ここ数年、内閣府や厚生労働省は、介護離職を防ぐため、『仕事と介護』の両立を支援するサイトを立ち上げているが、大企業向けの情報発信となっており、中小企業の現場で必要とされる情報発信は少ない状況である。
中小企業こそ、経験を積んだベテランや管理職などの社員が、『仕事と介護』の両立に悩み介護離職してしまった時の損失は大きい。今回から中小企業のための『仕事と介護』について連載する。
中小企業のための『仕事と介護』を提案!

介護離職者は年間10万人 働きながらは約240万人

総務省の就業構造基本調査によると、高齢化の進展で家族の介護を理由に会社を離職する人は年間10万人に達し、働きながら介護をしている人は約 240万人に上る。
「平成25年雇用動向調査結果の概況:結果の概要(平成26年9月9日 厚生労働省発表資料)」によれば、介護を理由とする離職率は、年齢階級別にみると、35~39歳から40~44歳ではパートタイム労働者の離職率が高くなっており、45~49歳以降では一般労働者、パートタイム労働者とも、おおむね離職率が高くなっている。
今後、昭和22年生まれ以降の方が75歳になる時には、津波のような介護がくると言われている。『仕事と介護』の両立を支援する対策を施さないと、働きながら介護ができない人が大幅に増加するとみられている。

離職と「仕事と介護」を考える

■大企業と中小企業の離職率について
突然ですが、ここでクイズを。
「大企業で、新卒採用3年後の離職率が低い上位3社の離職率は何%かご存知でしょうか?」

正解は0%。入社3年後に同期が誰も辞めていない会社は114社もあり、大企業の上位100社までの離職率は0%である。(『就職四季報2016年版』東洋経済参照)
大企業では、新卒で入社した社員はほとんど辞めない。つまり、『大企業にいったん入社したら、よほどの事情がない限り退職しない=人が辞めないことを前提にしている。』人が辞めないからこそ、『仕事と介護』を両立するワーク・ライフ・バランスが必要になる。
一方、中小企業の離職率はどうだろうか?『平成25年雇用動向調査結果の概況:結果の概要』によると、平成25年の離職率のトップは、30.4%の宿泊業・飲食サービスであるが、ほとんどの産業で10%以上の離職率である。中小企業には新卒採用する会社は少ないので、大企業と単純に比較はできないが、これが中小企業の現実である。
つまり、『何度も転職を重ねた人があつまる中小企業=人が辞めることを前提にしている。』このことを念頭において、中小企業の『仕事と介護』を考える必要がある。

■中小企業の課題・問題点
中小企業にある課題・問題点として、『できる(優秀な)社員』に仕事がつくことが挙げられる。いわゆる、仕事の属人化と言われるものである。キーマンとなる優秀な社員がいることで仕事が回っている現場は多い。中小企業は、優秀な社員の選手層の厚みがなく、この点も大企業とは異なっている。
キーマンとなる優秀な社員が介護離職してしまった時のダメージは計り知れない。対策は必要であるが、中小企業の労務管理は、事がおこってから考えるという、後手に回るケースが多い。もっと早めに相談してくれれば、いろいろアドバイスできたのに! と思うことが何度もある。
優秀な社員が辞めてしまってもすぐに再就職できる。これも忘れがちな現実である。優秀な社員がライバル会社に転職してしまい、同業他社をアシストすることだってある。そのためにも、優秀な社員を介護離職させないことを考えておくことは重要だ。

■『仕事と介護』の両立に向き不向きな業種と職種
それでは、中小企業の『仕事と介護』を考える上で、すべての業種・職種を一律で考えることはできるのか? 『仕事と介護』の両立に向き不向きな業種と職種がある。
たとえば、製造業・美容室・事務職・ルート営業等は、会社規模に関係なくスケジュールが立てやすく、作業の標準化をしやすい職種なので、『仕事と介護』の両立はしやすい。
一方、作業内容が多岐にわたり作業の標準化がしづらい職種では、仕事が属人化しやすく、『仕事と介護』の両立に工夫が必要である。たとえば、保険のセールスマン、運送業、デザイナー、IT、メディア関係のクリエイティブな業務や専門性が高い職種等である。その人がいないと仕事が回らない職種であり、会社レベルで取り組める『仕事と介護』の両立の選択肢は限られてくる。

■中小企業のための『仕事と介護』
私は、家族の介護を7年半経験したが、その経験から介護は個別対応にならざるをえないと思っている。介護する社員が、独身なのか、配偶者がいるのか、片方の親だけ介護するのか、両親ともに介護が必要なのかによって状況は変わってくる。
次回以降、中小企業の『仕事と介護』について、現実的な道筋や対応策について説明したいと思う。辞めたくないのに辞めざるをえない介護離職対応で悩んでいる中小企業の社長や担当者の参考になれば、幸いである。


ふくすけサポート社会保険労務士事務所 社会保険労務士 
産業カウンセラー 森大輔

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