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両利きの経営とは?意味や注目される背景、メリット・デメリット、成功のポイントを解説

市場環境の変化が加速するなか、企業には過去の成功体験にとらわれず、変化に対応しながら新たな価値を生み出す力が求められています。そこで注目されているのが、既存事業を磨きながら将来の成長機会も探索する「両利きの経営」という考え方です。

この記事では、両利きの経営の意味や注目される背景、企業が実践する際のポイントについてわかりやすく解説します。

目次

両利きの経営とは

両利きの経営とは、既存事業を最大限に活かす「知の深化」と新規事業を開拓する「知の探索」を同時に追及する経営戦略です。この2つを連携することで、絶えず変化する環境に適応しながら、企業の持続的な成長と存続を実現します。

まずは提唱者や定義、基本概念について解説します。

提唱者と定義

両利きの経営とは、既存事業と新規事業を両立させて持続的な成長を目指す手法です。基礎となったのは、1991年にスタンフォード大学のジェームズ・マーチ氏が提唱した「知の深化(Exploitation)」と「知の探索(Exploration)」という考え方です。その後、スタンフォード大学のチャールズ・オライリー氏とハーバードビジネススクールのマイケル・タッシュマン氏が共著書『Lead and Disrupt』(両利きの経営)を出版し、既存事業と新規事業を両立する経営理論として広く知られるようになりました。

知の深化

知の深化とは、既存の商品・技術・顧客基盤などを活かし、現在の事業をより強くする活動を指します。業務効率化や品質向上、提供価値の改善などが代表例であり、比較的短期間で成果を得やすい点が特徴です。一方で、深化に偏りすぎると過去の成功体験にとらわれ、市場環境や顧客ニーズの変化に対応できなくなるリスクがあります。

代表的な例として挙げられるのが、富士フイルムです。同社は2000年代のデジタルカメラの普及で本業喪失の危機に直面しますが、新規事業だけでなく写真領域そのものも磨き続けました。1998年発売のインスタントカメラ「チェキ」はトレンドや最新技術を取り入れて進化を重ね、現在世界100か国以上で展開。2025年にはスマホ時代にもかかわらず過去最高の売上を記録し、祖業を粘り強く深化させたことが、企業の存続と成長を支えています。

知の探索

知の探索とは、既存事業の延長線上にない市場・技術・顧客ニーズなどを探り、新たな価値を創出する活動を指します。新規事業の立ち上げや研究開発、異業種との連携、実証実験などが代表例として挙げられます。短期的な収益には結び付きにくいものの、中長期的な成長やイノベーションの創出には欠かせない取り組みです。

富士フイルムは、写真フィルムの主成分であるコラーゲンや、色あせを防ぐために培ってきた抗酸化技術、成分を微細化するナノテクノロジーなどの、既存事業で培ってきたを技術を化粧品や医薬品といった新領域に応用しました。本業喪失の危機に、両利きの経営へと舵を切り、写真とは畑違いの新市場を同時に切り拓いたことが、企業の新たな収益の柱となり、成長を支えています。

なぜ今、両利きの経営が注目されるのか

近年は企業を取り巻く環境が急速に変化しており、既存事業の改善だけでは市場環境の変化や破壊的イノベーションへの対応が遅れるリスクがあります。こうした状況のなか、短期的な収益を支える「知の深化」と、中長期的な成長につなげる「知の探索」を両立する経営手法である「両利きの経営」が注目を集めています。

市場環境の変化が激しくなっている

富士フイルムが、技術変革により既存事業の危機に陥ったように、AIやデジタル技術の進展、グローバル競争の激化などにより変化の激しい現代社会では、従来は競争力があった事業モデルでも、短期間で競争優位を失う可能性があります。また、異業種からの参入や新しいサービスの登場によって競争環境が大きく変わることも少なくありません。こうした変化に対応するためには、既存事業を守るだけでなく、新しい技術・市場・顧客ニーズを探索し、新たな成長機会を創出する取り組みが必要です。

既存事業の成功体験が変化への対応を遅らせる

成熟した企業ほど、収益を支える既存事業に経営資源を集中させやすく、過去の成功体験に依存する傾向があります。実際、写真フィルム最大手だったアメリカのコダックは、デジタルカメラを商品化していたにもかかわらず、フィルム事業に経営資源を集中させる方が効率よく稼げるという判断から、新規事業への展開が遅れ、その結果市場の急速なデジタル化に対応しきれず、経営破綻しています。

既存顧客の要望に応え続けることは重要ですが、それだけでは新たな市場や破壊的イノベーションの兆しを見落としかねません。企業が持続的に成長するためには、将来の成長機会を探る仕組みが必要であり、それを実現する考え方として両利きの経営が注目されています。

両利きの経営のメリット

両利きの経営を実践するメリットとして以下の点が挙げられます。

イノベーションの創出につながる

両利きの経営では、既存事業の改善だけでなく、新しい市場・技術・顧客ニーズの探索にも継続的に取り組みます。自社が培ってきた技術やノウハウを活かしながら、新規事業や新サービスの創出につなげられるため、中長期的な成長を支えるイノベーションを生み出しやすくなります。また、新たな価値創出に向けた取り組みを続けることで、市場環境の変化にも柔軟に対応することができます。

既存事業の競争力を高められる

既存事業の改善は、品質向上や業務効率化、顧客満足度の向上など、短期的な成果につながりやすい点が特徴です。商品・サービスや業務プロセスを継続的に磨き込むことで、市場における競争力が高まり、安定した収益基盤の構築につながります。また、既存事業の収益基盤が強化されると、新規事業に必要な資金や人材を確保しやすくなるメリットもあります。

既存事業と新規事業の相乗効果が期待できる

既存事業と新規事業を連携させることで、それぞれの強みを活かした相乗効果が期待できます。既存事業で培った技術や顧客基盤を新規事業の開発に活かしたり、新規事業で得た知見を既存事業の商品開発やサービス改善に還元したりすることで、両者が価値を高め合う好循環を生み出せます。深化と探索を別々に進めるのではなく、双方が得た学びを還元し合うことが大切です。

両利きの経営のデメリット

両利きの経営は成果が出るまでに時間がかかるため、組織全体で取り組みを支える体制づくりが欠かせません。ここでは、両利きの経営を実践する際の課題をご紹介します。

短期的な成果が見えにくく、投資判断が難しい

新規事業や新しい市場の開拓を目的とする「知の探索」は、すぐに売上や利益へ結び付くとは限りません。既存事業への投資は短期的な成果が見込みやすい一方、探索への投資は成果が現れるまでに一定の時間を要します。そのため投資判断が慎重になりやすく、経営層や社内の理解を十分に得られないと、取り組みが途中で頓挫してしまう可能性があります。

既存事業と新規事業のバランスを取るのが難しい

「知の深化」と「知の探索」では、求められる成果や評価基準、時間軸が異なるため、両立が難しい点が課題です。企業は短期的な成果が見えやすい既存事業に偏りがちですが、探索を軽視すると将来の成長機会を逃してしまう可能性があります。一方で探索に偏りすぎても、現在の収益基盤が弱まる恐れがあるため、人材や予算などの経営資源を適切に配分し、深化と探索をバランスよく推進することが重要です。

組織内で対立や分断が起こりやすい

既存事業と新規事業を担う各部門では、成果の出し方や働き方、評価基準がそれぞれ異なります。そのため、探索チームだけが特別扱いされているように見えると、既存部門の中で不公平感が高まり、部門間の対立が生じやすくなります。また、組織全体で共通の目的や企業文化が共有されていない場合には、部門間の連携や情報共有が進まず、組織の二極化につながるリスクがあります。

両利きの経営を実現・成功させるポイント

両利きの経営を実現するには、既存事業と新規事業を両立できる環境づくりが欠かせません。ここでは、成功に向けて押さえておくべきポイントをご紹介します。

「なぜ探索するのか」を経営戦略として明確にする

両利きの経営に取り組む際は、既存事業の深化だけでなく、新しい市場や事業機会を探索する理由を明確にすることが重要です。探索の目的が曖昧なままでは、短期的な成果が見えない段階で投資や活動が中断してしまう可能性があります。外部環境の変化や自社の成長課題を踏まえ「なぜ今、探索が必要なのか」を経営層が説明できる状態にすることが求められます。

経営陣が関与し、新規事業の芽を守る

探索領域は成果が出るまでに時間がかかるため、既存事業と同じ評価基準で判断すべきではありません。短期的な収益性だけで判断すると、新規事業が軌道に乗る前に打ち切られ、将来の成長機会を失いかねません。これを防ぐには、経営陣が資金や人材の確保、評価制度の整備などを通じて積極的に関与し、探索活動を継続できる環境を整える必要があります。

既存事業と新規事業の距離感を設計する

新規事業では、既存事業とは異なるスピード感や意思決定、評価基準が求められます。既存部門のルールに縛られすぎると、探索に必要な試行錯誤や柔軟な意思決定が難しくなり、イノベーションの創出を阻害する可能性があります。既存事業の技術・ブランド・顧客基盤などの強みを活かしつつ、新規事業の独立性も確保した設計を行うことが重要です。

共通のビジョンや価値観で組織の対立を防ぐ

既存事業と新規事業では、それぞれ役割や行動様式が異なり、部門間で対立や分断が起こることがあります。こうした課題を防ぐには、企業として目指す方向性やビジョン、価値観を共有し、部門間の相互理解を深めることが大切です。共通の目標に向かって取り組む意識を醸成することで、組織全体の一体感が高まり、既存事業と新規事業の円滑な連携につながります。

自律的に動けるリーダーを育て、任せる

探索領域においては、不確実な状況でも自ら仮説を立て、検証を繰り返しながら意思決定を下せるリーダーシップが欠かせません。細かな指示や管理を行うのではなく、現場に一定の裁量を与え、自律的に判断・行動できる環境を整えることが求められます。現場が主体的に動ける体制を構築することで、変化する環境にもスピード感のある対応が可能となり、新たな事業機会の創出を促進できます。

両利きの経営を実践する企業の事例

ここでは「両利きの経営」に取り組む企業の事例を紹介します。どの企業にも共通するのは、「今の事業を守るか、新しい事業に賭けるか」という二者択一ではなく、両方を本気で行う経営戦略をとったことです。

AGC(旭硝子)

創業100年以上の歴史を持つAGCは、中核事業である板ガラス事業が成熟期を迎え、既存事業の延長線上だけでは成長が描けなくなっていたことから、2015年に両利きの経営を全社方針に掲げました。「コア事業」と「戦略事業」という二枚看板を掲げ、自動車や液晶パネル用のガラスなど、祖業を深化させる一方で、エレクトロニクスやライフサイエンスといった新領域の探索に投資。成熟事業には効率性を、新規事業には成長の芽を育てる時間軸を与え、さらに研究成果を事業に橋渡しする専門部署を置いたことで、2つの事業を両輪に価値を創出しています。

トヨタ

トヨタは原点である豊田自動織機の紡績事業を土台に、創業当初から自動車・ミシン・住宅事業へ進出し、以来85年にわたり両利きの経営を続け今のトヨタグループを築きました。90年近く、量産体制の確立やトヨタ生産方式(TPS)で本業を磨き上げる一方、海外市場への進出、高級車ブランド「レクサス」、世界初の量産ハイブリッド車「プリウス」など、新しい挑戦を絶やさず続けています。2009年、リーマンショックで創業以来初の赤字に見舞われる危機の中、車づくりの土台を効率化する新設計思想「TNGA」を進める一方で、EV「bZ」や水素エンジン車、実験都市「ウーブン・シティ」といった未来への投資も行っています。この本業を守る姿勢と新しいことに挑む姿勢が、成長を実現し続ける背景にあります。

両利きの経営で持続的な成長を目指そう

両利きの経営とは、既存事業を磨き込む「知の深化」と、新たな価値を創出する「知の探索」を両立させ、企業の持続的な成長を目指す考え方です。実践する際には、既存事業と新規事業とでは成果の出し方が異なることを理解し、両者が相互に連携し成長できる環境を整えることが求められます。

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