Vol.06

「NEXT HR」キーパーソン特別インタビュー

ソフトバンクが推進する人材オープンイノベーション 多様なコミュニティと対話が企業成長を加速させる【前編】

ソフトバンク 人事総務統括 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長 源田泰之氏
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

異才異能の若者たちを支援するために

寺澤人材開発という部分では、先ほど触れられた『ソフトバンクユニバーシティ』や『孫正義育成財団』など、非常に多彩な取り組みを実施されていますね。

源田『ソフトバンクユニバーシティ』は各種研修を提供する人材育成機関で、現在は約9割の研修を内製化し、実務経験者によるリアルな研修ができるようになったことで、社員の満足度も大幅に向上しています。一方の『孫正義育成財団』は、ソフトバンクグループの事業とは関係のない、孫の私財で運営する財団です。高い志と異能を持った若手人材を支援するというもので、25歳までの方が応募できます。外国籍の方も含め全体で145名を認定。今年5月にはボストン、8月にはシリコンバレーにそれぞれ拠点を作るなど、グローバルに展開しています。

寺澤そもそも『孫正義育成財団』はどのようなきっかけで始まったのですか?

源田 2年ほど前に孫が中学生から大学生まで7〜8人を集めて昼食会を開いたんです。彼らはいずれも高度なITスキルを持っていたり、IQが高いなど、異才異能の若者たちで、孫も非常に感心していたのですが、彼らと接する中で、残念ながら日本の教育はこうした突出した才能をさらに伸ばすような取り組みをしていないと再認識させられました。優秀な若者の中には、単に難関というだけで東京大学や京都大学を目指す子たちもいますが、果たして大学に行くことだけが正解なのか、もっと選択肢があるのではないか、そういう異才異能をもっと自由に解放することはできないか —— そんな問題提起から生まれたのが、『孫正義育成財団』です。さらに、ある分野で特出した才能のある若者を集めて、その中で彼らが対話をすることで、面白いコミュニティを作っていこうという狙いもあります。

人材をベースにしたオープンイノベーション

寺澤未来に向けた人材育成という意味では、AI起業家を育成する『ディープコア』の取り組みも非常に画期的なものですね。こちらの狙いや取り組み内容、また源田さんがここにどのように関わられているのかなど、お聞かせください。

源田『ディープコア』は、技術で世界を変える志を持つ挑戦者を起業家として育成する、AI特化型のインキュベーターで、今年8月に本郷に「KERNEL HONGO」というインキュベーション施設を正式オープンいたしました。スマートフォンによって世界が大きく変わったように、これから数年後、AI、特にディープラーニングによって世界が激変するだろうという仮説のもと、ディープラーニングを学んでいたり、高いスキルを持つ学生や社会人が集まるコミュニティを形成し、起業を促し、投資を含めて徹底的にサポートしていきます。ソフトバンクとの事業シナジーを直接的に追求するものではなく、日本におけるAIスタートアップのエコシステムを構築します。『孫正義育成財団』と同様、こちらもコミュニティを重視しており、技術を持った優秀な人たちが一緒に切磋琢磨し合える環境を提供していくわけですが、その中で私自身はHRアドバイザーという肩書で、彼らが能力を発揮できる居心地の良いコミュニティをいかに作っていくか、その設計全般に関わっています。

寺澤学生にも社会人にも門戸が開かれ、施設も24時間自由に使うことができ、なおかつメンバーが起業した会社には出資も検討されるそうですね。

源田そうですね。これからディープラーニングによって産業界の仕組みが大きく変わるかもしれないという中で、それに乗り遅れまいと危機感を持っている企業は少なくありません。そしてそういった企業がディープラーニングを活用したいと相談をいただくケースもあるので、コミュニティのメンバーとマッチングし、共同実証実験を行っていく仕組みも用意しています。

寺澤ソフトバンクさんの取り組みについてお聞きしていると、すべてがまさにオープンイノベーションであると感じます。

源田そう言っていただけるのはとても嬉しいですね。事業をベースにしたオープンイノベーションを行っている企業は数多くあると思うのですが、人材をベースにしたオープンイノベーションを行っている企業はほとんどないと思うんです。そうした中、弊社はそこに徹底的にこだわっています。今私たちが人材育成において最も重視しているのが、「内省」と「対話」です。人間は自分自身で意思決定したものは責任を持って実行でき、それが経験に繋がっていきます。そしてその意思決定の質を上げるのが、内省と対話なのです。内省に関しては自分で意識すればできるものですが、対話はコミュニティがなければできません。だからこそ人をベースにしたオープンイノベーションが必要なのです。育ってきた環境や価値観、考え方のまったく異なる人たちと接し、対話を重ねていくことで、人はさまざまな気付きを得て、成長していきます。そういう意味では、『ソフトバンクアカデミア』も『ソフトバンクイノベンチャー』も『ディープコア』も目指すところは一緒です。いかに多様なコミュニティを作って、そこでいかに対話を促すか。これがソフトバンクグループの人材育成の基本的な考え方と言っていいでしょう。

ソフトバンク 人事総務統括 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長
源田泰之氏

1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒及び中途採用全体の責任者。 グループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(SBイノベンチャー)の責任者。 ソフトバンクグループ株式会社・人事部アカデミア推進グループ、SBイノベンチャー・取締役を務める。 孫正義が私財を投じ設立した、一般財団法人孫正義育英財団の事務局長。 採用では地方創生インターンなどユニークな制度を構築。幅広い分野で活躍する若手人材と、企業の枠を超え、国内外問わず交流を持つ。 教育機関でのキャリア講義や人材育成の講演実績など多数。