2026年版|DX人材・AI人材育成の最前線―DX動向調査から見る現在と未来
DX人材・AI人材育成の「現在地」を調査から読み解く
2018年9月に経済産業省が公表した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」以降、日本においてDXに取り組む企業の割合は年々増加しています。情報処理推進機構(IPA)はその動向や課題について継続的に調査し、日本のDX推進の状況を毎年報告しています。
本レポートでは、IPAの調査資料やディスカッション・ペーパーをもとに、企業における「DX人材・AI人材育成」の現在地と未来について諸外国の状況と対比しながら読み解きます。
参照:DX動向2025-日米独比較で探る成果創出の方向性「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」へ
AI時代のデジタル人材育成
企業で高まるDX人材・AI人材の必要性
DX(デジタルトランスフォメーション)やAIの活用は、もはや個別の業務改善にとどまらず、日本全体の生産性や産業競争力に直結する重要な取り組みとなっています。日本が目指す新たな未来社会「Society5.0」の実現や、少子高齢化による労働力減少といった構造的課題への対応としても、AIを含むデジタル技術を活用したDXが欠かせません。また、その推進を担うデジタル人材の重要性も一層高まっています。
コスト削減・効率化の成功を次の価値創出へ
日本企業のDXの取り組みは近年着実に進展しており、米国やドイツと肩を並べる、あるいはそれを上回る水準に達しているといえます。(図表1)

出典:DX動向2025について
日本のDXは、コスト削減や業務効率化において着実に成果を上げつつあります。一方で、米国やドイツのように、売上・利益の増加といった企業価値の向上につながる成果は、十分に出ていません。(図表2)企業が持続的な成長を遂げるには、DXの目的を「社内の効率化」という内向きの活動から、新たなビジネスや顧客価値の創出といった「外向きの取り組み」へと展開していくことが期待されます。

出典:DX動向2025について
AI時代に急拡大するスキルの需要
世界経済フォーラム(WEF)の「仕事の未来レポート2025」によると、2025年から2030年の間に、世界の総雇用の22%に相当する職種が変化するという、大規模な構造転換が起こると予測されています。なかでもビッグデータスペシャリストやAI・機械学習スペシャリストといったテクノロジー関連職種の成長率が高く、AIやビッグデータ、ネットワーク・サイバーセキュリティ、技術的リテラシーなどのスキル需要の増加が見込まれます。
さらには生成AIの急速な普及もあり、企業においてはこれまで以上に新たなデジタルスキルを持つ人材の確保が求められるでしょう。
日本企業のDX人材・AI人材の現状
日本ではデジタル人材の需要が急増しており、その育成にはまだ多くの伸びしろがあります。AIの進歩と普及により、今後デジタル人材の重要性はますます高まることが予想されるため、前向きな取り組みが求められます。
DX推進人材の「量」「質」のさらなる拡充へ
DX推進人材の「量」については、日本企業の8割超(85.1%)がさらなる人数の確保が必要だと感じており、2022年度(83.5%)や2023年度(85.7%)と同水準で推移しています。(図表3)

出典:DX動向2025について
また、DX推進人材の「質」に関しても不足感が強く「過不足はない」と回答したのはわずか3.8%にとどまり、人材の量・質ともに今後の採用・育成の強化が重要なテーマとなっています。(図表4)

出典:DX動向2025について
求めるのはAIの実務適用ができる人材か、研究・開発できる人材か
これからのDX推進の中核となるAI関連人材についても、日本企業は米国やドイツと比べて「不足している」と回答した割合が高く、さらなる確保・育成の余地が大きく残されています。(図表5)

また、米国とドイツではAI関連人材が「十分にいる」「まあまあいる」と答えた企業が過半数を超えているのに対し、日本ではこれから拡充していく段階にあります。特に、研究・技術領域の人材は「自社には必要ない」と回答した割合が高いことから、日本では自社でのAI開発よりも既存業務への実装・活用を中心に取り組む傾向があるため、実務適用に長けた人材の育成に注力することが効果的でしょう。(図表6)

出典:DX動向2025について
日本企業のDX人材・AI人材育成の次なるステップ
日本企業ではDXの取り組みが広がるなかで、それを担うDX人材・AI人材の育成において、さらなる飛躍に向けた次なるステップが見えてきています。
外部DX人材の柔軟な活用
I日本企業は現在、人材確保の方法を自社内の人材育成に絞る傾向があります。(図表7)

出典:DX動向2025について
今後は、米国やドイツのように外部リソースも柔軟に活用し、社外の専門家や関連企業との協業を取り入れることで、より強力で柔軟な推進体制を築くことができるでしょう。
育成方針の明確化
企業がDXを推進するためには、DX人材に求める役割や専門性を明確にし、組織内で共有することが重要です。IPAの調査において「DX推進に必要なスキルと現有人材の過不足を把握している」と回答した日本企業は14.9%にとどまりますが、米国やドイツのように約半数の企業が把握できている水準を目指し、体系的な育成施策を展開していくフェーズを迎えています。(図表8)

こうしたDX推進するためのスキルの把握から着手することで、前述の外部DX人材の活用推進にもつながると考えられます。
出典:DX動向2025について
人材育成の手厚い支援体制構築
DXを推進する人材の育成施策についても、日本企業の36.6%が「とくに支援はしていない」と回答しており、米国(1.0%)やドイツ(1.9%)と比較して育成に対する支援体制を拡充していく余地が大いにあります。(図表9)

さらにリクルートワークス研究所の「GlobalCareerSurvey2024」において、OJTの実施割合は日本が調査対象国(日本、ドイツ、フランス、英国、米国、中国、スウェーデン)の中で下位にあることが報告されており、デジタル人材に限らず日本の人材育成は諸外国と比べて相対的に支援が十分ではないと考えられ、支援体制が求められています。こうした状況こそ、日本の人材育成モデルをデジタル時代に即して刷新し、手厚い支援体制を構築する絶好の機会といえるでしょう。
新たな評価制度の構築
DX推進人材を確保し定着させるためには、デジタルスキルの習得だけでなく、業務やビジネスモデルの変革への貢献度を踏まえた評価が求められます。現在、日本企業の75.7%がDX人材の評価について「基準はない」と回答しており、DX時代における新たな評価制度を構築していく段階にあります。(図表10)

出典:DX動向2025について
一方、米国やドイツでは約8割の企業が評価基準を整備しており、処遇への連動や人事評価の参考情報として活用するなど、評価制度として具体的に運用されていることがうかがえます。この背景には日本と米国・ドイツにおける雇用慣習の違いがあると考えられますが、日本でもジョブ型雇用への転換が推奨されるなか、DX人材を正当に評価し処遇に反映させる仕組みを整備することにより、DX推進人材の採用や育成が加速するでしょう。特に採用する場合はオンボーディングにおいて期待役割や評価制度などをしっかり対話し定着化を図ることが重要です。
DX人材育成への積極投資を
DX人材を育成する予算を「大幅に増やした」「やや増やした」と回答した日本企業は2割強にとどまり、米国の7割弱、ドイツの6割弱と比較すると、今後の投資拡大のポテンシャルを示しています。(図表11)DX人材育成に欠ける予算をコストではなく未来への「投資」として捉え、積極的に拡充していくことが企業の持続的成長の鍵となります。

出典:DX動向2025について
社員目線で見るDX・AIリスキリングの現在と未来
DX・AI時代に対応するためには、企業主導の人材育成だけでなく、社員自身のリスキリングの実態にも目を向ける必要があります。社員目線で見ると、個人として新しい技術を取り入れる前向きさがあるもののAI活用が組織的な業務変革にまで活かされていない現状が浮き彫りになりました。個人レベルの学習を組織として次のステップに活かしていくことが必要です。
生成AIの個人利用から業務活用への進展を
生成AIの利用状況について「個人で業務利用している(文書作成やアイデア出しなど)」との回答は62.1%と高く、個人レベルでの活用は確実に広がっています。「部署の業務プロセスに組み込まれている」との回答は13.1%にとどまっていますが、この個人レベルの活用意欲を組織全体の業務プロセスへと進展させることが期待されます。(図表12)

出典:DX動向2025について
デジタル領域のリスキリングを若手層から広げる
NTTデータ経営研究所の「キャリア形成とリスキリングの実態調査」によれば、デジタル・ITスキルの学び直しに「取り組んでいる」と回答した割合は正社員で18.6%、契約社員で9.1%と、これから本格化していく段階にあります。年代別にみると、デジタル・ITスキルの学習を正社員の20代は30%近くが学び直しに取り組んでいる一方で正社員50代の実施率が10%未満と低く、世代間でも大きな差が生じています。この若手層の意欲的な取り組みをモデルケースとして、ベテラン世代へもデジタルスキルの育成を広げていくことが成長の鍵といえます。
業務活用のためのDX人材・AI人材育成ポイント
業務でのDX・AI活用を進めるには、求める人材像の明確化から実践機会の提供、評価制度の整備までを一体で設計することが重要です。具体的な人材育成のポイントを以下に整理します。
スキル・人材像の明確化
人材育成に取り組むうえでは、まずDX人材・AI人材に求める役割やスキルを具体化したうえで、その人材スペックをもとに育成を進めていくことが重要です。人物像やスキルセットが曖昧なままでは、採用・育成・配置に一貫性を持たせることができず、人材戦略全体が場当たり的になってしまいます。特に採用ではオンボーディングにおいて、適切なフォローが重要です。また、社員の自主的な学習を促すうえでも、習得すべきスキルを明確にしておくのが望ましいでしょう。
実践型学習の拡充
AIの進展によって必要なスキルが急速に変化するなか、座学だけでは得ることができないスキルを身につけるべく、実践型学習の拡充が求められています。実務の課題を題材にした研修(PBL)や実証実験(PoC)の場を設けることで、現場での応用力や課題解決力が高まり、学習した内容が業務の成果へ結び付きやすくなります。
スキルベースの評価への転換
メンバーシップ型雇用が主流の日本では、個人の職務やスキルが報酬に反映されにくい傾向があります。しかし、DX人材・AI人材の育成においては、職務内容や保有スキル、市場価値を踏まえて処遇を決定する人材マネジメントへの転換が求められます。こうしたスキルベースでの評価制度は、必要な職務・スキルの把握と不足分を補うための計画的な人材育成を可能にし、社員にとってもキャリアの実現に向けて主体的にスキル獲得に励む仕組みとなることが期待されます。
まとめ
日本企業におけるDX・AI推進は、人材の「量」と「質」の拡充や、育成、評価制度のさらなる整備によって、大きく飛躍する可能性を秘めています。社員個々のデジタル領域のリスキリングへの意欲も高まりつつあり、この前向きなエネルギーを企業が求めるスキルセットと連携させていくことが重要です。こうした展望を踏まえると、人材像の明確化・実践型学習の拡充・新たな評価制度の整備を一体で進めることが、日本のDX・AI人材育成を成功に導く鍵となるでしょう。
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