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日本のスタートアップ(ユニコーン企業)の現在地と未来

日本政府は2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップを産み育てるエコシステムの構築と創業ブームの実現を国家戦略として推進しています。

本レポートでは、2025年に経済産業省が公表した資料をもとに、日本のスタートアップの現状と課題、今後の展望について読み解きます。

参照:スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する
スタートアップ・エコシステムの現状と経済産業省の取り組みについて

目次

なぜ今、スタートアップが注目されるのか

スタートアップとは「新しい技術やビジネスモデル(イノベーション)を有し、急成長を目指す企業」を指します。経済成長への貢献や社会課題の解決に向けて、重要な役割を担うことが期待されています。

関連記事:スタートアップの意味とは?特徴やベンチャーとの違いを解説

日本の経済成長の担い手:マクロ経済への巨大なインパクト

2024年時点のスタートアップによるGDP(国内総生産)創出額は、直接効果で12.19兆円、間接波及効果まで含めて22.33兆円と試算され、マクロ経済に巨大なインパクトを与えています。スタートアップは単なる新興企業ではなく、日本経済を根底から支える存在になりつつあるといえるでしょう。

なお、米国ではGAFAM(※)が経済成長を牽引していますが、これを除くと日米の成長に大きな差はありません。日本においても同様に、経済成長を押し上げるスタートアップの創出が期待されています。

出典:経済産業省「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」(https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2023/03/230315_JANE_document_public.pdf
※GAFAM:Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoftの5社を指す

雇用・所得の創出

2024年時点の国内のスタートアップ数は25,000社に上り、58万人の雇用と3.61兆円の所得を生み出しています。また、スタートアップへの転職者も増加傾向にあり、将来の期待が大きいスタートアップ(NEXTユニコーン65社)の平均年収は大企業を上回るなど、今後さらなる雇用・所得の創出が期待されます。

時価総額から「社会課題の解決」へ

スタートアップは機動力の高さと柔軟な発想に強みがあり、既存の枠にとらわれない形で社会課題に対するソリューションを提供できます。

例えば、水処理装置を開発するWOTA株式会社では、断水時でも機能する水循環システムにより、使用した水を再利用できるシャワーや手洗い設備を被災地へ提供しました。近年はこうした「社会課題の解決」と「持続可能な経済成長」を両立する「インパクトスタートアップ」が新たなロールモデルとして注目されており、日本政府も「J-Startup Impact」を通じた集中支援を行っています。

また、世界のインパクト投資は1.57兆ドル(約240兆円)規模に拡大し、日本でもインパクト実現に向けた取り組みを支援する「インパクトコンソーシアム」が設立されるなど、国際的に評価され成長する基盤が整いつつあります。

日本のスタートアップが抱えてきた「壁」と「新たな課題」

日本のスタートアップは成長が期待される一方で、諸外国と比べた規模の小ささや資金供給の不足など、その発展を阻む複数の壁に直面しています。

諸外国と比較してユニコーン企業が少ない

2025年12月2日時点で、日本国内のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)は8社、上場企業を含めた累計でも41社強にとどまります。

諸外国(米国690社、英国55社、フランス31社など)と比較すると依然として少なく、国内で大きく成長するスタートアップの数が圧倒的に少ないことが示唆されます。

関連記事:【2026年最新版】ユニコーン企業とは?日本・世界のランキング、日本で少ない理由を解説

成長期(レイター期)の資金供給が不足している

スタートアップは「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」といった成長段階ごとに資金調達を行います。しかし、日本は海外と比較してレイター期の資金供給が不足しており、成長後期における事業拡大に必要な資金の確保が難しい状況にあります。

【スタートアップの成長ステージ】

ステージ概要主な資金調達手段
シード事業アイデア段階から事業化に向けた準備フェーズ自己資金エンジェル投資家シード向けVC創業融資クラウドファンディング
アーリー事業が軌道に乗るまでのマネタイズフェーズベンチャーキャピタル(VC)事業会社(CVC)金融機関からの借入
ミドル事業が本格的に成長し、優位性を確立するフェーズベンチャーキャピタル(VC)事業会社(CVC)金融機関からの借入シンジケートローン
レイター事業拡大とともに、IPOやM&Aなどの出口戦略も模索するフェーズベンチャーキャピタル(VC)未公開株(PE)ファンドIPO(新規公開株式)資本業務提携M&A

「小粒なIPO」と「上場後の成長停滞(グロース市場の低迷)」

日本ではEXIT手段としてIPO(新規公開株式)の比重が高いものの、米国と比較するとIPO時の資金調達額や時価総額は小規模にとどまる傾向があります。さらに、2025年にグロース市場の上場維持基準が大幅に引き上げられ、上場後の成長が伸び悩むケースも少なくありません。

近年はこうした状況を背景に、未上場株式のセカンダリー市場やM&Aによる売却など、IPO以外の多様なEXIT手段の活用が進みつつあります。

アップデートされた日本の姿:国を挙げた異次元の「攻め」の姿勢

近年、日本ではスタートアップ支援に向けた政策が大きく転換し、資金・制度の両面から成長を後押しする「攻め」の姿勢が強まっています。

「スタートアップ育成5か年計画」と巨額の資金投入

これまでの課題であった資金不足への対応として、政府は「スタートアップ育成5か年計画」においてスタートアップへの投資額を2027年度に10倍超(約10兆円規模)へ拡大する目標を掲げています。こうした大規模な資金投入により、将来的にはユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出することを目指しています。

ルールメイクの劇的な変化:アグレッシブな税制・法整備

暗号資産とWeb3.0推進への思い切った法整備

日本のWeb3.0事業者の足かせとなっていた「暗号資産の期末時価評価課税」について、第三者が継続保有する場合等でも、一定の要件を満たせば課税対象外とする見直しが行われました。さらにLPS法の改正により、VCファンド等が暗号資産へ投資できるようになるなど、資金供給の仕組みが大きく変化しています。

ストックオプションの柔軟化

会社法の特例により、株主総会を経ずとも取締役会への委任で機動的にストックオプションを発行できるよう法改正が行われました。これはスタートアップにおける人材確保の強化を目的としたもので、優秀な人材に対する迅速かつ柔軟なインセンティブ付与が可能となります。

「日本独自の勝ち筋」の追求

ディープテック領域への期待

宇宙戦略基金の創設(総額1兆円規模目標)や創薬ベンチャーエコシステム(3,500億円)、GX分野の支援(410億円)など、日本が強みを持つ「ディープテック」に対して桁違いの国費が投入されています。こうした大規模な資金投入は、先端技術分野におけるスタートアップの創出と持続的な成長に対する強い期待のあらわれといえるでしょう。

大企業からの「カーブアウト」支援

大企業内に蓄積された未事業化の技術(シーズ)を切り出し、新たなスタートアップとして独立させる「カーブアウト」支援が本格化しています。大企業が多い日本ならではのアプローチとして、新たな成長企業の創出が期待されています。

「高さ」の創出と「継続」へ:これからの日本の展望

今後のスタートアップ政策は、ユニコーン企業のような世界的なスケールアップを目指す「高さ」の創出と、資金や人材が循環して次々と新たな企業が生まれ育つ「継続(持続可能なエコシステム)」が重要なテーマとなり、持続的な成長や競争力強化に向けた取り組みが一層求められます。

ここでは、その実現に資する主な施策や方向性について整理します。

【高さ】グローバルな「人」の還流によるエコシステム構築

世界規模の「高さ」に到達するために不可欠であるにもかかわらず、日本のスタートアップやVCファンドに対する海外投資の割合は依然として低く、投資額で約8%、LP出資で約1%にとどまります。

これを打破するにはグローバル・エコシステムの構築が不可欠であり、スタートアップ支援のシリコンバレー拠点「Japan Innovation Campus」の設立や外国人起業家向けの「スタートアップビザ」の要件緩和など、世界中の投資家や起業家を日本に呼び込む施策が進められています。

【高さ・継続】成長投資とM&A・セカンダリーの促進

上場後のさらなる「高さ」を引き出す成長支援に加え、エコシステムを「継続」させるためのM&Aを通じた人材・資金の循環も促進されています。

近年は大企業による買収だけでなく、スタートアップが買い手となるM&A事例も増加し、エコシステム内での成長の連鎖が生まれています。また、未上場期間の長期化に対応するため、JIC(産業革新投資機構)などの官民ファンドを通じたセカンダリー市場の整備が本格化するなど、多様なEXIT機会が整いつつあります。

【継続】大学発スタートアップの躍進と「地方エコシステム」の形成

新たなスタートアップを絶え間なく生み出す「継続」の基盤として、大学発スタートアップは直近10年で約2.5倍となる4,288社まで増加し、過去最高の伸びを記録しました。

増加したスタートアップのうち半数以上が東京以外の地方で創業されており、北海道の「一次産業・宇宙」や愛知県の「モノづくり・モビリティ」など、地域ごとの大学の強みや産業集積を活かしたエコシステム形成が進んでいます。

また、地域課題の解決を目指す起業家を資金面から支援する「ローカルスタートアップ支援制度」の展開など、国や自治体の取り組みも地方発のエコシステム形成を加速させる要因となっています。

【継続】国や自治体が自ら「顧客」になる「公共調達」の推進

スタートアップが初期の壁を越えて事業を「継続」できるよう、資金援助にとどまらず、国や自治体が「顧客」となることでスタートアップの売上創出と信用力向上を後押しする取り組みも進んでいます。

例えば福岡市では、公民連携のワンストップ窓口「mirai@」の開設や、実証実験の成果を福岡市との契約につなげる「先端技術公共調達サポート」の提供など、スタートアップからの提案実現や実証実験、公共調達まで一貫した支援が行われています。

まとめ

日本のスタートアップは経済成長や社会課題解決の担い手として重要性が高まる一方、ユニコーン企業の少なさや成長資金の不足、出口戦略の偏りといった課題を抱えてきました。こうした状況に対し、近年は政府主導による大規模な資金投入や制度改革が進み、スタートアップを取り巻く環境は大きく改善しつつあります。今後は「高さ」のある成長と「継続」を軸に、持続的に発展するエコシステムの形成が求められるでしょう。

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