「Z世代はすぐ辞める」は誤解だった?――3年3割の離職率、約30年前から変わっていないデータの衝撃
「最近の若者はすぐに辞める」――人事担当者や現場の管理職は、こうした声に悩まされています。しかし、この言説は本当にデータに裏づけられたものなのでしょうか。流動的なキャリア観が定着しつつある今、若手人材のリテンション(定着)は企業にとって無視できない重要課題です。
本記事では、過去から現在に至る離職の実態を公的データから紐解き、新卒社員のエンゲージメントを高めるための具体的な定着戦略について解説します。
「今の若者はすぐに辞める」は本当なのか
厚生労働省のデータによれば、2022年3月に大学を卒業して就職した人のうち、3年以内に離職した割合は33.8%でした。しかしこの傾向は、決して近年に始まったものではありません。
1995年卒の3年以内離職率は32.0%であり、最新のデータと比較しても「大卒3年以内離職率が約3割」という水準は約30年前から基本的に変わっていないのです。つまり「最近の若者はすぐに辞める」というのは現在の若手世代に限った現象ではなく、日本の労働市場における長年の常態なのです。

同じ「3割」でも、変化する若者を取り巻く時代と環境
「大卒3年以内離職率が約3割」という状況は長年変わっていないのですが、その3割の背景、すなわち「なぜ辞めるのか」という理由は、時代とともに大きく変化しています。
30年前の離職理由――バブル崩壊・就職氷河期
30年前は、現在40代・50代を迎えている管理職層が、若手社員として労働市場で活動していた時期にあたります。当時はバブル崩壊後の景気低迷により有効求人倍率が長期間1倍を下回り、希望する職に就けない若者が急増しました。
「就職氷河期」という言葉が象徴するように、選択肢そのものが限られていた時代です。そのため当時の離職には、会社都合のリストラや不本意な就職の末の離職など、環境の制約によるやむを得ないケースが多く含まれていたと考えられます。
現在の離職理由――人手不足・売り手市場
一方、現在は生産年齢人口の減少に伴い、市場は圧倒的な売り手市場へと転換しました。転職支援サービスも充実し、転職はもはや「当たり前の選択肢」となっています。労働環境そのものも変化し、成長機会に乏しい「ゆるブラック企業」という新たな課題が指摘されるようになりました。
Z世代を対象とした就労意識調査では学生の44%がすでに「転職予備軍」とされるなど、入社前からキャリアの流動性を前提とする価値観が広がっています。つまり現在の離職は、かつての「制約による離職」から、より良い環境や成長を求めて「主体的に選ぶ離職」へと、その質が変化しているのです。
数値から読み解く離職理由の変化、そして「納得感の欠如」
この変化は、離職理由の統計にも表れています。
平成から令和にかけて高まった「職場環境」への不満
厚生労働省の調査によると、20代前半の離職理由の上位に挙がる項目の顔ぶれ(労働時間・休日等、職場の人間関係など)は、長年大きく変わっていません。しかし、その「数値(割合)」に目を向けると、平成21年(2009年)から令和元年(2019年)にかけて軒並み上昇傾向にあったことがわかります。

例えば、男性の「労働時間・休日等」を理由とする離職は、平成21年の11.4%から平成26年(2014年)には15.6%、令和元年には17.8%へと段階的に増加しました。女性の「職場の人間関係」も、14.2%(平成21年)、14.6%(平成26年)、17.6%(令和元年)と推移しています。売り手市場のなかで、合わない環境で無理に働き続ける必要がなくなってきたことを示唆する数値といえます。
働き方改革の進展による「環境不満」の低下
ところが、最新の令和6年(2024年)雇用動向調査では、事態はさらに変化しています。令和元年に17.8%とピークに達していた男性の「労働時間・休日等」への不満は令和6年には11.3%へ、女性の「職場の人間関係」への不満も17.6%から9.8%へと、大きく減少に転じているのです。

働き方改革などの施策の進展により、若手社員の「働きやすさ」は直近5年間で着実に改善されてきたことが、公的データからも読み取れます。
新たに台頭する「納得感の欠如」
では、労働環境が改善しているにもかかわらず、なぜ新卒3年離職率は約3割のまま下がらないのでしょうか。最近の離職理由として新たに台頭しているのが、「上司の指示や考えに納得できない」「受けている評価に納得できない」といった「納得感の欠如」です(パーソル総合研究所)。仕事の意味づけや評価への納得感が、離職の引き金になっているのです。
こうした傾向は若手に限りません。マイナビの調査では2025年の正社員転職率が7.6%と過去最高水準に達しており、転職者の半数以上が「キャリアへの停滞感」を抱えていました。dodaの調査でも転職者に占める「40歳以上」の割合が17.5%へ上昇するなど、ミドル層の流動性も活発になっています。
そして「今の会社にいる意味」に納得できないままであれば、必要最低限の業務のみをこなす「静かな退職(クワイエット・クイッティング)」に陥るリスクも高まります。個人のキャリア意識は、世代を問わず「環境の制約」から「内的な納得感」へと確実にシフトしているのです。
新卒社員の定着には「エンゲージメント向上」が不可欠
離職の前提が変わるなかで、企業側の打ち手も変化しています。HR総研の調査によると、約6割の企業が離職低減・人材定着を目的にエンゲージメント向上に注力しています。その効果は数値にも表れています。エンゲージメントが低い企業では「離職率15%超」が24%に上るのに対し、エンゲージメントが高い企業ではわずか4%に抑えられているのです。

ここで重要なのは、優秀な若手の定着には待遇面などの「働きやすさ」だけでは不十分だという点です。モチベーションを高める「やりがい」との双方を充足させるアプローチが欠かせません。特に初めて社会に出る新卒社員においては、入社前後のギャップをなくし、「この会社で頑張りたい」というエンゲージメントを早期に醸成できるかどうかが鍵となります。
新卒社員のエンゲージメントを高める6つの定着施策
ここからは、新卒社員のエンゲージメントを高め、定着につなげるための6つの施策を、企業の実践事例とともにご紹介します。
施策1:採用時のRJP(現実的な職務提示)でミスマッチを防ぐ
良い面だけを伝える採用は、入社後の失望を生みます。仕事の厳しさも含めたリアルな情報を開示するRJP(現実的な職務提示)によって期待値を適正化すれば、入社後のギャップによる初期のエンゲージメント低下を抑えられます。
富士通では、仕事の厳しさも伝える多層的なRJPを実践しています。有償インターンなどを通じて入社前からリアルを共有することでギャップを抑え、内定辞退率の低下やミスマッチの減少を実感。早期戦力化や長期的な活躍につながることが期待されています。
施策2:入社1年目のオンボーディングを徹底設計する
先輩社員や上司による指導がない、ルーティン業務ばかりで成長実感を得られないといった”ゆるさ”による手持無沙汰は、新卒社員の成長意欲を削ぎます。基礎スキルの成長を実感できる業務設計やメンター制度を導入し、迷いなく業務に取り組める環境を設計しましょう。
サイボウズでは、新卒社員向けに1年間のオンボーディングプログラムを実施しています。毎朝、同期や人事とコミュニケーションをとれる「ザツダン」や、入社1・3・6か月時点でのサーベイを通じて、チームの一員としてスムーズに働けるようサポートしています。
施策3:キャリアパスと成長機会を具体的に提示する
優秀な新卒社員ほど「ここでどう成長できるのか」を重視します。身につくスキルやキャリアパスを明示したうえで、若手からの抜擢や挑戦的な業務へのアサインによって「やりがい」を実感させることが有効です。
サイバーエージェントでは、優秀な若手を全社で把握し、抜擢し、成長機会を創出する「強化指定社員セレクション会議」を実施しています。若手をよく知る管理職が現場から強化指定社員を選出し、役員陣へのプレゼンを経て異動や能力開発につなげています。
施策4:評価基準の透明化と、納得感のあるフィードバック
「納得感の欠如」が離職理由として台頭している以上、評価の透明性は避けて通れません。評価基準を開示し、結果だけでなくプロセスも含めた評価を行うことで「納得感」を醸成することが必要です。そして定期的に「なぜその評価なのか」を対話で伝えるフィードバックを実施することで、主体性を育むのです。
住友生命保険相互会社では、目標管理制度(MBO)により業績面と行動面の両方から評価を実施しています。若手・中堅職員には昇格・昇号の基準にコンピテンシー評価を取り入れ、公平性と透明性を高めています。さらに月1回の1on1や、同僚同士で発揮状況をフィードバックし合う「相互FB」も導入するなど、きめ細やかなすり合わせにより評価に対する納得感の向上を図っています。
施策5:心理的安全性の高い相談窓口・関係性を構築する
「辞めたいと言い出しにくい」というコミュニケーション不全は、早期離職に直結します。上司に相談が集中することによる孤立を防ぐため、メンターなど職場の対人ネットワーク(斜めの関係)を活かした窓口を拡充し、網の目のように育成・支援できる関係性を築きましょう。
離職率が1%未満のアサヒビールでは、2001年からブラザーシスター制度を導入しています。自ら立候補した若手社員に新入社員の指導を任せ、仕事の進め方や心構えに加え、業務や社会人生活の不安・悩みへのアドバイスも行っているのです。
施策6:給与・労働条件(働きやすさ)を継続的に改善する
待遇面への不満を放置したままでは、定着の土台は築けません。柔軟な働き方の導入なども含め、土台となる「働きやすさ」を整えることで、初めて「やりがい」を生む施策が活きてきます。
ソニーグループでは近年初任給の引き上げを進めており、ゲーム事業では2026年に月額42.5万円に設定しました。加えて職種別のコース別採用によってミスマッチを防ぎ、在宅勤務など柔軟な制度によって圧倒的な働きやすさを実現しています。
まとめ:定着戦略は「世代論」ではなく「職場設計」へ
若手社員の離職を「最近の若者は……」という世代論で片付けることは、本質的ではありません。この記事でみてきたように、“3年で3割”という数値は約30年前から変わりません。変わったのは、離職の理由とその質です。現代の新卒・若手社員は「ここにいる意味」を厳しく問い、自らの意志でキャリアを選びとる力を持っています。
裏を返せば、納得感を提供できる企業は、選ばれ続けるのです。「働きやすさ」と「やりがい」の両輪でエンゲージメントを高める「職場そのものの再設計」こそが、これからの時代に求められる真の定着戦略といえるでしょう。
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