従業員の働きがいを生み出すマネーフォワードの取り組み【前編】~チャレンジングな経験を積ませ、成長実感につなげる~
生産年齢人口が減少し、人材獲得競争が激化する中、企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」へと、その立ち位置を変えることを余儀なくされている。優秀な人材を採用して、長く定着・活躍してもらうことは、今や多くの企業にとって共通の経営課題と言えるだろう。
そこで鍵となるのが、「働きがい」。金融系プラットフォームサービスを提供する株式会社マネーフォワードでは、従業員の働きがいの向上に注力し、「Great Place to Work® Institute Japan」が発表した『2025年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100』において7位に選出されるなど、その取り組みが高く評価されている。
そこで今回は「従業員の働きがい」をテーマに、同社の取締役執行役員グループCHO DEI担当 石原千亜希氏と、株式会社HRインスティテュート 取締役 プリンシパルコンサルタント 櫻橋淳による対談を実施。【前編】では、働きがいの定義や働きがいの醸成に向けた具体的な取り組み内容などについて伺った。(以下敬称略)
「働きがいのある会社」とはどのような状態か?
櫻橋 本日は従業員の働きがいを生み出すための取り組みについてお伺いできればと思います。御社は『2025年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト100』において7位に選出されるなど、外部からも非常に高い評価を受けられていますね。
石原 ありがとうございます。地道に取り組んできた成果でしょうか、昨年の10位から少しだけランクアップすることができました。
櫻橋 同ランキングでは「働きがいのある会社」を「働きやすさ」と「やりがい」の両方がかね備わった組織であると定義していますが、私自身も「働く環境をいかに整えるか」ということと「仕事そのものにどれだけ夢中になれるか」ということを掛け合わせることが重要であると考えております。また、衛生要因と動機付け要因に分けるとするなら、「働きやすさ」が衛生要因で、「やりがい」が動機付け要因だと思うのですが、御社ではこうした「働きがい」の定義をどのように捉えておられますか?
石原 私もその通りだなと思います。「働きがい」というと、特に最近では「働きやすさ」のほうがフォーカスされやすいですが、「やりがい」も重要ですよね。「やりがい」はさらに自己成長と他者貢献という2つの軸に分けることができますが、私たちマネーフォワードでは、その両方とも非常に意識しております。自己成長やキャリア自律、リスキリングといった「自己成長」はよく取り上げられていますが、同時に会社や社会にどういう風に貢献できるのかといった視点も「やりがい」を語るうえでは欠かせない大切な要素だと感じます。

櫻橋 そもそもいつ頃から「働きがいの向上」に取り組み始めたのでしょうか。注力するに至った経緯や背景などについてもお聞かせください。
石原 私が入社した2016年の時点で、すでに働きがいを大切にする雰囲気はありました。有形のアセットが豊富にある大手企業さんと違い、弊社のようなベンチャー企業ではそこで働く人がどれだけ優れたアイデアを出し、新しい価値を生み出していくかで勝負が決まりますので、そういう意味では働きがいを重視するカルチャーは会社が成長する過程の中で自然と醸成されてきたのでしょう。
また、経営陣がもともとそういったことに強い関心を持っており、創業当初から「働きがいのある組織を作る」というコンセンサスが取れていたことも大きかったのではないかと思います。
『Mission Vision Values Culture』を通じて他者貢献を
櫻橋 企業が持続的に成長し続けるために、サステナブルな存在であり続けるために、働きがいは必須だと思います。従業員一人ひとりが集積して組織というのは成り立っているわけですから、一人ひとりが働きがいの高い状態にないと、会社全体が活性化していきませんよね。
石原 おっしゃる通りですね。また労働力人口がどんどん減り続け、転職が当たり前になってきている昨今、優秀な人材を獲得し、定着してもらうことが、多くの企業にとって共通の課題となっています。そうした中、優秀な方を引き留め、活躍してもらい、それを企業の成長につなげていくためには、働きがいが本当に重要な鍵になると感じます。櫻橋さんはさまざまな企業様をご支援されている中で、近年の従業員の働きがいに向けた取り組み状況をどのようにご覧になられていますか?
櫻橋 先ほどの衛生要因と動機付け要因の話で言いますと、衛生要因の整備に注力されている企業様は増えてきていると思いますが、一方で動機付け要因、つまり仕事そのものの魅力を高めたり、仕事に熱中できる要因を生み出すことに成功されている企業様は、それほど多くないように感じます。
たとえ動機付け要因の重要性を理解していても、実際どうすれば生み出せるのかがわからず、ご苦労されている企業様は少なくないでしょう。その点、御社は社長ご自身が「個を大事にする」という信念をお持ちで、従業員一人ひとりが生き生きと働ける環境をしっかり整えておられるのが素晴らしいなと思います。

石原 働きがいを感じているメンバーが多いことは私自身も実感しているのですが、もともと弊社の社員は仕事好きや仕事を通じて何かを達成したい人が多いんです。「マネーフォワードで〇〇を実現したい」という目標を持ってみなさん入社するので、そういった個々の想いと会社が目指していることを結びつけられている結果だと思います。
櫻橋 動機付け要因の一つとして、他者貢献を大切にされているというお話がありました。私もそれはとても重要な要素だと思うのですが、他者貢献の意識を高めるために、会社として何か工夫されていることなどはございますか?
石原 弊社では、共通の価値観・目指したい世界観を『Mission Vision Values Culture』として掲げており、その中のMissionとVisionはどちらも「社会に対してどう在りたいのか・どう貢献したいのか」を謳ったものなんです。そして社員は全員、そのMissionとVisionに共感して入社してくれているので、そこに対する意識や目線がもともと揃っているということはあるでしょう。また社員全員が大切にするCultureとして、RespectやTeamworkを定義しており、それが社員一人ひとりの他者貢献に繋がっています。
失敗を許容する文化が新たな挑戦を生む
櫻橋 御社では『Talent Forward(社員の可能性をもっと前へ)』という戦略を立てられて、さまざまな施策を展開されていますが、その中から実際に働きがいの醸成につながっていると思われる取り組みをいくつかご紹介いただけないでしょうか。
石原 ロミンガーの法則に近いものですが、弊社の場合も「経験:7割、フィードバック:2割、研修:1割」の考え方のもと、各種施策や制度を展開しております。人が仕事の中で成長を実感できる一番重要な要素は、やはり経験です。チャレンジングな経験を積んでもらうために、まずは会社の目標と個人の目標に連動性を持たせた目標設計制度を導入。半期毎に全社目標を設定し、それに紐づいた形で社員一人ひとりが頑張らないと達成できないようなストレッチ目標を立ててもらいます。これにより、達成できたことで喜びを感じられると同時に、個々のチャレンジや目標達成が全社の目標達成にも繋がるという仕組みになっています。
もちろん目標が高いだけに、チャレンジが失敗に終わることも少なくはありません。ただ、失敗したらだめ、ということではなく、いろいろと試していく中で自分のできることを増やしていき、そこから仕事の楽しさや働きがいにつなげてもらえればと思っています。実は代表の辻が『失敗を語ろう』というタイトルの本を出しているほど、マネーフォワードは失敗に寛容な組織です。私自身も毎週行われる朝会において、自分のこれまでの失敗エピソードを披露したところ、みんなから「ぜひシリーズ化してほしい」と好評を得ました。

櫻橋 トップマネジメントの皆さんが失敗を許容し、しかも自分の失敗談を発信したり、共有したりするというのが素晴らしいなと感じます。動機付け要因の充足がうまくいっていない企業様を見ていると、トップが社員に向かって「新しいアイデアを出せ」「新しい商品を開発しろ」と発破をかけるのですが、なかなか出てこないんですね。
それはやはり、失敗を許容したり、共有するカルチャーが構築されていないからだと思います。「失敗してもいいからチャレンジしてみよう」「新しいことに向かっていくこと自体に価値があるんだ」というメッセージを組織の上に立つ人間が発信してこそ、カルチャーとして定着していくのだと、石原さんのお話を伺って改めて感じました。
石原 新たなことにチャレンジするという意味では、社内公募制度である「MFチャレンジシステム」の存在も大きいです。これは1年に1回、全部署からポジションを募り、応募した社員と部署のマッチングを実施して社内異動を調整していく仕組みで、部署や職種を跨いだ応募や複数のポジションへの応募が可能となっています。また通常の異動に関しても、半期に一度「次の1年で何をしたいのか」「次の2~3年で何をしたいのか」といった希望を全社員に書いてもらい、個々の希望を人事異動に活かしています。こうした取り組みを通じて、チャレンジする機会を提供し、経験の幅を増やしてもらっています。
迅速かつ高頻度なフィードバックを実施
櫻橋 「フィードバック:2割」に関してはどのような取り組みを行っていますか?

石原 フィードバックに関しては、やはり鮮度が重要だと思うんですよね。1年が終わってから「あなたはこの1年〇〇がダメでした」と言われても、「もっと早く言ってよ」って思うじゃないですか。そのため弊社では、良かったところも悪かったところもできるだけ早く伝えることを意識し、月1回以上の頻度で1on1を実施。上長と各メンバーが向き合って、目標に対する振り返りと、良かった点・改善点のフィードバックを行っています。
特にうまくいかなかったことに対する迅速なリカバリーは欠かせません。それをどれだけ早く行うかで、経験できる範囲や成長角度が大きく変わりますから。とはいえ、ダメ出しばかりだと凹んでしまうので、上長には「フィードバックをするときは、良かった点と改善点を両方伝え、本人の前向きな姿勢をできるだけ引き出してみましょう」と、1on1研修やリーダー研修で伝えています。
一方で、弊社のマネージャー陣はみんな優しく、なかには面と向かって厳しいことが言いづらいという人もいるんです。そのため良かった点や悪かった点をタレントマネジメントシステムに必ず書き込んでもらうという仕組みにしています。
櫻橋 弊社でも「あなたはここが足りませんよ」「ここを強化したらもっと良くなりますよ」という内容のフィードバックはきちんと仕組み化しています。個々の成長につなげるためには、どちらかというとネガティブフィードバックのほうが重要ですもんね。弊社は小さな会社なので、役員である我々に対してもどんどん言ってきます。
一方で、ご支援しているお客様に目を向けると、「ネガティブフィードバックがうまくできない」「やり方を教えてほしい」といった声も少なくなく、フィードバックカルチャーをどのようにして作るかが多くの企業様にとって共通の課題となっているようです。
石原 フィードバックカルチャーを作るうえで、何が鍵になるとお考えですか?
櫻橋 フィードバックカルチャーって、基本的に心理的安全性がないと作れないと思うんですよ。それがないと、言葉だけが上滑りしながら行き交うような感じになってしまうでしょうね。先ほどからお話を伺っていると、御社はその点、きちんと心理的安全性が高い状態にあるため、カルチャーとして成り立っているのだろうと感じます。

・後編はこちら
https://www.hrpro.co.jp/miraii/post-3687/
【対談者プロフィール】
■石原 千亜希氏
株式会社マネーフォワード 取締役執行役員グループCHO DEI担当
2012年に有限責任監査法人トーマツに入所し、2015年に会計士登録。2016年にマネーフォワードに入社し、IPO準備などに携わる。マネーフォワードが上場後、経営企画部長・IR責任者として、海外公募増資、東証一部への市場変更、サステナビリティプロジェクトの立ち上げなどに従事。2021年に人事に主務を移し、同年よりPeople Forward本部 本部長として人事制度改定プロジェクトなどを主導。2023年、CHOに就任し、人事全体を統括。入社後も社員が働きがいを持って働けるような環境づくりをミッションに掲げ奮闘している。
■櫻橋 淳
株式会社HRインスティテュート 取締役 プリンシパルコンサルタント
大学卒業後、世界文化社にて女性誌などの編集に携わる。その後、グロービスにて組織開発コンサルティング、日本IBMにて戦略コンサルティング業務に従事した後、HRインスティテュートに参画。専門領域である新規事業開発、新商品開発、戦略立案、組織開発領域などのコンサルティングを通じて、クライアントを支援している。浄土真宗(真宗大谷派)僧侶。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科後期博士課程満期退学。英国国立ウェールズ大学経営大学院修了(MBA)。
