【HRサミット2016】日本最大級の人事フォーラム 5月11日・12日・13日開催!

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生産性向上のために人事がやるべきこと

株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO冨山和彦氏
ProFuture株式会社 代表取締役社長/中央大学大学院戦略経営研究科客員教授 寺澤康介(モデレーター)

少子高齢化による生産年齢人口減少という人類史上初の巨大な変化が起きている中で、生産性向上は個別企業のみならず、今後の日本経済成長における喫緊の課題になっている。社会構造の変化やデジタル革命によって「働き方」は多様化し、従来の枠組の延長では捉えきれない変革が求められているのだ。 高度経済成長時代以降の年功序列、終身雇用の秩序が崩壊しつつある今日、これからの企業人事はいかにあるべきなのか。数々の企業の経営改革や人事に関わってきたリアルな現実を見据えながら、先進国最低レベルの労働生産性向上と人事のあり方について、経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO冨山和彦氏が考察する。

日本でもっとも多くのリストラと社長人事を経験

私は数多くの企業再生に携わってきました。ネガティブサイドで言えば、おそらく日本でもっとも多くのリストラをやり、ポジティブサイドで言えばもっとも多くの社長人事をやりました。つまり人事労務管理と企業トップの抜擢の両方を経験し、現在もオムロンの社長指名委員長であり、今年からパナソニックの指名委員会の委員も務めています。

そうした経験を踏まえ、実践的感覚で日本の人事の何が大事で、どこを変えていかなくてはならないのかについて、これからお話ししようと思います。

グローバリゼーションとデジタル革命

まず大前提としてバブル崩壊以降の20数年を振り返りたいと思います。この間、日本社会、産業界は欧米やアジア諸国に比べ、人材を活かせずにきました。もともと天然資源のない日本では、企業は人を最大の資源とし、うまく使うことで戦後復興を果たし、高度成長期を経て80年代まで世界でもっとも人材を活かしてきた国でした。しかしバブル以降の20数年間、日本は人材を活かせない国になってしまいました。

その原因は、1990年代になって起こったグローバリゼーションとデジタル革命にあります。

グローバリゼーションに対応は日本企業にとって大きなストレス

グローバリゼーションは世界的競争を意味し、その進展によって外国人社員の比率が増えていきます。たとえばオムロンは社員の3分の2が日本人ではありません。4分の3以上が外国人という日本企業も珍しくありません。

グローバリゼーションの初期は、日本と海外を別々に運用していれば良かったのですが、さすがに日本人が4分の1、外国人が4分の3になると、そうはいきません。日本的人事慣行を海外に受け入れてもらうか、日本が海外の方式を取り入れるかということになりますが、これが難しいのです。たとえばグローバルのマネジメント層の給料をアメリカの相場にすると、とんでもない額になってしまいます。しかしなにもせずに放置すると人材が他社に引き抜かれます。
こうした問題に対してなかなかうまい解決策がなく、グローバリゼーションに対応する人事制度の調整は日本企業にとって大きなストレスであり、いまだに大きな課題になっています。

デジタルは狩猟型。速く獲物を仕留めるトップパフォーマーが生産性を決める

次にデジタル革命です。産業論でのデジタル革命は「水平分業」や「モジュラー化」という言葉で説明されます。しかし人事評価論でもデジタル革命は大きな変化をもたらしました。

大量生産ラインでの共同作業は田植えの農耕型です。みんなが協調して作業を進めるので、生産性を決めるのは一番遅い人のスピードです。だから生産性を向上するにはボトムアップによってラインで働く人の平均値を向上させれば良かったのです。それが日本型の人事管理だったのです。

デジタル革命が起こると事態は変わります。デジタルは狩猟型で、速く獲物を仕留めるトップパフォーマーが生産性を決めます。ところが日本企業はボトムアップの習慣から抜け出せず、トップパフォーマーに対し「かれは遅れているのだから、助けてあげなさいよ」と言うのです。

このような日本型ボトムアップで弊害が起きているのは、ソフトウェアの世界です。優秀な人間は、1万人分の仕事をします。これはAIの世界でも同じことです。では1万人分の仕事をする人間に1万倍の給料を出すのでしょうか?

このような人材の処遇は日本企業にとって大きなストレスです。しかしこのストレスを乗り越えないと、生産性向上は実現できないのです。

「スタディサプリ」を開発した松尾研の学生

1万倍の仕事の好例として「スタディサプリ」を紹介します。AI分野で有名な東京大学の松尾豊准教授とはもう6〜7年の付き合いになります。彼の研究室とはいくつかのプロジェクトで提携しましたが、もっとも成功したのが講義を配信する「スタディサプリ」というアプリです。リクルートの依頼で開発したこのアプリは、スマホ、タブレット、PCに対応しており、すでに受験生3人に1人が使っています。

このアプリは、IGPIの若手社員、そして松尾研の優秀な学生4〜5人で開発しました。学生なので人件費などの費用はあまりかかっていません。しかし優れたパフォーマンスを持つ松尾研の学生を欲しいという企業は、おそらく年収1500万円くらい払うでしょう。しかし同じ東大工学部の学生を一般ルートで採用すると、その年収は300万円程度なのです。

東大工学部の学生が、一方は1500万円、もう一方は300万円。自分が年収300万円の立場だったら、みなさんはこのストレスに耐えられますか?しかしこのストレスに対峙できないと、生産性向上の問題は解けないのです。

パッチワークではなく抜本改革が必要になっている

もちろん今も農耕型作業はたくさんあります。営業現場、生産現場ではチームワーク、調整、摺り合わせが依然として重要です。このように足並みを揃えることを重視する仕事では、報酬についての考え方も従来のもので通用しますが、突出した天才を必要とする産業では、パフォーマンスに見合う報酬を考えなくてはなりません。

これまでの日本企業は、矛盾を回避するために成果主義のような制度を導入してしのいできましたが、こうした継ぎ足しの“パッチワーク”では、もう立ち行かないのです。抜本的な改革が必要であり、すでに動きはじめている企業も出てきました。

Yahoo!は新卒採用をやめ、30歳までのポテンシャル採用にすると発表しました。旧来慣行にとらわれないこのような企業はいい人材の採用に成功し、新たな人材施策によって企業の差は決定的に大きくなります。この差は5年、10年では取り戻せません。

2010年代に始まったローカル経済圏の構造的人手不足

グローバリゼーション、デジタル革命と同時に、ローカル経済圏の構造的人手不足が大きな問題となっています。ローカル経済圏とは国内、地域密着型の産業で、公共交通、小売り、医療介護が代表的な業種です。

日本はバブル経済が崩壊してから2010年あたりまで人余りが続いていました。しかし2010年代に入ってからは構造的人手不足の時代に突入しました。生産年齢人口が本格的に減少しているのです。
その原因は少子高齢化です。出生率は1.4とか1.5で子どもは少なくなっているし、その一方で高齢者は65歳でリタイアした後に、生産をせずに20年間生きるのです。

グローバリゼーションが問う「会社のかたち」

グローバリゼーションは現地でのビジネスも変えてきました。しかし今でも日本企業は、同一性と連続性を重視した過去の考え方を捨てようとしません。過去の考え方とは、新卒を一括採用し、同じように処遇し、10年〜15年経った頃から処遇に差を付け始めるというやり方です。しかしこれは公平な評価とは言えません。なぜなら10年後に企業がなくなっているかもしないからです。フェアネスを実現するにはもっと短期間で刻んで評価しなければならないのです。

一流人材の採用でも日本企業はうまく行っていません。その理由は単純で、日本企業にはガラスの天井、鉄の天井があるからです。 たとえば北京大学、ハーバード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなどの大学で学ぶ優秀な中国人女性がいるとします。その優秀女性をGE、東芝、ジーメンスが取り合いしたとします。女性は企業を研究して、取締役や執行役員を見るでしょう。日本企業の取締役は日本人のおじさんばかりです。アメリカやヨーロッパの企業は多様性に富み、女性もたくさんいます。

中国人女性はどう感じるでしょうか?
日本企業は口先で「ダイバーシティを推進する」と言っていますが、そんなまやかしはグローバルでは通用しません。本当に多様性にあふれる企業にならないといけないのです。

もっともGEが昔からこんな会社だったわけではありません。30年前のGEにダイバーシティはあまりなく、白人男性の会社でした。30年間の不断の努力がGEを変身させたのです。GEにできたことは日本企業にもできるはずです。

破壊的イノベーションとしてのAI 新時代の到来

デジタル革命の第1期は1980年代に始まり、コンピュータ産業にダウンサイジングと水平分業をもたらしました。1990年代に始まった第2期はインターネット・モバイル革命を引き起こしました。そしてBtoC系エレクトロニクス産業の姿を一変させました。そしていま起きているのがAI 革新による破壊的イノベーションです。このイノベーションは、自動車、重電、医療、農業などすべての産業に及びます。

事業ドメインのダイナミズムをあらわすのが「スマイルカーブ」です。事業プロセスをバリューチェーンと見て、その川上に位置する企画・開発、部品生産と、川下にあたる販売、アフターサービス付加価値が高く、中間の組み立てが低くなる形が「スマイル」に似ていることから名付けられました。スマイルカーブはデジタル産業で顕著であり、企業間競争を大きく変えました。かつての企業間競争はライバルとの戦いでしたが、デジタル革命以降はそうではありません。

たとえばコンピュータです。かつて1980年代までのコンピュータ産業の覇者はIBMでした。しかしパソコンが普及するとMicrosoftのOSとIntelのCPUを組み合わせた「Wintel(ウィンテル)」が市場を勝ち取りました。

続いて携帯電話やインターネットの普及とともにFUJITSU、SONY、MOTOROLA、LUCENTが台頭しましたが、その繁栄は長く続かず、現在はQUALCOMM、Apple、facebook、Googleがデジタル革命の先端を走っています。AI新時代を勝ち抜くのはどのような企業でしょうか。現在の製造業の強者は、TOYOTA、GE、SIEMENS、HITACHI、FANUCなどですが、AI革新でどんな企業が頭角を現すのか、まだわかりません。

オープンイノベーションと日本企業

非連続で破壊的なイノベーションを日本企業も自覚しており、外部の技術やアイデア、サービスなどを組み合わせて、革新的なビジネスモデルや製品開発を行うオープンイノベーションを推し進めようとする企業もあります。しかしそうした取り組みを阻む要因はその会社の内部にあるのです。

オープンイノベーションのためにベンチャーを買収すると、ヘンなやつが入って来ます。そのストレスに耐えられるのかどうか?またベンチャーの人間にとっても「企業は社会の公器である」というような会社理念を毎朝唱えさせられる職場は地獄でしかありません。

それが現実なのに、多くの企業でオープンイノベーションに対する危機感が足りません。おままごとのような表層的な取り組みでは効果など望めないのです。自前主義から本当に脱却しないと、日本企業は変わりません。

決断負け、戦略負けが連続する日本企業

経営力とは生産性を意味します。そしてその生産性は、的確に意思決定し実行する力によって生み出されます。日本企業は一般に、現場の実行力は優れていますが、意思決定力は低劣な傾向にあります。

その原因は、経済が右肩上がりだったアナログ時代に養われた「あれもこれも」という摺り合わせ指向にあります。自動車の開発で、燃費とスピードという対立概念があると、なんとか折り合いを付けようとするのが日本企業です。

かつて日本企業を成功させた現場力、摺り合わせ、ボトムアップの思考形式が、決断負け、戦略負けの連続を引き起こしているのです。

日本企業のCEOは生え抜きで異文化経験が希薄

軋轢を避け、クレームを少なくしようとするのが日本企業の人事です。そして日本の大企業トップもその典型であり、この20年間に負け続けてきました。1990年に日本のGDPは世界の15%を占めていましたが、2013年には7%と半減しています。1995年に日本企業はフォーチュン500社の28%を占めていましたが、2014年は11%に低落しました。

他国企業ではCEOの大多数は他企業での経験を持っています。しかし日本企業のCEOは4分の3が他企業の経験を持っていません。また、本社と異なる地域の職務経験を持つ人も2割に満たないのです。このような点で見ると、これからのリーダー育成に必要なものが示唆されているように思えます。

30年前の東大生人気企業ランキングのその後

「変化が不連続に起こる」という内容をこれまで話してきました。このテーマに関連して東大生の人気企業ランキングを紹介したいと思います。なぜ東大生かというと、不連続な変化に対し、保守的なものの代表が東大だと考えるからです。今年の人気企業ランキングの1位は三菱商事、以下三井物産、リクルートホールディングス、電通、伊藤忠商事と続きます。

さて次に私が東大を卒業した30年前の人気企業ランキングを紹介します。金融機関でもっとも人気があったのは日本興銀です。サービス系では日本航空、電機系では東芝、自動車では日産自動車でした。これらの企業のその後の歴史を思い出してください。
現在の人気企業が同じような道を辿るとは限りませんが、こうしてマクロに眺めると危ないと言えるのかもしれません。

日本企業のハードウェアテクノロジーがAIで必須

日本企業にとって厳しい意見を話してきましたが、いま日本企業には追い風が吹いています。第1次、第2次のデジタル革命で重要だったのは不連続なソフトウェアだったことから、ハードウェアを得意とする日本企業は衰退しました。

しかしAIというイノベーションはリアル世界と交錯し、日本企業が連続性、共同体性で培ってきたハードウェアテクノロジーが必須です。Googleの自動運転車もソフトウェアだけでは走れません。ハードとソフトが交錯し、これから日本企業の活躍が大いに期待されます。

【Special Talk Session】
「大変なことになる」とリストラに反対するのが人事

寺澤

 冨山さん、貴重なお話をいただき、ありがとうございます。冨山さんは多くの企業再生を手がけておられますが、再生にあたって経営トップや人事部門は、どのような関わり方を持つものでしょうか?

冨山

企業再生には外科手術が付きものです。その外科手術に反対するのが人事です。トラブルを避けたい、揉めないように調整するのが人事の仕事だと思い込んでおり、反対の理由として「組合が反対します」と言うのです。しかしこちらも組合の意見を直接得るルートをもっており、人事の主張が間違っていることを知っているのです。
JALのリストラでは「そんなに従業員を切ると飛行機が落ちてしまう」ようなと言われました。実際は落ちなかったですね。要するに脅しなんです。

年金カットを投票で決めることにも人事が反対しました。衆人環視で行われる投票で、自分たちが叩かれること、否決されたら減点になることを恐れたのです。「不当労働行為で裁判に負ける」とも言われました。しかし不当労働行為は民法の規定であって、刑法ではありません。負けたとしても単なる見解の相違で恥でもなんでもない。
ともかく「大変なことになる」と言って反対するのが人事です。

「みんなが幸せになれるようにすること」を本気で考える

寺澤 冨山さんが手がけた再生案件ではカネボウやJALなどの成功例が有名ですが、成功する秘訣は何でしょうか?
冨山

まずリストラは憎くてやっているものではないということです。船に乗っている1万人なら1万人の人生を幸せにするためにリストラするのです。工場にしてもはやく売却してファブレスにすれば幸せになれたものを、迷っている間に事態は悪化します。

JALの年金削減にしても年金額が1,000万円という夫婦がたくさんいました。1,000万円を800万円に減額してもまったく問題ないと私は考えました。
ただ従業員の年収300万円を200万円にするようなリストラはダメです。ちゃんとみんなが幸せになれるようにすることを本気で考えなくてはいけません。

カネボウの最大の事業は紡績部門でした。この部門をセイレーンに売却する時の反対も大きかったのですが、売却後にセイレーンがサプライチェーン型のビジネスモデルの構築に成功しました。いまでは従業員の給料とボーナスが増えて感謝されています。

個人への解像度を上げ、ハイレゾリューションにする

寺澤 最後になりますが、これからの人事はどのように意識を変えていくべきでしょうか? 
冨山

キーワードは「ハイレゾリューション」だと思います。最大公約数が取りづらい時代なので、個人への解像度を上げて行かねばならないと思います。先ほども申し上げた通り、構造的な人手不足時代が始まり、人が会社を選びます。これまでの連続性、均質性重視という意識を捨てなくてはならないと思います。

協賛:コニカミノルタ株式会社

冨山 和彦氏

株式会社経営共創基盤(IGPI) 代表取締役 CEO
冨山 和彦氏

1960年生まれ、東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。 ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に且Y業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、褐o営共創基盤(IGPI)を設立し、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。オムロン且ミ外取締役、ぴあ且ミ外取締役、パナソニック且ミ外取締役。経済同友会副代表幹事。 近著:「なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略」「選択と捨象」「決定版 これがガバナンス経営だ!」「IGPI流 ローカル企業復活のリアル・ノウハウ」他


寺澤康介

ProFuture株式会社代表取締役社長 / 中央大学大学院戦略経営研究科客員教授
寺澤康介 氏

1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。約6 万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。約25年間、大企業から中堅中小企業まで幅広く採用、人事関連のコンサルティングを行う。週刊東洋経済、労政時報、企業と人材、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春などに執筆、出演、取材記事掲載多数。企業、大学等での講演を年間数十回行っている。