6月5日 (木) 13:30 - 14:30(提供:キャリアアセットマネジ株式会社)

採用学(1) 採用を科学する「採用学」はじまる!!

日本企業の採用活動を変える科学的アプローチとは!?

服部 泰宏氏

採用学プロジェクトは2013年9月に産声を上げ、その後、多くの企業と産学連携で、採用活動を科学的に分析してきました。 この講演では、(1)採用学が目指すもの、(2)実際の産学連携の事例、(3)共同研究のご案内、という3点をお話いたします。採用活動に携わる方々に、データに基づいて効果的・効率的な採用活動を行っていくきっかけを提供できればと思います。

採用の過程で行われる「期待」「フィーリング」「能力」のマッチング
私がリーダーを務め、2013年9月に始動した採用学プロジェクトは、エビデンスとロジックに基づく「科学」の手法を用いて、採用活動をより良いものに変えていくことを目指す、産学連携の取り組みです。今日は、採用学とはどういうものか、我々は何をやりたいのかをお話したいと思います。 まず、みなさまには釈迦に説法ですが、あえて問います。「採用」とはどんな活動なのでしょうか。 私は、採用を時間軸で3つのフェーズに分けて考えています。
  • 募集:企業による募集情報の提示と求職者による自己選択
  • 選抜:企業による求職者の選抜。求職者による企業の選択
  • 社会化:個人が企業に入り、なじむ。業績を上げる
つまり、採用学では、企業に入った人たちが3〜4年後にそこになじみ、活躍できていることがゴールであり、それができたかできなかったかで「良い採用」、「悪い採用」を定義します。東京大学、早稲田大学、慶応大学から何人採用しましたということで終わるのではないわけです。ですから、比較的長い、入社後3〜4年という時間をひとつのスパンとして議論、調査研究していくというのが、採用学の基本的な世界観です。 次に、私は、この3つのフェーズにおいて3つのマッチングが行われていると考えています。1つ目は「期待のマッチング」です。企業と求職者がお互いに何を求めるのか、給与や働き方など具体的な期待をすり合わせるということです。2つ目は「フィーリングのマッチング」で、これは「この会社でこの人と働きたい」、あるいは「この人はわが社で活躍しそうだ」といった、言語化しにくい感覚のすり合わせです。3つ目は「能力のマッチング」です。「この人はわが社で活躍できる能力を持っているのか」、あるいは「この会社で自分は能力を発揮できるのか」という部分のすり合わせです。 採用学の活動の前提として、このように採用の枠組みを考えています。
さまざまな問題が生じている「曖昧な日本の採用」
では、いま、日本の「採用」においてどういう問題が起きているのでしょうか。整理すると、3つの課題があると私は捉えています。 1つ目は、雇用条件、労働環境、人間関係など、求職者がエントリーするときに必要な情報が曖昧にされており、「応募者の数を多くする」ために、企業がポジティブな情報、魅力的なイメージで求職者に働きかけていることです。この結果、社員側に「期待が裏切られた感覚」が発生してしまいます。 「応募者が多ければ、優秀な人がその中にいる確率も高い」という仮説的ロジックから、「できるだけ多く母集団を集めておきたい」という心理が企業に強く働いていることが、この背景にあります。 次に、2つ目は、企業が設定する「能力」評価基準が、「コミュニケーション能力」、「協調性」、「主体性」、「チャレンジ精神」というように、どこも画一的で、しかも、いずれも曖昧で測定しにくいものばかりだということです。 そして、3つ目は、1つ目と2つ目の結果として採用活動が過熱化していることです。最初に大規模母集団を形成し、そこからエントリーシートや能力検査、面接で絞り込み、選抜していくため、多大なエネルギーと時間がかかり、採用が高コスト化してしまっています。この3 つの課題が絡み合って、企業と求職者の双方に「期待」と「能力」のミスマッチが生じていると見ています。 また、採用学プロジェクトでは、日本企業150社の採用担当者の「悩み・不安」について、HRプロと共同調査を行いました。その結果、全体として多かったのは「採用にかかる時間的・労力的負荷」、「予算・人員不足」、「採用担当者の地位」に関する悩み・不安でした。このように採用の現場の方々の声もお聞きした上で、企業と大学の共同による課題解決を目指し、採用学プロジェクトが始動することになったのです。
採用満足度の高い企業、低い企業には母集団推移グラフの違いがあった
現在、採用学プロジェクトでは、いくつかの研究コンソーシアムが同時並行で活動しています。そのひとつ、HRプロと共同で進めている「母集団形成と維持、選考フローの科学」をテーマとした研究コンソーシアムの取り組みをご紹介します。 まず、2014年5月、2015卒採用の中間評価として現時点の成果などを振り返っていただく企業アンケート調査を実施しました。このアンケート調査では、2015卒採用における採用予定人数の充足、内定を出した人材の質などのほか、採用予定者に対してプレエントリー数、正式エントリー数、一次面接前人数、最終面接前人数がそれぞれ何倍だったかをお聞きし、平均値を出しています。 そして、採用の質への満足度を1(大いに不満)から5(大いに満足)までの5段階で答えていただき、その満足度別に、募集開始時からどのような規模の母集団がつくられ、どのような曲線を描いて採用予定人数まで絞り込まれていったのかをグラフ化しました。 このグラフは非常に興味深いことを示しています。採用の質が高かった「満足度5」の企業では、プレエントリーから正式エントリーまでの間に、求職者自身の「自己選抜」による絞り込みが行われていると見られます。一方、満足度が低かった企業では、正式エントリーから面接の間に、採用担当者の努力による絞り込みが行われていると見られます。両者では、アスピレーション、つまりこの企業でやっていこうというモチベーションを押さえ込む手段とタイミングが違っているのです。 採用予定人数に対して、多くのエントリーを得ることが重要なのでしょうか。「満足度2」の企業も多くのエントリーを得ているのですから、答えはノーです。ただし、質の高い人材を採用できている企業は、プレエントリー段階で多くの求職者を引き付けつつも、正式エントリー段階までに求職者にエントリーを思いとどまらせています。 母集団のマネジメントはどうあるべきか、今後もいろいろ分析していきたいと考えています。
   
レポートはまだ続きます。気になる内容の続きはダウンロードしてお楽しみください。

  • 募集力の弱い日本企業が母集団を共有するシンガポールでの動き
  • 企業の参画を求め、産学連携の研究コンソーシアムを進めていく

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提供:キャリアアセットマネジ株式会社

講師紹介

  • 服部 泰宏氏

    横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
    服部 泰宏氏

    横浜国立大学経営学部准教授。博士(経営学)。2010年第26回組織学会高宮賞を受賞。組織と個人のかかわり合いに関する研究を進める。近年は採用活動を科学的に検討する「採用学」プロジェクトを主宰。2014年6月『(仮)採用学』(GB出版)から刊行予定。