マイクロアグレッションとは?その意味や具体例、職場での対処法を解説
マイクロアグレッションは直訳すると「小さな攻撃」を意味します。その言動が相手に否定的なメッセージを伝えていることに発言者自身が気づいていないことが特徴です。明確な意図をもって他者を侮辱する行為だけが差別ではなく、自分でも気づかないうちに相手を軽んじるような言動をとり、無自覚の差別をしてしまっていることがあります。
マイクロアグレッションは、多様性が重視される現代社会において重要な概念であり、職場環境の改善や人間関係の構築に大きな影響を与えます。特に、ダイバーシティ&インクルージョンの観点から、マイクロアグレッションへの理解と対策は不可欠といえるでしょう。
この記事では「マイクロアグレッション」を取り上げ、その意味や具体例、職場に及ぼす影響や対処法について詳しく解説します。
マイクロアグレッションとは
マイクロアグレッションとは、無意識の偏見や理解不足が言動に現れ、相手の心を傷つける行為を指します。発言者自身は差別したり、見下したりしているつもりがなくても、相手の心を傷つけてしまうケースを含みます。マイクロアグレッションは、個人の属性や背景に基づく無意識の偏見や固定観念から生じることが多く、ジェンダー、年齢、人種、国籍、性的指向など、さまざまな側面で発生する可能性があります。
例えば、相手の言動を褒める目的でおこなった発言が、反対に相手を傷つけてしまうケースも少なくありません。マイクロアグレッションは、意図的か否かにかかわらず、結果として他人を差別してしまう行為です。
マイクロアグレッションと差別の違い
マイクロアグレッションも差別の一種ではあるものの、発言者に意図や自覚があるか否かという点で「差別」とは少々異なります。マイクロアグレッションは多くの場合、意図的な偏見や軽視に基づく差別ではありません。発言者が「差別」とも認識していない無意識の言動が差別につながっているもので、発言者自身はその言動の影響を理解していません。
一方、従来の差別は明確な意図を持って行われることが多く、その点でマイクロアグレッションとは区別されます。しかし、両者ともに相手に心理的な悪影響を与える可能性があることに変わりありません。また、無自覚のマイクロアグレッションが積み重なると、いずれは深刻な差別や偏見に発展するおそれがあります。
マイクロアグレッションの歴史
マイクロアグレッションという概念は、1970年代にアメリカの精神科医チェスター・ピアス氏によって提唱されました。もともとは白人が黒人に対しておこなう無自覚の貶し(けなし)を指す言葉でしたが、2000年代にコロンビア大学心理学部教授のデラルド・ウィン・スー氏が再定義し、人種やLGBTQ、障がい者など対象範囲が広がりました。現在は、意図的または非意図的に、特定の個人やグループを軽視するような意を含む言動を「マイクロアグレッション」といいます。
マイクロアグレッションの概念は、社会学や心理学の分野で重要な研究テーマとなっており、職場や教育現場での多様性や包括性の向上に大きな影響を与えています。特に、近年のダイバーシティ・インクルージョンの取り組みにおいて、マイクロアグレッションへの理解と対策は欠かせない要素となっています。
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日本におけるマイクロアグレッションの例

日本社会においても、マイクロアグレッションは日常的に発生しています。多くの場合、発言者に悪意はなく、むしろ善意や配慮のつもりで行われるケースが多いです。しかし、そのような言動が結果的に相手を傷つけ、差別や偏見を助長してしまう可能性があります。
ここでは、日本で見られるマイクロアグレッションの具体例を、ジェンダー(性別)、年齢、国籍・人種、LGBTQの4つのカテゴリーに分けて紹介します。具体例を確認することで、自身の言動を振り返り、無意識の偏見に気づくきっかけになるかもしれません。
ジェンダー(性別)
ジェンダーとは「社会的・文化的な性差」のことです。マイクロアグレッションの観点から見ると、性別に基づく固定観念や偏見が無意識のうちに表れる言動が問題となります。例えば、「女性なのに管理職なんてすごいね」という発言は、一見褒め言葉のように聞こえますが、「女性は管理職に向いていない」という固定観念を暗に示しています。同様に、「男性だから当然出世したいよね」という言葉も、個人の意思や多様性を無視した性別による役割の押し付けといえるでしょう。
こうしたマイクロアグレッションは、職場環境にも大きな影響を与えます。固定観念に基づく発言や態度は、個人の能力や適性を無視し、キャリア形成の機会を阻害する可能性があります。また、こうした無自覚の偏見が積み重なることで、職場での不平等や差別につながる恐れもあります。
マイクロアグレッションを防ぐためには、自身の言動が性別に基づく固定観念や偏見を含んでいないか、常に意識的に考える必要があります。個人の能力や適性を重視し、性別にとらわれない公平な評価や機会提供を心がける必要があります。
年齢
日本では年齢に基づくマイクロアグレッションもみられます。たとえば若手社員に「経験が浅いから」というと、年齢だけで判断し能力を過小評価しているととらえられるかもしれません。また、高齢者に対して「パソコンは苦手でしょう?」と決めつける発言など、年齢への偏見を示す例もあります。
このようなマイクロアグレッションは、世代間のコミュニケーションを阻害し、職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。若手社員の斬新なアイデアや、ベテラン社員の豊富な経験が適切に評価されず、組織の成長機会を逃してしまうかもしれません。
年齢に関するマイクロアグレッションを防ぐには、個人の能力や適性を年齢とは切り離して評価することが大切です。また、世代を超えた相互理解を深めるため、社内での交流の機会を設けるなどの取り組みも効果的です。
国籍・人種
外国人社員に「日本語が上手ですね」と伝えることは、暗黙の偏見を含むメッセージとして相手を傷つけてしまうことがあります。見た目が外国人であっても、長く日本に住んでいて不自由なく日本語を話せる人もいます。また、特定の国籍に対し「〇〇人だから運動神経がよさそう」という発言はステレオタイプに基づくマイクロアグレッションとなり、一律で判断されることに不愉快な気持ちになる人も多いでしょう。
このようなマイクロアグレッションは、国籍や人種に関する無意識の偏見から生じることが多く、相手の個性や能力を正当に評価せずに固定観念で判断してしまう傾向があります。例えば、「アジア人は数学が得意」「アフリカ系の人は運動能力が高い」といった一般化された見方も、マイクロアグレッションの一種です。
国籍や人種に関わらず、一人ひとりの個性や能力を尊重し、お互いの文化や価値観を尊重し合える職場環境づくりを目指すことが、マイクロアグレッションの防止につながります。
LGBTQ
性的指向や性自認に関する発言は、マイクロアグレッションにつながりやすく、個人のアイデンティティを否定しているとみなされることがあります。たとえば女性に対し「彼氏はどんな人?」や、男性に対し「彼女はどんな人?」という質問は異性愛を前提としており、無意識の偏見を含む発言といえます。また、「LGBTQの人は目立ちたがり屋だ」といったステレオタイプな発言や、「同性愛は選択できるはずだ」といった性的指向を個人の意思で変えられるものとする発言もマイクロアグレッションとなります。
このようなマイクロアグレッションは、LGBTQの人々に対する理解不足や無知から生じることが多く、相手の心に深い傷を与える可能性があります。職場では、多様な性的指向や性自認を持つ人々が安心して働ける環境づくりが求められています。
マイクロアグレッションの種類
マイクロアグレッションは「マイクロアサルト」「マイクロインサルト」「マイクロインバリデーション」の3つに分類されます。ここでは、それらの違いについて解説します。
マイクロアサルト
マイクロアサルトとは、意図的かつ明確に差別や侮辱をおこなう行為をいいます。直訳すると「小さな激しい攻撃」です。蔑称や暴力的な言動が含まれており、たとえば特定の属性を持つ個人に対する露骨な攻撃や差別的な扱いが「マイクロアサルト」にあたります。
マイクロアグレッションの中でも最も明確で直接的な種類であり、相手を傷つける意図が明らかな言動です。具体的には、人種や性別、性的指向などに基づく侮辱的な呼び名を使用したり、特定のグループを排除するような行動をとったりすることが挙げられます。このような行為は、職場環境を著しく悪化させ、深刻な問題を引き起こす可能性があるため、組織として厳格に対処する必要があります。
マイクロインサルト
マイクロインサルトとは、無意識ながらも侮辱や無礼を含む言動をいいます。直訳すると「小さな侮辱」です。いわゆる「無神経」にあたるもので、相手の属性や出自に基づく勝手な思い込みなど、気遣いの欠けたコミュニケーションを指します。たとえば「女性のわりには力がありますね」という発言は属性と能力を結びつけており「女性だから力が弱いだろう」という無意識の偏見が背景にあると考えられます。マイクロアグレッションの一種であるマイクロインサルトは、発言者に悪意がなくても相手を傷つける可能性があります。
マイクロインバリデーション
マイクロインバリデーションとは、マイノリティの感情や経験を否定・無視する行為をいいます。直訳は難しいですが「小さな軽視、問題ないことにする」という意味合いです。社会的少数者に対する無理解が背景にあり、多くの場合は無意識でおこなう言動です。たとえば、LGBTQの人に対して「それは単なる一時的な気分でしょう」と言ったり、障がいのある人に「頑張れば何でもできるよ」と励ましたりすることも、マイクロインバリデーションに該当します。このような言動は、相手の抱える困難や社会的障壁を無視し、個人の努力だけで解決できるという誤った認識を示しています。マイクロアグレッションの中でも特に見過ごされやすい種類であり、相手の存在や経験を無かったことにしてしまう危険性があります。
マイクロアグレッションの職場への影響
職場には多様な人々が集まっており、無自覚の差別が起こりやすい環境といえます。マイクロアグレッションは、職場のダイバーシティ・インクルージョンを阻害し、組織全体に様々な悪影響を及ぼします。ここでは、マイクロアグレッションの職場への影響について詳しく解説していきます。
コミュニケーション不全・信頼関係の低下
マイクロアグレッションは相互不信を招き、職場での円滑なコミュニケーションを阻害します。発言した本人には差別や偏見の意図がないため、反省せずに同じ行為を繰り返してしまうケースも多いでしょう。無意識の偏見が積み重なると社員同士の信頼関係が崩れ、チームの協力体制が損なわれる可能性があります。このような状況が続くと、職場の雰囲気が悪化し、マイクロアグレッションの被害者だけでなく、周囲の社員にも悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、マイクロアグレッションによるコミュニケーション不全は、業務上の情報共有や意思疎通にも支障をきたし、組織全体の生産性低下につながる恐れがあります。
心理的安全性の低下
マイクロアグレッションが蔓延する職場環境では、社員の心理的安全性が著しく低下します。自分の心が傷つくような言動に何度も遭遇すると、社員は職場内で意見を言いにくくなり、自由な発言や行動を抑制してしまいます。このような状況下では、個々の創造性や問題解決能力が十分に発揮されず、社員同士のコミュニケーションも制限されがちです。結果として、職場全体の雰囲気が悪化し、イノベーションや生産性の低下につながります。
用語解説「心理的安全性」❘ 組織・人材開発のHRインスティテュート
生産性・パフォーマンスの低下
マイクロアグレッションが繰り返されるような職場ではストレスが溜まりやすく、社員のモチベーションや生産性に悪影響が及びます。マイクロアグレッションによる心理的な負担は、個人の業務効率を低下させるだけでなく、チームワークや協調性にも悪影響を与えかねません。その結果、組織全体のパフォーマンス低下や優秀な人材の流出など、事業運営上のリスクをもたらす事態にまで発展するおそれがあります。さらに、マイクロアグレッションが原因で職場の雰囲気が悪化し、パフォーマンスが低下することで、企業の競争力の低下にもつながる可能性があります。
マイクロアグレッションの対処法
マイクロアグレッションでは、よかれと思ってしたことが結果的に相手を傷つけてしまうケースもあります。マイクロアグレッションにどう向き合えばよいのか、ここでは受け手と行為者に分けて解説します。
マイクロアグレッションの受け手となった場合
自分がマイクロアグレッションを受けたと感じた場合は、状況を冷静に受け止め、落ち着いて対応することを心がけましょう。マイクロアグレッションは悪気なくおこなわれるケースが多いため、具体的な状況や文脈を説明し、相手の無意識の偏見に気づきを促すことが大切です。例えば「その発言は、私の能力や経験を軽視しているように感じました」といった形で、自分の感じた不快感や違和感を具体的に伝えます。その際には、自分の感情や意見を「私」を主語にして伝えるI(アイ)メッセージなど、アサーティブ・コミュニケーションを意識すると、円滑に気持ちを伝えることができるでしょう。
また、マイクロアグレッションが繰り返される場合には、信頼できる上司や人事担当者に相談し、適切なサポートを求めることも有効な対処法です。職場での心理的安全性を確保するためにも、問題を一人で抱え込まず、組織全体で取り組むことが大切です。
関連記事:アサーティブ・コミュニケーションとは?4つの柱と3つのタイプを解説
マイクロアグレッションの受け手に対する周囲の対応
マイクロアグレッションを受けた人は、無自覚の差別によって心が傷ついている状態です。まずは受け手の気持ちに寄り添い、共感を示しながら「支援者」として精神的なサポートをおこないましょう。マイクロアグレッションは見逃されやすく、受け手が一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。問題を軽視せず、受け手の声を尊重することが大切です。
また、多様性への理解を深め、固定概念や無意識の偏見に気づくための研修やワークショップを実施することで、組織全体でマイクロアグレッションの防止に取り組むことができるでしょう。
マイクロアグレッションの行為者への対応
マイクロアグレッションは明確な悪意や敵意に基づく攻撃ではなく、本人が差別や偏見を自覚していないケースがほとんどです。行為者には非難をするのではなく、言動の意図やそれによる影響について冷静かつ丁寧に話し合いましょう。悪気のない行為者を一方的に責めたり叱ったりしても問題解決とはいきません。受け手と行為者の関係性を考慮しつつ、両者の関係改善を促すための建設的なフィードバックを心がけることがポイントです。
マイクロアグレッションの行為者に対しては、まず彼らの固定概念や無意識の偏見に気づかせることが重要です。例えば、具体的な事例を挙げながら、その言動がどのように相手を傷つける可能性があるかを説明し、行為者の自己認識を促します。また、多様性教育やアンコンシャスバイアストレーニングなどの機会を提供し、組織全体でマイクロアグレッションを起こさない対策も有効です。
職場での対処法:アンコンシャスバイアスに気づく
マイクロアグレッションの発生を防ぎ、心理的安全性の高い職場を構築するためには、まず各個人が自身の内なる「無意識の偏見」に気づくことが重要です。この「無意識の偏見」は、アンコンシャスバイアスと呼ばれています。
アンコンシャスバイアスへの気づきを促すためには、自己反省や診断テストを通じて個々のバイアスを明らかにし、多様性への理解を深めていくことが効果的です。これにより、自らの偏見や思い込みに基づく言動をコントロールできるようになり、職場におけるマイクロアグレッションの発生を防ぐことにつながります。
具体的な対策として、以下のような取り組みが考えられます。
- アンコンシャスバイアス研修の実施: 専門家を招いて、全社員を対象とした研修を行い、バイアスの存在とその影響について学ぶ機会を設ける。
- 自己診断テストの活用: 自己診断ツールを用いて、自身のバイアスを客観的に把握する。
- ダイバーシティ・インクルージョン施策の推進: 多様な背景を持つ人材の採用や登用を積極的に行い、職場の多様性を高める。
- オープンな対話の促進: マイクロアグレッションについて自由に議論できる場を設け、互いの経験や気づきを共有する。
- 定期的なフィードバックの実施: 上司と部下、同僚同士で定期的に行動や言動についてフィードバックを行い、互いの気づきを促す。
これらの取り組みを通じて、社員一人ひとりがアンコンシャスバイアスに気づき、マイクロアグレッションを減らすよう努めることで、より健全で生産的な職場環境の構築が可能となります。
まとめ
マイクロアグレッションとは、特定の個人やグループに対する偏見・思い込みに基づく言動により、無自覚に相手を傷つけてしまうことを指します。相手を侮辱しようという明確な意図をもつ言動だけが差別ではありません。悪意や敵意がなくても、無意識の偏見は人の心の中に潜んでおり、時にそれが言動となって現れてしまうことがあるのです。
自覚なき差別が繰り返されるような職場では円滑なコミュニケーションをとることができず、生産性やパフォーマンスに悪影響を与えてしまいます。これを防ぐためにはアンコンシャスバイアスに気づくことが有効な対処法となります。自らの偏見や思い込み、それに起因する問題や影響を自覚させ、社員の行動変容を促していくことが大切です。
マイクロアグレッションへの対処は、受け手・周囲・行為者それぞれの立場に応じたアプローチが必要です。また、職場でマイクロアグレッションを未然に防ぐには、多様性への理解を深め、心理的安全性の高い環境を整えることが重要です。一人ひとりが自身のアンコンシャスバイアスに気づき、それをコントロールする努力を続けることで、より良い職場環境の構築につながります。マイクロアグレッションへの対策は、組織全体のコミュニケーションの質を向上させ、生産性の向上にも寄与する重要な取り組みといえるでしょう。
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