行動経済学とは?マーケティングや人事領域に役立つ理論も紹介

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従来の伝統的な経済学では説明できない人間の行動を研究する「行動経済学」。合理的とはいえない人間の心理や行動を踏まえた学問であり、行動経済学の理論はマーケティングや人材マネジメントなどで活用できます。

この記事では「行動経済学」を取り上げ、経済学との違いやビジネスに役立つ理論をご紹介します。

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目次

行動経済学とは

行動経済学(Behavioral Economics)とは、経済学と心理学を組み合わせた新しい研究分野です。人間が必ずしも合理的に行動するとは限らないことを前提に、経済社会において人々がどのように意思決定を行うかを研究する学問です。この分野では、感情や直感、認知バイアスなどが経済的判断に与える影響を考慮し、より現実的な人間の行動を理解することを目指します。

2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が行動経済学の先駆者として知られています。カーネマン氏の受賞をきっかけに、行動経済学という分野が世界的に注目されるようになりました。その後、リチャード・セイラー氏やロバート・シラー氏など、行動経済学に関連する研究者も増えており、この分野の重要性は広く認識されています。

行動経済学の研究成果は、ビジネス、政策立案、投資判断など、幅広い分野で応用されています。特に、消費者行動の理解や効果的なマーケティング戦略の立案、金融商品の設計などにおいて、行動経済学の知見が活用されています。

行動経済学と経済学の違い

経済学は、人間を「超合理的」「超自制的」「超利己的」な経済人と仮定し、経済社会における人間の行動を分析する学問です。この前提に基づき、人々は常に合理的な意思決定をおこない、自分にとって最大の利益を追求すると考えられています。

一方、行動経済学は、人間の実際の行動がこの仮定とは異なることに着目しています。現実の人間は、必ずしも合理的な判断をするとは限りません。感情や直感に影響され、非合理的な行動をとることも少なくありません。

たとえば、経済学では消費者は常に最適な選択をすると仮定しますが、行動経済学では消費者が感情や習慣に左右されて必ずしも最適な選択をしないことを認めています。また、経済学では人々は常に長期的な利益を考慮すると想定しますが、行動経済学では目先の利益を優先する傾向があることを指摘しています。

このように、行動経済学は伝統的な経済学では説明できない、より現実的な人間の経済行動を理解するために生まれた学問です。心理学の知見を取り入れることで、人間の意思決定プロセスをより深く分析し、経済現象をより正確に説明することを目指しています。

行動経済学のビジネスへの活用

行動経済学の知見は、ビジネスの様々な場面で活用することができます。行動経済学を学ぶことで、人間の非合理的な行動パターンや心理的バイアスを理解できるようになります。これにより、企業は顧客や社員の行動をより正確に予測し、適切な対応を取ることが可能になります。

ビジネスにおいては、主にマーケティングと人事の領域で行動経済学が活用されています。ここでは両領域での活用方法について詳しく紹介していきます。

マーケティング領域

マーケティングでは、消費者心理を深く理解することで、より効果的な販売戦略やプロモーション活動を展開できるようになります。行動経済学の知見に基づき、消費者がどのような意思決定プロセスを経て購買行動に至るかを分析し、より現実に即した効果的なマーケティング施策を実行できます。

たとえば、商品のパッケージデザインや価格設定、プロモーション戦略の立案など、様々な局面で行動経済学の知見を活用することで、消費者の心に訴求し、購買意欲を高める効果的なマーケティング施策を展開できます。

人事領域

人事領域では、社員との良好な関係性を築きつつ、社員のモチベーションを向上したり、生産性を改善したりすることに行動経済学の理論が役立ちます。評価制度や報酬制度の設計、職場環境の整備において、人間の心理的特性を考慮することで、より効果的な人材マネジメントが可能です。また、採用活動においても行動経済学を用いることで自社にポジティブなイメージを持ってもらいやすくなり、多くの求職者の関心を集めることができます。

さらに、人材育成プログラムの策定においても、行動経済学の観点から社員の学習意欲を高める工夫を取り入れることで、より効果的な人材開発を実現できるでしょう。

行動経済学の理論

ここでは、ビジネスで活用できる行動経済学の代表的な理論を紹介していきます。これらの理論は、人間の非合理的な行動パターンや意思決定プロセスを説明するものです。各理論を学ぶことで、人間の行動や意思決定に関する深い洞察が得られ、ビジネスにおける様々な課題解決に役立てることができるでしょう。

ハロー効果

ハロー効果とは、特定の顕著な特徴が全体の評価に影響を及ぼす心理現象です。人は何かを評価する際に、目立った特徴に引きずられて他の特徴の評価が歪んでしまうことがあります。たとえば、学歴が高い人物は能力も高いと評価されがちであったり、好感度の高い芸能人が宣伝する商品は魅力的に映りやすくなったりする現象がハロー効果の一例です。

この効果は人事評価やマーケティングにおいて無意識のうちに生じるため、公平で客観的な評価を行うためには明確な評価基準を設けるなどの対策が必要となります。ビジネスにおいては、この効果を理解し適切に活用することで、商品やサービスの印象向上につながる可能性があります。

サンクコスト効果

サンクコスト効果とは、すでに投資したコストに引きずられ、非合理的な意思決定をする現象のことです。人は何かを判断するとき、これまでに費やした労力が無駄になることをおそれ、合理的な判断ができなくなることがあります。たとえば、途中まで読んだ面白くない本を最後まで読み切ってしまったり、すでに多額の投資をした事業が失敗しそうでも撤退できなかったりする状況が該当します。マーケティングにおいては、サブスクリプションサービスや無料お試し期間、会員ランク制度などを設けることでサンクコスト効果が働き、消費者の購買意欲を高めることができます。サンクコスト効果を活用することで、顧客との長期的な関係構築へつながる可能性があります。

プロスペクト理論

プロスペクト理論とは、損失の痛みが利益の喜びよりも大きく感じられる心理現象です。人は「得をしたい」よりも「損をしたくない」気持ちのほうが強く、損失を避ける行動を過大評価する傾向にあります。この理論は、人間の意思決定プロセスにおける非合理性を説明する重要な概念です。

人材育成においては、社員が失敗を恐れることなく挑戦できる環境を整えるとともに、そのチャレンジを給料や人事評価にも反映させることでモチベーションの向上につなげられます。たとえば、新しいプロジェクトへの参加を促す際、失敗のリスクを最小限に抑える仕組みを用意することで、社員の積極的な参加を促すことができます。

また、マーケティング戦略においても、プロスペクト理論を活用することができます。たとえば、商品の利点を強調するだけでなく、その商品を使用しないことによる潜在的な損失や不利益を明確に示すことで、消費者の購買意欲を高めることが可能です。このアプローチは、特に健康関連製品や保険商品の販売において効果的だと考えられています。

アンカリング効果

アンカリング効果とは、最初に提示された情報がその後の判断に強く影響を与える現象です。この効果は、人間の意思決定において重要な役割を果たします。人材採用においては、他社よりも高い年収例で募集をかけることで、自社に対してポジティブな印象を持ってもらいやすくなります。これは、最初に提示された高い年収が応募者の期待値を設定し、その後の判断の基準点(アンカー)となるためです。

一方で、アンカリング効果は情報量が少ない状況下で働くバイアスであり、人々が多くの情報を得られる状況では効果を発揮しにくい点に注意が必要です。そのため、単に高い年収を提示するだけでなく、企業の魅力や成長機会など、多角的な情報提供を行うことが重要となります。

ハーディング効果(同調効果)

ハーディング効果とは、多数の人と同じ行動を取る現象のことです。たとえ非合理的な行動であったとしても、自分が集団から外れることを避けるために、他の人々の行動に追随することがあります。この効果は「群れ行動」とも呼ばれ、人間の社会的な本能に根ざした心理メカニズムです。マーケティングにおいては、ハーディング効果を利用して流行を作り出すなど、商品・サービスの人気を高める戦略として活用されます。

たとえば、行列ができているお店に行ってみたい、多くの友人が持っている化粧品を自分も手に入れたいというのがハーディング効果による現象の一例です。また、SNSでの「いいね」数や口コミ評価の数を表示することで、商品やサービスの信頼性や人気度を高める手法もこの効果を応用したものといえるでしょう。

現在志向バイアス

現在志向バイアスとは、将来の利益よりも現在の利益を優先する心理のことです。未来に大きな利益があったとしても、人はすぐに手に入る小さな利益のほうを優先してしまうことがあります。人材採用においては、募集要件を緩和して短期間で人員を確保しようとすることが現在志向バイアスにあたります。このバイアスが働くと、目先の人材を優先してしまい、より要件に合致する人材を逃してしまう可能性があります。

たとえば、企業が新規プロジェクトを立ち上げる際、長期的な視点で最適な人材を慎重に選考するよりも、即戦力として働ける人材をすぐに採用してしまうようなケースがこれに当てはまるでしょう。しかし、このような短期的な視点での採用は、長期的には企業の成長や競争力に悪影響を及ぼす可能性があります。

認知的不協和

認知的不協和とは、自分の信念や行動が矛盾する際に感じる不快感のことです。たとえば年下の同僚が自分よりも早く出世した場合、自己評価と現実とのギャップで不協和が生じることがあります。この場合は「今は年功序列の時代ではないから」「あの人は上司に気に入られているから」などと思い込んで自分を納得させ、認知的不協和を解消しようとします。また、会社の方針に疑問を感じながらも、自分の立場を守るために「会社の判断は正しい」と考えるようなケースもあります。このような状況下では、組織の問題点を見過ごしてしまう危険性があるため、客観的な視点を持つことが重要です。

ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、問題解決や意思決定において迅速に判断を下すための経験則や直感的手法のことです。これまでの経験や先入観に基づき、正解に近い答えをスピーディーに導き出すことをいいます。短時間のテレビCMで視聴者の記憶に残るようなキャッチーな映像を使い、感覚的に「欲しい」「買いたい」と思わせるのにこの理論を活用しています。ヒューリスティックは、複雑な状況下で素早く判断を下す必要がある場合に特に有効です。ただし、時として偏見や誤った結論につながる可能性もあるため、重要な決定を行う際には慎重に検討することが望ましいでしょう。

確証性効果(確証バイアス)

確証性効果とは、自分の信念や先入観を支持する情報のみを選択的に集め、それに反する情報を無視または軽視する傾向のことです。人材採用においては、理想の人物像に合う新入社員が活躍すると、その理想像が正しいと確信しやすくなります。このバイアスが強くなると、無意識のうちに自分の価値観を肯定してくれる都合のよい情報しか見なくなり、差別や偏見を助長させるおそれがあります。また、企業の意思決定においても、既存の戦略や方針を支持する情報のみに注目し、市場の変化や競合他社の動向を見逃してしまう危険性があります。

何かを判断するときは「それが本当に正しいかどうか」を自分に問いかけたり、第三者からの客観的な意見を取り入れたりすることが大切です。さらに、多様な視点や異なる意見を積極的に求め、自身の考えを批判的に考える姿勢を持つ姿勢を持つことで、より公正な判断や意思決定が可能になります。

利他性(社会的選好)

利他性とは、他人の利益を優先して行動する傾向のことです。自分が得をしない、経済的な観点で考えると非合理的な行動といえます。しかし、利他的な行動は社会的貢献感を伴い、行動を起こした本人の幸福度が高まるといわれています。その典型的な事例として寄付やクラウドファンディングがあります。また、ボランティア活動や環境保護運動への参加も利他性の表れといえるでしょう。企業の社会貢献活動も、長期的には企業イメージの向上や顧客ロイヤリティの強化につながる可能性があります。

フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ情報でも提示方法によって人々の判断が変化する現象のことです。採用活動においては、ポジティブな表現を用いることで自社のイメージを向上させ、応募者の興味を引くことができます。たとえば「離職率10%」と「定着率90%」は意味としては同じですが、よりポジティブな表現である「定着率90%」をアピールするほうが効果的な採用活動につながりやすいでしょう。この効果は、商品やサービスの販売促進にも応用可能です。たとえば、「5%の確率で当たる」よりも「20人に1人が当たる」という表現のほうが、消費者にとって当選確率が高く感じられる場合があります。フレーミング効果を意識することで、より効果的なマーケティング戦略を立てることができます。

デフォルト効果

デフォルト効果とは、複数の選択肢があるときに、あらかじめ設定された選択肢(=デフォルト)を選びやすい現象のことです。人々は意思決定の際、労力を避けるために、デフォルトとして提示された選択肢を受け入れる傾向があります。千葉市での「育児休業の取得」をデフォルトとした事例は、この効果の有効性を示しています。市は育休を「取得する理由」ではなく「取得しない理由」を申請する運用に変更しました。この結果、男性職員の育休取得率が大幅に向上しました。この事例は、選択肢の提示方法を変えるだけで、人々の行動を大きく変えられることを示しています。

デフォルト効果は、企業や組織の様々な場面で活用できます。たとえば、社員の健康保険プランの選択や、環境に配慮した商品の購入促進など、幅広い分野で応用が可能です。ただし、この効果を利用する際は、倫理的な配慮も必要です。デフォルト設定が個人の自由な選択を妨げないよう、慎重に設計することが重要です。

参考:我が国の行政機関におけるデフォルトの活用事例|環境省

エンハンシング効果

エンハンシング効果とは、外発的動機づけによって内発的動機づけが高まる心理現象のことです。具体的には、他者からの称賛や期待を受けることで、自分自身の内発的なモチベーションが向上する現象です。部下のマネジメントにおいては、行動の過程を具体的に褒めることで、部下のやる気を引き出すことができます。行動による「結果」ではなく、「行動そのもの」や「努力」を褒めることがポイントです。この効果を活用することで、組織全体の生産性や創造性を高めることができる可能性があります。

まとめ

行動経済学とは、人々が必ずしも合理的に行動するとは限らないことを前提に、経済社会における意思決定のプロセスを研究する学問です。行動経済学は、ビジネスの様々な側面で活用されています。特にマーケティング活動や人材マネジメントにおいて、消費者や社員の心理を読み解き、効果的な戦略を立てるのに役立ちます。さらに、行動経済学の知見は、企業の採用活動や社員教育にも応用できます。

行動経済学を学び、その理論を実践に活かすことで、消費者や社員の行動をより正確に予測し、効果的な施策を打ち出すことができるでしょう。

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