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AI導入が働き方に与える影響~労働者アンケート結果から見える新たな課題と展望~

本レポートでは、労働政策研究・研修機構が公表した『AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果』(2025年5月)に基づき、AI導入が労働者の働き方に与える影響をまとめています。職場におけるAI活用が進むなか、労働者は仕事の質の向上・改善に一定の効果を感じる一方で、スキル価値の変化や雇用喪失への不安も抱えていることが明らかになりました。

目次

調査の概要

独立行政法人 労働政策研究・研修機構が公表した『AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果』(2025年5月)は、厚生労働省の研究要請をもとに実施した労働者アンケートの結果をまとめたものです。

調査の目的と背景

AI(人工知能)の職場導入による影響に関して国際的な関心が高まっていることを受け、日本の労働者の活用状況などを把握するためのWebアンケートが実施されました。調査にあたっては、OECD(経済協力開発機構)実施の先行調査を踏まえ、国際比較分析を可能にする形で設計されています。

対象・方法の概要

Web調査会社の登録モニターを対象にスクリーニングを行い、『令和2年国勢調査』に基づく職業大分類・就業形態・性別・年齢・地域ブロックの条件を満たす雇用者(公務員含む)2.2万人から回答を収集しています(調査期間2024年5月27日〜6月27日)。

仕事の質(Job quality)への影響

職場におけるAI活用は、労働者の「仕事の質(Job quality)」にどのような影響をもたらしているのでしょうか。本調査では、AI利用前後の変化に着目し、その実態が明らかになりました

AI導入によるプラスの側面

職場へのAI導入による変化を聞いたところ、仕事のパフォーマンスや公平性、メンタルヘルス、安全性といった各方面で「改善した」との回答が「悪化した」を上回りました。

改善効果を最大化にするための条件

さらに、月間残業時間は「減少した」、有給休暇取得日数・賃金総額・職場での対話機会・学習機会においては「増加した」との回答が多く、AI利用が仕事の質を改善する可能性があることが示唆されました。

仕事の質の改善は、企業と労働者のコミュニケーション、AI活用に向けた学び・学び直し(リスキリング)、企業の訓練・支援施策によって強まる傾向があります。一方で、こうした取り組みが実施されない場合には「(AI利用前後の)影響なし」との回答が最多であり、AI導入の効果を最大限に引き出すためには労使双方の協力のもと環境整備や人材育成を進めることが重要です。

OECD調査との比較

OECD各国の調査においても、AI導入が職場の生産性と仕事の質の向上に好影響をもたらす可能性が示されました。仕事のパフォーマンスや公平性、メンタルヘルス、安全性で「改善した」との回答が「悪化した」を上回る傾向が見られた点は、日本の調査結果と共通しています。

一方で、教育水準や性別、職務内容の違いによって、AI導入効果の受け止め方にも差が見られました。職務間の格差拡大を防ぐため、公平なスキル開発や教育支援がより一層求められるようになるでしょう。

AI導入効果を高める3つの条件

本調査では、AI導入効果を高める条件として以下の3点が重要であると示されています。

条件①職場内コミュニケーションの促進

新技術導入時に雇用主と労働者(または代表)が話し合いを行った割合は15.6%と低く、AI導入時でも32.0%にとどまっています。導入効果を高めるには、労使間の積極的なコミュニケーションを促進し、AI導入の目的や影響を共有できる企業風土の醸成が不可欠です。

条件②学び・学び直し(リスキリング)の推進

学び・学び直し(リスキリング)に取り組んだ労働者のうち、AIに関する取り組みを実施した人の割合は6.9%となりました。一方で、AIを利用している労働者の約6割が「AIについてもっと学びたい」と回答しており、企業には個人レベルでの学習意欲を支援する環境整備が求められます。

条件③企業による訓練提供・人的資本投資の強化

AI利用企業のうち、労働者への訓練や資金援助を実施している割合は25.3%にとどまりました。AIを活用した働き方を支えるためには、企業が主体的に訓練・支援を行い、人的資本への投資を強化することが重要です。

AIがもたらす仕事への不安

本調査では、AI導入が働き方にプラスの影響をもたらす一方で、賃金や雇用の先行きに対する不安も生み出していることが浮き彫りになりました。

AIによる賃金の変化と展望

一方で、AIを実際に利用している層では賃金増加への期待感が比較的高く、AI利用前後で「賃金が増加した」との回答が優勢となっています。AIを積極的に活用することによって、仕事の価値向上に繋げられる可能性が示唆されています。

AI時代における雇用不安の広がり

今後10年でAIが賃金に与える影響については、「減少する」(22.6%)が「増加する」(8.7%)を大きく上回り、労働者の多くが慎重な見方をしていることが示されました。

自社でAIにより職を失った人を「知っている」と答えた割合は16.8%と少数にとどまるものの、雇用への影響が一部で現れ始めていることが示唆されました。また、AIが仕事を奪う不安感については「高まった」と答えた人が全体の約3割に上り、特に周囲で退職や転職を見聞きした人では6割を超えており、身近な経験が雇用不安を強めていることがうかがえます。

OECD調査との比較

OECD諸国の調査でも、AIの将来的な賃金への影響については「下がる」との予想が「上がる」の約2倍に上り、日本の調査と同様の傾向が見られました。

また、半数以上の雇用主が「AI導入による雇用全体への大きな変化はない」と回答する一方で、金融業・製造業における一定数が「AIにより職を失った人を知っている」と答えており、こちらも日本と類似した結果となりました。

AI導入による雇用喪失への懸念はOECD諸国と日本の調査の双方で確認されましたが、今後10年以内に自身の仕事が喪失される不安について「まったく心配していない」とする回答も一定程度見られ、特に日本では製造業においてその傾向が相対的に強いことがわかりました。

このように、AIによる雇用喪失への不安は各国に共通して見られるものの、その度合いには差があります。OECD諸国では、AI利用者や若年層、女性、大卒労働者において雇用への懸念を強く感じる傾向が見られ、政策的な取り組みや雇用安定に向けた支援の重要性が指摘されています。

出典:”The impact of AI on the workplace: Main findings from the OECD AI surveys of employers and workers”, OECD Social, Employment and Migration Working Papers, No.288 | OECD
調査シリーズNo.256『AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果』|労働政策研究・研修機構(JILPT)

AIがもたらすスキルの変化

職場へのAI導入は、労働者が感じる「スキルの価値」にも一定の変化をもたらしています。また、OECD調査との比較からは、AIがスキルを補完する効果が共通して見られる一方で、日本では企業による学習支援が相対的に弱いことも明らかになりました。

AI活用によるスキルの変化と補完

AI導入により「スキルの一部の価値が下がった」と感じる人は34.5%に達する一方で、「AIがスキルを補完している」と回答した割合は60.4%に上り、AIが労働者のスキルを支援・拡張する傾向が強く示されています。

また、AIについて「もっと学びたい」と回答した人の割合は60.6%と、労働者の学習意欲の高まりが確認されました。ただし、AIを導入している企業のうち、従業員に対して訓練提供や資金援助を行っている割合は25.3%にとどまっています。AI活用における学習やリスキリングは、企業の人的資本投資と直結する領域であり、AI導入がもたらす仕事の質の改善効果を高めるためにも企業側の支援強化が求められます。

OECD調査との比較

OECD調査においても、日本と同様に「AIがスキルを補完した」(金融業70%、製造業63%)との回答が、「AIがスキルを陳腐化させた」(金融業51%、製造業45%)を上回りました。ただし、日本よりもスキル価値の低下を実感する傾向にあり、特にタスクの自動化を経験した労働者ほどその影響を強く感じています。

また、OECD諸国ではAI利用者の半数以上が「自社からAI関連の訓練提供を受けている」と回答しており、企業がリスキリングやアップスキリングに積極的に取り組んでいる様子がうかがえます。一方、日本の訓練提供率はOECD諸国よりも低く、社内育成に関する制度面・実施面での課題が浮き彫りになりました。

さらに、OECD諸国ではAIに対する学習意欲が日本よりも高い傾向にあります。日本でも学ぶ意欲はあるものの、継続的な教育・研修機会の提供という点で欧米主要国に遅れを取っており、今後の体制強化が求められます。

出典:”The impact of AI on the workplace: Main findings from the OECD AI surveys of employers and workers”, OECD Social, Employment and Migration Working Papers, No.288 | OECD
調査シリーズNo.256『AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果』|労働政策研究・研修機構(JILPT)

AI時代に必要とされるスキル

World Economic Forumの「The Future of Jobs Report 2025」によると、2030年に向けて一段と重要性が高まるスキルが以下のように示されています。

テクノロジースキル・AI・ビッグデータ
・ネットワークとサイバーセキュリティ
・テクノロジーリテラシー
認知的・社会情動的スキル・分析的思考力
・創造的思考力
・レジリエンス/柔軟性/機敏性
・好奇心と生涯学習力
ヒューマンスキル・リーダーシップと社会的影響力
・タレントマネジメント
・モチベーションと自己理解
・共感力と傾聴力

AIの進展により一部のスキルの価値が相対的に低下する一方で、AIと協働するための新たなスキルの重要性が増しており、仕事に付加価値を生み出すための中核的な能力と位置づけられます。また、AIでは代替しにくい人間中心のスキルを軸に、AIの補完効果を最大化するリスキリングを設計することが、AI時代に拡大が見込まれる職種転換への対応と仕事の質の向上の両面において重要であると示唆されています。

AI導入より企業に求められる対応

職場へのAI導入を円滑に進め、その効果を最大限に高めるためには、企業による制度整備と社内での理解促進が欠かせません。

ガイドライン策定と社内コミュニケーションの強化

生成AIの適切な利用に関する社内規定・ガイドラインを策定している企業はわずか3.7%にとどまり、多くの従業員はその内容を十分に理解していないのが現状です。AI導入にあたっては、社内ガイドラインの策定・周知に加え、従業員の理解と順守を促すためのコミュニケーションを継続的に強化することが求められます。

出典:調査シリーズNo.256『AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果』|労働政策研究・研修機構(JILPT)

安全性・信頼性の確保と環境整備

AI技術を導入する際には、プライバシー保護や虚偽・偏向情報への対応、著作権などへの配慮とともに、技術そのものの信頼性・透明性を確保することが重要となります。また、仕事のパフォーマンスや職場環境を改善する技術開発、AI時代に必要なスキルの明確化、従業員に対する学びの支援など、労働者全体がAI活用の恩恵を受けるための環境整備に取り組むことが求められます。

まとめ

日本の調査結果はOECD諸国と同様に、AI導入による仕事のパフォーマンス向上やスキル補完といったプラスの側面が示された一方で、スキル価値の低下や雇用不安への懸念も共通して見られました。特に日本では企業による教育機会の提供が十分とはいえず、個人の学習意欲に制度が追いついていない状況にあります。AI導入効果を最大化するためには、企業が主体的に学習・リスキリングの機会を整備し、安全性の確保も含めてAI活用を支える環境づくりを進めることが不可欠です。

監修者
江口 瑛子
株式会社HRインスティテュート/チーフコンサルタント、事業開発担当 慶応義塾大学法学部卒業後、外資系コンサルティング企業に入社。 戦略コンサルタントとして、主に製造業におけるサプライチェーン変革を支援するプロジェクトなどに従事。入社したコンサルタントの育成を担うインストラクターも担当。 その後、HRインスティテュートに参画。自身のコンサルティング経験を活かし、人材育成・組織開発に関する企業の課題解決やスキル育成を支援する。 企業向けのプログラムの企画・開発・実施に加えて、大学でも講師として登壇。また、自社の新サービス開発、提携先開拓、新規事業創出などの事業開発領域も担う。Global Mindset認定コーチ。
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