従業員の働きがいを生み出すマネーフォワードの取り組み【後編】~経営や現場も巻き込んで、カルチャーづくりを推進~
株式会社マネーフォワード 取締役執行役員グループCHO 石原千亜希氏と、株式会社HRインスティテュート 取締役 プリンシパルコンサルタント 櫻橋淳による「従業員の働きがい」をテーマとした対談企画。【前編】では、働きがいの定義や企業における働きがい醸成の必要性、具体的な取り組み内容などについて伺った。【後編】では、カルチャー醸成に向けた研修や、人事に求められる役割などについてのお話をお届けする。(以下敬称略)
多彩な研修メニューで次世代リーダーを育成
櫻橋 働きがいの向上に欠かせない「経験:7割、フィードバック:2割、研修:1割」のうち、ここまでは経験とフィードバックについてお話いただきました。残りの研修内容についてもお聞かせください。
石原 弊社はベンチャーなので、以前は研修に力を入れる余裕がなかったのですが、社員が増えてきたこともあり、近年は研修メニューも拡充させています。セオリーとしては、上の人間が育たないとメンバー層も育ちませんので、特にこの数年はリーダー研修に注力してきました。具体的なメニューとしては、マネージャーのメンバー育成力を高める「目標設定研修」や「1on1研修」のほか、取締役自らが講師となって次世代の経営メンバーを育成する「Leadership Forward Program(LFP)」などを実施。「LFP」では、本部長向けのAdvancedコースに加え、ジュニア管理職向けのBasicsコースも新設し、新任管理職が躓きがちなポイントをサポートしています。

櫻橋 取締役の方々が講師を務めていらっしゃるということは、内製されているのですね。
石原 そうなんです。取締役が総出で関わり、メニューの多くを内製しているというのがポイントだと思います。マネーフォワードならではの考え方や使っているワードなどで研修を実施しようとすると、やはり内製したほうがいいんですよね。ですから現在は、できるだけ取締役をはじめとする役員が前に出て、会社のスタンスやビジョンなどもお伝えしながらリーダーの育成を進めています。LFPは手挙げ制ですが、その数は年々増えており、昨年は約250名から応募がありました。
櫻橋 リーダーシップ研修は合宿形式でもされているそうで、素晴らしいなと思います。最近は合宿研修を行う企業様が少なくなっているんですよ。
石原 そうですよね。弊社では、本部長向けのコースの中で合宿研修を取り入れています。軽井沢のキャンプ場で一泊二日で開催するのですが、座学だけではなく、体を使ったアクティブラーニングなども行うので、非日常的な刺激もあり、とにかく楽しいんです。またチームビルディングや参加者同士の交流などを通じて、部署の垣根を超えた強い絆が生まれるのも魅力だと思います。
ところで櫻橋さんは僧侶のお顔をお持ちですよね。実は弊社、今年の5月に全生庵という禅寺で座禅を取り入れた研修も実施したんです。
櫻橋 そうでしたか。私はこの仕事の傍ら、京都の東本願寺を本山とする真宗大谷派で僧侶もしているのですが、たしかに最近は各地のお寺で研修を実施する企業様が増えてきていますね。

石原 弊社が行ったのは、「Leadership Forward Program」とは別に、月に1回、経営陣と本部長クラスのメンバーが読書を通じて語り合う「読書セッション」という取り組みの一環です。今回は座禅に関する読書をした上で、座禅体験をさせていただくこととなりました。
櫻橋 きっと得がたい学びの機会になるでしょうね。ちなみに先ほど「失敗を許容する」というお話がありましたが、私が修行した浄土真宗の教えでは、人間とは失敗を繰り返すものであり、どんなに修行をしても悟りなど開けないと考えます。ですから我々の宗門で法話を聞いていただいたりすると、そういうことに気づかされるので、特に「俺の言うことを聞け!」「俺が一番だ!」というワンマン社長にはすごく効くんです。もちろん失敗を許容される御社の社長には必要ないと思います。
バックキャスト思考で人事戦略をデザインする
櫻橋 これまで御社は、従業員にとって働きがいのある環境づくりを非常に高いレベルで実現させてこられましたが、成功のための鍵、ポイントは何だったと思われますか?
石原 働き方改革や人的資本経営のような文脈を人事の中だけに閉ざさないことは重要かと思います。つまり人事部門だけが頑張るのではなく、経営陣や各事業部なども巻き込んで、すべての社員が自分事としてカルチャーづくりに向き合うことが大事だと思っています。例えば、キャリア採用においては、基本的に面接は各事業部で行います。現場ごとに責任を持って欲しい人材を採用し、育成しています。このように各事業部がオーナーシップを発揮できるような仕組みを構築してきたことが大きなポイントになっていると思います。
櫻橋 昔ながらの日本企業のように人事部門が人事権を持ってすべてを取り仕切るのではなく、御社のようにHRBPを立てて、事業部門が主導で組織づくりを進めるという流れになりつつありますよね。とはいえ、環境の変化が激しく、人的な予測が難しくなっていく中で、人事の担うべき役割も以前よりさらに大きくなると思います。そうした中、今後日本企業が従業員のエンゲージメントを向上させ、「働きがいのある会社」を実現していくためには、人事部門はどうあるべきだとお考えでしょうか?
石原 結局のところ、事業戦略と人事戦略をきちんと連動させたうえでの「働きがい」だと思っています。その際に必要なのは、バックキャストの視点です。「流行っているから入れてみよう」という感覚で、とりあえず施策だけインストールしようとすると、ちぐはぐな結果に行き着いてしまいます。ですから、事業のビジョン実現に向けて、どういう人材を育成すべきなのか、そのためにはどういう制度が必要なのかを逆算しながら人事戦略を設計していくことが求められると思います。

櫻橋 冒頭でお話された『Mission Vision Values Culture』を実現するために会社があり、事業部門があり、人事部門があると。そしてそれぞれがうまく連動し、機能しているからこそ、御社は「働きがいのある会社」になっているのだと感じます。今後さらに働きがいを高めていくために、どのような課題や展望をお持ちなのか、ぜひお聞かせください。
石原 弊社は今後、AI技術を最大限に活用し、企業の成長を加速させる取り組みとしてAX(AI Transformation)を推進していきます。このように事業自体が大きく変わっていく中で、社員はその変化に柔軟かつスピーディーに対応し、また自らの付加価値をより高めていかなければなりません。もしかすると今まで培ってきたスキルがまったく役に立たなくなってしまう可能性もあり、迷いや不安が生じることもあるでしょう。
そんな時代だからこそ、働きがいを持ち続けてもらうことが、より重要なテーマになってくると思うんです。「ここで働いていれば新しいことに挑戦できる」「社会に貢献できる人間になれる」と、すべての社員に感じてもらえるような会社になるために、多様な経験ができる機会の提供や研修の実施など、働きがい醸成の取り組みに引き続き注力していきたいと思います。
櫻橋 冒頭で「働きがい」とは「働きやすさ」と「やりがい」の両方を兼ね備えることだというお話をさせていただきましたが、後者の「やりがい」を作り出すためには、子供の頃に夢中になって遊んだようなフロー体験を、いかに仕事の中に再現できるかが重要だと思うんです。
そして本日、マネーフォワードさんのお話をお伺いし、「働きがいのある会社」というのは、そういった遊び心や楽しい雰囲気がありとあらゆるところに顔を出すのだと実感いたしました。それは経営層やマネジメントの方々が醸し出している雰囲気でもあるでしょうし、普段社内で交わされている言葉から生み出されるものでもあるのでしょう。そうした行動や言葉の蓄積こそがカルチャーであり、それを丁寧に整えていくことが大事だと改めて感じた次第です。本日はありがとうございました。
石原 こちらこそ、ありがとうございました。

・前編はこちら
https://www.hrpro.co.jp/miraii/post-3669/
【対談者プロフィール】
■石原 千亜希氏
株式会社マネーフォワード 取締役執行役員グループCHO DEI担当
2012年に有限責任監査法人トーマツに入所し、2015年に会計士登録。2016年にマネーフォワードに入社し、IPO準備などに携わる。マネーフォワードが上場後、経営企画部長・IR責任者として、海外公募増資、東証一部への市場変更、サステナビリティプロジェクトの立ち上げなどに従事。2021年に人事に主務を移し、同年よりPeople Forward本部 本部長として人事制度改定プロジェクトなどを主導。2023年、CHOに就任し、人事全体を統括。入社後も社員が働きがいを持って働けるような環境づくりをミッションに掲げ奮闘している。
■櫻橋 淳
株式会社HRインスティテュート 取締役 プリンシパルコンサルタント
大学卒業後、世界文化社にて女性誌などの編集に携わる。その後、グロービスにて組織開発コンサルティング、日本IBMにて戦略コンサルティング業務に従事した後、HRインスティテュートに参画。専門領域である新規事業開発、新商品開発、戦略立案、組織開発領域などのコンサルティングを通じて、クライアントを支援している。浄土真宗(真宗大谷派)僧侶。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科後期博士課程満期退学。英国国立ウェールズ大学経営大学院修了(MBA)。
