三菱電機のカルチャー変革から学ぶ 組織風土改革の秘訣(前編)――品質不適切行為を契機に直面した「組織の壁」と、45名の有志から始まった変革の軌跡

企業の持続的な成長に、組織風土の変革は欠かせない。日本企業に特有の縦割り構造をどう打ち破るかは、多くの経営層や人事担当者にとって共通の課題である。三菱電機株式会社は2021年に明るみに出た品質不適切行為を契機に、この根深い課題と正面から向き合い、全社を挙げたカルチャー変革へと舵を切った。全社から手挙げで集まった45名で変革プロジェクト「チーム創生」を発足し、現場起点の実践とトップのコミットメントの両輪で、「言ったもん負け」の文化から「自走する組織」への転換を図っている。

本記事では、HRインスティテュート 取締役 プリンシパルコンサルタントの狩野尚史氏が、三菱電機 カルチャー変革室の小野田桂吾氏、石山鮎子氏に、変革の舞台裏と成功要因に迫った。その内容を、前編・後編の2回にわたってお届けする。(以下敬称略)

目次

組織課題と向き合う――浮き彫りになった「縦割り」と「心理的安全性の欠如」

狩野:多くの企業が組織風土の変革に苦心する中、三菱電機様の実践にはたくさんの示唆が含まれています。御社は2021年の品質不適切行為を契機に、全社を挙げたカルチャー変革へと本格的に舵を切られました。まずは、変革以前の組織がどのような状態だったのか、当時のリアルな課題感からお伺いできますでしょうか。

小野田:改革前の職場が殺伐としていたかというと、決してそうではありませんでした。ただ、当時は社内のコミュニケーションや心理的安全性が事業のアウトプットにつながるという考え方が、会社全体として希薄だったのは事実です。特に特徴的だったのは、事業本部ごとの縦の壁が非常に高かったことです。社員のキャリアも一つの事業本部内で完結する単線型が多く、部門の壁を越えてコミュニケーションを取り、協働するという雰囲気はほとんどありませんでした。

狩野:ある意味で、それは御社の強みでもあったのではないでしょうか。事業部ごとに製品やサービスを深く突き詰めるプロフェッショナリズムの高さこそが、強い製品力を生み出し、高い顧客価値を提供してきたという側面もあると思います。

小野田:おっしゃる通りです。各事業本部が縦割りで動くことで、効率性や生産性が上がり、製品力を深めていけた時代がありました。複雑な社会課題が今ほど問われていなかった当時は、それが間違いなく三菱電機の強さだったのです。

石山:私は中途で入社しており、社員一人ひとりが非常に優秀で、お客様の要求に誠実に応える姿勢が印象的でした。しかし、時代が変わり、正解が分からない複雑な分野への対応力が求められるようになると、状況は変わります。優秀な個の力が、いざワンチームとなった時に協働しづらく、成果が発揮しにくい。この時代とのギャップが、品質不適切行為という形で表面化してしまったのだと捉えています。

「言ったもん負け」の文化がもたらした現場の萎縮

狩野:一人ひとりの能力は極めて高いのに、複雑な社会課題に対して個人の強みをつなぎ合わせる「コレクティブ・ジーニアス(集合天才)」になりきれなかったと推測されます。現場のコミュニケーションや声を上げる風土についてはいかがでしたか。

石山:「言ったもん負け」の文化が根付いていました。現場でおかしいと思うことやバッドニュースを上司に報告すると、その仕事を負わされたり、自分自身が損する見返りを受けてしまったりといった、心理的安全性が欠如した状態でした。

小野田:当時はまだ失敗を許容するという文化が根付いておらず、バッドニュースを報告することへの敷居が非常に高かったのです。その結果、現場は萎縮してしまい、現状への疑問を口に出せなくなっていきました。思考停止とまでは言いませんが、今までやってきたことをそのまま踏襲すればいいと、前例踏襲を行うばかりになっていたのだと思います。

狩野:行動経済学のプロスペクト理論でも、人は得をしたいという欲求以上に損をしたくないという心理が強く働くとされています。せっかく現場から提案や相談のつもりで声を上げても、叱責という損につながるのであれば、言わない方がましだと萎縮してしまうのは人間の性です。上司側も悪気があったわけではないでしょう。真剣に仕事に向き合っていたからこその摩擦だったはずです。しかし、御社は品質不適切という痛みが伴った時に、根深い組織課題から目を背けず、真正面から向き合う決断をされました。

応募者約450名からの選抜。トップの覚悟と現場の熱量が噛み合った骨太の方針

小野田:当社では、時代にそぐわなくなった企業文化を正面から受け止め、本格的な変革へと動き出しました。2021年10月に全社変革プロジェクトのチームを発足すべく全社から手挙げ制で有志を募ったところ、約450名もの応募がありました。そこから各部門のバランスも考慮して、最終的に45名のメンバーが選抜されたのです。

狩野:大きな熱量を感じます。集まったメンバーはお二人を含め、人事部門以外の方が大半だったとお聞きしました。

小野田:はい。私が工場での資材調達、石山が営業の出身です。他の選抜メンバーも各部門で実務を担ってきた現場の有志たちです。一方で、自分たちの会社をどうにかしたいという強い思いだけで集まったため、最初はエネルギーがぶつかり合い、多様な視点からの意見が飛び交って議論の収束には相当な時間と労力を要しました。

石山:現場のリアルな課題を持ち寄ったため、施策のアイデアはたくさん出てきました。しかし、それをバラバラに打ち出しては現場が混乱してしまいます。そこで、まずは目指すべき方向性のベクトルを合わせるために議論を重ね、組織風土改革に向けた6つの骨太の方針を策定しました。現場からのボトムアップの思いに経営トップも共感し、変革を推し進める大きな力になりました。

小野田:特に漆間(代表執行役 執行役社長 CEO)の本気度は大きなものでした。プロジェクトメンバーとは月1回のミーティングを設定し、一度もスキップしませんでした。社長という立場上、どうしても外せない用事もあったはずですが、リスケをしてでも必ず出席してくれたのです。後に漆間本人から聞いたのですが、会議をスキップすれば覚悟が揺らいでしまう、だからこそ「絶対に会議に出る」と決めていたそうです。そのコミットメントがあったからこそ、私たちも本気で応えようと、ボトムアップの活動を加速させることができたのだと思います。

批判的な層を追わず、まずは賛同者に思いを浸透させる

狩野:現場の熱量というボトムアップと、決して揺るがないトップの覚悟というトップダウンの両輪がしっかりと噛み合っていたと伺えます。実務を行う現場の方々が、組織のあり方について真剣に考えたこと自体が、変革の大きなキーファクターだったのではないでしょうか。とはいえ、いざ全社に向けて変革を推進しようとすると、必ずしも好意的な反応ばかりではないと思います。現場に広げていく過程で、いわゆる抵抗勢力やネガティブな反応にはどのようにアプローチされたのか教えてください。

石山:おっしゃる通り、最初から全員が賛同してくれたわけではありません。すると、どうしても反対意見に気を取られがちになります。しかしながら、批判的な層の理解を得るには多大なエネルギーを要します。だからこそ2・6・2の法則にもあるように、まずは共感して一緒に動いてくれる2割の賛同者から、仲間づくりを推進してきました。

小野田:少しずつ仲間を増やし、2割の賛同者を火種にすることで、中間の6割の人たちにも変革の熱を伝播させるアプローチをとりました。

狩野:なるほど。共感層から広げる設計は、持続可能な変革につながっています。変革期で、多くの場合は反対意見が気になり、そこを動かそうと莫大なエネルギーを使って疲弊しがちです。戦略とはやらないことを決めることでもあります。批判的な層への説得というやらないことを明確に決めた。共感度の高い2割を起点に、熱が中間層へと伝播しやすい構造になっていたと言えそうです。

小野田:はい。まずは共感してくれる仲間たちと一緒に、現場の思いを少しずつ形にしていくことを最優先に考え活動していきました。

対話と見える化の泥臭い実践――一過性のイベントで終わらせない仕組みづくり

狩野:多くの企業は変革を焦るあまり、Must(やるべきこと)で現場を動かそうとしがちです。しかし、変革を真に自分事として捉えてもらうには、社員の内発的なWill(やりたいこと)で動ける環境づくりが不可欠と言えます。御社のお話を伺うと、Willを軸に進められているのがよく分かります。さらに、その取り組みを一過性のイベントにとどめず、泥臭く継続されています。

石山:思いに共感してくれても、上から変革を押し付けると、結局現場の心は離れてしまいます。私たちが徹底したのは経営幹部や現場の社員との直接の対話でした。対話を重ね、「会社をこうしていきたい」という思いを引き出すことを大切にしました。

小野田:その上で、賛同者の取り組みを、社内報やイントラネットなどで積極的にシェアしました。熱量や実践事例を全社に向けて見える化することで、「自分たちもやってみよう」という中間層への波及効果を狙ったのです。

小野田:施策は一度打てば完了するものではありません。例えば、私は社内会議のあり方を見直す会議改革のプロジェクトに参加し、ガイドラインを作成して全社に展開しました。ただ発信しただけではすぐに形骸化してしまうため、実際にそのガイドラインが現場でどう使われているのかを、1年ほどかけてモニタリングし続けたのです。

石山:現場の反応を見ながら、使いにくさがあればヒアリングしてリバイスし、再び展開します。私が担当していた心理的安全性の推進なども同様です。外部有識者の講演など大規模なイベントを開催する傍ら、それをきっかけに新任管理職向けの教育コンテンツに概念を組み込むなど、さまざまな点と点をつなげながら、トライアンドエラーで愚直にやり続けることを意識しました。

表面的なニーズを超え、社員の心の奥底にあるウォンツを引き出す

狩野:現場の方からは「カルチャー変革室の作るガイドラインは、まさに我々が求めていたものだ」という声が多く上がっていると伺いました。これは「あれをやってほしい」という表面的なニーズに応えるにとどまらず、現場の方々の「本当はこういう働き方がしたかったんだ」という潜在的なウォンツ(Wants)を引き出している証拠だと思います。

小野田:現場のリアルな声や悩みをしっかりと吸い上げ、どうすれば皆が納得し、行動を変えてくれるかをチームで考え抜いてきた結果として、そうした声をいただけることはとても励みになります。

狩野:何より、ガイドラインや施策を打ち出して完了とするのではなく、現場のウォンツを的確に捉えて1年がかりでモニタリングやリバイスを繰り返す。その上で、共感してくれる2割の層にターゲットを絞り、ファンとして育てながら全社に熱量を広げていく。この一連のアプローチは、マーケティングのターゲティング手法として非常に秀逸と言えます。泥臭くも戦略的な実践があったからこそ、カルチャー変革は単なるスローガンを脱却し、現場の確かな手応えへと繋がっていったのだと確信しました。

※後編では引き続き、三菱電機の組織変革に取り組みにおける苦労や組織の変化などについて迫ります。ぜひご一読ください。

後編は5/19(火)に公開予定です。

【対談者プロフィール】
■小野田 桂吾氏
三菱電機株式会社
カルチャー変革室 室長
東北大学文学部卒業後、2004年に三菱電機に入社。調達部門にて半導体や電気電子部品、素材などの契約・価格交渉を担当。全国の拠点をはじめ、タイやシンガポールなど海外拠点の赴任経験を経て、2022年に経営企画室へ異動。全社的な戦略的意思決定に携わりながら、組織風土改革を推進する全社変革プロジェクト「チーム創生」メンバーとして活動。現在は、2025年度に新設された「カルチャー変革室」の室長として方針策定や施策立案を担っている。

■石山 鮎子氏
三菱電機株式会社
カルチャー変革室 戦略・推進グループ グループマネージャー
慶應義塾大学文学部卒業。2016年、キャリア採用で三菱電機に入社。営業として海外向け新規インフラ設備の市場開拓・顧客提案・入札対応などの業務を担当。2021年に発足した全社変革プロジェクト「チーム創生」のメンバーとなり、2022年からはその専属メンバーとして3年間、プロジェクトの活動に携わる。現在は2025年度に新設された「カルチャー変革室」の戦略・推進マネージャーとして、各組織の自走化に向けたボトムアップ活動を伴走・支援している。

■狩野 尚史氏
株式会社HRインスティテュート 
取締役 プリンシパルコンサルタント
大手建材メーカーにて、商品研究&開発部門、BtoBセールス部門、販売チャネルのIT化推進リーダーを経てHRIに参画。ビジネス開発&人財開発に強いミッションを持つ。新規ビジネスプランニング支援、ビジネスモデル構築、戦略構築を中心にコンサルティングに従事。研修講師として主にビジネスモデル構築研修、戦略シナリオ研修、マーケティング研修などを担当。

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