いい会社のいい商品なら、必ず多くのお客様に届けることができる――シャボン玉石けんが取り組む、成果の可能性を広げるPR戦略

無添加の石けんの製造・販売を手掛けるシャボン玉石けん株式会社 取締役 営業本部長 松永康志氏に、株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 プリンシパルコンサルタント 三坂健が、「マーケティング」をテーマにインタビュー。15年間で売上を2倍に導いたPR戦略、経営理念に沿ったプロジェクトのつくり方等、よい商品をより多くの人に届けるための秘訣を伺った。(以下敬称略)

目次

いい会社のいい商品なら、絶対に伸ばせる

三坂 今回のテーマである「マーケティング」について伺う前に、松永さんがシャボン玉石けんさんに転職されるきっかけをお聞きしてもよろしいでしょうか。

松永 シャボン玉石けんに転職する前は、外資系グローバル企業でマーケティング業務に携わっていました。日々やりがいを感じながら仕事をしていたのですが、上の娘が2歳、下の娘が生まれそうになった頃から、「海の近くで暮らしたい。田舎生活をさせたい」と思うようになったんです。当時、横浜に住んでいたので、鎌倉や逗子などの候補地がありましたが、妻も北九州市出身で、両親も高齢になってきたこともあり、地元の福岡に戻ることを考えるようになりました。

三坂 「海の近く」以外に、転職する際の譲れない条件はありましたか。

松永 ずっとマーケティング畑を歩んできましたので、マーケティング分野で力を発揮したいということと、心から人に勧められるような商品やサービスを手掛けたいと考えていました。

三坂 その条件に合致したのが、無添加の石けんを製造・販売している、シャボン玉石けんさんだったのですね。ちなみに、転職に際しては、お知り合いの方やヘッドハンターを経由して応募されたのでしょうか。

松永 実は当時は、シャボン玉石けんにはマーケティング部門もなければ、マーケティング関連職の募集もされていませんでした。ですので、「自分はこういう仕事をしてきた人間で、こういったお役に立てると思います」という内容のエントリーシートを直接本社宛に送りましたね。今思えば、無鉄砲な気もしますが、「シャボン玉石けんはいい会社で、商品もいいから、絶対に伸ばせる」という根拠のない自信をもっていました。

三坂 根拠はない自信とおっしゃいましたが、実際に松永さんが入社されてから15年くらいで売上は2倍以上になっていますよね。

松永 当時は売上がやや低迷していたタイミングでした。そこから売上が伸びたのは、コロナ禍で衛生用品が注目されたことや、健康意識の高まり、SDGsや環境意識の高まりといった社会的な要因に加えて、一緒に働く仲間にも恵まれた結果だと思っています。

入社後はマーケティング部をつくってもらいました。それまで商品開発は研究開発部、広告は代表、広報は総務部のように業務が分かれていたものをマーケティング部に一元化することにしました。その上でまず取り組んだのは、商品のリニューアルです。デザインを統一したり、商品特長ではなく商品ベネフィットを伝えるようにしたり、工場には負担を掛けてしまいましたが……、数年で主要商品を全てリニューアルしました。

※2010年、社長自身が登場した新聞広告「無添加を疑え。」表面
※2010年、社長自身が登場した新聞広告「無添加を疑え。」裏面

また、広告はTVCMが中心でしたが、新聞や雑誌、ウェブ、OOHなど、目的に応じて使い分け、広報にも力を入れました。地方企業なので東京のメディアをフォローしてもらうために、PR会社とも契約をしました。今でも広報には注力しています。

三坂 営業活動ではどのような取り組みをされましたか?

松永 当社と同じく北九州市に本社のあるドラッグストアのサンキュードラッグ様がID-POSを活用した潜在需要発掘研究会というものを開催されており、そこに加盟して、購入者のデータを分析するところからスタートしました。「いつ、どんな人が、何を、いくつ買ったか」等のデータを集めて分析することで、お客様像(ペルソナ)をイメージすることが可能になり、結果的に、営業の意識は直接の取引先である卸売業様や小売業様だけではなく、お客様にも向くようになっていきました。営業のマインドシフトにもつながったと思います。

大きな予算を投下する広告よりも、アイデア勝負のPRの可能性を広げる

三坂 御社の場合、化学物質や合成添加物を一切使わないものづくりをされており、商品としての差別化に成功していると感じています。業種やプロダクトの特性によって最適なマーケティング手法は変わってきますが、御社の商品にはどのような手法が適しているとお考えですか。

松永 今年2025年に当社は創業115年を迎えました。昔は合成洗剤を製造していましたが、前社長の森田光德が自社商品の合成洗剤が肌や環境に与える影響に気が付き、悪いと分かった商品を売るわけにはいかないという強い想いから合成洗剤を一切やめて無添加石けんに切り替えたこと、その後、売上は1%以下まで落ち、17年間も赤字が続いたことなどのストーリーや、モノづくりのこだわりや無添加石けんの魅力、会社の理念に共感して働いている社員など、コミュニケーションの土台となる要素はたくさんあります。このストーリーや会社の想いを広告はもちろん、講演会や工場見学、イベント、SNSなどで地道に伝えています。最近は、ドラッグストアさんやスーパーさん等の小売業様が展開する「リテールメディア」の活用も進めています。

三坂 たしかにECサイトやアプリと連動可能なリテールメディアの場合、お客様にまつわるさまざまなデータの取得が可能で、さきほどおっしゃっていた「ペルソナ」の把握・分析の精度があがりますね。

松永 ブランディングについては、個人的には広告よりもPRという考えを持っています。広告予算が少ない中、広報・PRはアイデア次第で大きな成果を出せると考えています。

三坂 以前、御社の社長が都内でセミナーに登壇されるとお聞きした際、直接お話を聞ける機会は滅多にないと思って参加しましたが、そういったセミナーや講演もPRの一環として行なっているのでしょうか。

松永 おっしゃるとおりです。当社代表の森田隼人は自ら積極的に講演会やセミナーなどで登壇をさせていただいております。今回のミライイさんの取材も会社のことをPRできるのでとても有難いです。できるだけセミナーや取材のご依頼があればお受けするようにしています。

三坂 セミナーとはちょっと違いますが、最近、松永さんは「朝活」にも参加されているとお聞きしました。

松永 毎朝6:00から瞬読を開発された山中恵美子さんのコミュニティーのオンライン朝活に参加しています。ある日、山中さんがシャボン玉石けんのことを話してくれて、その朝活運営のメンバーの1人がたまたま私の前職時代の知り合いで、そこからご縁がつながって、オンラインの講演をさせていただきました。講演を聞いてくれた200名を超える方々が当社の商品をご購入いただき、100名以上の方が当社通販の会員にもなっていただきました。さらにはメンバーの方々がわざわざ北九州まで工場見学にも来ていただきました。共感する仲間が集まるコミュニティーの強さを体感しました。

三坂 松永さんとはかれこれ10年以上のお付き合いになりますが、松永さんは公私の区別がないというか、プライベートの出会いが仕事につながったり、仕事の出会いがプライベートにつながったりしますよね。

松永 そうですね。あまりプライベートと仕事を切り分けられないですね。仕事の延長にプライベート、プライベートの延長に仕事のような感じです。

先ほどの山中恵美子さんのご縁で、陽転思考の和田裕美さんや出前館創業者の花蜜さんなど、他にも多くの方々とのご縁が広がっています。環境評論家の船井俊介さんや食品添加物の専門家の安部司さん、ミネラルの大切さを広げている国光美佳さんや中戸川貢さん、ウェルビーイングを広げている島田由香さん、世界的に有名な指揮者の佐渡裕さんなど、当社の企業理念や商品に共感してくれている方々からも応援をしていただいております。

三坂 身体がいくつもあるのではないかと疑いたくなるくらい飛び回っていらっしゃいますね。北九州にはほとんどいないんじゃないですか?

松永 そんなことはないんですが、不在が多いので、先日、「子どもたちがお父さんは私たちに関心がないのではないかと言っていた」と妻経由で聞かされて、ショックでしたね。神社で参拝する際は一番に家族を幸せにしますと誓っているのですが、あまり実行できていないようです……。

三坂 松永さんが家族のことを大切にされているのは私も存じ上げているので、伝わっていると思いますよ。

企業理念に根差したPR活動を続ける

三坂 話をマーケティングに戻しますね。さきほど、広告よりもPRというお話がありましたが、御社は新聞に「香害」についての意見広告を出されていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

※2018年6月9日に毎日新聞に掲載した全面広告「香害を知ってください。」

松永 今でこそ「香害」という言葉が認識されるようになりましたが、以前から香料だけでなく、洗剤や建材等に含まれる化学物質が原因で体調を崩される方はいらっしゃいました。私たちは以前から消費者の意識調査等で、お客様の中に化学物質過敏症の方がいらっしゃることは把握しており、そうしたお客様に対しては、特別な包装で商品をお届けするなど、できるだけの対応を行なっています。そうした背景もあり、「健康な体ときれいな水を守る。」を企業理念としている私たちとして、化学物質が原因で体調を崩されている方の存在を、もっと世の中に発信していく必要があるのではないかと考え、意見広告や講演などで啓発活動をしております。

三坂 化学物質過敏症については、小雪さんがナレーションをされているドキュメンタリー映像『カナリアからのメッセージ』も制作されています。他にも、売上の1%を人と環境にやさしい活動に寄付する「1% for Nature」を実施したり、森林火災・泥炭火災の消火用にインドネシアに提供していた植物への影響が少ない「石けん系消火剤」を戦争が続くウクライナにも物資支援されたとお聞きしています。

松永 国内では、被災地支援という形でハンドソープやボディソープ等を無償で提供しています。今回の能登半島地震では下水道が破損したこともあって、洗濯用の石けんのご要望が多かったですね。あと、大きなプロジェクトとしては、福岡県宗像市と地島(じのしま)の島民のみなさまにご協力いただき、生活排水の環境及び生物への影響調査を2021年9月から11月にかけて実施しました。「未来の海を守る 島まるごと無添加石けん生活」と題して、宗像市、山口大学、九州環境管理協会と一緒に研究成果も発表していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

要点をお伝えすると、140名ほどいらっしゃる島民の方々に無添加の石けんを使って生活していただき、「水」にどのような影響を与えるかを調査したところ、下水処理場の曝気槽内で汚泥状況が良好な場合に現れる微生物が見つかったり、水の汚れの指標として使われるBODの数値が下がり、海に放出される汚れが減少するなどの成果を出すことができました。

三坂 地島で採れる「天然わかめ」は皇室にも献上されているとお聞きしていますので、島民の方々もお喜びになったのではないでしょうか。それだけ精力的に活動されている松永さんは余人をもって代えがたい存在だと思いますが、若手の育成等はどうされているのでしょうか。

松永 私がいなくても回る体制はできています。たとえば、若手が中心になってZ世代向けのプロモーションを企画・運営しているのですが、「このクリエイティブはどうですか?」と聞かれても、誤植の指摘はできても、内容の良し悪しは私にはわかりません。ですので、今はマーケティング業務のかなりの部分をチームメンバーに委ねています。

三坂 最後に、今後の目標についてお聞かせください。

松永 国内はもちろんですが、海外の方々にも今以上に無添加の石けんを使っていただきたいと考えています。最近は輸出先としてフィリピンやベトナムなど新たな国が増えました。最近はインドネシアやマレーシア、モンゴルなどへも販路を広げています。また、インドや中東などにもいつか展開したいです。節水技術で有名なDG TAKANOさんとともに、サウジアラビアの国家プロジェクトでコラボレーションし、水が少ないサウジアラビアで環境負荷の少ない石けんを広げたいと考えています。

三坂 今以上に海外の方々に使っていただけるようになると、また現場の方々は忙しくなりそうですが、環境によいプロダクトは日本の強みでもあり、競争優位性もありますね。本日はありがとうございました。

松永 こちらこそありがとうございました。次は小倉の飲み屋さんでご一緒しましょう。

三坂 楽しみにしております。

対談者プロフィール

■松永 康志氏/シャボン玉石けん株式会社 取締役 営業本部長
早稲田大学社会科学部卒業後、電機や食品、家庭用品などの外資系グローバル企業に入社し、マーケティング業務を経験。その後、2009年にシャボン玉石けん株式会社に入社。商品企画、広告、広報、販促などのマーケティング業務に従事。2014年からはマーケティング部、営業部、通信販売や工場見学・出張授業などを行う石けん推進部の3部門を統括し、2019年からはSDGsも推進。2021年より現職。

■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。

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