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キャリア自律とは?必要性や企業による支援方法を紹介

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日本においては2020年代に入って人口減少が加速しています。とりわけ生産年齢人口の減少は顕著であり、企業の労働力不足は今後さらに深刻な問題となることが予想されます。企業は働き手を確保する取り組みとともに、既存の社員一人ひとりの生産性を高めるためにどのようなことが必要でしょうか?

そこで、生産性向上のための取り組みとして注目されているのが、社員自らが自律的にキャリア開発をおこなう「キャリア自律」です。しかし、キャリア自律に関するノウハウや知識が十分に蓄積されておらず、具体的な施策が見えていない企業も少なくありません。

この記事では、キャリア自律の意味や必要性とともに、企業による具体的な支援方法についてご紹介します。

目次

キャリア自律とは

キャリア自律とは、社員が自らのキャリアを主体的に考え、自律的なキャリア開発をおこなうことをいいます。キャリアオーナーシップと呼ばれることもあります。

昨今、人材育成に対する会社の意識が変わりつつあります。従来は企業主導によるキャリア開発がおこなわれており、社員のキャリアは企業が提供する業務や研修を通じて形成されるものという考え方が一般的でした。このため、個人が自分のキャリアについて考える機会はあまりないケースも多く、キャリア開発において社員は受動的な立場にあったと言えます。これに対し、キャリア自律では社員が能動的な立場に立って、自らの意思でキャリア構築に取り組んでいくことを求めています。

用語解説:「自律型人材」 | 組織・人材開発のHRインスティテュート

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キャリア自律が注目される背景

キャリア自律が注目されるようになった背景には、従来の日本型雇用が崩壊しつつあること、そして欧米的なジョブ型雇用にシフトする企業が増えていることがあります。

終身雇用の崩壊と人材の流動化

従来は終身雇用が定着しており、就職した後は同じ企業に定年まで勤務するケースが一般的でした。キャリア開発も企業が主導していたため、新卒一括採用で入社した社員は定年までのキャリア形成をおこなうことができました。

しかし、経済成長の鈍化により終身雇用の維持が難しくなりました。この結果、年齢や社歴よりも仕事の成績を評価する「成果主義」を取り入れる企業が増えています。これにより、社員は自身のキャリアを自ら考える必要性が生じ、企業にも社員のキャリア開発をより積極的にサポートすることが求められるようになりました。

用語解説:年功主義/能力主義/実績主義/成果主義|組織・人材開発のHRインスティテュート

ジョブ型雇用の普及

ジョブ型雇用とは、職務内容を明確に定義し、その職務の遂行に適した技能や経験を持つ人材を採用・配置する制度のことです。ジョブ型雇用では、その職務に必要な技能や経験が明確化されていること、さらには職務上の評価が人事評価に直結するため、個人の主体的なキャリア開発が求められます。この点においてキャリア自律との親和性が高く、ジョブ型雇用の普及がキャリア自律を後押しする背景となっています。

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企業がキャリア自律を支援するメリット

変化するビジネス環境を背景に、社員のキャリア自律を推進する動きが加速しています。キャリア自律への支援により、企業が享受できるメリットには以下が挙げられます。

メリット①:従業員エンゲージメントの向上

企業がキャリア自律を支援することで、社員の仕事に対する興味を喚起し、仕事に意欲的に取り組むよう促すことができます。加えて、個人のスキルアップを支援する企業の姿勢は魅力的に映り、会社に対する愛着心や貢献意欲を指す「従業員エンゲージメント」の向上にもつながります。

メリット②:採用市場における優位性の確立

成長意欲の高い人ほど能力の開発に前向きで、キャリア自律に対する手厚い支援のある環境に魅力を感じます。それを自社の強みとして、採用市場における一つのアピールポイントにできるため、自社の成長に貢献してくれる優秀な人材を獲得しやすくなります。既存社員のキャリア自律を支援することが、新たな労働力の確保につながるのです。

メリット③:生産性の向上

企業のサポートにより、社員が自発的なキャリア開発に向けた行動をとるようになれば、個人の成長が促進されます。既存の業務を効率的にこなせるようになると、個人のパフォーマンスが上がり、ひいては組織全体に生産性の向上をもたらすことが期待できます。

企業がキャリア自律を支援するデメリット

企業によるキャリア自律への支援はさまざまなメリットがある一方で、デメリットとなり得る注意点も存在します。具体的には以下の2点に注意する必要があります。

デメリット①:優秀な社員の離職

社員の自律的なキャリア形成を推進することは、優秀な社員が離職してしまう危険性も孕みます。社員が自らキャリア開発をおこなうほど、外部に目を向けやすくなり、今の職場よりもさらに高い目標や成功を求める可能性があるからです。

しかし、企業がキャリア自律への支援をおこなっていれば、社員の仕事に対する満足度が高まり、結果的に離職防止につながることもあります。社内公募制度を導入するなど、今の職場でも社員が挑戦できるようにポジションや機会をつくることが重要です。

デメリット②:社員間における温度差の発生

企業がキャリア自律を支援したとしても、すべての社員が同様に意欲を持って取り組むとは限りません。企業によるサポートはあっても、キャリア自律においては社員自身が積極的に自らのキャリア構築に励むことが前提です。主体的にキャリア自律に取り組むことが難しい社員には、まずキャリア自律の必要性を理解してもらうための支援策を人事部などで実施することが必要な場合もあります。

企業によるキャリア自律の支援方法

社員のキャリア自律を促進するには、企業によるサポートが欠かせません。具体的にどのようなサポートがあるのか、キャリア自律を促すための支援方法をご紹介します。

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キャリア自律に関するビジョンの共有

キャリア自律を促進するうえでは、まず経営者もしくは人事部などが中心に社員に対し、キャリア自律に関する自社の考え方を発信・共有する必要があります。資料を作成して、Webサイト上でいつでもダウンロードできる形で配布するのもよいでしょう。そして、社員のキャリア開発について一人ひとりの主体性を尊重したい旨を伝え、企業としてどのようなサポートができるのか具体的に説明することが重要です。

キャリアプログラムの提供

キャリア自律の支援として、社員一人ひとりが自らのキャリアパスを考えながら成長できるキャリアプログラムを提供する方法もあります。その際のポイントは、社員の希望を尊重し、自由な選択を認めることです。従来のキャリアプログラムは企業が主導していましたが、キャリア自律においては社員が主体となって取り組めるように配慮する必要があります。

また、自分の強みを客観的に把握できる「ストレングスワークショップ」をキャリアプログラムへ組み込むことも有効です。第三者からの客観的な意見を受けることで、社員は自らの強みを認識し、キャリアの方向付けに活かすことができます。お互いの強みを共通言語化することで、組織活性化にもつながります。

関連セミナー:【ストレングスワークショップ】無理なく一人ひとりが強みを活かし成長する組織へ

キャリア相談用の窓口の設置

社員がキャリアの方向性に迷った際に相談できる体制を整えるには、キャリア相談のための専用窓口を設置し、専門的な知見から助言できるキャリアコンサルタントを活用するのが有効です。外部のキャリアコンサルタントを招聘すれば、第三者の立場から相談に応じてもらえるため、多くの社員が気兼ねなく自分の思いを伝えられるでしょう。

メンター制度の導入

メンター制度とは、年齢や社歴の近い先輩社員がメンターとして付き、新入社員や若手社員のサポートをおこなう制度のことです。メンター(mentor)は「助言者」「指導者」を意味する言葉で、上司には相談しにくい仕事の悩みだけでなく将来的なキャリアの方向性も相談でき、状況確認の場としても機能します。メンター制度を導入することで、若手のうちから自らのキャリアの方向性を考えるきっかけをつくれるでしょう。またこの機会にDiSCⓇなどのツールを活用し、改めてお互いのコミュニケーションスタイルを知り、話しやすい環境を整えることも有効です。

用語解説:「メンタリング」| 組織・人材開発のHRインスティテュート

副業の解禁

副業の解禁もキャリア自律を促進するもので、社員は副業を通じて新たなスキルや人脈を築くことができます。社外での活動は個人の可能性を高めるきっかけとなり、本業では経験できない職務に従事することが新たな知見をもたらします。さらに、外部で得た知見や経験、情報をいかして、本業で成果を発揮してくれることも期待できます。

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まとめ

将来的に生産年齢人口の著しい減少が予想され、各企業にとっては働き手の確保が課題となっています。そのような状況で企業に求められるのは、新たな人材の確保とともに、既存社員の生産性を向上させることです。この点、社員自らキャリアの構築に取り組む「キャリア自律」の推進は、生産性向上のために有効な施策といえます。

一方で、キャリア自律はまだそれほど普及していないのが現実であり、施策の立案や効果的な支援について迷う企業も少なくないでしょう。しかし、社員のキャリア自律を促進するためには企業による手厚いサポートが欠かせず、今後ますます深刻化する労働力不足への備えとしても必要な取り組みです。今回ご紹介した支援方法を参考に、自社にとって最適な施策を検討してみてはいかがでしょうか。

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