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リテンションのポイントと施策、事例をわかりやすく解説

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日本では少子高齢化が急激に進行し、生産年齢人口の減少が顕著となっています。このような状況を受けて、人材確保を経営課題として抱える企業は少なくありません。そこで注目を集めているのが、優秀な人材の流出を防ぐための取り組みである「リテンション」です。

この記事では、人事施策としてのリテンションを取り上げ、実施する際のポイントや具体的な施策、事例をご紹介します。

目次

リテンションとは?

リテンション(retention)とは、日本語では「維持」「確保」を意味する言葉です。人事領域で用いる場合は、社内人材の流出を防ぐために講じる施策を指します。

企業が優秀な人材を維持するには、給与や福利厚生などの金銭的な施策だけでなく、社員が働きやすい環境の整備やキャリアアップの支援といった金銭以外の施策も必要です。これらの施策を通じて社員の帰属意識や貢献意欲が高まれば、人材の流出を防げるとともに個人と組織の生産性向上が期待できます。

用語解説:「リテンション」|組織・人材開発のHRインスティテュート

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リテンションが注目される背景

少子高齢化が進行している日本では、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が1995年をピークに減少し続けています(総務省「令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少」より)。企業の人材不足は年々深刻化し、2030年には人手が644万人不足するというデータもあります(パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」より)。

さらに、現在は転職市場が活発化しており、2021年の正社員転職率は7.03%と過去6年間で最も高い数値を記録しました(マイナビキャリアリサーチLab「転職動向調査2022年版(2021年実績)」より)。人材の流動化は社内の人材が流出するリスクに直結します。このような状況を反映して、優秀な人材が社内に留まるように働きかけるリテンションに注目が集まっているのです。

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リテンションのための具体的な施策

リテンションのための施策には「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」があります。

金銭的報酬

金銭的報酬は、社員の労働や貢献に対する対価としてわかりやすく、現状よりも高額にすることで社員のモチベーション向上などの効果を容易に得られるでしょう。具体的には、給与やボーナス、福利厚生の充実が代表的であり、自社株の購入権であるストックオプションもリテンションのための施策として活用されます。

しかし、企業が提供できる金銭的な対価には限界があるうえ、現代は人々の価値観が多様化しており、金銭以外に価値を感じる人も少なくありません。また、金銭的報酬によって生まれるモチベーションには上限があり、一定の支給額を超えると社員の意欲に反映されにくくなるといわれています。このため、金銭的報酬だけをリテンションの施策とするよりも、金銭を伴わない非金銭的報酬と合わせて実施するほうが効果的です。

非金銭的報酬

企業が社員に提供する非金銭的報酬には以下のような施策が考えられます。

①就業環境の整備

人材流出を防ぐためには、組織の就業環境を整備し、多様な働き方を支援できる体制をつくることが効果的です。具体的な施策として、リモートワークや時短勤務、フレックスタイム制の導入などが挙げられます。誰もが働きやすい職場であれば、社員も自然と「長く働きたい」という気持ちになるはずです。

②スキルアップやキャリア形成の支援

リテンションのための非金銭的報酬には、資格取得や自己啓発学習の支援、キャリアカウンセリングなど、社員のスキルアップやキャリア形成に対するサポートもあります。その際は人事部主導の研修だけでなく、社員の自発的な学びを支援することが重要です。これは社員が主体的に自らのキャリア構築に取り組む「キャリア自律」につながる動きであり、企業にとってもメリットの大きい施策といえます。

③社内コミュニケーションの活性化

企業と社員の関係性、また社員同士の関係性を強化し、風通しのよい職場づくりをおこなうことで、社員の心理的安全性を高め定着率向上が見込めます。具体的には、定期的な面談やアンケートから社員の意見を拾いあげて施策に取り入れることや、社内イベントや懇親会を企画して社員間の横のつながりの形成支援をするとよいでしょう。

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リテンションを実施する際のポイント

リテンションを実施する際のポイントは、仕事に対する満足感を引き出す「動機付け要因」と、不満をもたらす「衛生要因」の両方に配慮することです。社員の流出を食い止めるためには、それぞれにバランスよく手を打つ必要があります。

職務満足を引き起こす「動機付け要因」

動機付け要因とは、仕事の満足感につながる要因です。具体的には、仕事の達成感や他者からの承認、昇進・昇格、責任の拡大などがあります。これらが満たされると、社員のモチベーションが喚起され、会社に対するエンゲージメントも高まります。また、この要因を欠いても、直ちに不満につながるわけではありません。

職務不満足を引き起こす「衛生要因」

衛生要因とは、仕事の不満につながる要因です。具体的には、会社の方針や社内の人間関係、労働条件などがあります。動機付け要因とは対照的に、衛生要因が欠けると仕事に対する不満が引き起こされ、社員のモチベーションを阻害します。また、これらの要因が満たされたとしても、あくまで不満が解消されるだけで、社員のモチベーションや会社に対するエンゲージメントが高まるわけではありません。

リテンションを実施するための手順

リテンションの実施に際しておこなうべき手順を以下にまとめました。

ステップ①:現状の把握

まずは過去のデータを調べ、離職者の特徴や状況、離職の理由や頻度などを確認します。その際は、離職者から直接離職理由をヒアリングすることも有効です。

同時に、現時点で退職リスクの高い社員もあらかじめ把握しておきます。一人ひとりの勤怠状況を確認し、遅刻や早退、欠勤が増えている社員や長時間の残業をしている社員をピックアップしておきましょう。

ステップ②:具体的な施策の検討

効果的な施策を立案するためには、離職者についての具体的なイメージを持つことが大切です。たとえば「30代の女性社員が仕事と子育てとの両立に悩んで退職する」という形でペルソナを設定した場合、リテンションの施策としては時短勤務やフレックスタイム制の導入が有効と考えられます。過去のデータをもとに離職者のペルソナを設定し、悩みや課題を解消するための具体的な施策を検討していきましょう。

ステップ③:効果検証

施策を実行した後には必ず効果検証をおこないます。このとき、単に離職率や離職数の増減を見るだけでは不十分といえます。リテンション施策の有効性を確認するには、モチベーションやエンゲージメントに関する調査結果も参照し、必要に応じて施策の見直しや改善をおこなうことが重要です。

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企業がリテンションを実施するメリット

社員が離職してしまうと、既存のノウハウやスキルが流出する危険性があります。これを防ぐには事前に秘密保持契約を締結する方法がありますが、リテンションを実施して社員の定着を促すほうが、情報の流出防止を図るうえで効果的です。また、社員の離職を抑止することで、採用コストや育成コストを削減できるメリットもあります。

企業事例

リテンションを効果的に実施した事例として以下のようなケースがあります。

事例①:三幸グループ

学校事業や人材サービス事業を展開する三幸グループでは、リテンションの一環として「キャリアチャレンジ制度」を実施しています。これは同一の部署に2年間在籍した社員を対象に、新たなキャリアを切り拓くために希望する別の部署への異動を申請できる制度です。また、年次を問わずに新規事業や業務改善を提案できる「SANKO夢プロジェクト」や、起業を目指す社員には退職後2年以内に限り復職を認める「アントレプレナーシップチャレンジ制度」など、三幸グループ独自の施策で社員の自発的なキャリア形成を促しています。

参考:三幸グループ「キャリアイメージ/社内制度・福利厚生

事例②:サイボウズ株式会社

グループウェアの開発・販売をおこなうサイボウズでは、リテンションの一環として「社内部活動」を実施しています。これは複数の部署に所属する5人以上のメンバーが集まれば社内に部活動をつくることができる取り組みで、部員一人当たり年間10,000円を部活動支援として補助しています。部署をまたいだ人間関係を形成でき、社内コミュニケーションの活発化につながっています。こうした施策の効果もあり、過去には28%を記録した同社の離職率は大幅に減少し、近年は3〜5%程度の低水準を維持しています。

参考:サイボウズ株式会社「多様な働き方へのチャレンジ

まとめ

リテンションに取り組む際は、金銭的報酬と非金銭的報酬を組み合わせて実行するのが効果的です。ただし、社内の状況を把握することなく、闇雲に実施しても十分な効果を得ることはできません。まずは現場の社員の声に耳を傾けて、謙虚に意見を聴くことが重要です。

少子高齢化が進む日本において、企業の人材確保は今後ますます難しくなることが予想されます。だからこそ早期にリテンションを実施し、人材が流出しにくい強固かつ安定的な組織づくりを進めるべきでしょう。

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