「産業医」。人事労務担当者であれば聞いたことはある言葉であろう。しかし、一般的には産業医の認知度は低いのではないかと感じている。認知度の低さの理由は、産業医の選任義務が発生する従業員50人以上の企業数の少なさ(例えば、全企業中87%が20人未満の小規模事業所、中小企業庁統計より)にあると考えている。選任義務がなければ、産業医の存在を意識することはないからである。
今後高まる産業医の争奪戦!?

 しかしながら、今は認知度が低いと思われる産業医が、今後は企業のメンタルへルス対策の重要性とともに、その存在と役割がクローズアップされて、そして産業医不足からくる企業の産業医争奪戦が始まるのではないかと思うのである。その起爆剤となりうるのが、昨年廃案となった改正労働安全衛生法案である。

 昨今メンタル不調者の増加にともない、企業ではメンタルへルス対策の重要性は高まってきている。厚労省もそのような時流の中、メンタルへルス対策等を盛り込んだ改正労働安全衛生法案を平成23年12月に国会に提出した。ただ、この法案は一昨年の衆議院解散とともに廃案となってしまった。
 この法案の再提出の有無は定かではないが、現在、厚労省の労働政策審議会では、日本産業衛生学会等の関係団体にヒアリングしながらこの法案の見直し等を行っている。下図は、昨年9月に行われた厚労省労働政策審議会安全衛生分科会での『精神的健康の状況を把握するための検査(ストレスチェック)と面接指導』という資料で、メンタルヘルス対策の新しい仕組みが示されている。
(平成25年9月25日開催 第75回厚労省労働政策審議会安全衛生分科会資料より)

 この仕組みの中で、最も問題となるのが面接指導を行う産業医の確保である。現状では、日本における産業医の有資格者数は約8万人である(『産業医.jp』より)。企業と馴染みが深い税理士は約7.5万人であるから、8万人という数字自体は多いようにも感じる。 ただし、産業医でメンタルヘルスの専門的知見と豊富な実務経験を持つ医師や精神科医はまだまだ少数ではないだろうか。産業医は精神科医でなければならないわけでないが、企業サイドからすると、これからはメンタルヘルスを含む産業保健実務に明るい医師がベストと考えるであろう。そういう意味で、この仕組みが成功するかどうかはメンタルヘルスに十分理解のある産業医の確保が肝になるのである。

 企業サイドとしては、一旦廃案となったこの改正案の動向に注目しつつ、メンタルヘルスに十分理解ある産業医の確保を今からしておくべきである。


三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫

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