「宇宙の持続可能性」を切り拓く――軌道上サービスで世界をリードするアストロスケールの技術と成長
現代の暮らしは、通信や放送、測位、災害監視など、人工衛星がもたらすさまざまなサービスに支えられています。一方、衛星の打ち上げ数が増え、スペースデブリ(宇宙ごみ)が蓄積する中、地球周辺の軌道は混雑し、衝突のリスクも高まっています。
株式会社アストロスケールホールディングス(以下、アストロスケール)は2013年の創業以来、デブリの除去や衛星の点検・寿命延長などを担う「軌道上サービス」に専業で取り組んできました。そして、2024年6月に東京証券取引所グロース市場へ上場。同年11月には、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が実際の大型デブリへ約15mまで接近することに成功しました。今回は同社が積み重ねてきた挑戦と成長、その先に描く展望をたどります。
スペースデブリ問題への挑戦から始まった、アストロスケールの歩み

軌道上サービスを専業とする宇宙スタートアップ
同社はスペースデブリの除去をはじめ、衛星の点検や寿命延長などを行う「軌道上サービス」の開発・提供を手がける宇宙スタートアップです。
宇宙開発は長らく、衛星を打ち上げて運用し、役目を終えればそのまま軌道に残すという流れをたどってきました。その結果、地球周辺には運用を終えた衛星やロケットの残骸が蓄積しています。10cmを超える物体だけでも3万個以上が高速で飛び交い、稼働中の衛星に衝突すれば、新たな破片を生んで被害をさらに広げることになります。
掲げているのは「将来世代のために安全で持続可能な軌道環境を実現する」こと。宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)の実現に向け、軌道上サービスに専業で取り組む初の民間企業として事業を進めています。
事業は、Inspect(観測)、Service(サービス)、Remove(除去)の3つの領域で構成されます。故障した衛星や物体の状態を調べ、燃料補給や修理によって使い続けられるようにして、役目を終えた機体は軌道から取り除く。宇宙で使われる機体を一方通行で終わらせず、循環させる仕組みを築こうとしています。
スペースデブリ問題を事業で解決する
創業者の岡田光信氏が着目したのは、人工衛星の増加に伴って深刻化するスペースデブリの問題でした。持続可能な宇宙開発を支える事業を構想し、2013年にアストロスケールを創業します。
当時、スペースデブリの除去を民間ビジネスとして成立させることには、懐疑的な見方も少なくありませんでした。それでも、将来にわたって宇宙を安全に活用し続けられる環境を作るため、デブリ除去を起点とする事業に乗り出したのです。
世界へ広がる事業と技術実績
創業後、同社は事業拠点を世界へ広げました。2015年に日本法人の発足を起点として、2017年に英国、2019年に米国、2020年にイスラエル、2023年にフランスでそれぞれ法人を設立。軌道上サービスをグローバルに展開する体制を築いています。
技術面でも、着実に実績を積み重ねてきました。2021年には、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」の打ち上げに成功。2024年には、「ADRAS-J」が実際の大型デブリへの接近・観測を実証し、軌道上サービスの中核をなす技術力を示しました。
2024年6月に東京証券取引所グロース市場へ上場。同年には、JAXAの商業デブリ除去実証フェーズⅡも受注しました。
その取り組みは、国内外から高く評価されています。2022年には、米国の『TIME』誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100社」に選出。また、ロールモデルとなる起業家やスタートアップを表彰する「日本スタートアップ大賞」も受賞しています。
軌道上サービスを実現する技術とグローバルな事業基盤

衛星の運用を宇宙空間で支える「軌道上サービス」
軌道上サービスとは、宇宙空間で人工衛星などに接近し、点検・保守、軌道変更、燃料補給、寿命延長、運用終了後の除去などを行うサービスです。地上の自動車に対するロードサービスのように、軌道上で衛星の運用を支える役割を担います。
役割は人工衛星の故障や衝突、スペースデブリの増加などのリスクを抑えることにとどまりません。衛星をより長く有効に活用できるようにすることで、運用者の収益性やミッションの成功率を高めることにもつながります。
こうしたサービスの基盤となるのが、対象物体へ安全に接近し、その周囲を飛行する「ランデブ・近傍運用(RPO)」技術です。同社はこの技術を軸に、観測・点検、寿命延長、デブリ除去などのサービスを展開しています。
アストロスケールの特徴・強み
実際の大型デブリへ約15mまで接近
スペースデブリの除去は「接近」「把持」「除去」という複数の工程から成り立ちます。中でも最初の「接近」は技術的なハードルが高く、後続の工程を左右する重要な段階です。
同社は商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」で、位置情報や姿勢の制御をしないデブリへ安全に接近するRPO技術を実証しました。2024年11月には、デブリから約15mまで接近することに成功。民間企業がRPOで実際のデブリへ接近した距離としては世界で最も近く、世界初のデブリ接近ミッションとなりました(※)。
※過去に同様のミッションが実施されたか否かを自社で調査(2024年12月)
除去の対象となる多くは、姿勢を制御したり自らの位置情報を提供しない非協力物体です。安全に近づき、一定の位置関係を保ちながら飛行する技術は、デブリ除去だけでなく、燃料補給や修理などの軌道上サービスにも共通する基盤となります。他社では捕獲やドッキングをしない形での除去技術も開発されているものの、対象物へ接近できなければ、捕獲やその先の作業には進めません。
一方、安全に接近できれば、提供できるサービスの可能性は大きく広がります。接近や捕獲を伴う多様なサービスを通じて、衛星運用の選択肢と柔軟性を高められるのです。
5か国の拠点からプロジェクトを推進
本社とR&D拠点を置く日本をはじめ、英国、米国、フランス、イスラエルの5か国で事業を展開しています。
軌道上サービスの主要な顧客となるのは、各国の宇宙機関や政府機関です。国が進める宇宙開発プログラムは、自国に拠点と開発機能を持つ企業を対象とすることが多く、現地に体制を構えているかどうかが事業機会を大きく左右します。こうした事情から、同社は各国に開発拠点を整えてきました。
日本ではJAXAの商業デブリ除去実証に採択され、欧州ではESA(欧州宇宙機関)などと連携するなど、各地域の公的なプログラムに参画しています。
拠点を置く国の制度や調達の仕組みに合わせて事業を組み立てられることが、軌道上サービスをグローバルに届ける土台となっています。
技術・制度・市場を動かす、多様な専門人材とグローバル連携

事業化を支える多様な専門人材
軌道上サービスを事業として成立させるには、衛星を開発する技術だけでは十分ではありません。同社には、人工衛星の開発を担うエンジニアに加え、宇宙政策、事業開発、法務、マーケティング・コミュニケーションなど、幅広い分野の専門人材が在籍しています。
背景には、軌道上サービスならではの事業環境があります。優れた技術を開発しても、それだけでサービスが普及するわけではありません。デブリ低減に向けたルールや制度が整備され、市場が形成されると共に、社会に必要性が理解されて、初めて持続的な事業として成り立ちます。
このため、同社は技術開発と並行して、制度づくりや市場の形成、社会的な認知の向上にも取り組んでいます。異なる専門性を持つ人材が一つの目的のもとで連携する体制が、事業を前進させる力となっています。
各国の知見をつなぐグローバル連携
世界各地に拠点を持つ同社では、それぞれの地域で培った知見を共有し、組織全体の事業や技術開発に生かしています。
宇宙を取り巻く環境は、国や地域で異なります。技術開発の重点に加え、政策や規制の方向性、求められるサービスも一様ではありません。各地域の人材が、現地の動向を踏まえた知見を持ち寄れることは、組織にとって大きな財産となります。
一方、対象物へ安全に接近するRPO技術のように、国や地域を問わず軌道上サービスの基盤となる技術もあります。ある国のプロジェクトで培った技術や知見は、別の国の案件にも生かされます。各拠点が強みを持ち寄ることで、組織全体として技術の蓄積を速めているのです。
軌道上サービスを宇宙インフラへ!アストロスケールが描く成長ビジョン

宇宙経済を牽引する存在へ
2026年5月、同社はスカパーJSATと戦略的パートナーシップを締結しました。あわせて資本・業務提携も実施し、スカパーJSATを引受先とする第三者割当増資により約8億円を調達する予定です。
アストロスケールが培ってきた軌道上サービスの技術やノウハウと、スカパーJSATが長年にわたり蓄積してきた衛星運用の経験を掛け合わせ、拡張性と事業性を備えたソリューションの実現を加速させます。
2035年、軌道上サービスを宇宙インフラへ
同社が見据えるのは、軌道上サービスが特別なものではなく、宇宙利用を支える仕組みとして定着する未来です。
2030年までに軌道上サービスを当たり前のものにすることを目指し、技術開発と商業サービス化を加速させています。その先に描くのは、2035年までに軌道上サービスが宇宙インフラの一部となり、宇宙空間を安全かつ持続的に利用する上で欠かせない存在になることです。
追い風となっているのが、各国で進むルールの整備です。米国では、運用を終えた衛星を5年以内に軌道から離脱させることを求める規制が導入されました。欧州でも、ミッション終了後にデブリを残さないことを目指す枠組みが動き出しています。デブリを減らす取り組みは、事業者が守るべき要件へと変わってきています。
技術の進展と制度の整備が重なることで、軌道上サービスの需要は着実に広がっていきます。地上の社会インフラと同じように、日常的に利用され、強く意識されることなく機能する状態にまで根づいてこそ、軌道上サービスは真のインフラになったと言えるでしょう。
その他、同社では、今後数年以内に打ち上げを予定している衛星の組み立てや試験をはじめ、国内外で複数のプロジェクトが同時に進んでいます。
宇宙の持続可能性という、かつて民間企業が事業として取り組むことの少なかった課題に挑み続けてきたアストロスケール。軌道上サービスを社会に根づかせる同社の歩みは、宇宙を安全かつ持続的に利用するための新たな基盤を築こうとしています。
【協力企業様のご紹介】
株式会社アストロスケールホールディングス
本社所在地:〒130-0013 東京都墨田区錦糸四丁目17番1号 ヒューリック錦糸町コラボツリー
代表者:代表取締役社長兼CEO 岡田 光信
事業内容:軌道上サービス
Inspect(観測):故障機や物体の観測・点検
Service(サービス):衛星の燃料補給や修理・アップグレード等
Remove(除去):衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去、既存デブリの除去
企業URL:https://www.astroscale.com/ja
【代表プロフィール】
岡田 光信氏
株式会社アストロスケールホールディングス 代表取締役社長兼CEO
東京大学農学部卒業後、米国パデュー大学クラナート経営大学院でMBAを取得。大蔵省、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、IT業界で10年以上にわたりグローバル経営に従事。2013年、スペースデブリ除去・軌道上サービスに取り組むアストロスケールを創業。
株式会社HRインスティテュートが “未来×いいこと×人”をテーマに、未来をよくするために、行動する人、考える人、応援する人に焦点をあて、皆さまに新しい気づきや行動へのヒントになる情報を発信しています。
