Vol.01

「NEXT HR」特別パネルディスカッション 講演録

次世代の人事、人事サービスの進化と未来(後編)

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科(KBS) 特任教授 岩本 隆氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 北崎 茂氏
日産自動車株式会社 人事本部 日本人事企画部 担当部長 福武 基裕氏
株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 人事総務本部 人財企画部 主任 中村 亮一氏
モデレーター:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

急拡大する世界のHRテクノロジーマーケット

寺澤ありがとうございます。非常にインパクトのある将来予測で、今の企業の形態がどう変わっていくのか、やはり先を見通して早く準備をする必要があると感じます。では、次に岩本先生、お願いします。

岩本

私からはHRテクノロジーの世界的な動向についてお話をさせていただきます。HRテクノロジーというと日本では最近流行ってきたように思われがちですが、アメリカでは2000年にはすでに商標登録されている言葉です。それが、コンピューティングやクラウドテクノロジーの進化によって、コスト面のハードルが下がり、この数年で一気に注目度が高まり、最近ではHRテクノロジーのイベントも大きな盛り上がりを見せています。アメリカで毎年開催されている「HR Technology Conference & Expo」は2016年が19回目になり、かなり大きなイベントに成長しています。また、欧米だけではなく、アジアでもHRテクノロジー関連のイベントが急増しています。日本では昨年、ProFutureがこの分野の初のイベントとして「HRテクノロジーサミット」を開催していますね。そういう意味では日本は中国や東南アジアよりも若干遅れている状況です。

最近の動きとしては、「タレントマネジメント」という言葉があまり使われなくなり、人事の領域がかなり広がったことで、「HCM(Human Capital Management)」へと変わってきています。このHCMの中でも、データ分析や予測といったアナリティクス関連のサービスが、今年からいろいろなベンダーにインプリメントされ始めそうだと見ています。
また、HRテクノロジーの分野は新規参入が非常に多く、特にアメリカではスタートアップへの投資額も急増しています。2015年は、400社近いスタートアップに対して2,000億円、3,000億円という投資額があったとの調査データがあります。投資額の規模もトップ10に入る企業では1社につき数百億円です。
そういう中で、HRテクノロジー分野のプレイヤーの大型M&Aも数々見られます。直近では、SAPが2012年に4,000億円近い金額でサクセスファクターを買収しましたし、同じ年にオラクルがタレオ、IBMがケネクサに対し数千億円規模のM&Aを行いました。日本でもリクルートが、2012年に約950億円でIndeedを買収しています。また、大型IPO(新規株式公開)として注目されたのは2012年のワークデイです。先ほど調べたところ、ワークデイの今日の時価総額は1兆9,000億円にもなっていました。HCMアプリケーションのマーケットの規模も、2015年で1兆数千億円、これが毎年成長して2兆円近い規模になるといわれています。日本のマーケットはどうかといえば、まだまだ桁が違うと思われるのが現状です。

最後に、直近のHRテクノロジーの状況について、ポイントを挙げておきます。まず、ビッグデータの統計分析がパソコンでもできるようになり、ビッグデータ分析用の言語やツールも非常に安くなって、フリーで提供されるものも多数あります。学生や素人でも統計分析ができるようになってきたということですね。次に、IoTの進化によって、センサーなどから人間の言動や行動のデータも扱えるようになってきましたし、ロボットが進化し、RPA(Robotic Process Automation)、これはいわばソフトのロボットで、インターネットをクローリングしてデータを集めたりし、経費精算などホワイトカラーの行う事務処理を代替できるものですが、生産性を一気に向上させるということで、導入する企業が急増しています。

また、今、人工知能で何ができるようになっているかというと、基本は機械学習です。私は「公文式がやれる」、「目ができた」と言っていますが、要は、公文式学習のように同じことを何回も繰り返せること、画像で、例えば猫を認識したりできるということです。近頃は、よくAIが人間の脳と同じことをできるように勘違いされるのですが、もちろん違います。具体的なテクノロジーを理解した上で、それを経営・人材マネジメントにどう活用できるかを考えるということが大切だと思っています。