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Uber・Spotifyなど身近なサービスから紐解くデザイン思考|5つのプロセス・メリットも解説

近年、市場環境の変化や顧客ニーズの多様化が進むなか、ユーザー視点を起点とした「デザイン思考」による課題解決手法が注目されています。従来の分析手法では対応が難しい状況においても、試行錯誤を重ねながら解決策を導き出すことを重視し、前例のない課題に対する有効なアプローチとなります。

この記事では、デザイン思考を実践するプロセスやビジネスでの活用例、導入するメリットについてわかりやすく解説します。

目次

デザイン思考とは

デザイン思考とは、ユーザー(顧客や利用者)の体験や課題を起点に考え、ビジネス上の課題解決につなげる思考法のことです。もともとはデザイン分野で用いられていた思考プロセスでしたが、その考え方やアプローチが評価され、現在ではさまざまな分野の問題解決に応用されています。

デザイン思考には以下のような特徴があります。

  • ユーザーの視点から課題を再定義できる
  • 正解がわからない状態でも仮説検証を進められる
  • 試作と改善を繰り返すプロセスを前提としている

これらの特徴により、予測不能な状況や前例のない課題に対しても、柔軟かつ創造的な解決策を導き出すことができます。

デザイン思考が注目される背景

デザイン思考に注目が集まる背景には、ビジネス環境における不確実性の高まりがあります。顧客ニーズの多様化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進などにより、過去データや実績に基づく従来の分析手法では対応しきれない課題も少なくありません。こうした状況において、顧客の要求を起点に考えるデザイン思考は、新規事業の立ち上げや既存サービスの改善など、複雑化・高度化した課題に対して新たな視点をもたらします。

ロジカルシンキングとの違い

ロジカルシンキングとは、細分化した課題を体系立てて整理し、矛盾や破綻のない解決策を導く思考法を指します。どちらも課題解決のための思考法という点で共通しますが、ロジカルシンキングが「課題」そのものを発想の起点とするのに対し、デザイン思考では「ユーザー視点」から物事を考えます。実務では両者を併用することが多く、より実効性の高い解決策につながります。

ロジカルシンキングについて詳しく知りたい方は、以下もご参照ください。
ロジカルシンキングとは?論理的思考の鍛え方・トレーニング方法を紹介
HRI公開セミナー【3時間】ロジカルシンキング研修 – 組織・人材開発のHRインスティテュート

デザイン思考の5つのプロセス

スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所が作成した「デザイン思考 5つのステップ」をもとに、デザイン思考を実践するための段階的なプロセスをご紹介します。

1.共感(Empathize)|ユーザーを深く理解する

デザイン思考の最初のステップは、ユーザーの感情・行動・ニーズを理解し共感することです。対象者との会話や傾聴、観察などを通じてユーザー視点を深掘りすることが、デザイン思考を実践するうえでの核となります。先入観や思い込みを排除し、背景にあるユーザーの思いや本音を探ることが重要です。

2.定義(Define)|課題を見極める

「共感」で得た情報を整理・分析し、ユーザーが抱える真の課題を言語化します。表面的な問題だけでなく、環境や時代の変化なども踏まえ、潜在的な問題まで見極めることが求められます。ここで課題の本質を正しく捉えられるかどうかが、その後のアイデア創出の方向性を左右し、解決策の質にも大きく影響してきます。

3.創造・概念化(Ideate)|解決策のアイデアを広げる

定義された課題に対し、多様な解決策のアイデアを生み出すプロセスです。この段階では実現可能性を考慮せず、ブレインストーミングを行いながら自由な発想を広げることがポイントです。質より量を意識し、既存の枠にとらわれない発想を積み重ねましょう。

4.試作(Prototype)|アイデアを形にする

アイデアを具体的な形(プロトタイプ)にして試すフェーズであり、初期段階では低コストで素早く試作することが求められます。完成度の高さよりも、まずは失敗することを前提に、ユーザーからフィードバックを得られる形にすることが重要です。

5.テスト(Test)|検証し次に活かす

試作したプロトタイプを実際のユーザーに試してもらい、フィードバックを収集するプロセスです。ユーザーの反応や意見をもとに改善点を洗い出し、必要に応じて課題の再定義やアイデアの見直しを行います。このように検証と改善のサイクルを繰り返すことが、ユーザーにとってより価値の高い解決策を生み出すことにつながります。

デザイン思考のフレームで整理した具体事例

以下では、デザイン思考のフレームで整理した事例として、SpotifyとUberの取り組みを紹介します。

Spotify

デジタル音楽配信サービス「Spotify」の成功の裏には、徹底したユーザー体験の向上があります。 ストリーミング市場の競争が激化する中で、Spotifyは調査を通じて「自分の好みに合った音楽を簡単に発見したい」というユーザーの切実なニーズを把握しました。

デザイン思考のフレームで整理すると、Spotifyの取り組みは次のように説明できます。

共感リスニング行動 と嗜好の分析ユーザーが普段どのように音楽を聴き、何を探しているのかを深く観察しました。
定義「音楽発見」 の強化単に曲を配信するのではなく、「自分に合った曲と出会えること(パーソナライゼーション)」を解決すべき課題と定義しました。
創造プレイリスト機能 の開発ユーザーごとにパーソナライズされたプレイリストを提供するアイデアを創出しました。
試作推奨アルゴリズム の作成好みを分析して曲を提案する新しいアルゴリズムを試作しました。
テストフィードバック と改良実際の反応を見ながら機能の改良を続けました。

このプロセスによる継続的な改善は、ユーザーのエンゲージメントを劇的に高めました。2020年時点で約3億5,000万人だった月間アクティブユーザーは、その後も増加を続け、現在では7億人を超える規模にまで成長しています。顧客一人ひとりに寄り添った体験設計が、高いブランドロイヤルティにつながった好例です。

Uber

ライドシェアサービス「Uber」は、サービス初期において「見知らぬ人の車に乗る」ことへの安全性に対する不安が大きな障壁となっていました。 そこでUberは、利用者とドライバー双方の視点に立ち、サービスの「透明性」と「利便性」を高めるための設計見直しを行いました。

デザイン思考の観点でUberの事例を分解すると、次のように整理できます。

共感安全性・利便性 への不安を理解ユーザー調査を通じ、利用者が抱える不信感や使いにくさの原因を探りました。
定義信頼性の構築と プロセスの簡素化安心して利用できる仕組みと、移動手続きのシンプル化を課題としました。
創造可視化システム の考案リアルタイムの位置情報表示や、相互評価制度といった透明性を高める機能を考案しました。
試作アプリの アップデートドライバー情報(顔写真、車両ナンバー)や料金が事前にわかる機能をアプリに実装しました。
テスト継続的な改善ユーザーからのフィードバックをもとに、常にアプリを改善し続けました。

これらの取り組みにより、アプリ上でドライバー情報や料金が可視化され、移動サービスにおける「透明性」が確保されました。不安要素を取り除き、使いやすさを追求した結果、Uberは世界規模での事業拡大に成功しました。サービス型ビジネスにおいて、ユーザー視点の体験設計がいかに競争優位を生むかを示しています。

参考:14+ Real-World Design Thinking Examples and Their Business Impact: Insights for 2025

ビジネスでデザイン思考を取り入れるメリット

デザイン思考をビジネスに取り入れると、課題解決の進め方やチームの働き方に変化が生まれ、以下のようなメリットがもたらされます。

アイデア提案が活発になる

デザイン思考では、まず「アイデアを出す」「試してみる」姿勢を重視します。完璧な答えを求めないことで提案に対する心理的ハードルが下がり、さらに仮説を出すこと自体が評価されるため、個人・チームともにアイデア提案が活発になるメリットがあります。

顧客理解からイノベーションが生まれる

デザイン思考はユーザー視点から課題を捉えるため、顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを把握しやすくなります。こうした深い顧客理解から、既存の枠組みや過去の成功事例にとらわれない新しいアイデアが生まれ、イノベーションの促進につながることが期待できます。

チームワークが強化される

デザイン思考はチームでの協働を前提とするケースが多く、役職や立場に関係なく多様な意見を出し合うことが求められます。その結果、チーム内のコミュニケーションが活性化し、互いに協力しながら課題解決に取り組める環境が形成されます。

ビジネスでデザイン思考を取り入れる際の注意点

デザイン思考は万能な手法ではなく、その特性や限界を理解したうえで活用することが求められます。ここでは、デザイン思考を取り入れる際の注意点をご紹介します。

短期的な成果には向いていない

デザイン思考のプロセスには一定の時間と人的リソースを要するため、中長期的な視点で取り組むことが重要です。特にユーザー理解や検証の工程では、調査や試作、フィードバックの反復などに十分な準備と試行錯誤が必要です。また、自由な議論や失敗を許容する環境づくりも欠かせないため、まずは小規模なプロジェクトから段階的に導入するのが望ましいでしょう。

ユーザーや文脈がない課題には使いにくい

デザイン思考ではユーザーの体験や課題を出発点とするため、想定ユーザーや利用シーンがまったく存在しない場合には課題設定やアイデア創出が難しくなることがあります。一方で、ユーザーは存在しているものの課題が整理されていないケースや、従来の方法では行き詰まっている状況では、課題の本質を見つけ出す手法として有効に機能します。

デザイン思考と相性のよいフレームワーク

デザイン思考を実践する際には、思考プロセスを支えるフレームワークの活用が有効です。ここでは、デザイン思考の効果を高めるフレームワークを3つご紹介します。

共感マップ

共感マップは、ユーザーの考え・感情・行動などを可視化するフレームワークです。以下の6要素を書き出し、特定の環境下におけるユーザーの状況を多角的に捉えます。

  • 見ているもの(SEE)
  • 言っていること・行っていること(SAY AND DO)
  • 考えていること・感じていること(THINK AND FEEL)
  • 聞いていること(HEAR)
  • 痛みやストレスを感じていること(PAIN)
  • 得られるもの・欲しいもの(GAIN)

デザイン思考の「共感」フェーズで用いると、チーム内でユーザー理解のズレを防ぐとともに、課題発見の精度を高めることができます。

カスタマージャーニーマップ

カスタマージャーニーマップは、顧客が製品やサービスを購入・利用するプロセスを時系列で可視化するフレームワークです。顧客体験全体を俯瞰しつつ、どの段階で不満や障害が生じているかを把握できるため、デザイン思考の「共感」や「定義」フェーズにおいて本質的な課題を見つけやすくなります。

SWOT分析

SWOT分析は、以下の4つの要素を用いて企業の内部環境と外部環境を分析する手法です。自社が持っている「強み」と「弱み」、さらには自社を取り巻く「機会」と「脅威」を明らかにします。

 プラス要因マイナス要因
内部環境強み (Strengths)弱み (Weaknesses)
外部環境機会 (Opportunities)脅威 (Threats)

デザイン思考で発見した価値やニーズを、環境や競争の観点から補強・検証する際に役立ちます。

用語解説「SWOT分析」 – 組織・人材開発のHRインスティテュート

まとめ

デザイン思考は、ユーザー視点を起点に課題を捉え、試行錯誤を重ねながら価値を創出する思考法です。ユーザーが抱える問題や要望を深く理解することが、表面的な問題にとどまらない本質的な課題発見や実効性の高い解決策の創出につながります。

HRインスティテュートでは、デザイン思考を鍛える実践的なプログラムをご提供しています。新たな価値を創造できる「課題解決型人材」に必要な素養を学び、イノベーションを生み出す思考力を身につけます。

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関連プログラム:デザインシンキングのノウハウ・ドゥハウ|組織・人材開発のHRインスティテュート

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