Society 5.0とは?意味や技術、SDGs・教育との関連性を解説

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日本社会は現在、人口減少や格差拡大、社会的孤立など、多くの根深い課題に直面しています。コロナ禍を契機に、これらの社会問題はさらに深刻化し、世の中の閉塞感につながっています。この状況下では、個人や社会の創造性が抑制され、イノベーションの促進が妨げられかねません。

このような現代日本の課題を解決し、閉塞感を打破する新たな概念として注目を集めているのが「Society 5.0」です。Society 5.0は、産業革命に匹敵する大きな変革をもたらす可能性を秘めており、今後の社会の方向性を示す重要なキーワードの一つとなっています。

「Society 5.0とは何か?」という問いに対して、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか?
本記事では、Society 5.0の意味やSociety 5.0が目指す未来社会の姿、それを支える技術、SDGsや教育との関連性について分かりやすく解説します。

目次

Society 5.0とは?次世代社会の意味と歴史的経緯

Society 5.0(ソサエティ 5.0)とは、サイバー(仮想的)空間と現実空間の一体化により、経済発展と社会課題の解決を実現する社会を意味します。2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」のなかで、多様な人々のニーズにきめ細かく対応する「超スマート社会」の実現を目指す新たな社会概念として提示されました。

内閣府が定めるSociety 5.0の定義は以下のとおりです。

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)

出典:内閣府『Society 5.0

また、「第5期科学技術基本計画」のなかでは、Society 5.0の意味するところとして「狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導していく」と明記されています。

Society 5.0は、これまでの社会の発展段階を踏まえつつ、より高度な社会の実現を目指す概念です。この新しい社会では、先端技術を駆使し、持続可能で、一人ひとりが多様な幸せを実現できることが期待されています。

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Society 1.0からSociety 5.0に至る歴史的経緯

これまで日本社会は段階的に発展してきました。Society 1.0から始まり、各段階における社会課題を克服しつつ進化して、次世代社会のSociety 5.0につながっています。

Society 5.0以前の社会は次のような特徴を持ちます。

  1. Society 1.0(狩猟社会):
    生活の糧(食糧)を得るために、狩猟や採集をおこなう
    食糧の獲得は狩猟や採集の成果によるため生活は不安定
  1. Society 2.0(農耕社会):
    集団を形成し、農耕による定住生活が始まる
    組織的な農耕により生活が安定
  1. Society 3.0(工業社会):
    機械化が進み規格品の大量生産が実現する
    主に産業革命以後の社会を意味する
  1. Society 4.0(情報社会):
    コンピューターやインターネットが普及し、世界中がネットワークでつながる
    情報の伝達や処理が高速化する

各社会段階では、それぞれの時代に応じた発展が見られました。例えば、農耕社会では食料生産の安定化が図られ、工業社会では生産性の向上が実現しました。情報社会に至っては、デジタル技術の進歩により情報の共有や処理が飛躍的に向上しました。

これらの社会の変遷を経て、私たちは今、Society 5.0という新たな社会の入り口に立っています。Society 5.0では、これまでの社会で培われてきた技術や知識を基盤としつつ、さらに高度な技術革新によって、人々の生活をより豊かにし、社会課題の解決を目指します。

Society 5.0が登場した背景

Society 4.0では、IT技術の発展により社会の利便性が飛躍的に向上しました。しかし、同時にそれ以前の社会にはなかった新たな問題も表面化することになります。最も深刻な問題は、情報過多や知識の偏在により、適切なタイミングで必要な情報にアクセスすることが困難になったことです。

また、IT技術の発展により便利な社会になったとはいえ、Society 4.0はあらゆる人のニーズに応えられる社会とまではいえません。高齢者や障がいを持つ方々にとって、最新のサービスを活用することが難しい場合や、過疎化などの地方特有の問題に対して、十分な解決策が提示されていないことなどが課題として残されています。

これらの問題を解決し、より包括的で持続可能な社会を実現するために登場したのがSociety 5.0です。Society 5.0は、従来の情報社会では実現できなかった新たな価値の創造を目指しています。具体的には、AIやIoT、ビッグデータなどの先端技術を活用し、サイバー空間と現実空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立させる新たな社会のあり方を提案しています。

このような背景のもと、Society 5.0は「一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる」社会の実現に向けた重要な概念として注目を集めています。

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Society 5.0を実現する先端技術とは?

Society 5.0は、複数の革新的な技術の融合によって支えられています。これらの先端技術が相互に連携し、社会全体のデジタル化を推進することで、新たな価値創造や課題解決を可能にします。

代表的な技術としては、人工知能(AI)、ロボティクス、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、そして第5世代移動通信システム(5G)などが挙げられます。これらの技術は単独でも大きな可能性を秘めていますが、Society 5.0においては、それぞれが結びつき、相乗効果を生み出すことが期待されています。ここではそれらの先端技術について紹介します。

ビッグデータ

ビッグデータとは、人による全体把握が困難なほどの膨大なデータを意味します。特徴として、Volume(量)、Variety(多様性)、Velocity(速度)の「3つのV」を備えていることが挙げられます。IT技術によって収集した膨大なデータをリアルタイムで分析し、ビジネスや生活に役立つ知見を得られます。

このような大規模なデータ処理と分析は、従来のデータベース管理ツールでは困難であり、専用の分析ツールや技術が必要となります。ビッグデータの活用により、交通システムの最適化や疫病の予測など、幅広い分野での応用が期待されています。

人工知能(AI)

人工知能(AI)とは「Artificial Intelligence」の略称であり、画像や音声認識、データ解析などで活用されています。AIそのものが学習機能を持っており、人間の知的能力を模倣できます。これにより人間の能力を超えたデータ解析が可能となり、Society 5.0ではAIによるビッグデータの分析が社会課題の解決に役立つと期待されています。AIの進化により、複雑な問題解決や意思決定支援、予測分析などが可能となり、様々な産業分野で革新的な変化をもたらすことが見込まれています。

ロボット

Society 5.0ではロボットとの共存が予想されています。ロボットの役割はAIによるフィードバックを現実空間で実現することであり、産業用や医療・介護用、農業用など各分野でロボットの活用が見込まれています。また、ロボットの導入により業務の自動化・効率化が実現するため、生産性の向上や人材不足への対策としても有効です。

さらに、ロボットは危険な作業や重労働を代替することで、労働者の安全性を高め、より快適な労働環境の創出にも貢献します。このように、ロボットは Society 5.0 の実現に向けて重要な役割を果たすことが期待されています。

IoT

IoTとは「Internet of Things」の略称であり、あらゆるモノがインターネットでつながることを意味します。具体的には、家電製品や住宅、車といった身の回りのモノがインターネットにつながり、情報をやりとりしながら互いにコントロールし合うことをいいます。これにより、スマートフォンを使って遠隔操作したり、機械の稼働状況やトラブルの有無を監視することもできます。IoTの普及により、私たちの生活や仕事の方法が大きく変わる可能性があります。例えば、スマートホームでは照明や空調を自動制御し、エネルギー効率を向上させることができます。また、製造業では生産ラインの効率化や品質管理の向上に貢献します。

5G

5Gとは「第5世代移動通信システム」を意味する言葉で、大容量データを高速でやりとりできる通信システムを指します。そして、地域の企業や自治体など、通信事業者以外の主体が自ら構築できる5Gシステムのことを「ローカル5G」といいます。ローカル5Gが普及すれば、遠隔医療や自動農業管理、防災システムといったさまざまな分野への応用が期待されます(第5期科学技術基本計画の概要)。5Gの特徴として、超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続が挙げられ、これらの特性を活かしてSociety 5.0の実現に向けた基盤技術として注目されています。

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Society 5.0とSDGsの関連性

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、持続可能でよりよい世界を目指すために進むべき道を示した国際目標のことです。世界が抱える社会課題には、貧困や教育格差、気候変動、ジェンダーギャップなどがあります。SDGsとSociety 5.0は「社会の持続可能性の追求」という共通の目標を持ち、あらゆる分野で「誰一人取り残さない」社会の実現を推進しています。

Society 5.0が提唱する先端技術の活用は、SDGsの17の目標達成に大きく貢献する可能性があります。例えば、AIやIoTを活用した効率的な農業システムは、「目標2:飢餓をゼロに」の実現に寄与します。また、ビッグデータ解析による疾病予防や遠隔医療の普及は、「目標3:すべての人に健康と福祉を」の達成を後押しします。このように、Society 5.0とSDGsは相互に補完し合い、より持続可能な社会の実現を加速させる関係にあるといえます。

用語解説:「SDGs」|  組織・人材開発のHRインスティテュート

Society 5.0と教育の関連性

Society 5.0が志向する次世代の社会では、新たなスキルとしてデジタルリテラシーやコンピューターサイエンスが求められます。そのためには教育も変革していかなければならず、従来のように知識を暗記する教育ではなく、知識を活用して使いこなす教育へと転換しなければなりません。

Society 5.0ではAIの活用により、個別の学習ニーズに対応する教育の提供が可能となります。これらの教育を通じて、論理的思考力や規範的判断力など人間の強みとなる能力、つまりAIでは解決できない課題を解決できる人間の養成が求められます。

また、テクノロジーと人間の役割分担を明確化することも大切です。Society 5.0時代の教育では、創造性やコミュニケーション能力の育成もポイントとなります。テクノロジーが進化しても、人間にしかできない独創的なアイデアの創出や、他者との協働は欠かせません。そのため、グループワークやプロジェクト型学習など、実践的な学びの機会を増やすことが推奨されます。

さらに、Society 5.0の実現に向けて、生涯学習の重要性も高まっています。技術の進歩が加速する中で、社会人になってからも継続的に学び、スキルアップしていくことが求められます。そのため、オンライン学習プラットフォームやリカレント教育の充実など、いつでもどこでも学べる環境づくりが進められています。

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Society 5.0が今後の社会にもたらすインパクト

Society 5.0は、より持続可能で人間中心の社会を志向します。具体的には、医療・介護費の抑制や環境負荷の削減、食糧問題への対応など、現代におけるさまざまな社会課題の解決が期待されています。これらの課題解決により、人々の安全と安心を確保し、社会全体の幸福度が高まることが予想されます。

また、Society 5.0は経済発展にも大きく貢献するものです。先端技術の活用により生産や物流、交通が円滑化し、地域コミュニティのつながりが促進されます。例えば、AIやIoTを活用したスマートファクトリーの導入により、生産効率が飛躍的に向上し、需要に応じた柔軟な生産が可能になります。さらに、自動運転技術の発展により、交通事故の減少や高齢者の移動支援が実現するでしょう。

現在は都市部と地方の格差が大きく、地方に向けた施策の実施は急務です。Society 5.0の技術を活用することで、遠隔医療や遠隔教育が可能となり、地方でも都市部と同等のサービスを受けられるようになります。さらに、このような施策によって地方の過疎化問題の解決にも寄与することが期待されます。

このような社会が実現すれば、年齢や性別、地域に関係なく、多様な人々が快適に生活を送ることができるでしょう。高齢者や障がい者にとっても、テクノロジーの支援により、より自立した生活が可能になります。

社会課題の解決と経済の発展を両立する未来社会の実現を目指し、SDGsの達成にも通じるSociety 5.0の取り組みが進められています。この新しい社会システムは、技術革新だけでなく、人々の価値観や生活様式の変革をも促すもので、より豊かで持続可能な社会の構築に貢献するでしょう。

まとめ

Society 5.0は、先端技術と社会の融合を通じて持続可能な社会の形成を目指す革新的な概念です。AIやIoT、ビッグデータなどの最先端IT技術が世界を牽引することは、決して遠い未来の話ではありません。技術の急速な進歩により、数年前には想像すらできなかった新しい将来像が加速度的に現実味を帯びてくるでしょう。

Society 5.0が目指す未来社会では、さまざまな社会課題の解決と生活の利便性向上が期待されます。医療・介護、環境、食糧問題などの課題に対して、テクノロジーを活用した革新的なソリューションが提供されるでしょう。また、これに関連して教育システムの変革や、人間の強みを活かすための育成も必要となります。

実現に向けてはクリアすべき課題もありますが、多様なニーズに応えられるSociety 5.0の未来社会は、私たちに新たな可能性と機会をもたらします。経済発展と社会課題の解決を両立させ、年齢や性別、地域に関係なく、すべての人々が快適に生活を送れる社会の実現が期待されます。

企業や個人が、この新しい世界に乗り遅れないためには、Society 5.0に関する知識や情報へのキャッチアップが不可欠です。自社を取り巻く外部環境の変化に敏感になり、新たな技術やトレンドを積極的に取り入れる姿勢が求められます。

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