「新卒」はAIに代替されるのか。なぜ新卒を採るのか問い直す、AI時代の採用戦略と組織のあり方
学生は生成AIでエントリーシートを整え、企業は生成AIで応募者を分析する――そんな「AI対AI」ともいえる状況が、すでに選考の場で生まれています。企業はなぜ新卒を採るのか、何を評価し、どう育てるのか。本記事では国内外の動向から、AI時代における新卒採用の意味と、人事に求められる視点を考えます。
AI時代の採用現場で今起きていること
就活生の約8割がAIを活用
HR総研と就活会議の調査によれば、26卒学生のAI活用率は73%に達し、25卒の41%からわずか1年で急増しました。用途も、かつてのエントリーシート(ES)作成・添削中心から面接対策や企業研究にまで広がっており、自己分析から志望動機、面接台本までを生成AIに丸投げして複数社から内定を得る学生も現れています。
【図表1】就職活動への生成AIの活用(26卒学生と25卒学生の比較)

企業側にとっての論点は二つあります。一つはESの均質化です。AIが整えた文章は読みやすく構成も似通うため、書類段階で応募者の違いを見極めにくくなりました。もう一つは、オンライン面接の一般化に伴い、面接中に生成AIで回答を補助させる候補者が現れていることです。質問をリアルタイムで解析させて回答案をその場で提示させれば、自分で考えずに「受け答え」を再現できてしまいます。
企業側のAI活用で「AI対AI」化する選考現場
企業側も採用にAIを取り入れる動きを加速させ、最適化の攻防が起きています。HR総研の調査によると、学生がAIで作成したESに「対策する意向」を持つ大企業は6割以上に上ります。
【図表2】学生によるエントリーシート作成への生成AI活用への企業側の対策状況

実際にローソンやキリンホールディングス、ウエルシアはAI面接官を導入し、ソフトバンクも2023年から動画面接のAI分析システムを活用するなど、選考現場における『AI対AI』の最適化の攻防が激化していているのです。
その一方で、ESを廃止し選考初期から対話を重視する動きも出てきました。ロート製薬はESを廃止して初期段階に15分間の対話を導入し、日立製作所は「ガクチカ」を問う形式をやめて社会課題解決のプレゼン選考へ移行、ソフトバンクもESに代えて動画面接や対話を活用しています。
また、海外の採用現場でもAI化が急加速しています。LinkedInの調査によれば、採用担当者の73%が「AIが採用を変える」と予測しており、37%の組織がすでに生成AIを導入・試験運用しています。さらに米AI企業Anthropicによると、全米売上高トップ10企業の8割がすでに同社のAIを導入しており、グローバル企業においてAI活用はもはや避けては通れない状態となっていると考えられます。
出典:The Future of Recruiting 2025 | LinkedIn
Anthropic raises $30 billion in Series G funding at $380 billion post-money valuation
国内外の最新トレンド:AI×採用の国内外のトレンド
米国でエントリーレベル求人がすでに35%減、その代償
AIの影響は、採用の入り口そのものにも及び始めています。米国では2023年以降、新卒・未経験(エントリーレベル)の求人件数が35%以上減少したという調査結果があります。月間に換算すると、新規求人が10万件以上消えた計算です。目に見える大量解雇ではなく「新卒・未経験採用の静かな縮小」として影響が現れていると、専門家は指摘しています。
背景にあるのは業務構造のシフトです。リサーチや事務作業といった登竜門となる若手のタスクをAIが代替できるようになったことにより、企業は若手枠をカットして、そのぶんの予算をAIで自身の能力を拡張できる中堅・ベテラン層の採用に回すようになりました。
ただし、若手の削減は思わぬ誤算も生みます。また、AIの出力ミスの修正やダブルチェックが中堅・ベテラン層に集中し、かえって業務過多を招くケースも出ています。実際、直前に新卒採用を18%削減していた大手コンサルティングファームでは、AIのハルシネーションを含む報告書を提出し、返金を余儀なくされる事態が発生しました。
出典:Is AI responsible for the rise in entry-level unemployment? | Revelio Labs
Companies replaced entry-level workers with AI. Now they are paying the price
国内企業でも起こる新卒の厳選・削減
海外で先行する採用抑制の動きに対し、国内の新卒求人需要は深刻な人手不足などを背景に、今のところ底堅く推移しています。リクルートワークス研究所が2026年2〜3月に実施した調査でも、AIなどの進展が新卒採用数に及ぼす影響について約7割(68.8%)の企業が「変わらない」と回答しており、マクロな採用数の急減は現時点では確認されていません。
【図表3】AIなどテクノロジーの進展が新卒採用数に及ぼす影響

しかしその一方で、AIの利活用や業務効率化の進展を見据え、新卒の「厳選採用」や「採用抑制」へと舵を切り始めた大手企業も現れています。
三菱電機は、AI活用や業務効率化の進展状況を考慮し、2026年度の新卒採用を前年から2割程度減らす計画を発表しました。ENEOSは事務系・IT企画で27年卒の採用を見送り、主要グループ全体では約2割の削減となりました。同社のCHROは「大量採用してぜいたくに使う余裕はもう許されない」と述べています。
削減幅がとりわけ大きいのがクボタで、前年455人だった採用を280人へと約4割、大卒・大学院卒に限れば239人から60人へと約7割減らしています。また、富士通ではジョブ型人事制度への移行に伴い、従来の新卒一括採用を廃止してインターンシップを拡充しています。全体としては横ばいでも、先行企業から構造が変わり始めているのが国内の現在地です。
「AI活用」によって二極化する企業の戦略思想
注目したいのは、AI導入がすべての企業を同じ方向に導いてはいない点です。HR総研の調査では、大企業の72%が「AI活用による特定業務・部門での必要な人材の増強・削減がある」と回答しました。
【図表4】27卒採用で、AI活用による特定業務・部門での必要な人材の増強・削減の有無

この回答に「削減」と「増強」の両方が含まれる点が重要です。AIを導入した結果として「人を減らす企業」と、「新たな領域へ人を増強・投資する企業」という二極化はすでに始まっています。
| 比較項目 | パターンA:コスト削減・代替型 | パターンB:価値創造・拡張型 |
| AIの役割 | 人間の仕事を代替、頭数を減らす | 人間の能力を拡張し、価値を増幅させる |
| 新卒の位置づけ | 削減対象(代替可能な業務担当) | 育成対象(AIを使いこなす次世代候補) |
| 主な目的 | 採用・教育コストの最適化 | 新規事業・高付加価値領域への進出 |
| リスク | 10〜15年後の中堅層不足・技術承継の断絶 | 育成スピードがAIの進化に追いつかない形骸化 |
パターンA:AIで業務を代替しコストを削減
一つ目は、AIを「人間の仕事を代替し、頭数を減らすもの」と位置づける考え方です。AIが代替できる業務に新卒・若手を充てる必要がなくなるため、採用を少数の即戦力・中途プロ人材に絞ります。
動機として大きいのがコストです。1人あたり約50万〜100万円の採用コストや入社後の教育費用を抑えるため、新卒層が担ってきた業務をAIに置き換える企業が少なくありません。前述したENEOSのCHROの言葉が象徴するように、この判断の先にあるのは「新卒を一括採用し、時間をかけて育てる」という従来の前提の崩壊です。即戦力・専門性重視への転換は、「ポテンシャル採用・一括育成」という日本型採用モデルそのものの見直しを迫ります。
ただし、リスクも伴います。海外事例で見た中堅・ベテラン層への皺寄せに加え、長期的には10〜15年後の中堅・ベテラン層の空洞化という問題です。今日の新卒は、10年後の中核人材にほかなりません。
パターンB:AIで浮いたリソースを高付加価値業務・新規事業に活用
もう一つは、AIを「人間の能力を拡張し、価値を増幅させるもの」と捉える考え方です。効率化したリソースを人員削減ではなく、人間にしかできない高付加価値領域への再投資に使います。パターンAの目的が「AIで代替できる業務のコスト削減」であるのに対し、パターンBの目的は「AIを使いこなす人材が生み出す新しい価値」です。
ソフトバンクでは、全社員にAIを使う力をつける施策の結果、1,000名規模の社員がAIやクラウドといった次世代の新規・成長領域へ挑戦しています。
世界的な会計コンサルティングファームであるPwCが2026年に発表した調査によると、AIを最も積極的に活用している企業は、活用が進んでいない企業と比較して、労働生産性の伸びで3倍リードしています。AIは雇用を奪うどころか、成長や新市場への参入に使われることで雇用を拡大しうるのです。
また、求人サイトを運営するIndeedの研究機関「Indeed Hiring Lab」によると、米国では現場のAI実装を担う「FDE」の求人が前年比約10倍に急増し、年収の中央値は約3,200万円を突破しました。
日本でも、日本マイクロソフトによる6,000人規模の支援部門新設や通信大手のAI研究支援に見られるように、AI実装人材の獲得競争が激化しています。
もっとも、パターンBにも育成スピードがAIの進化に追いつかず、施策が形骸化するリスクがあります。方針を掲げるだけでなく、投資の中身と速度が問われます。
出典:AI Jobs Barometer | PwC
米では年収3200万円の「FDE」、AI時代の新花形職種が映す課題 – 日本経済新聞
コンサルタント目線の考察:組織が問い直すべき5つのこと
重要なのは、自社がどちらの思想に立つのかを自覚的に選ぶことです。その判断に必要な5つの論点を整理します。
➀なぜ新卒を採るのか
これまでの新卒採用は「ポテンシャルのある若手を、時間をかけて育てる」という前提の上にありましたが、AIによる業務構造の変化でその前提は崩れつつあります。実際、HR総研の調査によれば、AI活用をふまえて新卒採用のターゲット層を「既に見直した」と回答した大企業が44%、「見直す予定」が26%と、あわせて70%が見直しに動いています。
【図表5】AI活用をふまえた新卒採用ターゲット層の見直しの状況

採用目的を言語化できない企業は、戦略の選択すらできません。「なぜ新卒を採るのか」の答えが出て初めて、自社に合う戦略が見えてきます。
②何を評価するか
AIが書いたESや面接台本が当たり前になり、評価基準そのものが機能不全を起こしつつあります。大企業の6割以上が「ES作成でのAI対策を実施する意向」を示しているのも、その裏返しです。文章力や想定問答への対応力は、もはや評価基準として機能しません。代わりに問われるのは「AIをうまく使えるか」、あるいは「AIに代替できない人間的スキルがあるか」です。
同調査でも大企業の約7割(66%)が「人間ならではの能力・資質」の重要性が高まると回答し、変化適応力や自律的に学び続けられる人材が重視されています。
【図表6】AIの急速な進展・普及をふまえて、新卒採用における「人間ならではの能力・資質」の重視度の変化

そしてAI対AIの競争で均質化が進むからこそ、対面の場が差別化になります。実際に会って素の姿やコミュニケーション能力を見極めるカジュアル面談など、対面機会の設計がより重要です。
③いつまでに、どう育てるか
若手が担ってきたルーティン業務をAIが代替することで、今の若手には入社早期から判断・創造・AIアウトプットの検証といった役割が求められます。
とりわけ重要なのが、AIの粗悪な出力(ハルシネーション)によるトラブルを防ぐ力です。出力を鵜呑みにせずレビュー・監視し、専門家にエスカレーションできる判断力やリスク管理能力を早期から育てることが重要です。「新人に何をいつまでに身に付けさせていくのか」という、育成戦略の問い直しが求められています。
関連プログラム:HRI公開セミナー【3時間】生成AIを活用した業務効率化研修
④人事自身はAIを使えるか
人事担当者自身のAIリテラシーも問われます。「AIを使って良いアウトプットを出せる人材」を定義できなければ、採用基準は不明瞭になり、応募者のアウトプットも適切に評価できません。採用基準を刷新したとしても、評価する側が変わらなければ、その基準は機能しません。
人事自身がAIを日常的に使いこなすことが、採用精度と組織競争力の土台となるのです。「AIを評価できる人事」の育成もまた人材戦略の一部といえるでしょう。
⑤削減か、育成投資か
AIで代替できる業務が増えるなかで、人員コストを削減するのか、AIにできない業務を担える人材の育成に投資するのか、これは重要な論点です。新卒採用には1人あたり約50〜100万円のコストと入社後の育成費がかかるため、AIへの投資と新卒採用の投資対効果をどう見るかが重要な戦略判断となります。
大手の厳選採用化は、これまで大手が採用していた能力と意欲のある新卒層が労働市場に現れる好機ともいえます。ただし、育成した人材が即戦力として引き抜かれるリスクも高まるため、待遇改善や定着施策が不可欠です。この選択が、10〜15年後の組織の厚みを大きく左右します。
関連プログラム:人材育成プラン作成(人材計画立案)支援
まとめ:「新卒採用」の意味が変わる時代に、人事に求められる視点
AI時代の採用は、「誰をどう選ぶか」から「なぜ採るのか・何を期待するのか」を根本から問い直すフェーズへ移りつつあります。AIを「人を減らすツール」と見るか、「人の価値を高めるツール」と見るか、この思想の違いが採用戦略のすべてを左右します。
同時に、採用は人材戦略の一部に過ぎません。入社後の育成や評価も含めた一貫したマネジメント設計へ視点を広げつつ、自社の状況に合わせたスモールステップでの着手が不可欠です。
以下に、自社の現在地を確認するチェックリストを挙げます。
【AI時代の採用・組織戦略チェックリスト】
| ✓ 自社の「新卒を採用する目的」を、明確に言語化できていますか? ✓ 現在の選考基準は「AIに代替できない能力」を測るものになっていますか? ✓ 人事担当者自身が、日常的にAIを使いこなせていますか? ✓ 「最後の判断は人間が行う」というプロセスが徹底されていますか? |
初期分析はAIに任せつつ、最終的な見極めや動機づけは人間が行う――この線引きを徹底し、対面の価値を最大化する設計が不可欠です。AIか人かではなく、両者の強みを把握して自社に最適なバランスを見極めることが、今後の組織戦略の鍵となります。
AI活用と人材投資の組み合わせに迷う際には、外部の専門知見も交えて客観的に採用・育成戦略を再設計するのも、有効な手です。
HRインスティテュートでは、現場の実践的なAI活用から中長期的な人材育成プラン立案まで、AI時代の組織づくりを一貫して支援しています。詳細は以下をご覧ください。
人材育成プラン作成(人材計画立案)支援 – 組織・人材開発のHRインスティテュート
関連記事
株式会社HRインスティテュートが “未来×いいこと×人”をテーマに、未来をよくするために、行動する人、考える人、応援する人に焦点をあて、皆さまに新しい気づきや行動へのヒントになる情報を発信しています。
