日本ではスタートアップ企業が生まれにくいと言われますが、日本の中にどのような原因が横たわっているのか、仮説はございますか。

徳谷氏:日本には「個性を損なう構造」があると思っています。敢えて極端に言えば、みんなが入りたがる大企業だから、その会社に入る。その会社に入れば、みんながやっていることと同じことをやれば評価される。そして、個性が発揮されなくなって、自分の考えを発露している人は逆に「変な人だね」と言われて浮いていく。どんな人も入社した時はいろいろな想いがあるのに、時間が経つと蓋をされてしまう構造があります。

少しずつ変わってきたとはいえ、日本のスタートアップはリスクとリターンが見合わなくて、「やった者損」のようなところが多分にあります。シリコンバレーでは周囲に起業家がたくさんいて、資金調達も相対的には容易ですし、応援してくれる人もたくさんいます。日本では会社を立ち上げるのも一苦労です。例えば、銀行から資金を借りると連帯保証させられますし、事業が上手くいかなかったときは相談先もない。起業を支援する構造が手薄で、まともな起業家が育ちにくい。そうすると起業家に接する機会も少ないため、起業に対する感度が上がらない、こんな循環があります。三坂さんはどのように思われますか。

三坂:起業家のプロフィールを見ると、3つに分かれます。1つ目は、アメリカに多いタイプで、大学在学中に起業した人や会社を辞めて起業した人。2つ目は、日本で起業して成功している人に多いタイプで、親が家業をやっていてその姿を見て育った人。3つ目は、勤めている会社の中で新規事業を立ち上げ、その後引き継ぐ人。2つ目、3つ目はある程度いると思いますが、1つ目の起業家がさらに増えていかなければいけないと感じます。やはり環境が人に与える影響は大きいですね。

徳谷氏:2つ目の親が家業をやっている起業家は確かに環境の影響を受けていると思います。周りに起業家や経営者が一人もいないと、起業のイメージがないので選択肢に入らないですよね。主体性についても、同じことが言えるのではないでしょうか。

三坂:私はある大手企業で、新入社員を入社から継続的にご支援しています。大半が日本有数の大学を卒業された高学歴の方々で理系人材が多い会社です。新卒の頃から研修を行っているのですが、新入社員はみんな優秀で、目も輝いていて、プレゼンも上手いです。ところが、2年目になると徐々に様子が変わり、見た目にも大人しくなり、自分の意見を言わなくなってしまいます。3年目になると、主体的な行動が見えにくくなり、言われたことをやるという思考の割合が高まります。こうした状況をを何とか変えていこう、主体性を挽き出していこうとして関わっていますが、1年目は自由に意見を言っていたのに、その割合がどんどん下がっていってしまう様子が手に取るようにわかります。

この会社の業態を考えると上から言われたことをやるのが上の人にとっては合理的で、実際に社員もそれに従うことが必要といえます。したがって、言われたことをやってインフラを回す能力は高まりますが、新しく何かをやる能力は鍛えられません。そして、時間が経つにつれて同質になっていく。この構造が変わっていかないと、新しい価値は生まれていかないのではないかと思います。

徳谷氏:周りに主体性の高い人が一人もいないのに、主体性を発揮しろと言われても無理がありますよね。

三坂:その意味では、人事の方ご自身も主体性を発揮するのが難しい環境なのかもしれません。

徳谷氏:人事部にできることが限られているのかもしれませんね。研修で主体性を大事にするメッセージを伝えても、現場での実態が異なれば、そちらに振れてしまいます。人事部が課題感を持って、経営とリンクしながら組織構造を作るように踏み込めるとよいと思います。

業種の特性があるにしても、より新しい価値を創るにはどうするかと考えることはでき、チャレンジをすべて否定するものではないはずです。どんな文化の中でも主体性を発揮できるようになるには、「機会提供」とそれを広げる「構造づくり」が大事です。OJTでの抜擢機会、個々がキャリアを描くきっかけや仕組み、社外との接点機会、何より、それらをどう運用していくかなどです。その機会の1つとして、必要であれば研修やコンサルを効果的に活用すればよいと思います。

Willを持つ人を増やすためにはどうすればよいのか

三坂:起業家を特徴づけているのは、Willがあるかどうかです。起業家に限らず、主体的であるためにはWillが重要だと思いますが、今世の中でWillを持てない人が多いです。「どうしたらWillを持てるか」という問いが多くの人を救うのではないかと思います。徳谷さんはどのようにお考えですか。

徳谷氏:Willは0か100かではなく、育むものです。つまり、Willは育てたりひき出したりすることで具体化されていきます。どんな崇高な思想を持っている起業家でも、生まれた瞬間にWillがあるわけではなく、いろんな原体験や経験をして課題感をもったり、自分のコンプレックスを乗り越えた経験が重なり、Willになったりします。かっちりしたものを求めすぎると永遠に見つからないため、仮置きして、経験しながら具体化していけばいい。Will-Can-MustのうちCanを増やしてから、Willに立ち戻ってもいいです。

あるいは、Willを持った人が近くにいる環境に身を置くことです。個々がお互いを尊重しながらやりたいことを実現している環境にいると、同じ事実があり、同じ経験をしても、そこから何を見出すかの意味付けは人によって違ってきます。そのような環境の中で影響を受けて内省をすることによって、Willは育まれます。また、部屋で考えてもWillは生まれてこないため、行動して経験して内省を繰り返すことが大事だと思います。三坂さんはどのようにお考えですか。

三坂:おっしゃる通りです。「意味付け」が非常に共感できます。言い方を変えると「後付け」とも言えますね。自分自身を振り返っても、後付けしていることがあります。私は損保ジャパンへ新卒入社後、3年目に退職して今の会社に飛び込みました。経験が少ない自分ができることが限られていて、正直、腐ってしまったこともありました。でも、弊社のメンバーは人に対する関心が高いため、「なんでウチに来たの?どうしたいの?」と何度も質問されました。それに答える中で、今、ここで働いていることは損保ジャパンでの経験や個人的なことですが自分自身が父を早くに亡くした環境も影響しているのかなと意味付けし、「だから自分はこの仕事を選んで、こういうことをしていきたい」と考えるようになりました。そういう機会がある環境だから、自分の中にWillができたと思います。

徳谷氏:振り返って言語化することが大事ですね。大人になると言語化をしなくなって、「たいした理由はないです」と口にしてしまう人が多いです。

三坂:大企業はWillに満ちていてほしいのに、40・50代ぐらいの人達がWillを見いだせない状況に陥っています。これは「ミドルエイジ・クライシス」と言われますが、彼ら自身のWillとエンゲージメントを高めながら業績に貢献するように支援するのは、非常に難しいと感じています。

Willに満ちた環境を作るワークアウト・プログラム

徳谷氏:そのような方に対して、御社ではどのようなアプローチをしていますか。

三坂:弊社では「ワークアウト・プログラム」を行っています。経営層からは「こうしてください」「この戦略を実現してください」という具体的な指示ではなくテーマのみを頂き、そのテーマの課題解決を目指しながらメンバーが主体的に考えて行動するように変革していきます。我々は、プロジェクトメンバーが意見を発露しやすい環境を形成して、お互いに意見を出し合って課題解決を行い、中間報告をし、経営からフィードバックをもらいます。

徳谷氏:「この通りにやる」というタスクの遂行ではなく、自分達で考えて発露してフィードバックをもらう機会があるのはいいですね。

三坂:フィードバックを行う役員にとっても、実はトレーニングの場にもなっています。フィードバックで、細かい数値ばかり指摘する方もいらっしゃいますが、一方で、きちんと上流から話してくださる方もいて、そうなるとメンバーの納得感が違いますね。

徳谷氏:ワークアウトが終わった後、また元に戻ってしまわないようにどうするか、ということが大事ですよね。

三坂:大企業ではそこが課題の一つです。スタートアップ企業ではいかがですか。

徳谷氏:スタートアップ企業の場合は、会社のビジョンやバリューの中で、主体性を是としたり、チャレンジする社員が評価されて昇格したり、表彰されたりする構造をカルチャーに入れ込んで、組織を成長させていきます。主体性はないけれど短期的に数字を上げた人が昇格してしまうと、スタートアップ企業の組織は崩壊します。大企業はすでにカルチャーが出来あがっているため、そこが難しいところですね。

三坂:そうなんです。全体から変えるのではなく、集積地を作って、そこから変えていく方法が合理的なアプローチだと考えています。特定の部署で徳谷さんがおっしゃったような仕組みを取り入れて、成功したら他の部署にも徐々に横展開していく方法です。

徳谷氏:加えて、大企業では経営トップが本気で変化させていこうと思わないと止まってしまいます。これは、大きな変革を起こそうとするとデメリットもある程度伴うためです。経営トップの覚悟がなければ、ミドル層も本気で動きません。

三坂:リスクとリターンの天秤ですね。日本企業では、かつての富士フイルムさんのように事業的に追い込まれるということもありますが。

徳谷氏:そのぐらい事業が切羽詰まってきたら考えますが、そうではない中で大きく変革するためのマインドは整いにくいです。

三坂:そこを打破していくのは、我々支援側にとって大きな課題ですね。

・後編の内容はこちら
個と組織の「いまだない価値」と「主体性を挽き出す」ために~大企業とスタートアップ企業の視点から(後編)

対談者プロフィール
■徳谷 智史氏/エッグフォワード株式会社 代表取締役社長
京都大学卒業後、大手戦略コンサルティング会社入社。
国内PJリーダーを経験後、アジアオフィスを立ち上げ代表に就任。その後、「いまだない価値を創り出し、人が本来持つ可能性を実現し合う世界を創る」べく、エッグフォワードを設立。総合商社、メガバンク、戦略コンサルなど、業界トップ企業から、先進スタートアップ企業まで数百社の企業変革を手がける。近年は、AI等を活用したHR Tech分野の取り組み、事業開発や、スタートアップ企業への出資支援、個の価値を最大化する意志決定・キャリア支援サービスを運営。高校・大学などの教育機関支援にも携わる。
NewsPicksキャリア分野プロフェッサー。東洋経済Online連載、著書「いま、決める力」、Podcast「経営中毒~誰にも言えない社長の孤独」メインMC等

■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。

記事一覧
おすすめ記事
ページトップへ
©2021 HR Institute Inc.