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人が育つ組織の要件

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介氏

人材育成は企業にとって欠かせいないものであるにもかかわらず、その方法を理解して研修を行っている企業は少ないのが現状です。では、人材育成に取り組むにあたって必要なことは何か――。もちろん、知識や技能を習得させることも重要ですが、まずは人の行動や考え方を変えさせることです。誰に、どんな認識を与え、どのように行動や思考を変えていくのかを考えなければなりません。その際に役立つ5分野15の要件を慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授の高橋俊介氏が説き明かします。

人材育成企業の要件

人材育成というものは企業にとって必要なことで、反対する人はいません。そこで問題になるのは、経営者が「人材育成に取り組め」と指示を出しても、「何をどのようにするのか」ということが漠然としています。「とりあえず研修をしよう」と言って始めたとしても、的が絞られないケースが多い。人材育成に取り組むにあたって、まず考えなければいけないのは、知識や技能を習得させることも大事ですが、何かを変えることが重要です。つまり、人の行動や考え方の様式を変化させることによって、人が育っていく部分が大きくなります。例えば、マインドセットを変えるというのも一つです。それは典型的な人材育成の肝となります。そう考えると、どんな人たちの、どんな認識を、どんな風に変えて、どんな思考や行動を変えたいのかをしっかり絞り込んで考えなければいけません。そうしないと、どんな研修でも「やらないよりもやった方がいい」といった程度になってしまいます。その際に、どんな絞り込み方があるのかについて、特にサービス業を中心に分析して5分野15要件にまとめました。

1、ビジョンと人材像の実質化

最初に必要なのは組織として目指す姿や行動や人材像が明確に定義されているかです。当然ですが、企業ビジョンやビジネスモデルと整合性がある人材像でなければなりません。ビジネスモデルが変われば、人材像も変わります。例えば、製品の営業からソリューションに変われば、ビジネスモデルも変わるはずです。日本の昔のビジネスモデルは壊れてきました。昔のビジネスモデルを前提とした人材像や新卒採用時の人材像でいいわけがありません。

そこで、人材像に基づく採用・評価・登用となります。「期待される人材像」に基づいて人材の採用が行われ、その基準が評価制度や人材の登用基準にも十分に反映されているかどうかです。スターバックスではアルバイトが日本全国で2万人います。そのうち半数以上が学生ですが、平均3年以上勤めるのです。学生は卒業するとアルバイトを辞めますから、卒業するまで働いていることになります。なぜ、そのようになるかというと、アルバイトが育っていくからです。スターバックスではコーチングで育てていきますから、アルバイトをしている人からすれば、自分が成長していると思えると、あっという間に3年が過ぎてしまいます。しかし、それは万能ではありません。というのは、スターバックスの育て方で成長するアルバイトを採用しなければならないのです。これは、人材像が採用や登用に反映されている表れと言えるでしょう。

次に、ビジョンと人材像の浸透・共有を見ていきます。組織として目指す姿や期待される人材像の意味するところが、社員にも広く浸透し共有され、具体的な仕事の場面での意味を社員一人ひとりが理解していることが大事です。よく朝礼で唱和をしますが、それよりも自分の身近な具体例や体験談の方が効果的になります。事例と双方向性のないコミュニケーションでは、浸透・共有はできません。浸透・共有するための仕組みと、そのための研修が必要です。

2、コミュニケーションを通じた人材育成

コミュニケーションを通じた相互理解と支援では、そもそも社員同士、あるいは上司と部下がお互いに理解していなければなりません。理解のないところに支援はありません。社員は自分の仕事における期待や果たすべき役割について、上司や周囲の先輩、同僚等と十分なコミュニケーションを通じて理解しており、仕事への取り組みにあたって周囲から支援を受ける必要があります。パソコンに向かって仕事をすることで職場は静かになりましたが、職場の高齢化と若者の社会性低下も課題です。そのため、月に1回は上司と部下の面談を実施している企業もあります。ここで重要なのは仕事の可視化です。誰が今、どんな仕事をしていて、どこまで進んでいるのか、何に困っているのかが可視化できれば、一人ひとりのスキルのレベルも明確になります。仕事が遅れているからといって、怒ってはいけません。遅れている人を周囲が助けることで生産性が上がります。なおかつ、人の成長過程も分かるのです。

次に大事なのは、フィードバックによる気づきを通じた能力開発となります。上司だけではなく先輩や同僚、部下、後輩など多様な人から、ポジティブ、ネガティブ、両面のフィードバックを受けることを通じて、一人ひとりが気づきを得ることができます。皆で育てる仕組みがないと、フィードバックのタイプが偏り、人間観が固定化しやすくなります。

相互に学び支援し啓発し合う組織づくりも必要です。相互学習の場が多く、互いに教え合い、学び合い、刺激し合うことが重要になります。上司だけでは、教えることはできません。その当時のビジネスモデルと現在のビジネスモデルが変われば、何も教えることはできなくなるでしょう。上司の仕事は教えることではなく、教え合う職場を作ることです。上司や先輩による研修が必要ないわけではありません。全員が平均点を得るためには、マニュアルも必要です。しかし、そこから先は学び合う、刺激し合う組織がないと人を育てていくことはできません。

3、仕事を通じた人材育成

まず、仕事及び必要能力の体系化・可視化と自身の能力水準の把握です。一人ひとりが会社の全体像や背景、仕事遂行に求められる能力水準、それと比した自身の現在の能力発揮レベルを理解したうえで、日々の仕事に取り組んでいるかどうかが問題となります。一言で言えば、今、自分のしている仕事で求められているのはここまでですが、ここはできているけれども、ここはできていないということが分かっているのかということです。仕事の深みと自身の位置を見失うと、仕事をなめてかかるようになります。仕事は深く、もっと学ぶべきことがあるということを理解させるようにしているかが重要です。

次に、仕事における背伸びを通じた能力開発と成長についてお話します。一人ひとりが常に成長できる仕事に取り組めるように、育成を意識した背伸びの仕事付与、課題付与が行われ、その過程で経営者や管理職が社員を支援しているかどうかです。逆に言うと、上司は部下に課題を付与する時に、育成をどの程度意識しているか、成長のためだと理解させているか、そもそも成長に有効な課題で育成目的で付与可能な課題があるのか、これを職場で可視化して行う必要があります。そして、成長のためだと理解させていることが重要です。いじめているわけではない。部下に対して、伸びしろがあるから背伸びをさせていることをコミュニケーションをとったうえで与えなければなりません。

そして、キャリアステップの提供による成長の継続です。中長期的、継続的成長やキャリアの形成のための次のステップを社員に意識させ、その機会を提供していく。勤める会社で長く頑張りたいかどうかは、成長実感以上に成長予感と相関が高いのです。将来が分からない時代にキャリアパスは見せられませんが、次のステップを見せることが重要となります。

4、職場育成機能を補完する人材育成投資

まず、必要なのは十分な初任者導入教育です。新卒・中途とも入社時や職種転換の時など、個人が大きな変化に直面する際、新しい職務、職場に適応するための支援や学びの機会が、会社から十分に提供されているでしょうか? 新入社員の早期離職は、ちゃんと手を打てば確実に低下します。日本の企業では現場に送り込んでそこで育てようとしますが、現場にはそれほど余裕がなかったり、かえって足手まといになって生産性が下がるケースもあります。

もう一つは、職場では得られない特定スキル・基礎理論や教養の獲得です。職場での育成機能(OJTなど)ではカバーしきれない能力育成・開発のために、職場外の学習機会、研修等の十分な人材育成投資を行うことが重要です。新しいビジネスモデルのノウハウ、一般教養や基礎理論、万が一の時の判断力養成などは、現場では開発できません。人事の役割としては、職場に任せておいていい部分とダメな部分をはっきりさせることです。

そして、長期的視点の意図的なコア人材育成投資です。リーダー人材、高度専門人材の育成など、日常業務では育ちにくく、育成に時間がかかる人材を長期的視点で発掘し、育成に取り組むことが重要です。リーダーシップは必要になった時に身に付けようとしても無理です。高度専門職は経験豊かな実務専門職とは違い、社内業務経験だけでは育ちません。

5、人・仕事・キャリアへの取り組み姿勢の形成支援

まずは、個人に焦点を当てた人間尊重の風土と人への関心です。日常の多様なコミュニケーションを通じて、個人が人間として相互に関心を持ち合い、人として尊重し合い、支え合う風土が重要です。サイバーエージェントは離職率が高かった頃、社員同士の仲が悪かったわけではないそうです。人に関心がなかったと言っています。そこで、個人に焦点を当てる諸施策などで大幅に改善したそうです。社員が人として関心を持ち合うようなベースを作っていかなければなりません。

次は、気づきや腹落ちを通しての仕事観や仕事への取り組み姿勢の形成になります。一人ひとりが気づきや納得のプロセスを通して、しっかりとした価値観やマインドセット、姿勢を持ち、自分の仕事に取り組むことです。ベネッセスタイルケアでは、入所者「お見送り」のあとに必ず振り返りの会を実施しています。新人社員にとって自分がお世話をしていた人が初めて目の前で亡くなることは、精神的に大きなショックで、それで退職してしまう社員もいるため、その対策として始めたことです。この振り返り会のように、自分の感情が動いている時の学びは、とても腹に落ちますし、記憶にとどめやすくなります。

最後に、高い視線や広い視野を持ったキャリア自律の意識の形成です。一人ひとりが高い視点と広い視野を持ち、主体的に向上心を持って自身のキャリア形成に取り組むことが重要です。変化の激しい時代だからこそ、ネガティブにならずに、受け身にならずに、前向きになっていただきたい。厚生労働省はキャリアコンサルタントを公的な資格にしました。なんと、10万人計画と言っています。これをハローワークなどに広げるだけならば、こんなに必要ありません。厚生労働省は企業内にキャリアコンサルタントをたくさん作って欲しいのです。企業内でいろいろな困難に直面している人たちのキャリア形成を支援して、前向きにする役割をする人が必要です。社員のキャリア自律のマインドセットと行動の支援、きっかけとなるような様々な仕組み、研修を整備していただきたいと思います。

高橋俊介氏

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介氏

東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了、マッキンゼーアンドカンパニー、ワイアット社(現在Towers Watson)を経て、ピープルファクターコンサルティング設立、2000年5月から慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授を務め、2011年9月より現職。