若手社員のリテンションに有効な
社内コミュニケーションのあり方と
従業員体験(EX)とは

山本 寛
青山学院大学
経営学部 経営学科 教授

introduction

少子高齢化や働き方の多様化が進み、採用難が続く中で、近年、従業員の離職を防ぎ、従業員が企業で能力を発揮することができるために多角的な施策を行う「リテンションマネジメント」の重要性が叫ばれている。特に、若手については早期離職が問題となっており、各社がさまざまな取り組みで試行錯誤しているところだが、若手社員へのリテンション施策ではどういった取り組みが有効なのだろうか。今回は、「勤労者のキャリア、およびキャリア意識の研究」をテーマに研究し、「人的資源管理論」や「キャリアデザイン論」などの講義を行われている、青山学院大学経営学部経営学科の山本寛教授に、若手社員の早期定着に必要なことや、注目の仕組み「ピアボーナス」のメリットと活用法について、お話を伺った。

interview

section01少子化と転職の一般化で「人手不足倒産」が発生

―先生は、退職を一つの経営課題と捉えて取り組むべき、という提言をされています。現在、人材が長く自社で力を発揮するための「リテンションマネジメント」が、経営の観点から求められるようになった背景についてお聞かせください。


マクロ的な視点では、最も大きな要因は人手不足です。現在、「人手不足ではない」という企業はほとんどないほど、労働力不足は深刻化しています。有効求人倍率もどんどん上がり、正社員だけでなく非正規でも人が採用できなくなっています。
いわゆる「人手不足倒産」も起こっており、件数も増え始めています。人手不足倒産が起きる原因の一つは少子高齢化ですが、もう一つの要因として挙げられるのが転職の一般化です。年間の転職者の人数は300万人を超え、さらに上昇傾向を示しています。

―転職者が増えている理由を、先生はどうお考えですか?


理由は2つ考えられます。
1つは客観的要素、すなわち給料です。かつては年齢がある程度いくと転職で給料が下がることが多かったのですが、最近は上がる人の比率が高まってきています。
もう1つは主観的な要素、すなわち転職における満足度です。厚労省の調査によりますと、転職して満足している人が約53%、不満な人が10%となっており、43%もの差があるのです。これは、全体の満足度だけでなく、仕事内容、人間関係、給料など個別の項目ごとでも同じで、全ての項目で転職して満足している人が、不満な人より多くなっていました。もちろんこれは転職後間もない方も多く含まれますので、中長期的に見れば差はもう少し縮まってくると考えられますが、転職そのものにネガティブな印象があったかつての時代からは大きな意識の変革がみられます。

―先生は著書の中で、人が辞めることでかかるコストについても紹介されていますよね。若手人材が1〜2年で辞めてしまうと、場合によっては採用と教育でかけた数百万円が損失になってしまい、それをリカバリーするのが難しいと。最大で年収の2倍程度かかることもあると書かれていましたが、その内容について詳しく教えていただけますか?


若手人材の退職による損失も大きいですが、管理職や専門職など、ハイパフォーマーはより大きな損失になると考えられます。なぜなら、彼らは給料分だけの仕事をしているわけではなく、プラスαの付加価値を持っているからです。すなわち、退職により周りの人材に及ぼすマイナスの影響も大きい。最悪なのは連鎖退職ですが、そこまでではなくても、モチベーション低下を招くなどの影響が少なからずあり、実際にかかる経費額の以上の損失があると考えられているのです。

section02若手の早期定着に必要なのは、成功体験と相談相手

―近年、組織への早期定着・戦力化を図る「オンボーディング・プロセス」や、リテンションとエンゲージメントを主眼とした「エンプロイーエクスペリエンス(EX)向上」の取り組みに注目が集まっていますが、これらにおいて、若手の早期定着に必要なのは具体的にどのようなことでしょうか。


私が考えるのは、大きく分けて3つです。
まず1つは、RJP(Realistic Job Preview)いわゆる「現実的な仕事情報の事前開示」です。早期定着してもらうために必要なことの一つは、入社直後のモチベーションやエンゲージメントの維持・向上です。そういう気持ちを持たせるためには、できるだけリアリティショック(入社前の期待と入社後の現実とのギャップから受ける衝撃)は少ない方がいいのです。ゼロにするのは難しいかもしれませんが、最小限にする努力はできます。
例えば、説明会で人事の人間が会社のマイナス面について話すだけでなく、OB・OG訪問で先輩が「ウチの会社、将来的には全国転勤もあるけど大丈夫?」「業界的に年末は忙しいから、残業が少し多くなるよ」と具体的に確認するなど、きめ細かく伝えていくことが大切です。入社する予定の転職者に1〜2週間の体験入社をしてもらい、実際の雰囲気をみてもらっているという会社もあります。

2点目は、若手社員同士の横のつながり形成です。中期的には横だけでなく縦、つまり経営陣や執行役員とのつながりも必要ですが、若手社員の場合はまず先に、横のつながりが重要になります。
学生にとって1学年の差が大きな意味を持つように、若手、特に新卒の若者にとって、年齢の差は心理的な障壁となります。仮に配属先は分かれてしまっても、新入社員研修などで同い年や同じ年に入社した人と早期につながることができれば、同志のような存在になり、上司や先輩とはまた異なる、精神的な支えとなりえます。

3点目は、早期の成功体験です。若手は試行錯誤しながら仕事を進めますが、心理的振幅が大きい傾向にあります。小さな成功で大きな自信を得られる一方、些細な失敗で「もう辞めようかな」と思うほどに落ち込むのです。こうした難しい状態の人を健全な心理状態に保つには、小さな成功体験を計画的に持たせることが有効になります。容易に達成できる成功体験で構わないので、「これは成功だよ、みんなが良かったと思っているよ。」ということを感じさせてあげることで、早期定着を助けることができます。

―ミレニアル世代を中心とした現在の若手層は、社内でのコミュニケーションについて、どのようなことを求めているとお考えですか?


自分の身近に、相談できる人がいることを求めているのではないかと思います。現在の職場はIT化が進行しており、みんなPCを見て仕事をしていて会話する機会が少ないということも珍しくありません。そこに新入社員が飛び込むと、誰に何を話しかけていいのかもわからない状況に陥ることがあります。そんなときに、「とりあえずこの人には何でも話していい」という人がいると、障壁意識は薄らぎます。
環境としては、職場に打ち解けやすい雰囲気があるのが理想です。当然、決まった1人だけでなく色んな人が話しかけてくれる方が「ここに自分の居場所がある」という感覚を得やすくなります。上司を含め、周囲の人間は若手社員に歩み寄り、彼らに孤独感を持たせない状況を作ってあげることが大切です。

このあと、インタビューは
まだまだ続きます

  • 従業員間の相互評価を活用するメリット
  • ピアボーナスの仕組みはどのようにマネジメントをサポートするか
  • 従業員同士が信頼関係を築くためのコミュニケーションに必要なこと
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山本寛教授プロフィール

山本 寛
HIROSHI YAMAMOTO

青山学院大学
経営学部 経営学科 教授


1957年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。その後、銀行などに勤務、大学院をへて、現在、青山学院大学経営学部教授。日本経営協会・経営科学文献賞(01年)日本労務学会賞・学術賞(02年)経営行動科学学会・優秀事例賞(04年・共同受賞)など受賞。
著作(単著)は『なぜ、御社は若手が辞めるのか』『「中だるみ社員」の罠』(ともに日経プレミアシリーズ:新書)『人材定着のマネジメント―経営組織のリテンション研究』(中央経済社)など多数。

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