かつて、日本的経営の「三種の神器」と言われた「終身雇用」「年功賃金」「企業内労働組合」。戦後の奇跡的な経済復興を支えたシステムとして賞賛され、世界からも日本企業の強さの源泉として研究された。また、「Japan as Number One」(エズラ・ヴォーゲル、1979年)という書籍では、日本企業の強さが研究され、アメリカが学ぶべき対象だとされていた。
日本企業の人事はガラパゴス?

 これが、バブル崩壊で一気に様相が変わったことは周知の通りである。これらの「神器」、特に終身雇用と年功序列が逆に日本企業の停滞を招いたと言われ、余裕の無くなった企業は、伝統的な大手企業でさえリストラで社員を大量に解雇するようになり、非正規雇用は増え、成果主義を取り入れ年功序列を崩していった。しかし、構造的に日本企業が置かれた不利な状況下でこうした対処だけでは状況は改善せず、バブル崩壊後今に至る時期は「失われた20年」と言われてきた。

 この間、日本で「終身雇用」「年功賃金」は完全に崩壊した訳ではなく、新たな施策とミックスされて運用され、試行錯誤が繰り返されてきたが、これだ!といった決定版的な仕組みが生まれたとは言いがたい。しかも、少子高齢化、グローバル化、経済環境の変化スピードが極めて速くなっていることなど、日本企業を取り巻く環境はより困難さを増している。学習院大学の今野浩一郎教授は、著書「正社員消滅時代の人事改革」のなかで、変化する時代に対応する仕組みとしての人事改革を提案しているが、まさに企業の人事が率先して考えなければならないテーマである。
 昨年、HR総合調査研究所が人事担当者向けに調査した結果では、「日本はガラパゴス人事だと思うか(特殊に発展していて、世界では通用しない)」という質問に対して、「そう思う」が48%、「そう思わない」が26%、「どちらとも言えない」が26%という結果だった。一方で、「日本企業の人事は変わらなければならないか」という質問に対しては、「大きく変わる必要がある」が85%と圧倒的な数値を示した。

 11月30日、国内製薬最大手の武田薬品工業は、英国の大手製薬企業であるグラクソ・スミスクライン幹部のクリストフ・ウェバー氏を来年6月に社長兼COO(最高執行責任者)に迎える人事を発表した。社長である長谷川閑史氏の、変わらなければならないという強烈な危機感がベースにあると思われる。
 もちろん欧米のモノマネではなく、日本の強みを活かした、世界に通用する新たなスタンダードとしての人事の仕組みを構築することが、これからの人事部門に求められていくだろう。

HRプロ 代表/HR総合調査研究所 所長 寺澤康介

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