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変形労働時間制とは?制度内容や1か月・1年の違いをわかりやすく解説

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働き方改革の目指すところは、社員一人ひとりに合った多様な働き方の実現です。労働法では、業務の実態に合わせた勤務体制を整えるために、さまざまな制度が用意されています。なかでも月単位や年単位で労働時間を設定する「変形労働時間制」は、社員の多様な働き方の実現に向けて有益性の高い制度といえます。

この記事では、働き方改革の推進に有効な「変形労働時間制」を取り上げ、その制度内容や導入の手順、1か月単位・1年単位など変形労働時間制のカテゴリにおける制度の違いをわかりやすく解説します。

目次

変形労働時間制の制度内容とは?

変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて、月単位や年単位など任意の期間内の労働時間を柔軟に調整できる制度をいいます。

法定労働時間は1日8時間・ 週40時間が原則であり、これを超えて労働させることはできません。しかし、変形労働時間制を導入すると、一定期間の総労働時間の平均が週法定労働時間を超えない範囲であれば、業務量に合わせて労働時間を調整できるようになります。つまり、ある週の労働時間を法定労働時間より長くする一方で、別の週の労働時間を法定労働時間より短くするといった調整が可能です。

変形労働時間制の目的

変形労働時間制の目的は、業務の繁閑に柔軟に対応し、労働時間の短縮や多様な働き方の実現につなげることです。

変形労働時間制を導入すると、時期によって業務量の差がある場合に、業務の実態に合わせて労働時間の配分を変えることができます。また、育児や介護をしている社員や職業訓練を受けている社員に対しては、これらの社員が必要とする時間を確保できるような配慮が企業に求められています(労働基準法施行規則 第12条の6)。

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各企業における制度導入の現状

厚生労働省が公表している『令和3年就労条件総合調査』によると、変形労働時間制を導入している企業の割合は59.6%であり、すでに多くの企業で変形労働時間制が採用されていることがわかりました。また、従業員数が1,000人以上の大企業に限ると、76.4%が導入済みとなっており、企業規模が大きいほど導入割合も高くなる傾向にあります。

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変形労働時間制のメリット

変形労働時間制を導入すると、繁忙期に労働時間を増やせる一方で閑散期には労働時間を減らすことができます。これにより、使用者は無駄な残業代を支払う必要がなくなります。労働者にとっても業務量が少ない時期は労働時間が減るため、業務量に合わせて効率的に働けるメリットがあります。

また、業務の繁閑に対応した勤務制度により、社員はメリハリをつけて働けるようになります。仕事に対するモチベーションやパフォーマンスが高まるとともに、業務の実態に合わせた柔軟な働き方ができることで、ワークライフバランスの向上にもつながるでしょう。

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変形労働時間制のデメリット

変形労働時間制は時期に応じて労働時間が変動する制度です。このため、1日8時間・ 週40時間の一般的な働き方と比べると、社員の労務管理が煩雑になると考えられます。万一、労働時間の把握にミスが生じた場合、社員に支給する給与額を間違えてしまうなど、トラブルに発展するリスクがあります。

また、時期によって労働時間が極端に変動すると、繁忙期には過重労働になってしまうかもしれません。変形労働時間制の場合、規定した所定労働時間を超えなければ時間外労働として扱われないため、繁忙期に長時間働いても残業代が出ないことが社員のモチベーションに影響する可能性もあります。

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変形労働時間制の種類

変形労働時間制には「1か月単位」「1年単位」「1週間単位」「フレックスタイム」という4つの種類があります。それぞれどのような制度なのか、具体例とあわせて解説します。

1か月単位の変形労働時間制

1か月以内の平均労働時間が週40時間の範囲に収まれば、労働時間を業務実態に合わせて調整できる制度です。たとえば、月の前半の労働時間を1日10時間とした場合でも、月の後半の労働時間を1日6時間にすれば、月全体として法定労働時間の範囲内とされます。1か月以内の期間において、業務の閑散が繰り返されるような事業場に適しています。

1年単位の変形労働時間制

既述した1か月単位の変形労働時間制と基本的には同内容の制度です。相違するのは、労働時間を算定する期間が「1か月超1年以内」の範囲になる点で、3か月や6か月などの変則制も可能です。具体的には、繁忙期の労働時間を1日10時間とする一方で、閑散期の労働時間を1日6時間にするといった形で用いられます。年間で繁閑の差が大きい業種において活用が望まれる制度です。

なお、労働者保護の観点から1日の労働時間は最大10時間、1週間の労働時間は最大52時間に制限されています(対象期間における週平均労働時間の限度は40時間)。

1週間単位の変形労働時間制

1週間単位で考えたときに、週40時間の範囲で労働時間を調整できる制度です。たとえば、月曜日の労働時間が10時間であったとしても、火曜日が6時間、その後の曜日は8時間であれば、週全体としてみたときに40時間の範囲内に収まっています。この場合、所定労働時間を超えていないため、10時間働いた曜日も時間外労働は発生しないことになります。

なお、規模30人未満の旅館や飲食店、小売店に限って利用できる点で、やや例外的な制度といえます。

フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、1か月から3か月の期間(清算期間)で総労働時間を設定し、日々の始業時刻と終業時刻を社員自ら設定できる制度です。2019年4月の法改正により、フレックスタイム制の清算期間の上限が3か月に延長され、月をまたいだ労働時間の調整が可能となりました。社員にとっては、自分の都合に合わせてこれまで以上に柔軟な働き方ができるようになっています。

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変形労働時間制を導入するための手順

企業が変形労働時間制を導入するには以下の手順が必要です。

手順①:勤務実態の把握

社員の労働時間がどのような傾向にあるか、まずは現状の勤務実態を調べる必要があります。業務の繁閑を知ることが効果的な制度運用の土台となり、特に繁忙期にどの程度の業務時間を確保すべきか把握することが重要です。

手順②:制度・条件の確定と就業規則の改定

対象者の選定や対象期間、1日の勤務時間など細かい制度条件を決定します。

また、制度の具体的な内容に応じて就業規則の改定もおこないます。

手順③:労働者代表との労使協定の締結

変形労働時間制を導入する場合は、労働者代表との間で労使協定を締結する必要があります。ただし、1か月単位の変形労働時間制であれば、労使協定の締結を就業規則の改定で代替できます。

手順④:労働基準監督署への必要書類の提出

変形労働時間制を導入する過程で締結された労使協定や就業規則を労働基準監督署に提出します。場合によっては36協定の提出も必要となります。

なお、労使協定は有効期間があり、期間を徒過した後には新しく届け出なければなりません。たとえば1年単位の変形労働時間制であれば労使協定の有効期間も1年程度とすることが望ましく、その場合は1年ごとに労使協定を締結したうえで労働基準監督署に提出する必要があります。

変形労働時間制に近似する制度

変形労働時間制に近似する制度として以下の2つがあります。

これらとの違いを知ることで、変形労働時間制への理解がさらに深まるでしょう。

裁量労働制

裁量労働制とは「みなし労働制」の一つであり、現実の労働時間の長さを考慮せず、事前に規定された時間の労働をしたとみなす制度をいいます。裁量労働制ではあらかじめ所定時間数だけ勤務したとみなすために、給与計算において実際の労働時間を把握する必要はありません。一方、変形労働時間制では時間外労働が発生する可能性もあり、社員が実際に働いた時間の計測が不可欠です。

シフト制

シフト制とは、業務に応じて従業員が交代で勤務する制度のことです。勤務する曜日や時間が変動するだけで、法定労働時間の例外として位置づけられる制度ではありません。

シフト制は法定労働時間(1日8時間・週40時間)を遵守するのが前提であるのに対し、変形労働時間制は必ずしも法定労働時間の遵守が必須とは限りません。つまり、平均して週40時間という枠さえ守れば、1日10時間という労働時間になっても、法定労働時間の超過として扱われません。この点で、変形労働時間制は法定労働時間の例外として位置づけられる制度といえます。

まとめ

変形労働時間制を導入すると、繁忙期・閑散期といった業務の実態に応じて労働時間を調整することができます。これにより、多様な働き方の選択が可能となり、政府が推進する働き方改革の実現につながります。変形労働時間制は、企業が働き方改革を実践するための有力な選択肢といえるでしょう。 HRインスティテュートでは、働き方改革を支援するプログラムを提供しています。受講を通じて自社のあるべき姿と現状とのギャップを知り、目指すべきワークスタイルの方向性を確立できます。組織体制の見直しを図りたい人事担当の方は、下記のリンク先より本プログラムの詳細をご確認ください。

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