Vol.10

「NEXT HR」キーパーソン特別インタビュー

企業と人の関係は「終身雇用」から「終身信頼」へ
企業と人の新たな関係性と“つながる力”【後編】

ONE JAPAN 共同発起人・共同代表 濱松誠氏
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

多様なキャリアや働き方を自分自身で選べる時代に

寺澤日本では今、働き方改革やダイバーシティの推進、終身雇用の廃止、ジョブ型雇用など、新たな働き方を模索する動きが活発化していますが、一方で今回のコロナ禍で失職した人の数が海外と比べると圧倒的に少なかったように、日本企業特有のモラルが評価される向きもあります。何でもかんでも西洋のモノマネをしてもうまくはいかないでしょうし、かといって従来通りの日本の雇用システムに固執していては世界から取り残されてしまう。そんな難しい局面に置かれていると思うのですが、今後働き方や企業と働く人の関係性は、どのように変わっていくとお考えですか?

濱松僕は大きく3つに分かれていくと思っています。1つはメンバーシップ型とジョブ型のミックス、もしくはハイブリット。つまりジョブ型を掲げながらも、メンバーシップ型も部分的に残っているような形で、これが最も現実的な路線ではないでしょうか。2つ目は、ジョブ型を希望する人とメンバーシップ型を希望する人とで、あえて二層に分けるという方法。そして3つ目は、一つの企業でジョブ型、もしくはメンバーシップ型に特化するという方法です。さらにそこに、5年、10年、もしくは20年などの中長期にわたる有期雇用を組み合わせることが理想ではないでしょうか。そうすることで適切な時期に学び直しができますし、また自分のキャリアをしっかりと考えられるようになると思います。また、それを社員がいつでも自由に選べるようにしておくことも重要です。終身雇用のつもりでも入社しても、途中で「やっぱり自分は10年の有期雇用にしたい」と気持ちが変わるかもしれませんから。

寺澤いろんなシチュエーションに応じて、できるかぎり選択肢を持てるようにすると。そしてそれがある意味、多様性を活かすことにも繋がる、ということですよね。もちろん伝統的な日本の大企業ほど、今までに積み重ねてきたものも多いため、いきなりやめたり変えたりすることは難しいでしょうが、変化に柔軟に対応できないと淘汰されてしまいますし、何より雇用の市場の中で求職者から選ばれなくなってしまいます。いずれにせよ、変化にどう対応していくかというところで言うと、濱松さんのおっしゃる通り、多様性を認め、選択できるようにしておくことが必要不可欠なのでしょうね。

濱松ジョブ型だからといって、僕はすべてにおいて差をつける必要はないと思うんです。ジョブ型は結果がすべてかもしれませんが、とはいえ、極端なアップ・オア・アウト(Up or Out)ではなく、プロセスにもきちんと拍手を贈り、お互いを称え合い、しっかり頑張った人には金銭以外の報酬を与えるような、いい塩梅を持ったハイブリット型の雇用形態。これが日本企業には一番マッチすると思います。

さまざまな社会課題と向き合い、世の中に貢献していきたい

寺澤では最後に、濱松さんご自身の今後の活動やビジョンについてお聞かせください。

濱松まずは「ONE JAPAN」の活動でいうと、現在、大企業挑戦者支援プログラム「CHANGE 」という取り組みを進めています。「ONE JAPAN」は社内コミュニティの集合体でしたが、CHANGEは挑戦する個人を増やしていくことを目的とした育成プログラムです。具体的な内容としては、日本のイノベーションを各界でリードするトップメンターや、大企業で実際に挑戦し続ける実践者メンターなど、総勢約80名によるメンタリング、事務局メンバーによる伴走支援、オンライン形式のセミナーなどを通じて、参加者の挑戦プランをブラッシュアップ。そして参加者がそれぞれの挑戦プランを各企業内で実行することで、日本企業のイノベーションの促進を図ります。
また個人的な活動としては、企業や自治体への講演やメンタリング等を通じて、一人でも多くの社員に刺激や気づきを与え、一歩踏み出す人、行動する人を増やしたいと思っています。大企業のみならず、中小企業やベンチャー企業、自治体職員やソーシャルセクター等、規模やセクターを超えた方々を対象にしたいですね。
具体的にはこれからで、今はアイデアを出し合っているところですが、妻と共同で事業を立ち上げたいと思っています。自分たちの強みを活かして、学校をつくったりまちをつくったり、何か社会が少しでも良くなるようなことをしたいねと話しています。

寺澤濱松さんの魅力は、どちらか一つに決めつけたり、囚われたりしないことだと思います。大企業を変えるための取り組みに使命感を持ちつつも、そこから零れ落ちたものや、すくい切れないものにもきちんと目を向けられる。「One Panasonic」や「ONE JAPAN」とも繋がりを持ちながら、一方で個人的な思いを持って、自分のやりたいことにも突き進む。すると、そこがまた何らかの形で繋がるかもしれないですよね。

濱松きれいごとに聞こえるかもしれませんが、やはり僕は社会を少しでも良くすること、人類が一歩でも良い方向に進んでいくことに貢献したいと思っているんです。今回は、夫婦揃って世界一周という大変貴重な経験をさせていただきました。ですのでこれから先は、今までお世話になった方々への恩返しや、自分たちのできることで世の中に貢献していきたいですね。一度切りの人生ですから、悔いのないように一生懸命取り組んでいきたいと思います。

ONE JAPAN 共同発起人・共同代表
濱松 誠 氏

1982年京都生まれ。2006年パナソニックに入社。海外マーケティング、人材・組織開発、そしてベンチャー出向等を経て、2018年の末、パナソニックを退職。2012年、本業の傍ら、組織活性化をねらいとした有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。その後、志を同じくする仲間たちと出会い、2016年「ONE JAPAN」を設立、代表に就任。現時点で54社・1500名が参画。共創、人材育成、土壌づくり、意識調査等に取り組む。日経ビジネス「2017年 次代を創る100人」に選出。2019年、夫婦の夢だった世界一周を実現。現在は企業のアドバイザーなどをしながら、起業準備中。