「はたらいて、笑おう。」を実現するには

パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長 CEO
水田 正道 氏

今、企業と人の関係性は急速に変わりつつある。「終身雇用」や「年功序列」といった、かつての日本企業を象徴する慣行は、既に過去の話。はたらく人の価値観は多様化し、人材の流動性も高まっている。採用やリテンションに苦労する企業も多い。そして少子高齢化による人手不足は深刻度を増している。株式会社パーソル総合研究所(以下、パーソル総研)と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2030」によると、2030年の人手不足の推計値は644万人であり、2017年実績の5.3倍にもなるという。 こうした時代において、企業と人が共にハッピーな状態をつくっていくには、何が必要なのだろうか。HRサミット2019にて「2030年に向けた労働市場の見立て」をテーマに講演するパーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO 水田正道氏にお話しを伺った。

企業と個人のパワーバランスが変化する時代、「はたらいて、笑おう。」が示す世界とは?

パーソルグループでは、「はたらいて、笑おう。」をスローガンとして掲げていらっしゃいます。人々が、はたらいて、笑うというのは、どのような世界なのでしょうか。昨今の「はたらく」の価値観の変化と合わせてお話しを伺えますでしょうか。

水田氏

昭和から平成にかけて、日本企業のはたらく人には、“滅私奉公”が求められていました。画一的な価値観で、会社の命令には絶対服従、嫌なことも我慢して会社に仕える、という考え方でいれば、一生安泰だったのです。それは企業の寿命が長く、終身雇用・年功序列が成立していたからこその価値観でした。これは仕事に限らず、幸せや成功している人生の定義にも言えることだと思います。

しかし今、日本では企業寿命はどんどん短くなっています。一方、人間の寿命は延び、人間の職業寿命が企業寿命を上回り、終身雇用や年功序列は成り立たなくなっています。加えて、今はスマホの普及により色々な情報が気軽に手に入る時代です。おのずと、人生観や働くことそのものの意識が変わり、人々は自分の生き方やキャリアを考え、選択する機会が増えます。このような時代の中で、私たちは「はたらいて、笑おう。」を掲げました。その一番の原点は、「充実した人生を過ごせる人が一人でも多い社会をつくるために、はたらくことそのものがもっと多様に、一人ひとりに合ったものになるように、自分で決めていける状態にしたい」ということです。滅私奉公で会社に依存していた昭和〜平成時代の価値観から脱却し、人々が自分の意志で選択できる世界、それが令和時代の「はたらく」の姿です。

自分の仕事やキャリアを自分で決めて、初めて心から笑えるということですね。しかし、決断には自律と責任が伴います。一方で厳しさもあるような気がします。

水田氏

もちろんです。依存も他責もできず、ある意味シビアな世界なのかもしれません。しかし、シンプルに自分のやりたいことを自分で選べる世界というのは、とても幸せな事ではないでしょうか。それこそが人生だと思いますよ。 「自分のやりたい仕事」をして、その仕事で「社会に役立ち貢献する手応え」を得られて、自分が「誰かに必要とされている実感」を持つことができ、しかも「信頼できる仲間」がいる。この4つが全部そろっている状態、最高ではないでしょうか。仕事に対する満足度だけではなく、人生に対する満足度が総じて高くなります。これこそまさに、「はたらいて、笑おう。」が実現された状態です。

人材を惹きつけるために、企業は何をすべきか。

「個」が強くなる時代ではありますが、現在、企業を取り巻く環境は非常に深刻です。たとえば人手不足の課題。パーソル総研と中央大学の共同研究(2018年)によると、2030年の人手不足の推計値は644万人です。そうした中で人材を惹きつけ、持続的成長をしていくために、企業は何をすべきでしょうか。

水田氏

ここでは生産性についてお話ししましょう。日本の労働生産性の低さは、みなさんご存知だと思います。その改善にはもちろん、テクノロジーの活用も有効です。しかしそれ以前に手をつけるべきは、「適材適所」だと思います。つまり、先にお話しした4つ(やりたい仕事、社会貢献性、存在意義、信頼できる仲間)を満たす環境を、企業が労働者に対していかに提供できるか。そこに尽きます。

満足度を高めることで、生産性が向上するということでしょうか。

水田氏

想像してみてください。会社から言われて嫌々仕事をしている人達と、自分が望む仕事をポジティブにしている人達が、同じ仕事をしたとしたら?結果は火を見るよりも明らかですよね。一人ひとりがやりがいを持って働ける環境を創ることができれば、生産性は飛躍的に向上し、人手不足の改善にもつながると信じています。 もう一つポイントとなるのが、リーダーシップです。旧来の価値観から脱却する中で、リーダーシップのスタイルも変えていく必要があります。

リーダーシップスタイルの変化とは、具体的には、どのようなことでしょうか。

水田氏

滅私奉公の時代においては、リーダーは会社に用意されたゴールに向かって組織をまとめ、引っ張っていくことが求められていました。いわゆる「俺についてこい」というタイプのリーダーです。売上など会社から与えられた目標を達成させていくためには最も効率的であり、それができねば出世できないと思われていました。しかし、令和は「個」の時代です。組織の理論よりも個人の理論が勝つのです。そこでは、「数字」や「売上」を詰め寄るだけでは、誰もついてきません。それどころか、そのような状況が、世間に知られると、社会から、非難されることもあります。いま、世の中で見られる企業の問題は、そうした体質から明るみになっているような気がします。

では「個」を尊重する時代において、必要なリーダーシップとは何か。リーダーシップとは何かを改めて考えると、究極のところ「みんなを幸せにすること」だと思います。一人ひとりのやりたい仕事やありたい姿に耳を傾け、サポートすることがこれからのリーダーに必要な姿ではないでしょうか。

まさに「個」の成長を支援し、導くリーダーが求められていますね。

水田氏

「これからのリーダー三種の神器」と私たちは称していますが、具体的な要素としては、次の3つです。

(1)ビジョンを掲げ、自分の言葉で伝えること。
(2)共感性を持ち、多様な価値観を認めること。
(3)信頼関係を醸成できること。

つまり、売上や数字ではなく、「この仕事の社会的価値は何か」「どうすれば、もっと社会に貢献できるか」をまず考え、それをビジョンとして分かりやすくメンバーに伝えること。そして、画一的なノルマを課すのではなく、一人ひとりの「will」に共感すること。さらに、信頼関係も大切です。なぜなら、テレワークなど時間や場所に縛られない働き方は、相手を信頼していなければ成り立たないからです。「本当に仕事をしているのか」と疑い始めたらキリがありません。これには、メンバーの方も自覚と責任を持つ必要があります。お互いに成熟した大人として信頼し合うことができれば幸せですよね。これが、令和のリーダー像です。

時代にそぐわない枠組みを撤廃し、誰もが働きやすい世の中に。

2030年の未来に向けてパーソルが実現していきたいこと、提供していきたい価値についてお聞かせください。

水田氏

企業寿命が短くなり、副業など新しい働き方が普及し、はたらく個人を1つの企業だけに縛られなくなる時代です。雇用形態の枠組みも変わっていく必要があると思います。個人的な想いを申し上げるならば、「正規雇用」「非正規雇用」といった区別に対する意識を変えたいと思っています。厚生労働省が定めている「正規雇用」というのは、(1)無期雇用(2)直接雇用(3)フルタイム勤務です。つまり、時短勤務の方は「非正規」ということです。多様な働き方を進めていく必要がある中、ライフステージやキャリアが変わって時短勤務やフリーランス、派遣を選んでいる人たちの働き方の選択に対し「非正規労働者が増えた」と嘆く論調は、あまり意味がないと思います。そうした価値観に、人々が左右される状態も変えていきたい。「正規」か「非正規」かという事ではなく、「やりたいことを自分で決めて、充実した人生を送ることができる人」を増やしていくことが私たちの使命だと考えています。

そして、女性、シニア、外国人の活用についても取り組んでいきます。先ほど「令和のリーダー像」のお話をしましたが、個人の成長をフォロー・サポートするリーダーシップの形がもっと世の中に広がれば、これまでにいなかった次世代のリーダーが躍進すると私は考えています。

そして人生100年時代と言われますが、シニアが培った知見や経験を世の中にしっかりと活かしていくことも大切です。さらに、外国人の方々が安心して暮らせる環境づくりも欠かせません。

最後に、HRサミット2019の参加者にメッセージをお願いします。

水田氏

これまでお話ししたように、時代は変わりました。企業が持続的成長を果たすためには、従業員を惹きつけ、選ばれる会社になる必要があります。そういったことを含めて、講演でお話しをしていきたいと思います。ぜひ、みなさまも一緒に2030年の「はたらく」について考えましょう。

水田 正道氏
パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長 CEO

1988年テンプスタッフ(現 パーソルテンプスタッフ)入社、1995年同社取締役に着任。 2008年テンプホールディングス(現 パーソルホールディングス)常務取締役、2010年取締役副社長、2012年代表取締役副社長を経て、2013年代表取締役社長就任。 2016年代表取締役社長CEO(現任)。 一般社団法人日本人材派遣協会会長、一般社団法人人材サービス産業協議会理事長など公職も務める。 座右の銘は積小為大。

HRサミット2019での講演情報
A13 9/20(金)9:30-10:40 2030年に向けた労働市場の見立て
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