メタ認知能力とは?リーダー・人材育成に効く「自分を客観視する力」の鍛え方

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冷静な判断や課題解決の土台となる「メタ認知」。自分を客観視する力は、自己理解や他者理解を深めるうえで欠かせないスキルであり、ビジネスにおいてはリーダーや育成担当者に特に求められる資質です。自身の思考や感情、行動を冷静に見つめ直すことで、変化の激しい環境下でも的確な判断や柔軟な対応ができるようになります。

この記事では、メタ認知の意味や能力が高い人の特徴、個人・企業が実践できる鍛え方についてわかりやすく解説します。

目次

メタ認知とは

メタ認知とは「認知を認知する」こと、つまり自分自身の認知活動(思考や理解など)を俯瞰して把握・調整する力を指します。ここでいう「メタ」とは「高次の」を意味し、自分の考えや理解を一段上の視点から客観的に見つめ、適切にコントロールする能力をいいます。

たとえばビジネスシーンにおいて、会議の議題を確認した際に「この案件はすぐに結論が出せそうだ」「この議題は関係者が多いので慎重に進めた方がよさそうだ」と判断し、進行や対応を調整できるのはメタ認知の働きによるものです。この力は業務の優先順位付けや、効果的なコミュニケーション、問題解決など、さまざまなビジネスシーンで効果を発揮します。

また、メタ認知は成長や学習の効率を高める役割も果たします。自分の理解度や学習の進捗を客観的に観察・評価して、修正していくことで継続的な自己改善が可能になります。

このように、メタ認知は個人の認知能力を最大限に活用し、より効果的な思考と行動を可能にするスキルなのです。

用語解説「メタ認知」|組織・人材開発のHRインスティテュート

メタ認知の起源は心理学

メタ認知という概念は、1976年にアメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが「メタ記憶」を定義したことに端を発します。その後、同じくアメリカの心理学者であるアン・L・ブラウンが「メタ理解」や「メタ注意」などを展開し「メタ」の概念に関する研究を発展させていきました。もともとは心理学の用語でしたが、現在では教育やビジネスなど多様な分野で重要視されている概念です。

メタ認知の2つの種類

メタ認知は、「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」の2つの種類に分類されます。これら2つの要素が適切に機能することで、より効果的な学習や問題解決、意思決定が可能となります。

メタ認知的知識

メタ認知的知識とは「自分の認知特性に関する知識」のことで、主に「人間」「課題」「方略」の3つに分類されます。たとえば「自分は集中力が高い」と自覚しているのは「人間」に関する知識、「内容が漠然としていると要点を掴みにくい」と感じるのは「課題」に関する知識、「文章だけでなく図も使ったほうが伝わりやすい」と考えるのは「方略」に関する知識です。これらがメタ認知活動の基盤となり、思考や行動を調整する際に重要な役割を果たします。

メタ認知的活動

メタ認知的活動とは「メタ認知を働かせる」ことで、主に「メタ認知的モニタリング」と「メタ認知的コントロール」の2つから構成されます。具体的には、自分の認知行動を観察・評価(=モニタリング)し、その結果に基づいて自分の行動や方略を修正・調整(=コントロール)することを意味します。

たとえば、学習中に「この内容はよく理解できている」「ここはまだ曖昧だ」と自己の理解度を確認することがメタ認知モニタリングに当たります。一方、理解が不十分だと判断したときに、学習方法の変更や復習の時間を増やすような対応がメタ認知コントロールです。

モニタリングとコントロールを繰り返すことで、自分の思考プロセスが最適化され、より建設的な判断や行動につなげることができます。

メタ認知能力の高い人の特徴

メタ認知は日常生活からビジネスまで幅広い場面で役立つスキルです。では、メタ認知能力の高い人とはどのような人なのでしょうか?
一般的にメタ認知能力の高い人には共通して以下のような特徴が見られます。

課題解決能力が高い

メタ認知能力の高い人には、自分自身や物事を俯瞰して捉える力が備わっています。急な方針転換や想定外のトラブルが起きても、自分の立ち位置や問題の本質を冷静に把握し、課題解決に向けて効果的な戦略を選択します。状況に応じて思考や行動を柔軟に切り替え、環境の変化にもスムーズに適応できるのが強みです。

感情に振り回されない

メタ認知能力の高い人は、自分の感情の動きを観察し、必要に応じてコントロールする術を持っています。うまくいかない状況にイライラしても、その感情に飲み込まれる前に「いま自分は感情的になっている」と気づき、冷静さを取り戻すことができます。このように客観的に自分を顧みることは、衝動的な行動を抑えるだけでなく、自己分析の精度を高めることにもつながります。

主体的・自律的に動く

メタ認知能力の高い人は、自分の課題や目標を正しく理解し、主体的かつ自律的に行動する力を持っています。自己分析を通じて「自分に足りないものは何か」「次に何をすればよいか」といった問いに向き合い、自分で計画を立てて実行に移すことができます。さらに、行動した結果や自身の理解度を客観的に振り返り、自ら評価してよりよい改善につなげる姿勢も持ち合わせています。

メタ認知能力の低い人の特徴

メタ認知能力の低い人は、自分自身を客観的に見ることが苦手で、感情や直感に左右されやすい傾向があります。問題に直面したときも冷静に状況を把握できず、場当たり的な対応に終始してしまうことが少なくありません。さらに、問題解決のための戦略を立てることが苦手なので、結果として同じ失敗を繰り返したり、非効率的な方法に固執したりしてしまうこともあります。

また、他者の意図や立場を考慮する力が乏しく、自己中心的で一方的な言動が見受けられます。自己評価も正確性を欠き、自分の弱点や課題に気づくことができないため、成長や改善の機会を逃しやすくなります。こうした状態が続くと、業務遂行の質が下がるだけでなく、周囲との関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。

メタ認知能力を高める重要性

メタ認知能力が高まると、自分の思考や行動を客観的に捉え、状況に応じた冷静な判断や自己コントロールができるようになります。感情的になりそうな場面でも自分を落ち着かせ、最善の対応を選択できる能力が身につきます。これにより、個人としてのパフォーマンスが向上するのはもちろん、組織全体としても柔軟な対応力や課題解決力が育まれ、変化の激しい環境下でも的確な意思決定を下すことができます。

また、メタ認知能力は学習効率の向上にも影響します。自分の理解度や学習プロセスを客観的に把握できるようになるため、効果的な学習方法を選択したり、必要に応じて軌道修正を行います。これにより日々変化する環境において、新しい知識やスキルを継続的に吸収し、成長し続けることができます。

個人で行うメタ認知能力のトレーニング方法

メタ認知能力を高めるトレーニングは、日常生活のなかで簡単に取り入れることができます。少しずつ習慣化していくことで効果が表れてきますので、無理のない範囲で継続することが大切です。ここでは代表的なトレーニング方法を4つご紹介します。

マインドフルネス

マインドフルネスとは「今この瞬間」に意識を集中させ、評価や判断をせずにありのままの現状を受け入れる瞑想法です。1日10分程度、自分の呼吸に注意を向ける時間をつくり、雑念が浮かんできたら呼吸へ意識を戻すことを繰り返します。これにより、心の動きを客観的に捉えられるようになり、感情に振り回されることなく自らをコントロールできる力が養われます。マインドフルネスには、ストレス軽減や集中力の向上といった副次的な効果も期待できます。

ジャーナリング

ジャーナリングとは、頭に浮かんだことを紙に書き出し、現状を客観的に見つめ直すトレーニングです。文章を整える必要はなく、思いつくままにひたすら書き出していくため「書く瞑想」とも呼ばれています。日々の習慣として取り入れることで、自分の思考や感情を冷静に観察する力が養われ、メタ認知的モニタリング力が向上します。5分から15分程度を目安に、慣れないうちは無理のない範囲で続けることが大切です。

例えば、毎朝起きてすぐに行うか、就寝前の時間に設定するなど、自分のライフスタイルに合わせて習慣化してみましょう。

セルフモニタリング

セルフモニタリングとは、自分の行動や感情を客観的に観察・分析する習慣を持つ方法です。日々の出来事を振り返り「なぜその行動をとったのか」「どのような感情が働いていたか」といった問いを自らに投げかけることで、自分の行動パターンや思考のクセに気づきやすくなります。こうした自己観察が習慣化すると、無意識の行動や感情に対して意識が向くようになり、必要に応じて軌道修正する力が身につきます。また、メモ帳やスマートフォンのアプリなどを活用して、気づきや発見を記録していくことで、長期的な変化や成長を後から振り返ることができます。

企業が行うメタ認知能力のトレーニング方法

メタ認知能力は、個人の成長だけでなく、組織全体の生産性を高めるうえでも重要です。企業が従業員のメタ認知能力を向上させるためには、様々なアプローチが考えられます。ここでは、企業が実践できる効果的な2つのトレーニング方法をご紹介します。

1on1

上司と部下が1対1で対話する「1on1」は、部下のメタ認知能力を高める有効な手段となります。「なぜその選択をしたのか」「他にどのような方法があるか」といった問いかけを通じて、部下の内省を促し、自ら気づきを得られるように導くことが大切です。そのためには、相手の話に真摯に耳を傾ける「傾聴」を重視し、部下の思考や感情を丁寧に引き出す姿勢が求められます。こうした対話を重ねることで、部下の自己認識が深まり、課題解決能力の向上につなげることができます。

また、定期的に1on1を実施することで、部下の成長を支援するだけでなく、上司と部下の信頼関係構築の助けにもなるでしょう。

アセスメント

アセスメントは、個人の認知傾向や行動パターンを客観的に分析し、強みや課題を明確にする手法です。特に、ビジネスの必須スキルであるロジカルシンキングや課題解決の精度を高めるには、自分の考えを第三者の視点から見つめる力、つまりメタ認知能力の向上が不可欠です。この点、ロジカルシンキング診断などのアセスメントを活用することで、現在の思考力が可視化され、集中的に強化すべき要素が明らかになります。

HRインスティテュートでは、個人の強みを引き出すものから、リーダーシップやチーム力を高めるものまで、さまざまなアセスメントを通じて、組織や個人の成長を支援するプログラムを提供しています。たとえば、ロジカルシンキング診断では、受講者のロジカルシンキング実践度を8つの要素から診断し、各要素のスキルレベルをまとめたレポートをお渡ししています。そのほか、自己理解や組織力向上を目的とした多様なアセスメントについても、興味のある方は以下のリンクから詳細をご確認ください。

関連プログラム:アセスメント(診断) – 組織・人材開発のHRインスティテュート

まとめ

メタ認知とは、自分の思考や行動を客観的に捉え、必要に応じて調整する力を指します。ビジネスにおいては、冷静な判断や的確な対応を促し、ロジカルシンキングの精度を高めるうえでも重要なスキルです。

メタ認知能力は、個人ではマインドフルネスやジャーナリング、セルフモニタリング、企業では1on1やアセスメントなどを通じて高めることができます。日々の行動を振り返る習慣や、思考を客観的に判断するツールを取り入れることで、自分の感情の動きや強み・弱みを把握しやすくなり、冷静かつ柔軟な対応力が身につきます。個人と企業の両面からメタ認知能力の向上に取り組み、変化に強い人材と組織づくりを推進していきましょう。

関連プログラム:ロジカルシンキング診断|組織・人材開発のHRインスティテュート
関連プログラム:アセスメント(診断) – 組織・人材開発のHRインスティテュート

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