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ユニクロ(ファーストリテイリング)の女性活躍戦略―女性管理職比率45.5%を達成する「個を活かす」仕組みとは

2026年のジェンダーギャップ指数が発表され、日本は145カ国中117位でした(内閣府男女共同参画局「男女共同参画に関する国際的な指数(2026.9.16)」 より)。分野別に見ると、教育と健康はほぼ平等である一方、経済と政治は大きく遅れており、依然として女性管理職比率の著しい低さが大きな課題と言えそうです。

実際、日本企業における管理的職業従事者に占める女性の割合は14.4%と低水準にあり(内閣府男女共同参画局「第4節 経済分野(2026)」より)、女性管理職が一人もいない企業は45.9%にのぼります(厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査結果」より)。日本の代表的なアパレルブランド「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(以下、FR社)もかつては例外ではなく、従業員の約7割、顧客の半数が女性であるにもかかわらず、2014年当時の女性管理職比率はグローバル全体で20%弱にとどまっていました。

FR社はこのギャップを深刻な課題と捉え、女性活躍推進を単なる人事施策から「経営課題」へと再定義し、組織改革を推進してきました。その結果、グローバル全体の女性管理職比率が45.5%に達しただけでなく、日本国内の女性管理職比率においても30.0%(2025年8月末時点)と、日本企業の全体比率を大きく上回る水準まで着実に上昇させています。

現在、一般的な日本企業とFR社との間に生じているこの明確な差は、単なる業種特性だけでなく、過去の課題に向き合いながら「組織設計や人材戦略」をどう変革してきたかの違いに起因します。本記事ではFR社の取り組みをもとに、その要因を構造と戦略の両面から紐解きます。

目次

構造的な要因

FR社が女性管理職比率を高められた背景には、小売業としての特性やグローバル展開を前提とした経営方針、そしてFR社独自の組織構造があります。

小売・サービス業としての特性

女性管理職比率を業界別に見ると、女性従業員が比較的多い「小売業」が20.1%と高い水準にあります(帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2025年)」より)。FR社も全従業員の約7割を女性が占めており、小売・サービス業が女性人材を活かしやすい業種であることがうかがえます。

また、FR社は顧客の半数以上が女性であるため、ターゲットである女性の視点を商品戦略に反映させる必要があります。女性が意思決定層にいること自体が事業運営上の必然となっており、これも女性登用を後押しする要因になっていると考えられます。

FR社独自の構造

FR社は多数の店舗を展開するビジネスモデルのため、店長やエリアマネージャーなどの管理職ポストが豊富にあり、女性管理職候補の母集団を確保しやすい構造といえます。

若いうちから店長として店舗運営を任せることで、結婚や出産といったライフイベントを迎える前に実務ベースのマネジメント経験が積まれ、人員・時間の配分や優先順位の判断力を早期に身につけることができる仕組みになっています。

また、育児短時間勤務制度や出張時のベビーシッター費用補助など、仕事と家庭の両立を支える制度も整っています。時間面だけでなく経済面でも支援することで、より多様で柔軟な働き方を選択しやすい環境を提供しています。

グローバルスタンダードへの適合

日本は海外と比べてジェンダーギャップ指数が低く、ジェンダー格差への対応はグローバル企業にとって重要な経営課題となっています。また、日本特有の価値観や働き方をそのまま海外に持ち込むことは、投資家や現地人材からの評価に影響することも懸念されます。こうした背景から、FR社はジェンダー多様性を経営の重要テーマとして位置づけています。

FR社では女性管理職比率が45.5%に達していますが、すでにアメリカでは管理職の約4割が女性とされ、グローバル市場において女性管理職比率の高さがスタンダードになりつつあります。FR社にとっては、女性管理職比率を国際水準以上に保つことが、グローバル人材を確保・維持するうえでの必須条件といえるでしょう。

FR社の戦略的な要因

FR社は「女性活躍」を経営戦略の一環として推進し、女性が継続的にキャリアを築きやすい環境を整えています。ここでは、同社が取り組んでいる戦略的な要因を整理し、日本企業が女性管理職比率を高めるためのヒントをご紹介します。

経営主導の推進体制と明確な目標設定

FR社では経営主導で女性活躍を推進し、制度・研修・ロールモデル提示を一体となって機能させています。

女性管理職候補に向けた施策の一例として、以下のような施策が挙げられます。

  • 女性役員が登壇するトークセッション
    多数の候補者に向けた講演を通じ、「マネジメントには向いていない」という偏見を払拭する。
  • 2020年から全社導入された「個別育成計画」に基づくキャリアサポート
    上司とともに実務を通じ、中長期的に経営幹部に必要なスキルや経験を育成する。
  • 1対1や少人数で行う多様なロールモデルとのキャリアセッション・メンター制度
    多様な働き方を実践する先輩役職者との個別対話を通じ、自分らしいキャリアを描く。

こうした施策は女性社員のキャリア継続を後押しするとともに「自分はマネジメントに向いていない」という思い込みの解消にもつながっています。

また「2030年までに女性管理職比率50%」などの目標を掲げ、継続的にモニタリングすることで、全社的な経営課題として浸透させています。こうした目標は社外にも公開しており、単なる社内方針にとどまらず、経営責任を伴う取り組みとして推進しています。

完全実力主義と標準化による評価

FR社では、年齢や性別ではなく、個人の能力に基づいて評価する「完全実力主義」を採用しています。職種階層別に求められる要件を定義したグレード制度のもとで評価会議を実施し、評価の公正性・透明性を確保するとともに、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)を構造的に排除しているのが特徴です。

また「特定の誰かでなければ回らない」という業務の属人化を防ぎ、女性が管理職を担いやすい環境づくりも進めています。

その一例として、以下のような施策が挙げられます。

  • 30分単位のシフト設計
    育児中でも「保育園の送迎に合わせた短時間勤務」が可能
  • 1分単位の勤怠管理
    サービス残業を防ぎ、労働時間を適正に管理する
  • 「部門担当制」による権限委譲
    現場で即断できる仕組みにより、急な欠員にも柔軟に対応できる
  • DX・業務アプリによる業務の可視化
    今日入った新人でも必要な作業を把握・実行できる

こうした取り組みにより、育児中でも柔軟に働きながら責任あるポジションを担いやすい環境を整えています。

キャリア継続を前提とした柔軟な働き方

FR社では転勤を前提としない地域正社員制度を導入し、国内の女性正社員約1万人のうち約8割がこの制度を選択しています(2025年8月末時点)。居住地をベースにしながらも、店長やエリアマネージャーを目指せるキャリアパスが開かれており、ライフイベントと両立しながらキャリアを継続できる環境が整っています。

また、ベビーシッター費用の補助や繁忙期の託児支援など、復職後も働き続けやすいサポートを提供しています。制度利用をためらう社員には「残業時のみ」「朝の送りだけ」といった活用事例を共有し、心理的ハードルを下げながら実際の利活用を後押ししています。

グローバルD&I戦略

グローバル市場での競争力を高めるために、女性だけでなく非日本国籍の管理職比率(53.6%)の向上にも取り組んでいます。2019年には国連女性機関UN Womenと連携し、アジアの縫製工場で働く女性や社内の女性管理職を対象としたリーダーシップ研修を実施するなど、バリューチェーン全体で女性の活躍を支える仕組みを整えています。

さらに、米国では子ども1人につき最大3年間・月最大1,000ドルの育児手当を支給するなど、現地の生活実態に応じた支援を導入しているのも特徴です。こうした地域ごとの取り組みは日本を含むグローバル全体に共有され、外部パートナーシップと社内制度が連動した「グローバルD&I戦略」として機能しています。

課題:男女平均賃金の差異

女性管理職比率が高まる一方で、男女間の賃金差異(63.7%※男性の平均賃金に対する女性の平均賃金の割合)は依然として重要な課題となっています。この差異は同一労働における賃金差ではなく、執行役員クラスなど高グレード職に男性が集中していることや、基本給が低めに設定される地域正社員の約8割を女性が占めていることなど、人材構成や配置の偏りに起因する構造的な格差です。

また、日本国内の女性管理職比率は30.0%と日本の平均は上回っているものの、FRグループ全体(45.5%)と比較するとまだ低く、より高いグレードの女性が少ないことも課題として認識されています。

こうした課題に対しFR社では、ライフステージに応じた柔軟な働き方を推進するとともに、経営幹部候補となる女性の育成強化に取り組んでいます。さらに、昇進者やグレードごとの男女比率を定期的に分析・モニタリングし、上位職への女性登用を促進するなど、根本課題である構造的な賃金格差の解消を目指しています。

日本企業への示唆と実践のポイント

FR社の実績は「女性が働きやすい会社だから」という一言では説明できません。20代からの早期マネジメント経験、女性管理職候補者向けの育成プログラム、公平な評価制度、柔軟なキャリア設計、グローバルD&I戦略など、多層的な要因が組み合わさった「経営として設計された仕組み」の成果といえます。

一方で、FR社のような大規模な制度改変を一度に行うのは難しくても、自社の課題やリソースに応じて実行可能な施策から着手することが重要です。ここでは取り組みのフェーズを「短期・中期・長期」の3ステップに分け、制度・環境・教育の多面的なアプローチからFR社の事例に基づく7つのアクション例を提示します。

これらから着手することで、組織全体の働きやすさやキャリアの継続を後押しし、ひいては女性管理職比率の向上につながることが期待できます。

自社に合わせたアクションの選択肢

STEP1:短期(明日から着手できる環境・風土づくり) 

まずは現場の業務整理や、既存の制度を使いやすくする風土づくりから始めます。

1:業務の棚卸しと属人化の解消(環境)特定の誰かでなければ回らない属人化を解消するため、業務の可視化やマニュアル化を進める。誰が抜けても回る体制をつくることが、管理職を引き受ける心理的ハードルを下げる第一歩となる。
2:制度利用の心理的ハードルを下げる事例共有(風土)両立支援制度を用意するだけでなく、「残業時のみベビーシッターを利用する」「朝の送りだけ頼む」といった具体的な活用事例を細かく共有し、従業員が実際に制度を利用しやすい風土を作る。

STEP2:中期(制度の透明化とキャリア支援の開始)

現場の環境が整ってきたら、評価制度のアップデートや個別のキャリア支援に踏み込みます。 

3. 評価基準の透明化とバイアスの排除(制度)年齢や性別に依存しない客観的な評価基準(職種階層別のグレード要件など)を定義し、部門単位の評価会議等で透明性を確保することで、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)を構造的に排除する。
4. 多様なロールモデルの提示とメンター制度(教育)女性役員や役職者との対話の機会を設け、「自分には向いていない」という思い込みを解く。「子育てと両立」「独身で活躍」など多様なスタイルの実例を示し、自分らしいキャリアを描かせる。
5. 柔軟な働き方とキャリアパスの両立(制度)転勤を前提としない働き方(FR社における地域正社員制度など)でも管理職を目指せるルートを作るなど、ライフイベントと両立しながらキャリアを継続できる選択肢を増やす。

STEP3:中長期(経営主導の推進と次世代育成) 

最終的には、女性活躍を「経営課題」と位置づけ、次世代のリーダーを持続的に生み出す構造を作ります。

6. 経営主導の数値目標設定とモニタリング(ガバナンス)「〇〇年までに女性管理職比率〇%」といった明確な目標を経営トップ主導で設定・開示する。さらに、昇進者やグレードごとの男女比率を定期的にモニタリングし、組織の偏りや課題を継続的に改善する。
7. 業務を通じた中長期的な幹部候補育成(教育)女性管理職候補者を対象としたキャリアサポートプログラム等を通じて育成計画を明確化し、若手のうちから実務ベースのマネジメント経験を積ませる仕組みを作る。

まとめ

2026年のジェンダーギャップ指数が示すように、日本企業における女性管理職比率の向上は依然として大きな課題です。一方で、FR社の取り組みは、必ずしも大企業だから実現できたものではなく、業務の標準化による環境づくり、評価の透明化や柔軟なキャリア設計、経営主導の目標設定とリーダー育成といった、他企業でも段階的に応用可能な要素の積み重ねである点に特徴があります。

重要なのは、自社の規模や制約に応じて実行可能な施策から着手し、組織全体の仕組みとして定着させていくことです。

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