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パーパス経営とは?企業事例や意味をわかりやすく解説

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2010年代以降、環境や経済の変動の激しいVUCA時代にある今を背景として「パーパス経営」に注目が集まっています。パーパス(purpose)とは日本語で「目的」「意義」と訳される単語で、ビジネスにおいては「企業の存在意義」を指します。しかし、その具体的な意味や実際の事例まで理解を深められている方はそう多くはないでしょう。

この記事では、パーパス経営とはどのようなものなのか、注目される理由や企業事例、取り組むメリットについてわかりやすく解説します。

目次

パーパス経営とは?

パーパス経営とは、自社の存在意義を明確にし、社会にどのように貢献していくかを対外的に示して経営をおこなうことです。パーパスは内発的な動機、つまり自分の内側から湧き出てくるものであり、企業の最も根本的な存在意義を示すものとされています。

従来、資本主義における基本資産は「カネ」と「モノ」であり「ヒト」は単なるコストとみなされていました。しかし、近年は持続可能な開発に向けた機運が世界的に高まり、企業は利益の最大化だけを目指すのではなく、事業を通して社会をよりよくしていこうという考え方が広まりました。このような潮流から、自社の存在意義や社会に提供できる価値を明示する「パーパス」が重要視されるようになったのです。

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MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違い

MVVとは「ミッション(Mission)」「ビジョン(Vision)」「バリュー(Value)」のことで、パーパス経営が登場する前から存在している企業理念体系です。MVVとパーパスは類似しますが、MVVには社会的な意義を盛り込む必要がない一方、パーパスでは社会のなかでの価値を明確にする必要があります。また、MVVは外部から与えられる「外発的なもの」、パーパスは内部から起こる「内発的なもの」という点でも違いがあります。

用語解説「パーパス経営」❘ 組織・人材開発のHRインスティテュート

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パーパス経営が注目される理由

近年、パーパス経営の注目が高まっている理由には以下が挙げられます。

顧客マーケット:エシカル消費

エシカルとは「倫理的な」と訳される言葉で、エシカル消費とは「人・社会・地域・環境」に配慮した消費行動を意味します。具体的には、食品ロス削減に取り組む企業の製品や、地元の産物を購入することを指し、SDGsの浸透とともに広がりました。

消費者庁の委託を受けた民間調査会社が2020年に実施した調査によると、エシカル商品・サービスに対する購入意向があると答えた方は81.2%にのぼりました(調査参加者数:2,803人/消費者庁『「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書』より)。社会貢献意識を持つ消費者が増えている今、企業は自社がどのようにして社会に貢献しているかを明確に示すことで、消費者から選んでもらえる可能性が高まるでしょう。

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採用マーケット:ミレニアル世代・Z世代の台頭

ミレニアル世代とは1980年から1995年頃生まれ、Z世代とは1996年から2012年頃生まれの世代を指す言葉です。現在の採用マーケットは、少子高齢化による生産年齢人口の減少から売り手市場となっており、企業は採用活動で苦戦を強いられています。

このような状況下で、採用マーケットに台頭してきたミレニアル世代・Z世代の応募者は、企業が環境や社会に配慮したビジネスをおこなっているかを重視しています。仕事を通じて「いかに社会貢献できるか」という観点を持つなど、それ以前の世代と比べると企業に求める価値観も変化している今、自社のパーパスを発信することは採用活動においてもよい影響を及ぼすと考えられます。

金融・投資マーケット:ESG投資の高まり

パーパス経営が注目される背景に、金融・投資マーケットにおけるESG投資の高まりがあります。ESG投資とは、企業の財務情報だけを投資判断の材料とせず、環境・社会・企業統治に対する配慮も考慮した投資のことです。

企業が掲げているパーパスは、投資をおこなう評価基準として重視されます。ESGを考慮した運用は年々拡大傾向にあり、今後も重要度が高まると見込まれていることから、企業が自社の社会的意義を示すことは投資においても重要な意味を持つといえます。

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パーパス経営に取り組む企業事例

パーパス経営に取り組んでいる企業の事例を以下に紹介します。

SOMPOホールディングス

SOMPOホールディングスでは、グループ全体のパーパスとして「安心・安全・健康のテーマパークにより、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」を掲げています。

具体的な施策として、社員が個別に「MYパーパス」を持つ取り組みをおこなっています。MYパーパスとは「人生の目的」や「働く意義」を指し、自身の人生やキャリアを振り返ったときに「WANT(内発的動機)」「MUST(社会的責務)」「CAN(保有能力)」の3つの観点が重なった部分を「自らを突き動かす志=MYパーパス」としています。

参考:SOMPOホールディングス株式会社『SOMPOのパーパス実現に向けて

トヨタ自動車

トヨタ自動車のパーパスは「未来のモビリティ社会をリードする」です。また、トヨタフィロソフィーの中で「幸せを量産する」をミッションに「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」をビジョンに規定しています。

具体的な施策には、安全装備「Toyota Safety Sense」を800万台の車に装着すること、トヨタ・モビリティ基金により移動に関わる国内外の社会課題を解決すること、静岡県裾野市に建設した実証実験施設「Woven city」でモビリティの意義や価値の拡大に取り組んでいることなどが挙げられます。

参考: サステナブル・ブランド・ジャパン『モビリティカンパニーとして「幸せの量産」に挑む

味の素

味の素では2020年よりパーパス経営に着手し「食と健康の課題解決」をパーパスとして掲げています。さらに、グループビジョンを「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウエルネスを共創します」と設定しました。

具体的な取り組みとして、組織と個人の目標設定とその共有、ベストプラクティスの共有、エンゲージメントサーベイによる浸透度測定を実施し、会社全体におけるパーパスやビジョンの浸透を図っています。

参考:味の素株式会社『味の素グループのパーパス経営の実践について

ネスレ

ネスレ日本が掲げるパーパスは「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていく」というものです。「個人と家族」「コミュニティ」「地球」の3つの領域における、本業を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、カカオ農園での児童労働禁止や包装材料をリサイクル可能とする施策、健康的なコーヒー飲用習慣の推奨、子ども食堂や医療機関への製品の寄贈などをおこなっています。

参考:ネスレ日本株式会社『ネスレの存在意義

ソニー

2019年に「Sony’s Purpose & Value」を発表したソニーでは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」をパーパスとして掲げています。

具体的な取り組みには、世界で4千万人の人々が観た「鬼滅の刃 無限列車編」の映画公開や「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」の設立などが挙げられます。このような取り組みをおこなった結果、2020年度は売上高・営業利益でいずれも過去最高を記録しました。

参考:ソニーグループ株式会社『Sony’s Purpose & Values

富士通

富士通では「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていく」というパーパスを掲げ、Fujitsu Wayを12年ぶりに刷新しました。Fujitsu Wayとは「パーパス」「大切にする価値観」「行動規範」の3つから構成された、グループ全社員の行動の原理原則となるものです。

Fujitsu Way実現のために、2021年からは新しい評価制度「Connect」を導入。さらに、社員が自分のパーパスと会社のパーパスを結びつけその実現に向かう「パーパスカービング」という手法も確立しました。

参考:富士通株式会社『Fujitsu Way

パーパス経営のメリット

パーパス経営に取り組むメリットには以下が挙げられます。

ステークホルダーからの支持

社会貢献に前向きな企業は、消費者や株主など企業を取り巻くステークホルダーからの信頼や共感を得やすくなります。たとえば、環境に配慮した製品を提供する企業に対し、消費者も積極的にその製品を選ぶという行動をとります。このようなパーパス経営の取り組みはステークホルダーの間で共感の輪を広げ、結果的に長期的なブランディングにつながっていくと考えられます。

社員のエンゲージメント向上

自社の存在意義であるパーパスを欠いた状態では、社員は何のために働いているのか方向性が見えず、エンゲージメントが低下します。パーパスは社員にとって自社で働く意義を明文化したものであり、パーパスがあることで社員も自分の仕事が社会貢献につながると認識できるようになります。企業の存在意義と個人の働く意義が結びつけば、社員は自分の仕事に誇りを持てるようになり、エンゲージメントが向上します。

イノベーションの創出

企業の目指す方向性が曖昧では、社員は十分なパフォーマンスを発揮しながら業務に取り組むことはできません。企業がパーパスを掲げ、それに対する共通認識が形成されれば、全社員が目的意識を共有できます。このような環境下ではさまざまなアイデアが発現し、イノベーションが生まれやすくなります。また、パーパス経営を通じて企業全体で社会貢献を考えることで、消費者が抱える潜在的なニーズの変化に気づきやすくなることも、イノベーションの創出につながると考えられます。

パーパスウォッシュの危険性 

パーパスウォッシュとは、パーパス経営を掲げながら実質が伴っていない状態をいいます。消費者の誤解を招く表現を使い、あたかも環境に配慮しているように見せかける「グリーンウォッシュ」から派生した言葉です。

パーパスウォッシュに陥る要因には「内容がわかりにくい」「実現可能性が低い」「共感しにくい」などが挙げられます。パーパスウォッシュになると、社員のエンゲージメントが低下し、社会的信用も失ってしまいます。

パーパスウォッシュを回避し、社内外から共感を得られるパーパスを設定する、そのためには、可能な限り具体的に表現すること、自社の企業活動との一貫性をもたせること、実現可能性があることが重要です。

関連記事:SDGsウォッシュに陥らないためのポイントと実際の事例を解説

まとめ

パーパス経営とは、企業の存在意義を問い直し、社会課題の解決に貢献していく経営スタイルです。将来的に企業を取り巻く環境はいっそう厳しいものになると予想されるなか、パーパス経営の実践は企業が存続するための効果的な施策となります。パーパスウォッシュに注意しながら、自社が社会に提供できる価値を社内外に示し、長期的な企業成長につなげていくことが求められています。

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監修者
設楽 浩司
株式会社HRインスティテュート/コンサルタント 早稲田大学理工学部卒業後、損害保険会社に入社。リテール営業、企業営業を経てホールディングス人事部にて人材開発・組織開発などを担当。一橋ICS ( International Corporate Strategy ) にてMBA修了。その後、HRインスティテュートに参画。人材・組織開発を専門分野とし、大学でも講師としてロジカルシンキング・プレゼンテーション・戦略策定のアクティブ・ラーニングプログラムを実施。 米国CTI認定プロフェッショナルコーチ( CPCC ) / 認定ストレングスコーチ( Gallup社 ) / DiSC®認定資格者 / 中京大学経済学部非常勤講師 / 教育職員免許( 数学 )
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