あるツイッターの書き込みで次のようなものがあった。
『有給休暇申請書の“休暇理由”という欄に“有給休暇”と書いたら総務課から「理由をもう少し具体的に」と言われたので、“年間25日ある有給休暇の1回目”と書いて叩きかえした。』
怒りの年次有給休暇

 最初に読んだときは思わず笑ってしまった。確かに実際の労務管理の現場においても年次有給休暇(以下年休)の取得理由を聞く会社は多い。しかしこれが原因となって労務トラブルに発展するとなるとなれば、笑ってばかりもいられない。

 ところで、年休を取得するのに理由が必要なのだろうか。答えは「不要」である。年休をどのように利用するかは労働者の自由である。(昭和48.3.6基発110号)

 そんなわけであるから、「労働者は理由を答える必要はない」、「会社は取得理由を聞くのをやめるべきだ」といった結論が導かれがちである。確かに筋は通っているが、日々の経営の現場はそんな簡単に割り切れるものだろうか。
 例えば少人数の会社で、各自限界ギリギリの仕事をしていたとして、そんななか何の説明もなく「年休とります!」と言って、そのうちの一人に休まれたとしたらどうなるだろうか。社内の人間関係は悪くならないだろうか。顧客に迷惑をかけてしまわないだろうか。会社の信用を失墜させはしないだろうか。しかし、休む人にもそれなりの理由があるのかもしれないのである。「休まれたらもの凄く困るけど、そういう理由なら仕方ない、皆フォローし合って乗り切ろうじゃないか!」というつもりで理由を聞く分には合理性もあるように思えるのである。

 実際に相談を受けていると、年休取得をめぐる問題の本質は取得理由ではなく、本当にその日に休むことが可能なのかどうかであることが多い。だとすれば、年休トラブルの多くは次の法律の条文を労使間で理解することで予防できるかもしれない。

『使用者は、前項各号の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。』(労働基準法第39条5項)

 労働者は好きなときに年休を取れるが、本当にヤバイときは、会社は年休を別の日にしてもらうことができる、という規定である。これを年休の時季変更権という。
 ではどんな時が本当にヤバイとき(事業の正常な運営を妨げる場合)に該当するのかということが実務上の問題となる。これについては、次のような行政解釈がある。

『事業の正常な運営を妨げる場合とは、個別的、具体的に客観的に判断されるべきものであると共に、事由消滅後能う限り速やかに休暇を与えなければならない。』(昭和23.7.27基収2622号)

 ここで注目したいのは、「具体的に客観的に判断」という部分である。つまり、単に「忙しいから」「困るから」ではダメで、「代替人員がおらず顧客へのサービス提供が出来なくなる」とか、「これ以上人員が減ると遂行できなくなる仕事を受注している」など、現実に事業活動に支障が出てしまうような具体性や客観性が必要であると考えられる。

 以上、具体的客観的な理由があれば年休の時季変更が可能である。しかしそれで揉めないかというと、残念ながら現実はそんなに甘くはない。感情の問題は別問題だからだ。時季変更で社内の人間関係や雰囲気が悪くならないためには、具体的な時季変更事由まできちんと話し合っておく必要があるだろう。そして出来るだけ年休は取得してもらう方針を持つことである。情けは人の為ならず。持ちつ持たれつ、助け合いの職場でありたいものである。

出岡社会保険労務士事務所  出岡 健太郎

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