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人材開発の過去、現在、そして未来はどうなるか

〜エビデンスベースの人材開発へ〜

学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 組織測定研究センター プロジェクト・リーダー 田島尚子氏
ProFuture株式会社 代表取締役社長/中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授 寺澤康介

昨今、人材開発の課題や内容、手法はどのように変化してきているのか。今後人材開発部門はその変化をどのように受け止め、どのような取り組みをしなければいけないのか。今回は産業能率大学総合研究所の田島尚子氏に、同研究所が行ったマネジメント教育実態調査をもとに、人材開発活動の過去・現在・未来を解説していただきました。

一人当たりの教育投資額の経年変化はV字回復に

まずはお配りした報告書の15ページをご覧ください。「一人当たりの教育投資額の経年変化」を見ますと、2008年から、2010年、2015年までに見事V字回復をしています。こうしたことから昨今言われているような人材開発活動の衰退・縮小は、2010年で歯止めがかかり、2015年には回復傾向にあるということがわかります。ではこうした人材開発活動は、過去と比べてどのように変化しているのでしょうか。また将来どのような変化が予測されるのでしょうか。そういった観点から、本日は「組織と個人の関係性の変化」、「低モチベーションの階層とその理由」、「管理職に求められる役割の変化」という3つのポイントについてご紹介させていただきたいと思います。

組織と個人の関係性の変化

まず1つ目のポイントとして、「組織と個人の関係性の変化」について見ていきましょう。終身雇用の崩壊や個人の価値観の多様化、情報収集コストの低減といったことから個人と組織の間でパワーシフトが起きています。こうした変化が人材開発活動の文脈においても見受けられるのかどうか。報告書11ページをご覧ください。「人材開発の主体は本人責任なのか、組織責任なのか」という問いに対して、2008年は「組織責任」が56.7%と「本人責任」を大幅に上回っていますが、2010年では44.2%と大幅に減少。そして2015年になると59.7%が「組織責任」と、再び回復し、「人材開発の主体は組織責任」であるという考え方が主流になりつつあります。

次に「教育投資のスタンス」についてのグラフを見ると、2010年は「底上げ型重視」が64.1%と、「選抜型重視」を大幅に上回っており、2015年も「底上げ型重視」が65.8%と微増。6割以上の企業が組織全体のレベルアップに重きを置いていることがわかります。さらに「教育の形態」についてのグラフでは、約7割の企業が「選択型中心」ではなく、「一律型中心」であると回答しています。こうした「組織責任」、「底上げ型重視」、「一律型中心」といった回答を併せ見ると、企業は戦略的人材開発活動を展開しようという意図を強めてきている印象です。

では組織と個人の関係性はどうなっているのでしょうか。一見、以前のような支配従属関係に戻りつつあると捉えることもできますが、「人材開発の主体」についてのグラフを見ると、「組織責任」よりも、「やや組織責任」の伸び幅が大きく、これはある程度は個人の責任を含みつつも、どちらかと言えば組織責任というニュアンスで回答していると推察することができます。これはつまり戦略的に組織主導で人材開発活動を行うが、かつてのように会社からの一方的な押し付けではなく、ある程度個人の主体性や責任も認めた上で活動を展開している表れなのではないか。これまでのような支配従属関係から、パートナー関係に移行しつつある兆候といえるのではないでしょうか。

低モチベーションの階層とその理由

一般的に日本のビジネスパーソンはモチベーションが低いという研究結果が出ており、なかでも若手社員のモチベーションが低いと言われています。まずは報告書の7ページをご覧ください。過去3年間の状況変化のグラフを見てみると、「会社の業績が向上している」という項目では2010年は26.4%だったのに対し、2015年は53.5%と大幅に増えています。次に「社員一人当たりの生産性」も33.6%から40.2%にアップ。これに対し「社員の仕事に対するモチベーション」は19.8%から23.7%と、増えてはいますが、会社の業績と比較すると、景気の回復にモチベーションが追いついていない印象です。

では実際にどの層のモチベーションが伸びていないのでしょうか。報告書の28ページをご覧ください。社員のモチベーションの状態に関するグラフを見ると、半数以上の企業で、中堅社員が低モチベーションなのがわかります。

なぜ中堅社員はモチベーションが低いのか。報告書の29ページのモチベーション低下理由に関するグラフをご覧ください。これによると、「業務が忙しすぎて疲れているから」が63.1%と最も多く、次に「将来の方向性が見えないから」が50.0%と、先行き不透明な中で疲弊している様子が伺えます。また「将来の方向性が見えないから」という理由が、「頑張っても処遇に反映されないから」、「ポスト不足により昇進が望めないから」、「給与が仕事と見合っていないから」といった外的報酬を上回るのは理解できるのですが、「やりがいのある仕事を与えてもらえないから」という内的報酬をも上回っている点は、大変興味深いですね。やりがいのある仕事を与えてもらっても、先行きが見えないとモチベーションは低下してしまうということになります。

仮に中堅社員を年齢的に定義するのであれば、30代半ば〜40代前半と捉えることができます。この世代はいわゆるロスジェネ世代、経済成長を経験できなかった不遇の世代です。低成長時代にあって自ら将来の方向性を見出すことができない、そのような要因が背景にあるのかもしれません。いずれにせよ脂の乗った働き盛りの世代ですから、彼らのモチベーションが低いという状況を、企業が見過ごしていいはずがありません。彼らのモチベーションをいかに高めていくかが、人材開発部門に求められているのではないでしょうか。

管理職に求められる役割の変化

報告書の13ページをご覧ください。ここでは人材開発上の課題について尋ねていますが、圧倒的に多いのが、「管理職のマネジメント能力を高めること」(71.2%)です。多くの企業にとって、管理職のマネジメント能力を高めることが最重要課題であることがわかります。

では実際どのような能力を開発することが求められているのか。課長の能力開発ニーズについて聞いたところ、最も多かったのが「部下を育成する力」(80.6%)。2番目は「職場の課題を形成する力」(73.4%)。3番目は「部下を率いていく力」(63.3%)と、主に職場内のマネジメント能力を中心に求めているようです。一方、課長の能力開発ニーズを経年で比較してみると、2010年と2015年では1位〜4位までは変動がなく、5位だけ入れ替わっています。それが「上司を動かす力」です。2010年では12位だったのが、急激にポイントを上げてきています。こうしたことから職場管理能力のみならず、上方影響力が求められているのがわかります。

【トークセッション 田島尚子氏×寺澤康介】※一部抜粋

寺澤 さきほどの「教育投資のスタンス」という調査結果で、「底上げ型」と「選抜型」のお話がありました。私たちが取っているデータでも「底上げ型」を重視するという答えが多いのですが、実は今後重視するのはどちらかという問いには、「選抜型」と答える企業も増えてきています。こうした傾向については、どのように分析されますか?
田島 組織主導で行う以上、「底上げ型」重視という傾向は続くでしょう。ただ一部の先駆的な企業に関しては、「底上げ」が終了して、「選抜型」の傾向を示していくと思われます。
寺澤 一方で「選抜型」を推進していたような企業が、より会社全体の戦略的な組織運営を考えたときに、従来のようにひとり一人の能力アップに注力するといったやり方に回帰しているケースも見受けられます。その点はどのようにお考えですか?
田島 組織のポリシーにも関わってくるでしょうし、そこにいる人材の志向性にもよると思いますが、傾向としては、「底上げ型」「選抜型」の両方に揺れ動いていくのではないかと考えています。
寺澤 次の「中堅社員のモチベーションが下がっている」という調査結果についてですが、弊社の調査でも最も力を入れているのが中堅社員の研修という結果でした。「先が見えない」という声が多いようですが、そこをどうやって人材開発部門が改善できるのか、もしくは手を貸すことができるのでしょうか?
田島 本学ではChAO(チャオ)という組織活性度調査を行っており、その中で「当社のありたい姿が社員に浸透しているか」「当社の社員が目指すべき人材像の姿が明示されているか」といった会社の将来の方向性に関する質問を設けているのですが、全国平均が4件法で2点台前半となっています。つまり多くの日本企業は将来の方向性を末端までうまく示せていないということです。この調査を受けてくださった某企業の担当者さん曰く、「うちは中期経営計画を文書で配布している。なので読めばわかる」と。確かに読めばわかるのでしょうが、そもそもなぜ読んでもらえないのか、なぜ伝わらないのか、という議論がなされていません。実は日本企業はこれまでそういったことにあまり手をかけてきませんでした。ですので、人材開発部門としては、トップの言葉をわかりやすく現場の言葉に置き換えて伝えていく、そういった支援も求められてくるのではないでしょうか。
寺澤 まったく同感です。理念浸透という部分では、今までは若手から中堅まで、あえて言わなくてもわかっているだろうと。ところが会社と社員の関係性の変化などによって、今は言わないと伝わらなくなってきており、そこを担うのが人材開発部門だと思います。
田島 ある研究によると、日本人は理念のようなものに共鳴しやすいそうです。ですので、モチベーションアップの施策として、方向性や理念の浸透は、組織として取り組んでいく必要があると思います。
寺澤 次に管理職についてですが、さきほどご紹介いただいたデータにもあったように、昨今、管理職に要求されるものがどんどん増えてきています。そうした中、当の管理職は大変な状況に置かれていて、色々な形でサポートを求めていると思います。産能大では、そういったサポート事例のようなものはあるのでしょうか?
田島 マネジメントには暗黙知的な部分が多く求められると思います。ですので、研修でマネジメントの基本を押さえていただくことも不可欠ですが、実際の経験を通じた学びを支援していくことも重要です。そこで本学では初任管理者を対象に、1年間に複数回の会合を設けて、各自の経験を振り返っていただきながら、マネジメントを学習する――そんなお手伝いをする機会が増えてきています。こうした場を設けることで、受講者同士が情報交換をしたり、横の連携を強化しながら気づきを得るといったメリットもあります。
寺澤 さきほど「上司を動かす力」というお話がありました。これはまさに上下を繋いでいく必要性があると。つまり言い方を変えれば、みんなバラバラになっているとも言えるような気がします。こうした中、人材開発部門にはどんな役割が求められるのでしょうか?
田島 忙しいマネージャーに対し、さらに負荷をかけるのは酷な話ではありますが、人材開発部門が裏方として、こうしたマネージャーを支援していくことが重要だと思います。最近はマネージャーがプレイングマネージャー化しており、また目標が短期化している中で、どうしても自分自身の活動ばかりに目が行ってしまい、部下に対する支援や、上司に対する働きかけが低下してきているように感じます。そういう意味でも、マネージャーは上と下の繋ぎ役であるという役割認識を持たせる必要があるでしょう。
寺澤 では最後に、これからの人材開発活動で鍵となるものは何か。本日のまとめとして、お話いただけないでしょうか。
田島 まず、機能を拡大する必要が出てくると思います。単に育成機能だけではなく、個々の状況に即した学習機会の開発、戦略策定に関与するといった機能が求められるようになります。そしてその際必要になるのが、組織の論理と個人の論理をあわせもち、両者を融合させる観点です。どちらに偏ってもダメで、両者の最適な落としどころを問うことが求められます。さらに、これまでのような中長期の視点だけではなく、短期の視点での成果もよりいっそう求められるようになるでしょう。そして、経営・現場との距離をより縮め、両者と連携を強めること。その時に鍵となるのが、データ武装することです。これまでのようなKKDや理論でのみ語るのではなく、データという客観的な証拠で語ること、つまりエビデンスベースの人材開発活動を展開することが、今まさに求められているといえるでしょう。
寺澤 本日は貴重なお話をありがとうございました。

Pro Future株式会社 HR総研 主任研究員 松岡 仁

田島 尚子 氏 学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 組織測定研究センター プロジェクト・リーダー

横浜市立大学商学部卒業後、総合建材メーカーに勤務。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了後、2001年学校法人産業能率大学に入職。現在、経営管理研究所組織測定研究センター所属。診断および研修の開発、組織診断を用いた経営体質改善や組織力強化等のコンサルテーションに従事。また、「産業界における人材ニーズの調査分析(2003)」「日本企業の人材戦略と成果主義の行方(2003)」「経済危機下の人材開発に関する実態調査(2010)」「グローバル人材の育成と活用に関する実態調査(2012)」「人材開発活動の過去・現在・未来(2016)」など、企業の人事担当者を対象とした人材開発に関する調査に多数携わる。