『HR Technology Conference & Expo 2018』報告会レポート ~HRテクノロジーの最先端を専門家が総括~

HRテクノロジーをテーマとした世界最大級のイベント「HR Technology Conference & Expo 2018」(9月10~13日)が、米国ラスベガスにて開催され、現地参加者による報告会が実施された。

報告会の冒頭、HRDグループのプロファイルズ株式会社のコンサルタント・水谷 壽芳氏が登壇し、“HRテクノロジー”について解説した。
「AI、IoT、ビックデータなどを中心とした第四次産業革命が訪れる中、FinTech、AgriTechなど様々な“テック”が登場。その中のひとつであるHRテクノロジーに注目が集まっています」

さらに、水谷氏はその市場規模についても言及した。
「2016年のHCMアプリケーションのマーケット規模は日本円で1.8兆円にものぼっています。日本国内の企業研修サービス市場は5,000億円程度なので、その規模の大きさが読み取れます。投資案件も年々上昇し、さらにGoogle、Amazonなどおなじみの企業もこのマーケットに進出しています」

そもそも、HRテクノロジーを導入することで、どのようなことが実現できるのか。水谷氏が4つの切り口で整理する。
まずは『自動化』。勤怠管理や給料の処理をITの力を使って自動化するというものだ。2つ目に『いつでもどこでも化』を挙げている。例えば従来の研修は、一か所に集まってトレーニングを行っていたが、動画やチャットツールを使用することで、時間も場所も制限なく細分化されたコンテンツを学ぶことができる。

そして、3つ目と4つ目の切り口が『見える化』と『モデル化』だという。様々なアセスメントツールによって従業員を『見える化』して、そのポテンシャルを見抜き、『モデル化』することで、ハイパフォーマー予測や離職を防ぐことが可能になる。そういった視点を持ちながらカンファレンス視察に臨んだという。

会場となったのはVENETIAN HOTEL。参加人数は約10,000人で、日本人は100名以上にのぼる。日本企業における今年の流れとして、HRサービス提供サイドだけではなく、実際にHRテクノロジーを導入する側の事業会社の割合が増えていたという。

水谷氏は、今カンファレンスで注目すべきポイントについて以下のように述べている。
「組織のあり方が、ピラミッドのようなヒエラルキー型からフラットなプロジェクト型へと移行しています。これは、世の中の変化のスピードが速くなっていることに起因します。ピラミッド型では、意思決定の速度が追いついていかないという背景があるのです」

組織をフラットにしたときに、どのように権限を委譲していくのかが課題となり、それをITテクノロジーでどのように支え、チームの生産性を向上していくのかというテーマが多くなってきていたという。
「また、議論の中にあったのが、タレントマネジメントのシステムは、往々にしてユーザーインターフェイスが弱いという点です。FacebookやInstagramのように誰もが直感的に使えるようにならなければ普及しない。現場を考えたインターフェイスが必要だという話がありました」

ピープルアナリティクスが導入され、人に関する様々なデータを取得できるようになった。それらのデータをモデリングして、予測や示唆を出していく取り組みも整理され、実際の成果につながっている企業もあるという。
「さらにHRテクノロジーが進化していくと、自社で対応できることも発生します。そうなると、“外部の誰と、どんなベンダーと組むのか? が重要になってくる”という議論も活発に行われていました。プレイヤーもたくさんあるので、それぞれの会社のことをしっかり理解し、人事担当が整理したうえで経営層に提言。適正なチョイスを実施するのが重要です」

そして、水谷氏が専門とする人材アセスメントツールにも注目すべきポイントがいくつもあったという。
「日本ではまだまだ普及が進んでいるとは言い難いのですが、アメリカにおいては、ATS(候補者管理システム)やタレントマネジメントに当然のことのように採用されています。意思決定にかかわる重要な部分なので心理学など学術的根拠を背景とした妥当性と信頼性が重要視されています」

もっとも水谷氏がインパクトを感じたのが3日目の朝8時に大規模な会場でスタートしたパネルディスカッションだったという。
「Johnson & Johnson社、アクセンチュア社、DELTA航空社、Disney社という名だたる企業のCHRO(最高人事責任者)が集まって、企業文化やリーダーシップの開発、人と人との関係性やコミュニケーション論から、“組織はどこに向かうべきか?”という、根源的なテーマを真剣に語っていました。多様性が進む中、“個を見る重要性”が増してくるというコメントも印象的でした。これまでHRテクノロジーという、デジタル領域や技術論を中心に議論が展開されていたにもかかわらず、最終的に人や組織の根源的な話になったのも、世界的レベルの企業のCHROのパネルだったから、ここまで言い切れたのではないか」と指摘する。

日本国内において今後は、新卒一括における採用の見直しなど、人事領域におけるルールが変化していく。このタイミングこそ、HR分野のテクノロジー化の是非を問うべきなのかもしれない。
「HRテクノロジーの分野において、日本が遅れているからと諦めるのではなく、しっかり自分事として捉えて、どう活用するかを真剣に考えていただければと思います。日本には海外に存在する良いものを導入して馴染ませてきた文化があります。そういった感覚でHRテクノロジーにも着目していただきたい」と締めくくった。

続いて、タレンタ株式会社社の田中義紀社長による講演がスタートした。
冒頭で田中氏は、HRテクノロジーのトレンドへの理解を促すためにITの進化と併せて解説。
「1960年代にコンピューターが登場して、給与計算の自動化が実現しました。80年代にはERPが登場し、90年代のインターネットの登場により、ナビサイトやeラーニングが生まれました。さらに2000年代に入ってクラウドコンピューティングに進化。タレントマネジメントという言葉が使われるようになったのもその頃です」

続いて、2010年代にはモバイルの普及と併せてピープルマネジメントという概念が登場。幹部層を中心とした企業視点のマネジメントから、従業員視点へとHRテクノロジーが変遷していったという。
「そしてAIの時代となって、事務処理の自動化や意思決定の支援、またコミュニケーションの活性化をテクノロジーがどのように支援していくかが問われるようになってきました」と説明した。

田中社長は2016~17年にも視察をしており、イベントの傾向の変化についてこのように指摘した。
「2016年は“エンゲージメント”というキーワードが頻出。リワード、健康管理、パルスサーベイ、リアルタイムフィードバックといったピープルマネジメントサービスが出展されていました」

AI活用ソリューションも、この数年で大きく広がりを見せたという。
「2016年はHireVue、IBM、Indeed、AI Worksの4社だったのが、2017年にはAIヘッドハンティング、AIチャットボット、求人票自動添削、レジュメ解析など、人材獲得領域を中心に新しいソリューションカテゴリが出現していました。2018年は、人材獲得領域についてはプレイヤーが激増し一気にレッドオーシャン化。また人材獲得領域以外では、学習アイテム・アクションアイテム・キャリアパスなどのリコメンデーションや、HRサービスデスクへのチャットボットの適用など大幅拡大しました」

ここで登壇者が交代。本年実際に現地を視察した、タレンタ株式会社のコンサルタント 亀山太一氏が、会場の様子と注目のプロダクトについて説明を開始する。
「430社の出展がある中、2日半をかけて、尖った製品にフォーカス。約50社を見て回りました。領域は人材獲得、候補者を選抜する製品、入社した人材を評価、育成し、登用するソリューション。人材開発の領域はもちろん、人材保持領域についてもいくつかトレンドがありました」

講演当日は、13の領域をピックアップして解説。まずは人材獲得領域について、求人票最適化、候補者リコメンデーション、採用チャットボット、録画面接、適性検査の5領域それぞれにおける注目のプロダクトを紹介した。
「キャリア採用において、候補者との第一接点になる求人票。AIを活用して、その文章を添削し最適化するのがtextioというサービスです。今年になって、スカウトメールの添削にも対応することになりました」

候補者リコメンデーションでは、AIがSNS上から自動で候補者を取り込んでくる機能が台頭。マッチングの精度でしのぎを削っている状況だという。採用チャットボットは、GoogleやIBMなどの自然言語処理技術の発展により多くの製品が誕生。スクリーニングや簡単な条件面での意思確認も可能になったのだとか。
「録画面接領域では、当社がパートナーとなっているHireVueの機能がさらに充実。32言語対応、AIを活用し、話し方や表情などから、その会社にマッチした人材かどうか判断をするまでに進化し、他の製品を圧倒していました」

適性検査は脳科学に基づくゲーム感覚のものが増えていたという。VRで疑似職種体験ができるプロダクトもあったとか。

人材開発領域では評価、育成、登用・キャリアパスの3領域について解説した。
「評価領域においても、AI活用ソリューションが誕生していました。日本では年次評価が主流ですが、米国ではリアルタイムでフィードバックするような文化。サーベイやリコグニション、1on1コメントをもとにしながら、AIによって組織浸透度や評価バイアスの分析を行うなど独自の機能追加が進んでいました」

育成領域にも新しい動きがみられた。ラーニングコンテンツの管理だけでなく、学習を促進する機能を追加。上司との1on1ミーティングの記録と紐づき、最適な学習法や情報元の提案が自動に行われるという。登用・キャリアパス領域では、従業員が最適なポジションを探すソリューションやキャリアパスが可視化できるツールに注目が集まっていたのだとか。

人材保持領域ではサーベイ、リコグニション、健康管理の3領域について紹介した。
「人材を保持するために必要なサーベイは他の領域の製品の機能拡張などにより、サーベイ単体での優位性を維持することが困難になっていました。またリコグニション、すなわちほめあう文化醸成にもAIが活用されていました。また健康管理領域は身体の健康管理から精神的なケアにまで範囲が拡大しており、さらに進化が期待できることを感じました」

人事労務管理領域ではHRサービスデスクにチャットボットが導入。社内文書管理システムと連動し、Q&Aサイトにリンク。フォーマットや閲覧先をナビゲートしてくれるという。そのため問い合わせ工数が削減の効果を生んでいるという。
「HR分析領域は、AI予測分析機能を保持するソリューションが乱立。多くのHR製品がある中で、それだけデータが増えると、どのように解析するかは難しいが、それを下支えする製品が登場していました」

最後に亀山氏は、人事業務は戦略人事・インフラ人事・ルーティン人事に分類されるが、現在はルーティンのボリュームが多く、戦略人事やインフラ人事に取り組む時間が削られていると指摘。
「テクノロジーが進展すればするほど、ますます人対人のコミュニケーションの価値が上がり、また経営環境の変化が激しくなればなるほど、より経営や事業に密着した人事施策が不可欠である。そのためにはルーティン部分をオートメーション化して、本来業務に注力すべき」と述べ、それを支えるHRテクノロジーをどんどん日本国内に紹介したいと締めくくった。

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