「Global YAKITORI Family」の実現に向けて―新ビジョンが導く非連続な成長と「人・地域・社会」との共創
コロナ禍以降、外食業界は店舗運営だけではなく、組織や人事のあり方にも大きな変革が求められています。『鳥貴族』等を展開するエターナルホスピタリティグループでは、ホールディングス化と社名変更を機に非連続な成長へ舵を切り、現場主義の熱量と多様な外部人材の知を融合させたグローバル展開や「地域共創×DE&I」の取り組みを推進しています。
そこで今回は、同社CHROの神山大樹氏、CCOの関口照輝氏と、長年同社の人材開発を支援しているHRインスティテュート代表の三坂健氏が対談を実施。「Global YAKITORI Family」の実現に向けた組織変革の背景や人材戦略などについて語り合っていただきました。(以下敬称略)

焼鳥を、世界のあたりまえに。新たな社名とビジョンに込めた想いとは?
三坂:2021年のホールディングス化、そして2024年の「エターナルホスピタリティグループ」への社名変更以降、御社の動きが非常にアグレッシブかつスピーディーになったと感じています。この攻めの姿勢への転換には、どのような背景や経営陣の想いがあったのでしょうか?
神山:実はコロナ前、『鳥貴族』は店舗数を急速に増やしたことで顧客の奪い合いが起き、勢いが鈍化していた時期があったんです。そのような状況の中、コロナ禍にも見舞われ、休業や酒類提供制限で人が集まる場自体が奪われてしまいました。その苦しい時期に私たちがずっと考えていたのは「コロナ後に社会はどう変わるのか」ということ。そして「きっとまた人と人のコミュニケーションが求められる時代が来るはずだ」ということでした。
そこで『鳥貴族』という単一ブランドだけではなく、新しい業態も含めて、“チキンカンパニー”として拡大していく戦略を描いたのが、ホールディングス化のきっかけです。その後、「やきとり大吉」がグループインしたこともあり、創業時の「イターナルサービス」に由来する現社名「エターナルホスピタリティグループ」へと変更しました。
三坂:社名の「エターナル」にはどのような想いが込められているのですか?

神山:新社名には、創業・設立時の想いを忘れず、グローバル展開を加速させ、世界の外食市場へ挑戦していくという意志を込めています。さらに「永遠の会社」――つまり企業は存続し続けなければならないという考えも大切にしており、その理念の軸となる「永遠」というキーワードを新社名に込めました。
三坂:社名変更に合わせて、新ビジョン「Global YAKITORI Family」も掲げられましたが、「焼鳥」と「ファミリー」を掛け合わせた言葉にはどのような意味があるのでしょうか。
神山:『鳥貴族』や『やきとり大吉』といった自社ブランドの垣根を超え、協業している『焼とりの八兵衛』さんや『市松』さんなど、他の焼鳥店も含めて、みんなで日本の焼鳥の文化や価値を世界に広めたいという思いが込められています。
関口:「グローバルチキンフードカンパニー」という長期ビジョンを掲げていましたが、「世界のチキンカンパニー」になる前に、まずは「YAKITORI」の認知を世界に広げていかなければなりません。そこで2030年までは焼鳥の文化を普及させるフェーズとして捉え、そこに注力していきたいと考えています。しかし焼鳥”カンパニー”だと、何となく無機質で自分たちだけが突っ走っているような印象が残ります。日本の食文化を一緒に世界へ伝える仲間や同士を集めていくのなら、やはり「ファミリー」という言葉のほうが相応しいと感じます。

三坂:社名から『鳥貴族』を外し、新ビジョン「Global YAKITORI Family」を掲げたことは、社員の皆様にとっても大きなパラダイムシフトだったと思います。このことが社内の意識や企業文化にどのような影響を与えたのか、CHRO、CCOそれぞれの視点から見解をお聞かせください。
神山:正直なところ、まだまだ変わっていない部分も多いのが実感です。長年、『鳥貴族』単一業態で事業を展開してきたこともあり、社員の中には新たなブランドや事業の広がりに対する理解が十分でない部分が、一定程度残っていることも否定できません。ただ最近は社員が『やきとり大吉』で独立するケースも出てきているため、変化の兆しは見えています。真の「焼鳥ファミリー」になるために、今は時間をかけて浸透させている段階ですね。
関口:私は「Global YAKITORI Family」という言葉は、社内に確実に浸透していると思っています。他の理念と同じぐらい社内の資料や、社員からの会話の中で出てくるようになっているからです。これはあくまで「ありたい姿」なので、今はそれを具体的に動かすための行動指針となりうる「DO」の言葉を作っている最中です。
例えば、「Go Global」「Love YAKITORI」「Be Family」というような動きをつくる言葉に分解し、それがGlobal YAKITORI Familyの存在として繋がっていくイメージです。
世界へ挑戦し、焼鳥を愛し、家族になろうと。この合言葉を行動に落とし込むことで、ビジョンが具現化されると信じています。
「共有・共感・共鳴」が組織の一体感を醸成するカギに
三坂:海外進出を加速させるにあたり、グローバル人材を育成するための施策などは実施されているのでしょうか?
神山:実は、体系的な育成施策はまだ整備されていません。一方で、海外へのアサインが決まった社員の成長を後押しする短期留学のサポートを実施しているほか、少しずつグローバルな人材との接点をつくる取り組みも始めています。
たとえば、2025年の大阪・関西万博を機に、当社がグローバルインターンシップへ参加したのですが、その際に出会った留学生が今年入社してくれました。また、先日も韓国からインターン生を受け入れるなど、海外との接点は着実に広がっています。
こうした取り組みの中から、将来のグローバル展開を担う人材を増やしていけたらと考えています。
三坂:我々も長らく御社で研修をご支援しておりますが、現場店長だった方がいつの間にか海外担当に抜擢されていた、というケースを目の当たりにし、役割が変わるスピードが速いなと実感しております。「スキルを積んでから行かせる」のではなく、「まず行かせて、スキルは後から」というスタンスに見えますが、アサインはどのような基準で決定されているのでしょうか?

神山:完全に「やる気」重視です。やる気があれば、スキルは後からついてきますから。海外メンバーは基本的に挙手制で、毎回かなり手が挙がります。また「あの店長が海外に行きたがっている」という情報が上がってくることも多く、あくまで意欲や熱量を最優先にアサインしています。
三坂:特にホールディングス化以降、社外からも優秀な方々がどんどん入ってこられて、多彩な新しい武器を手に入れ始めている印象があります。そのことによる相乗効果などは感じておられますか?
神山:一番変わったのは視点がより多角的になったことですね。以前は生え抜き中心で従来のやり方を貫く意識が強かったのですが、多様な人材が加わったことで「そういうことも考える必要があるのか」「そんな攻め方があるんだ」といった新たな気づきが増えました。特に新しい取締役が入ったことで、これまでになかったグローバル戦略の絵が描けるようになったと感じています。
三坂:事業の拡大や多様化が進むと、グループの一体感も醸成していく必要がありますね。
神山:昨年は創業40周年の節目に全員が集まるパーティーを開催し、海外パートナーなどもお招きして大きな一体感を得られました。また日常的にも社内報などを通じた情報発信を強化しています。

関口:加えて、昨年から「トップキャラバン」という取り組みを東名阪で開始しました。グループ拡大に伴いトップの想いが伝わりにくくなっていたため、大倉をはじめグループ会社の社長4名が現場を行脚しています。生の声で直接伝えるキャラバンを通じて「共有」を徹底し、そこから「共感」を生み、一体感を持った「共鳴」に繋げていきたい。まさに今、そのスタートラインに立っているところです。
三坂:「トップキャラバン」では具体的に何をされるのですか?
関口:前半は社長からビジョンや国内・海外展開の進捗状況などを伝え、後半の質疑応答では、アプリを使って誰でも匿名で質問できるようにしています。匿名にすることで、ドキッとするような本音や共感度の高い質問・意見なども飛び出すのですが、それもまた狙いなんです。
三坂:店舗は大勢のアルバイトの方々に支えられていると思いますが、そうした現場の皆さんに向けた施策は?
関口:アルバイトを対象としたキャリアセミナーを開いています。『鳥貴族』で働いた経験が就職活動にどう役立つのかなど大倉から直々に伝え、もちろん将来当社の社員になっていただければ嬉しいのですが、一番の目的は、日頃貢献してくださっている皆さんにご自身のキャリアを考える機会を提供することです。別の会社に就職したとしても、『鳥貴族』の卒業生として活躍してほしいという想いから開催しています。
しかし、なかには大学卒業後に他社に就職し、そこで得た経験を持って弊社の海外事業部へ中途入社してくれた例もあります。また、ベトナムではすでに「元・鳥貴族のアルバイト」だった方々が日本語学校の先生として大勢活躍されていますし、先日オープンしたハノイ1号店の現地社員は、全員が『鳥貴族』のアルバイト経験者でした。飲食業という枠を超え、これだけの雇用と人材の繋がりを生み出せているのだと、私自身も改めて実感した次第です。このような人材環流の機会をもっと増やしていきたいと思っています。
鳥貴族流「地域共創×DE&I」産学連携で新しいモデルを生み出す

三坂:今年5月、立命館アジア太平洋大学(APU)さんと地域振興や次世代人材の育成を目的とした包括連携協定を締結され、また「地域共創×DE&I」を掲げた別府店もオープンされました。まさに飲食業界における産学連携の新しいモデルだと思いますが、どのような背景や狙いがあったのでしょうか。
関口:「Global YAKITORI Family」の実現と人事戦略を連動させるには、グローバル人材の登用が欠かせません。そうした中、将来海外での認知度を高めて世界中で雇用を生み出すスタート地点として着目したのが、多くのグローバル志向を持った日本人学生や留学生が在籍するAPUの存在でした。
別府という場所は九州にありながら、東アジアや東南アジアのハブとなる立地です。この場所をベースに、110カ国以上の学生が集まるAPUで鳥貴族を知ってもらうには、単なる講義だけでなく、アルバイト先としての「お店」というリアルな場を作ることが最も効果的だと考えました。店舗があれば雇用が生まれ、物販などを通じて世界中に口コミが広がり、先輩から後輩へと焼鳥文化も受け継がれていきます。店舗で働きながら日本語を学び、習熟度に応じて時給も上がっていく。そんな環境を作ることが狙いです。
三坂:APUさんにとってはどのようなメリットがあるのですか?
関口:APU側も、学生が学内だけでなく企業や社会と接点を持てる「フィールドワークの場所」を求めておられました。弊社のように国内と海外の両方に活動拠点があることは、大学や学生にとっても大きな魅力です。実はAPUにもアジア各国に拠点を広げたいという構想があり、双方の強みを活かした協業を進めています。今後は、APUの学生とハノイの直営店を通じて、2~3週間の海外インターンシップも実施する予定です。
三坂:AIの活用が当たり前になっていく中、これからますますフィールドワークの重要性は高まるはずです。学校の授業が現場と密接に繋がり、それを持ち帰ってまた議論できるのは本当に素晴らしいサイクルだと感じます。まさに『鳥貴族』が、地域の新しい「学びの場」になっていきそうですね。ちなみに別府店ではバリアフリーなどDE&Iの取り組みも積極的に推進されていますが、これにはどういった意図があるのでしょうか?
関口:別府には障がい者の自立を支援する施設「太陽の家」があり、日本のパラスポーツ発祥の地でもあります。APUの留学生も含め、多様な人々が自然と共生している街だからこそ、別府でお店をやらせていただく以上は、障がいを持つ方々も「ファミリー」として受け入れることは必須だと考えました。多様性を尊重する店舗モデルを別府にて実証し、今後は都心の店舗など全国へ広げていくことで、グループ全体の企業価値向上にも繋げていきたいです。
「永遠の挑戦」で世界を繋ぐ外食産業の未来と次世代ビジョン
三坂:多様なキャリアという観点でいうと、御社では陸上のトップ選手を社員として迎え、競技活動を支援する「アスリート採用」も実施されています。この取り組みに至った背景や経緯についてもお聞かせください。
神山:学生アスリートの多くは「卒業後も競技を続けるか」「競技をやめて一般企業に就職するか」という二者択一に悩まされます。ただ実際は、スポンサーがつかなければ活動を続けられないという厳しい現実が待っており、そうした方々に対し、できる限り競技活動を続け、引退後は一般社員として活躍できるキャリアの選択肢を作れたらと思ったのが、支援を始めたきっかけです。
また人事の中で採用の強化が大きな課題になっていたため、広報的な意味合いも含めてトップ選手の採用を決断しました。今回2名の陸上選手を採用したのですが、他の企業からも声がかかっている中、最終的に弊社を選んでくれたのは、お互いのビジョンの一致が大きかったようです。弊社のグローバル展開を目指す姿勢と、アスリートとして日本に留まらず世界に羽ばたきたいという本人の目標が、うまくマッチしました。

関口:アスリートの方は高い目標に向かって努力し続ける強さを持っていますし、チームを動かすマネジメント力も備えています。体育会系人材が重宝される理由は、まさにそこにありますから。今後もこうしたアスリートの採用や、セカンドキャリア支援の受け皿作りには、どんどん力を入れていきたいですね。
三坂:「Global YAKITORI Family」という大きなビジョンを掲げ、多角的な挑戦を続けておられる御社ですが、これらの取り組みを通じて、5年後、10年後にどのような企業へと進化させていきたいとお考えでしょうか。最後に今後の展望をお聞かせください。
神山:グループが求める人材の定義の中に「グローバルな視点」という言葉を入れました。今はまだ社内には「グローバル=海外」くらいの認識しかありませんが、いずれは日本で外国籍社員が、海外で日本人社員が当たり前に活躍するような真の意味でのグローバルな状態を本気で作っていきたいと考えています。そして「YAKITORI」を通じて、世界中を明るくしていく。それが私たちの目指すところです。
関口:先日の経営合宿で「永遠の挑戦」というキーワードが出たのですが、時代や環境が変わっても、常にベストを尽くして挑戦し続ける会社でありたいですね。そうした姿勢を発信することで、チャレンジ精神溢れる人材が必然的に集まってくれると思います。これからは外食産業のグローバル競争力が試される時代です。これまで以上に発信力を高め、飲食業界全体の魅力を引き上げながら、その中で最も選ばれる会社を目指していきます。
三坂:今おっしゃられた「永遠の挑戦」という言葉を聞いて、本当にその通りだなと腑に落ちました。社名が鳥貴族からエターナルホスピタリティグループに変わっても御社の中に一貫してあるのは、まさにこの「挑戦」というマインドそのものなんですよね。創業期の均一価格という常識破りの挑戦に始まり、全国的な店舗拡大、「松明」や「mozu」といった新業態への一手まで、規模の大小を問わず常に挑戦し続けてこられました。そして、そうした熱い挑戦の姿勢に共感した方々が集まる組織だからこそ、これからの未来の展開もますます楽しみでなりません。本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。
【対談者プロフィール】
■神山大樹氏
株式会社エターナルホスピタリティグループ
執行役員CHRO
■関口照輝氏
株式会社エターナルホスピタリティグループ
執行役員CCO
■三坂健氏
株式会社HRインスティテュート
代表取締役社長
